謁見
翌日、騎士団長が俺達を大々的に城の方へ案内してくれる事になった。
村の騎士団の宿泊所を見ると、クマ子と同じくテイミングされた◇が付いた魔物が馬車を引いている。
まあ、馬みたいな魔物と……芋虫みたいな魔物だったんだけどさ。
凄く仰々しく……騎士団の人間が厳重な警備の元に俺達を連れて行ってくれるらしいからアレかな?
朝食の時も、逃がさないとばかりの……ではなく、あくまで俺達を国に来訪する重鎮とばかりに丁寧に相手をするとの事だ。
食事もちゃんと提供してくれたし、些細なミスで俺達に失礼な事をした奴はこっちが怒る前に他の奴が叱りつける始末。
悪意は無い。
「あの馬車で行くんですか?」
「いいえ」
騎士団長が答える。
そこで魔法使いっぽい格好をした兵士が村の広場で待機する俺達に近づいて何か水晶みたいな道具を見せる。
「ん?」
萩沢がそこで水晶に向けて目を凝らして能力を発動させた。
帰還の水晶玉 効果 拠点帰還 ポイント価値 1000000
道具 登録した拠点の結界に帰還する事が出来る転送装置
割れば即座に作動
何かとてつもなく高価な道具が目の前にある?
百万って物凄く高く見えてしまう。
メタルタートルの剣が一本10万ポイント位だったはずだから、どれだけ高価なのかわかる。
「この道具を使用します。皆様、順番に、詰めない様に宜しくお願いします」
「それでは使います。皆さん、ちゃんとパーティーに加入していますね?」
兵士達はそれぞれ俺達にパーティー結成を指示している。
「あの道具って何人まで飛ばせるんですか? 上限があるなら俺の能力は転移なんで、茂信がいれば飛べます」
「一応10人ですが、おきになさらずにお願いします」
「はあ……」
そんな感じに俺達は待機していると、確認を終えた騎士団長が兵士に指示を出す。
すると兵士が水晶玉を空に掲げた。
と、同時に転移した時と同じように視界が一瞬で切り替わり、見覚えの無い大きな広場のような場所に飛ばされた。
広場の真ん中には大きな光る水晶がある……やっぱストーブっぽい機材もあるな。
ネットゲームのセーブポイントみたいだと思うのは間違いだろうか?
あの道具はここに戻る為の物なんだろう。
「ではこちらです」
と、騎士団長が指し示す方角には大きな城があった。
思わず息をのむ。
ネットゲームとかだと綺麗だな位の光景だけど、実際に目の当たりにすると圧巻だ。
中世ヨーロッパの城って、海外旅行とかだと現存するって言うけどさ。
それともちょっと違う。
何が違うのか具体的に説明するのは難しそう。
「すげー……」
「そうだな」
俺達は各々感想を述べながら騎士団長の案内のまま付いて行く。
ああ、もちろん人々の生活の喧騒とかあるみたいだけど、この大きな水晶のある区画にはあまり人が近寄らないっぽい。
瞬間、人が焦った様に瞬間移動して着地する。
「あっぶねー……」
ふう……と呟く、なんか鎧を着込んだ連中。
冒険者って奴が命からがら逃げてきたって雰囲気だ。
特に人とぶつかったりする事は無い様だから、俺の転移みたいな攻撃性は無い道具のようだ。
どちらかと言うとめぐるさんの能力に近いのかな?
「幸成、行こう」
「あ、ああ」
騎士団の連中の案内の下、俺達は城への門を潜って行く。
広場にいた冒険者風の連中が怪訝な目をこちらに向けていた様な気はする。
客観的に見たら、変な風貌な連中が騎士団と一緒に城に入って行く感じなのだろうか?
