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蜂の巣

「で、ちょっと危険な魔物に遭遇してな、坂枝達とはここで待ち合わせをする予定だったんだが……羽橋は?」


 萩沢は川の方へみんなで移動した事を教えてくれた。

 川が濁っていたのはどうやらその魔物とドンパチやった所為だそうだ。

 くそ……逃げる為に渡った訳じゃなかったのか。


「川の先へ逃げたんだと思って追っかけたんだ」

「まっすぐ進むと魔物の強さが一段階上がるからって事で川には逃げなかったぜ。つーか行ったのか……下流に行く予定だったんだが……」


 萩沢が呆れている。

 道理で足跡が見つからない訳だ。

 川が濁っているからみんなで渡ったと思ったのが裏目に出た。


「それで、どうして茂信達と別行動をしているんだ?」

「茂信達は上流の方へ行った。問題が起こってな」

「何があったんだ?」

「戦闘組の話じゃ致命傷になる様な攻撃はして来ない。ただ、毒を刺して巣へ連れて行こうとする魔物が襲ってきた」

「……毒?」

「ああ、一見すると物凄く大きな……蜂みたいな魔物だった。毒で弱らせた獲物を巣へ連れ帰ってから、何かするらしい。戦った事があるらしいし、倒した事もあるそうだ。フェロモンか何かで他の魔物を支配するボスクラスの魔物だって話だ」


 背筋がゾクッとした。

 すぐにでもあの川に戻らなければいけないという気持ちになってくる。


「で、その部下のデカイ魔物はなんとかしたんだが、坂枝達がボスを追いかけて行った」


 見るか? と萩沢が川の方を指差すと、恐竜みたいな魔物が三匹転がっている。

 俺が進んだ川から三百メートル程南に移動した所だったっぽい。

 川伝いに南下しただけだったのか。

 何から何まで裏目に出ている。

 俺は空気の読めない野郎だな……。


「そのボスっていうのはまだ倒してないのか? と言うかなんで追いかけているんだ?」

「拠点組が二人連れ去られたんだ」

「何!? そ、それで?」

「今、茂信達と戦闘組の連中が連れ去られた奴を助けに行ってる」

「俺も行く!」

「待て待て! そんな怪我だらけの奴が行って何をするつもりだ! こっちは話したんだから、羽橋も何があったのか教えてくれよ」

「俺の怪我はどうでも良い。早く助けに行かないと!」

「どうでも良くねーよ! あのな……コレ言っちゃダメだと思ってたから言わなかったが、お前が死んだら帰れる可能性が更に減るんだよ! だから安全第一で行けっての」

「それは……」


 ぐうの音も出ない。

 言われて見れば、みんなからすれば転移の能力が拡張していけば、俺が日本に帰す事が出来る様になるかもしれない、と考えるのが普通だ。

 茂信達が家で寝ろ、と勧めてくるのはそれを懸念しての事なのかもしれない。

 もちろん茂信の事だから、俺を心配してくれているんだろうけど……。


「ともかく、羽橋の方は何があったんだ?」


 俺はこれまでの説明を始めようと口を開く。

 しかし俺が説明する前にグローブが変化してパンチングベアーになった。


「ガウー」

「な、なんだ!?」


 萩沢を初め、一緒にいた拠点組と戦闘組のクラスメイトが驚きの声を上げる。


「魔物!?」

「あれ? 名前の所に◇って付いてる?」

「羽橋! お前の持ってたグローブが変化したぞ。どういう事か説明しろ」

「え? ああ……実は――」


 俺は先ほどの出来事を萩沢達に説明する。

 カンガルーの時の様にパンチングベアと戦って、コイツに手当てしてもらう代わりにグローブを渡したらこうなった、という話だ。


「へー……魔物って仲間に出来るのか」

「知らなかったな」

「谷泉の指揮じゃ気づけないのも当然か。そんな複雑な条件、分かるはずもない」

「道具作成や料理で作れるチーズとか……ホーンラットに与えたらテイムできたりしてな」


 萩沢が陽気に答える。


「ガウ!」


 これからよろしくお願いします。

 とばかりに熊が頭を下げる。


「行儀良いな」

「ガウ」


 で、俺の股下に頭を入れて背中に乗せようとしてくる。

 何をする!


