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ジェスチャー

「とりあえず今日はここで休息を取ろう。川の水は……萩沢、鑑定を頼む。無理だったら幸成に水を調達して来てもらって、簡易テントを立てて、交代で休む」

「了解」


 みんなしててきぱきとキャンプの準備を始める。

 幸い負傷者は出ていない。

 慣れてきたと言うべきなんだろうか。

 みんなとはぐれた時はゾッとした。

 俺は……もう失いたくない。

 その為ならどんな事だってやって見せる。

 そう拳を強く握りしめる。


「飲み水の調達は出来そうだ。実さん、米を出して欲しい。ここで料理してみんなで食べる準備だ」


 数時間の事だったけど、かなり色々とあった。

 正直、動き回って疲れた。

 幾ら実さんや他の回復能力持ちが居ても、疲れまでは簡単に取れない。

 座るなり横になるなりした方が良いだろう。

 とはいえ、みんなが働いているのに俺だけサボってはいられない。


「ガウー」


 パンチングベアーがずっと俺を舐めてる。

 手当て何だろうけど、味見されている様な心境だ。

 ずっと舐めているという事は常時掛けていると疲労も回復したりするんだろうか?


「あの……羽橋くん」


 捕まってた拠点組の女子が俺に声を掛けて来る。

 毒については実さんの拠点回復で治療出来たそうだ。

 そもそも茂信達の初動が良かった事もあり、パラサイビーが何かしようとする前に救出に成功した。

 とはいえ、何があるかわからないので、しばらくは重点的に回復を施すそうだ。


「何?」

「えっと……みんな羽橋くんのお陰で空腹に悩まされるって事は無くなったから、その、大丈夫」

「心配しなくても良いから少し休んでてよ」

「いや、俺は……」


 みんなの盾に成れる様に、周囲を警戒しておかないと行けない。

 と思っていると茂信がやってくる。


「幸成、お前も大分疲れただろ。さっきの話を聞くに単独で先行させてしまったし」

「……ああ」

「すまない。何か言付けや置手紙でも用意しておけたら良かったんだが……」


 俺は謝る茂信に首を振る。


「日本に行ってる最中は俺は居ないと認識されるんだ。用意する余裕が無いのもしょうがないさ」


 たった十分目を放しただけでこれだけの騒ぎなんだ。

 置手紙とかを頼んだとしても、その事自体を認識しないのでは何もしようがない。

 むしろこの場所に戻って来ると思ってくれた分だけ嬉しい。

 う……気を抜いたら少し意識が……。


「幸成?」


 茂信が俺の額に手を当てる。


「風邪か? 萩沢と実さん!」

「だ、大丈夫だ。疲れただけだから、少し休めば回復する」

「無茶し過ぎだ。とりあえず……萩沢に薬を作ってもらって実さんの拠点回復をもう一度掛ける」

「幸成くんがんばり過ぎだよ? ここ最近、全然寝てないじゃない」

「ああ、薬はやるが、一度日本でゆっくり休め」

「そんな事は出来ない」


 俺が日本に戻った所為で今日も問題が起こったし、今までも俺の所為でみんなが余計な苦しみを受けた。

 だから俺は……日本には必要な物を調達する以外は――。

 と言う所で茂信が俺の両肩を掴む。


「良いから……幸成、お前は一晩休んでいろ、萩沢に魔力回復の薬を多めに作ってもらって、視覚転移で俺達を見ていて良いから……体だけでも安静にするんだ」

「だけど……」

「そもそも視覚転移なんだよな? 誰かの視覚とかを共有できないのか?」


 萩沢の言葉に首を傾げる。

 そんな事が出来るのか?


