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パラサイビークイーン

「ガウー」

「え?」

「あー……まあ、熊って蜂蜜のイメージあるよな。蜂の巣を壊すのは得意なのか?」


 アッサリと道が開けて、俺達は唖然とする。

 道があるなら転移をする必要は無い。


「みんな! 早く行こう!」

「ガウ!」


 俺達はパンチングベアーが作った道を通って巣を近道した。

 するとすぐに茂信達を発見する。

 実さんも一緒にいるようだ。


 まさにボスとの戦闘中だ。

 瓶の様な大きな容器の中にクラスメイトが二人入れられて助けを求めている。

 あの瓶も謎の蜜で作られた物か?


「幸成!?」

「大丈夫か茂信! 探したぞ」

「ああ悪い! 緊急事態だったからな、置いてったと思われたか」

「魔物の足跡があったからすぐに追いかけたんだ」


 と、茂信と悪態を吐き合った所で更にデカイ羽音と大量の魔物が俺達に襲いかかって来る。

 既に茂信達と一緒に居た実さんや戦闘組がかなりの数の操られている魔物たちを仕留めている様だ。


「こんなにどうやって集まって来たんだ?」

「アイツだ」


 すると捕えられているクラスメイトの更に奥……巣の上の方で巨大なハチの化け物みたいな奴がこっちを見ていた。

 セピアパラサイビークイーン。

 ここのボスって事か。


「アイツがこの辺りの魔物を支配下に置いて俺達に嗾けているんだ」

「前に倒した事があったんだが……」

「谷泉の炎があったから有利に戦えただけだったんだな」


 戦闘組の連中が愚痴る。

 確かに虫に炎は相性が良いだろうな。


「萩沢、何か良い道具とか無いか?」

「羽橋にガソリンでも調達してもらって放火した方が早いんじゃね?」


 萩沢、いきなり匙を投げるな!

 最低でも10分、更にガソリンを買ってくるのに何十分掛かると思ってんだ!


「いつもの爆弾を出せよ!」

「いや、既に投げてるぞ」


 ボンボンと萩沢が爆弾を投げて近寄る魔物共を薙ぎ払う。

 戦闘組も善戦しているので、かなり押している状況であるのは確かだけど、いかんせん、遠くに居るボスに届かない。

 弓持ちが矢で射るのだけど羽ばたきで矢が逸れる。

 能力で強力な一撃を放って、命中している様だけど、部下っぽいセピアリトルパラサイビーが何か蜜を持ってくると即座に回復してしまう。

 そんな風に見える。


「動かないなら……って飛び回って逃げるな!」


 転移で急所に当てて即死を狙おうとしたのだが、動いて当てられそうにない。

 倒せはするんだろうが、地道に削って行かないといけない、厄介な状況って事か。


「いつまでも相手をしている暇は無い! 捕えられた子を助ける事を優先する!」

「そうなんだが、この蜜の壁、幾ら壊しても直ぐに閉じて、しかも二重構造なんだ」

「前に来た時もボスを倒すまで出られなかった」


 何処まで厳重なんだよ!

 転移で内側に飛ぶ事は出来ても、何も解決にならないし、かと言って萩沢の爆弾とかを使ったらクラスメイトに当たりかねない。

 どうする?

 結局はボスを倒すしかないか。

 いや、何か板か何かを加工して筒状にすればどうにか脱出させられるかもしれない。


「幸成達が来て、こっちも戦力が増えたんだ。押しきるぞ!」

「おう!」


 という所でパンチングベアーが一歩前に出る。


「なんだ? コイツ!」

「待て、コイツは味方だ! ここまでの道を開けてくれたのもコイツなんだ」

「は? 何を言ってんだ?」


 戦闘組が顔を見合わせて話し合う。


「ガウー」


 ぐるぐるとパンチングベアーは腕を振るい、素早いステップで壁を蹴りながらセピアパラサイビークイーンに飛びかかる。

 嘘だろ?

 あの戦闘組でも相手をするのに困っているセピアパラサイビークイーンの動きを読んだってのか?


