異世界人
「ふむ……では何をお話ししましょうか?」
「それじゃあ……俺達がどんな連中なのか御存じな様ですが、それはどう言った理由なのでしょうか?」
すると騎士団長は言葉を選ぶようにして話し始める。
「まず、貴方達が来た森……メーラシア大森林と呼ばれる、冒険者でさえも安易に立ち寄らない曰く付きの森の伝承をお話しした方がよろしいかもしれません」
「か、変わった名前の森なんですね」
「ええ」
「曰く付き……随分と問題のありそうな場所の様だね」
「太古には国があったと言われてはいる様ですが……そこで問題なのは、メーラシア大森林から、異世界人と呼ばれる方々が数十年に一度、姿を現すとの話なのです。原理に関しては詳しくは……」
「そんな大雑把な……」
とは思うが、何があって異世界に俺達が来てしまったのかの理由はわからない。
召喚者がいる様な雰囲気じゃないし、わからないのはこの世界の人達も同じ、という事だろう。
そのメーラシア大森林に国があったという話も、あの森の各所には遺跡の様な場所が点在していたから事実なんだと思う。
「他の国々にも似た様な場所があるのですが、我が国ではメーラシア大森林が一番有名です」
「つまりこの世界には僕達以外にも異世界人がいるという事ですね?」
すると騎士団長は首を横に振った。
「近年で同様の話は聞きません。私達がこの地にいるのはいつか訪れる異世界人を歓迎する為に勤務しているに過ぎないのです」
「うーむ……」
「じゃあ異世界人の残した手記とかあるんですか? 元の世界に帰って行った異世界人とか」
「手記はわかりませんが、異世界人の話は各地に残っています。手記の方も国の研究者が知っているかと思います」
「なるほど」
という所で騎士団長は大きく溜息を吐く様に答える。
「まさか今年に異世界人の方々と出会う事になるとは、可能性があるとは言われていましたが……」
俺達は騎士団長に首を傾げる。
今年限定?
どうして俺達が来る事がわかったんだ?
可能性って話だから確実、という訳ではないんだろうけど……。
「何かあるんですか?」
「ええ、何でもとある研究者が残した資料によると、今年から数年以内に世界を脅かす危険な何かが起こる……との話なのですよ。具体的には各地で天変地異が起こり、魔物の凶暴化、など報告される事は数々とありまして」
「その中で異世界人の来訪ってのが追加されたって事か」
俺の呟きに騎士団長が頷く。
「もちろん、これは運が良い事だと私達は認識しております。何分異世界人様達は……様々な危機を乗り越える為に尽力してくださったという記述が沢山あるので」
ああ、だから良い方向での歓迎をしようと、丁寧に事情を説明している訳か。
歓迎も形式ばった物になっているが、失われた物じゃないと。
だけど……最初に遭遇した人の反応がわからないな。
どうにも怯えているのを隠す様な雰囲気だった気がするんだけど……。
「それでは異世界人の皆さんの事情をお尋ねしてよろしいでしょうか? その、貴方達はこれで全員ですか?」
俺達はそれぞれ顔を見合わせる。
いきなり人数を聞いてきた。不安に思わないはずがない。
「再度質問してよろしいでしょうか?」
俺が手を上げる。
すると騎士団長はどうぞと笑顔で応じる。
周りの反応は警戒している感じは薄い……?
「俺達はこの後、どう言った扱いを受けるんでしょうか?」
「よろしければ城まで同行して頂いてよろしいでしょうか? 国を挙げての歓迎と、出来ればの事ですが国で起こっている問題の手伝いをして頂きたく思います。もちろん、行動に制限を掛ける気は無い事を先に確約致します」
話が上手すぎないか?