で、城に入ると石造りの床に絨毯がずーっと続いている。
受付とかもあって……入っていきなり天井が高くて驚く。
奥の方に階段があって、その先へと行くみたいだ。
クラスのみんなでぞろぞろと歩いて行く。
「王様と謁見するんだっけ?」
「ああ、騎士団長はそう言っていた」
「代表は茂信?」
「今の所はな。後は学級委員だ」
まあ、この二人に任せておけば間違いは無い。
俺達は付いてって、色々と話を聞くって事になるらしい。
そんなこんなで階段を上ってその先の扉を潜った所で、玉座を発見する。
そこに、何か切れ者っぽい王冠を被った中年のひげを生やした男が座っていた。
目付きは鋭い……ような、顔のつくりは良いと思う。
イケメンの中年って感じだ。
もっと恰幅の良い奴か、性格が悪そうな奴かと思ったが……ああ、性格は悪そうか。
王様って権力に執着しているイメージあるし。
「これはこれは異世界人の皆さま。我が国ライクスへ良くおいでなさいました」
渋いけど、何かやや親しげな感じの表情と声だ。
「話は伺ってはおります。メーラシア大森林から脱出してきたとの話、とても大変な旅路だったでしょう。その行程、慣れない異世界での出来事……深く同情いたします」
「は、はぁ……」
どうも低姿勢なんだよなぁ。
騎士団もそうだけど。
なんて言うかゲームとかだと邪悪に暗躍してそうなのにその気配が無く、熱烈な歓迎をしている。
そんな雰囲気だ。
「一応、こちらも事情を聞いております。国内……世界で色々な問題が起こっている最中、異世界人が来訪したので問題を解決してほしいという、都合の良い話をこちらに飲んで頂きたいとの話なんですよね?」
茂信がぶっちゃける。
すると王様を含め、騎士団の連中が若干困った様に頷く。
「半分は正解です。正確には、これから更なる災厄に見舞われるかもしれないので、異世界人の皆さまにはそれまでの間にこの世界に慣れて頂き、強くなって頂けないか? という所です」
「かもしれない?」
茂信の言葉に王様は首を縦に振る。
「もちろん、何事も無ければ良いのは確かです。国の問題も確かにありますが、それを異世界人の皆さまに全て丸ごと投げてしまったら国の意味を失いかねません」
「どういう意味だ?」
「例え異世界からの来訪者と言えど、我が国にいる方々なら国民も同じ。粗末に扱って良い方々では無いのです」
そこで王様の意図を汲み取って大臣っぽい奴が前に出る。
「過去の歴史を紐解くと、異世界人の方々が要求した案件があります。どうかご確認を」
「あ、はい」
「まず異世界人の戦争への加担。力を貸すのはあくまで有志を募る、でよろしいですか?」
うわ! いきなりこっちに有利な案件が飛び出してきたぞ。
現代人が異世界に転移したりする創作物の主人公側が最初に言いそうな内容だ。
つまり、この話は戦争に俺達が徴兵される事は無いって事の証明だ。
「は、はい」
「次に国は異世界人の皆さまに対して一定のバックアップを保証する。主に衣食住と仕事の提供、各種ギルドへの斡旋、生命保護の為に要望があれば人材を派遣する、などです」
なんだろう。
あまりにもとんとん拍子の説明に、何か裏があるんじゃないかと思えてきた。
そこで茂信と萩沢、その他戦闘組が手を上げる。
「なんでしょうか?」
「先ほどの戦争の事なのですが、俺達が頷かざるを得ない状況に追い詰めて戦わせる等を国がしない保障は?」
「もちろん口約束になる可能性は否定できません……ですが、これは信じていただかねばこちらも受け入れる事が難しい問題と認識しております」
まあ……一定の生活を保障してくれるなら、避けられない事なのかもしれない。
いざって時にならないとわからない事だしな。
とはいえ、先程から手馴れた印象を受ける。
それだけ異世界人が多く来ていた、という事か。
まあ俺達だけでも結構な人数だしなぁ。
昨日聞いた伝承とやらでも数十人と言っていたし、一度の転移でやってくる人数が多いんだろう。
「異世界人の皆さまには独自の価値基準がある事をこちらは理解しているつもりです。我が国の貴族や騎士、商人など皆さんを利用しようと考える者も出てくるでしょう」
異世界人の能力を考えれば、そうしない理由が無いって事なんだろう。
その手の創作物語でも異世界の権力者が主人公達を利用する、なんて話はよくある。
「出来る限りそうならない様に国は動くつもりです。ですが、全ての者を監視している訳ではないので、そのような陰謀からは極力ご自身達の力でも対処して頂けるように、利用しようとしている我が国がお願いしたい所存です。」
「……わかった。こちらも容認します」
「バックアップというのは?」
「異世界人の皆さまはこの世界の者よりも優れた能力を所持していると聞きます。皆様の生活がより良くなるよう、こちらも援助して行きたいと思っているのです。ただし、それはあくまで生活の保護であり、豪遊する為の資金援助ではありません」
「食事と住居、働き口は斡旋するけど、必要以上の金銭は出さない?」
萩沢の言葉に大臣は頷く。
「戦う事が得意な方は騎士、冒険者へと斡旋致します。他の能力を所持する方はそれに見合った仕事を紹介いたします。もちろん、望まれるのであれば能力とは異なる仕事も斡旋致します」
「つまり能力が戦闘向きじゃなくても騎士や冒険者になって強くなる事も許可するって事だよな?」
「はい。むしろ異世界人の皆さまが想像する以上に能力というのは可能性が眠っております。思うがまま、職業を体験するとよろしいかと思います」
「抱え込みはするけれど……あくまで生活の補助、戦闘環境の斡旋か」
「無論、国としては皆さんとより良い関係を築きたいと考えているので、多少の優遇は致します。例えば冒険や魔物退治の仕事をしたいという方々には、ここに来る時に使った帰還の水晶玉を一人に付き一個、無償で貸出します。命の危機を感じたら即座にお使いください。命に代えられる物などありませんからね」
おお……っとクラスのみんなが声を上げる。
あの道具をただで貸してくれるって好条件だ。
もしも危険な魔物と遭遇したらあの道具を使えば逃げられる。
帰りだけみたいだけどさ。
*貸し出しなので、売買での変換は不可能です。