「――!?」


 巨大な羽音を立てながらセピアパラサイビークイーンがパンチングベアーに飛びかかられて回避運動を取る暇なく、ぶつかる。


「ガウガウガウ!」


 振り落とそうとするセピアパラサイビークイーンなのだがパンチングベアーの猛攻は止まらない。

 顔面を何度も殴りつけ、羽に噛みついて引きちぎり、地面に落下、トドメとばかりに大きく拳を引いて風の拳を纏って叩きつけた。


「ガウウウ!」


 そしてねじりを入れる……俺がパンチングベアーのボスにかました攻撃をパンチングベアーは放った。

 グシャッとセピアパラサイビークイーンの頭部がひび割れて光となって消え去った。

 そう言えばこのパンチングベアー……インセクトキラーとか言う特殊能力を持っていたなぁ。


「おお……すげー」

「ガウー」


 勝利とばかりに拳を振って俺の下へとパンチングベアーは駆け寄ってくる。


「ガウ」


 褒めて欲しいとばかりに頭を向けているので、撫でると嬉しそうに鳴いている。

 ボスが消えたお陰かクラスメイトを捕えていた瓶みたいな檻は崩れ落ちた。


「た、助かったー」

「MVPはこの熊だな」

「飼い主の羽橋もだろ」

「というか、どうやって仲間にしたんだ?」


 と、みんなして俺に聞いてきた。


「まずは安全な所まで避難してからにしよう。頼まれた物を渡さないと行けないしさ……食事中にゆっくりと説明する」

「そうだな……こんな所で立ち話しても始まらない」

「俺達は森を出る為に移動していたんだしな」


 俺の言葉にみんな揃って同意しハチの巣を出て、休んでいたポイントに戻った。

 各々、冷めてしまったが用意した日本の食事を食べ、一息つく。


「いやー……いきなりの襲撃に焦った……あのボスがいきなり二人も掻っ攫って行ってな」

「挙句大型の魔物の襲撃だろ? ちょっと危なかった」

「やっぱり俺は……日本に帰らない方が……」


 目を放した隙にこんな大事になるだなんて……しかも俺は勝手に進み過ぎていた始末。

 俺がポツリと呟くと、茂信がコツンと俺のデコを突いた。


「気にするなって言ってるだろ」

「ガウ!」


 茂信がパンチングベアーを撫でる。

 パンチングベアーは気持ち良さそうな顔をした。


「ありがとう。君のお陰で助かったよ」

「俺も同意する。助かった」


 俺が更に褒めるとパンチングベアーが恥ずかしそうに両手を頬に当てて照れながら悶える。

 どういう反応だ?


「ガウウウ」

「何か礼をやった方が良いと思うんだが……熊って何をしたら喜ぶ?」

「やっぱ報酬は餌じゃないか?」

「豪華なステーキとか?」

「ガウ?」


 パンチングベアーはいつの間にかハチの巣に転がっていた小さなハチの巣から蜂蜜を取って舐めている。

 それが報酬のつもりか?


「餌も自腹か?」

「魔物の肉とか食わせたら良さそうだよな」

「熊って肉食だったっけ? 蜂蜜が似合うな」


 雑食だった気がするけど……この世界の魔物の法則はわからないしなぁ。

 後で何が食べられるのか実験しておくか。

 日本の食べ物はこっちよりは美味いだろうし。


「そういや実さん、素材は十分取って来たよね?」

「うん」


 みんなの手当てをしていた実さんが俺達の所にやって来て、パンチングベアーにじゃれ始める。

 なんか実さんがガオーってやるとパンチングベアーも合わせてガオーって遊んでいる。

 何をしているんだ?


「何してるの?」

「楽しそうだったから」

「あーうん……そうなんだけどさ」

「さっきのお話だと、うん。素材とかもありますよ? あの大きなハチが光になって消えたけど、その場所には大きな針と羽が落ちてました」


 と、実さんが倉庫から針と羽根を取り出して見せる。


「これで武器とか作れそうだな」

「良い武器になりそうか?」

「ここの敵は谷泉達も倒していたからなぁ……ボスクラスは似た武器があったと思う」


 既に入手済みって奴かな?


「ボスは再出現するんだよな? どれくらいの周期で出るんだ?」


 戦闘組に尋ねる。


「具体的に測定した訳じゃないし、遭遇回数もそんなに無いけど、一週間くらいは大丈夫なはずだ」


 それなら良いんだけど……と言う所で疲れが一気に来る。

 ふらつきそうになるのを堪える。


「ガウ」


 パンチングベアーが俺の背中を支える様に立ってる。


「大丈夫だ。色々と助かったよ」

「ガウー」


 うお。俺の顔を舐めるな。

 蜂蜜がべっとり付いて甘い匂いがする。


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