俺が警戒していると騎士団長は、親しげな様子で答える。
「と、丁重に扱うのが国の伝統であり、しなければならないからでしょう。何か事が起こった際に備え、異世界の方々とは親密な関係を築く、とするのが良いとの事なので」
「なるほど……先ほどの話から察するに危機を乗り越える為に尽力した……過去の異世界人の功績という事ですね」
「はい」
過去に来た俺達の様な連中のお陰で丁重に扱ってくれる。
少なくとも彼等の言い分ではそういう事らしい。
「どうする?」
茂信と学級委員と小声で話し合う。
相手の目の前でするのが少々滑稽に思えるかもしれないが、相談をするしかない。
「御相談をする時間が欲しいのでしたら席を外しましょうか?」
「あ……はい」
相手も気を使って、村長と一緒に部屋を出て行く。
余裕って訳じゃないけど、悪意を感じる気配は無い。
いや、何かを隠してはいるんだろうけれど……それを特定できない。
特定出来る程、俺達は長く生きていないし、彼等の事情に乏しいんだ。
「どう思う?」
「気になる所はあるけど、異常と言えるほどの物は感じない」
「そうだね。正直に言えば歓迎しようとしていると感じはしたよ」
「もしかして言語とかは過去の異世界人が広めたとかなのかもしれない」
ありえなくはない。
だから日本語が通じるのか。
「破格の条件だけど……何か裏がありそうな気もする」
「幸成は用心深いな。かと言って、いつまでもみんなを置き去りにする訳にもいかない……なるほど、谷泉が警戒したのはこう言った問題もあるのか」
「彼等が信用できるか怪しいって事だね。とは言っても警戒しても始まらないし、友好的なのだから良いんじゃないかい?」
「ここに俺達を足止めしてみんなを罠に掛けるって可能性は?」
視覚転移をみんながいる場所に飛ばして確認する。
特に変化は無いけど、警戒するに越した事は無い。
「だから警戒してもキリが無いだろ。みんなを守る為に人目を避けて進むのか? それじゃあ谷泉達と変わらないだろ」
「……そうだな。だけど何かあったら返り討ちにする位の意気込みで行こう。戦闘組だっているんだし」
「わかっているって」
と決めた所で扉を開いて騎士団長と村長を招く。
「話は纏まったでしょうか?」
「ええ、先ほどの質問ですが、俺達以外にも沢山の仲間がいます」
すると騎士団長はゴクリと息を飲むと同時に……安堵の表情を浮かべる。
村長も同じ反応だ。
なんだ? なんでホッとしているんだ?
「では森を出るのに苦労したでしょう。すぐにでも村へ招待し、歓迎を致したいと思っているのですが……怪我人や病人などはいらっしゃいませんか?」
「怪我人も病人もいません」
「村の外は魔物の住処。早めに来訪して頂けるとこちらも嬉しく思います。詳しい事情を聞くのは一度身体を休めてからでも良いでしょう」
……何か引っかかるけど。
「わかりました。では仲間達を連れてきますね」
という事で俺達は足早に村から出て、大きく迂回して追跡者がいないか確認しながら、俺だけ転移してみんなの所へと帰還した。
茂信の方は辺りを警戒するに留まっている。
「あ、幸成くん」
実さんと萩沢が代表して話しかけてくる。
ボフンとグローブがクマ子に変わる。
「ガウ」
「どうだった?」
「歓迎をしてくれるって話だけど、なんかちょっと引っかかるかな。茂信の話だと警戒してもキリがないし、みんな疲れているだろうから村に入って休んだ方が良いだろうって」
「ま、何かあったら俺が煙爆弾で煙幕を張ってやるから揃って逃げりゃいいんじゃね? 魔法の類だってメタルタートルの甲羅を何人か持ってるし、正面からドンパチしても時間くらい稼げるだろ」
「まあ……」
よく考えると色々と便利な道具を俺達は所持してるよな。
最悪、戦闘になっても問題が無い様に対処して行けば良いか。
「わかった」
そんな訳で、合図と共に俺達は村の方へと戻って行った。
村長や騎士団長を初め、人々は特に武装した様子も無く、俺達を招き入れてくれた。
食事に関しても手厚く振舞おうとしてくれている。
毒物を警戒する俺達に同じ食器を使って先に試食して見せてくれるようだ。
そんな感じに、クラスメイトが全員村に入った所で俺達は騎士団長の顔を見る。
「これで全員です。あ、このパンチングベアーは森を抜ける途中でテイミングした魔物なんですけど……」
「テイミングされた魔物ならまったく問題ないですよ」
「ガウ」
すると騎士団長は心の底からホッとした様に胸をなで下ろして笑顔を向けてきた。
「失礼……いや、本当に危険な方々で無くて安心しました」
先ほどの若干緊張とも警戒とも違う気配が無い。
心の底から言っている様な態度だ。
何かの確認を取った、みたいな反応だと思う。