「確かに、能力名から考えると出来そうではある。幸成、試してみろ」

「わかった」


 俺は視覚転移で登録する場所を指定する。

 茂信が自分を指差して居たので、茂信を指定した。

 すると、俺の視界に俺の顔が映し出される。

 ちょうど茂信の目の位置。

 で、茂信が視線を動かすと合わせて移動する。


「視覚転移で茂信の視線を共有出来たみたいだ」

「となると物とかも登録できそうだな。めぐるさんの千里眼ともタイプが違ったか」


 萩沢が腕を組んで説明する。

 と同時に口に手を当ててしまったと言う顔をする。


「とにかく幸成、万全な体調に挑む為に一晩ゆっくり休め。ここから先が最後の大詰めみたいなモノなんだぞ」

「……」

「落ちつけ幸成、視覚転移で俺の視覚を追えるなら置いて行かれるなんて無くなるだろ? もう大丈夫だから安心して休むんだ。頼む」

「……わかった」


 ここまで言われたのなら仕方がない。

 俺が渋々頷くと茂信達は喜んでくれた。


「ガウ?」

「コイツはどうしたら良いだろうか?」

「グローブになると転移に巻きこめるなら連れて行けば良いんじゃないか?」

「わー、幸成くんの家にクマさんが行くんだね」


 実さんの言葉に沈黙が辺りを支配する。

 うん、異世界なら良いけど日本だったら幾ら大人しいと言われてもパンチングベアー自身が危ない。

 住宅街にクマが現れた! って騒ぎになる。


「一晩、ここでみんなを守ってくれるか?」

「ガウ!」


 了解とばかりにパンチングベアーは顔に手を当てている。


「幸成が居なくなって普通の魔物に戻ってしまうかもしれないけど、そうなったらすぐに戻って来てくれればいい」

「わかった。それじゃあ……任せた。すぐに戻って来るかもしれないけど」


 俺はそう行ってから転移の詠唱に入り、日本に戻った。

 それから萩沢にもらった薬を定期的に飲みながら……みんなに危険な事が無いかを逐一確認しつつ、日本で休ませてもらった。

 パンチングベアーは俺が転移してからも大人しくしている様だった……。



 一晩ゆっくりとして朝早く、見張りをしている茂信が船を漕いでいる時に戻って来た。


「ガウガウー」


 俺が帰って来たのに気付いたパンチングベアーが喜んで駆け寄ってくる。

 うん、図体はデカイけど、反応に可愛げがある。

 結構かわいい。

 懐いた犬とか、こんな感じなんだろうか?


「ん……ああ、幸成か。お帰り。どうだ?」

「ゆっくり休んで大分良くなったよ」

「それは何より……ところで」


 茂信がパンチングベアーを見て考える様に腕を組む。


「どうした?」

「そのクマな。日本に戻ってみんなの記憶に無い幸成の事を覚えているんじゃないか? と、思い出して気づいた」

「ガウ!」

「どういう事だ?」

「ああ、幸成が帰った後、みんな、そのクマが仲間なのは理解していたんだ。だけど飼い主が誰だっけ? 実さんか萩沢だったよな? とか雑談していると、首を横に振るんだ」


 茂信の言葉にパンチングベアーを見る。

 つまり主が誰か理解しているって事か?


「で、誰が飼い主か? って尋ねると石を拾って投げたり、俺と握手しようとしたり、こう……色々とジェスチャーをする訳だ。あの時は分からなかったが、露骨に幸成の事を示していたんだと思う」


 ふむ、俺はパンチングベアーを見る。

 これはもしかして……。


「俺が飼い主だと設定されているから、何かしらの要因で繋がっているとか? だから忘れない?」

「かもしれない」

「ガウー」


 俺に擦り寄って来て寝転ぶパンチングベアー。

 ……何だろうか。

 少しだけ心が落ちつく様な気がする。


「まあ……そんな訳で幸成の問題に耐性を持っているみたいだから、大事にしてやれ」

「そうだな」


 手当てを頼んだだけの間柄だったのに懐かれてしまったのなら、応えないといけない。

 俺の為に手を尽くしてくれているんだから。


「餌でも用意した方が良いか? いや……櫛で毛並みを整えるとか」

「ガウー」


 視覚転移で部屋にあった櫛を取り寄せてパンチングベアーの毛並みを整える。

 パンチングベアーは嬉しそうに横になっている。


「見張りはしておくから、茂信もゆっくりと休んでくれ」

「ああ……じゃあ少し寝かせてもらうかな」

「ガウー」


 パンチングベアーがテントに入る茂信に手を振る。


「ああ、そのクマ。気配を察知してみんなに教えてくれるから結構助かった」

「そうか。よくやったぞ」

「ガウガウ」


 撫でるとまたも嬉しそうに声を上げる。

 そんな光景を他にも見張りをしてくれている戦闘組の連中が微笑ましく見ていたのだった。

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