「羽橋、お前に懐いているみたいだし、足代わりにすれば良いんじゃないか?」

「そうだが……どっちにしても茂信達に加勢に行く!」

「わかったわかった! だけどその前に食事を出してくれ……みんな腹が減ってる」

「ああ……わかった」

「ガウ!」


 冷めてしまったけれど、日本で購入した食事を転移で持ってきて、みんなに渡す。

 一息ついてみんなホッとしてくれて助かる。


「ガウー」

「わーこの子大人しくて可愛いー」


 クラスの女子が熊の頭を撫でる。


「とりあえず……後は茂信達の方だと思う」

「じゃあ移動を開始するか?」

「ああ、急いで茂信達を追い掛けよう」


 萩沢達と一緒に俺達は茂信達を追い掛ける事にしたのだった。



「そんで……ここか?」


 セピアーリトルパラサイビーというハチの魔物がブンブンと飛び回る、洞窟を遠くから確認する。

 Lvが心もとない連中はもう少し後方で戦闘組の連中に護衛してもらう形で同行している。

 道中、襲いかかってきたセピアリトルパラサイビーは仲間になったパンチングベアーが発見と同時に叩き落としてくれている。

 風の拳を俺以外が使うって便利だなぁ。

 インセクトキラーの影響かダメージもデカイ。

 戦闘組も戦いの心得があるので、順調と言えば順調か。


「ガウー」

「クマちゃんありがとう」


 なんて感じに愛嬌を振りまくパンチングベアーにクラスのみんなが礼を述べている。

 助かっているけど……なんか悪い気がする。


「羽橋、大丈夫か?」

「だ、大丈夫って何が?」


 本能的な危機感を抑え込んで俺は萩沢を見る。

 ブーンという羽音を耳にする度に嫌な汗が流れる。


「だって坂枝の話じゃ羽橋、お前、虫が苦手なんだろ?」

「そうだけど、苦手だからと言って後ろにいたら連れ去られた連中はどうなる」

「落ちつけって」


 萩沢が何やらウンザリした口調で俺を見る。


「ガウ!」

「クマよ。俺の言う事など聞かないかもしれないが、命令だ。絶対に羽橋に無茶をさせるなよ?」

「ガウガウ!」

「お? 言葉がわかるのか? お前、頭良いな!」

「何を語りあってんだ。無茶をしないで守れる物も無いだろ」


 俺はパンチングベアーから降りて洞窟に足を向ける。

 壁にはハチの巣の様な穴が空いててかなり嫌な感じだ。

 しかも凄く甘ったるい臭いが充満し、茂信達が進んで行ったのかセピアリトルパラサイビーの死骸が転がっている。


「ここまでデカイ虫の死骸だとさすがに気色悪いな。そういや魔力回復に蜂蜜を確保しようって話をしていたよな? ここか?」


 萩沢が戦闘組に尋ねる。

 そういえばそんな話があったな。

 こんな危険な魔物から蜂蜜を採取していたのか?


「一応対象だが、もう少し弱い所を谷泉は狩らせていたな。匂いは甘ったるいが食用向きじゃないみたいでさ」

「へー……」


 そう言いながら萩沢が蜂蜜らしき物を採取して鑑定する。


「ふむ……あー……確かにコレは回復効果は無いな。蜜餅って言うアイテムらしい。捕縛用のアイテムに加工出来そうだ」

「トリモチみたいなモノ?」

「だな。ま、少しは採取しても良いけど、安値だし必要性は薄いな」

「捕縛用の蜜か……」


 そんな事よりも早く行かないと!

 そう思っているとハチの巣が壁となって俺達を妨害する。

 どうやら大きく迂回しないと奥へと行けない構造をしているようだ。

 半透明で作られた巣の先には何か戦っている様な姿が見える。


「あそこか?」

「みたいだな。だけど……」

「見た感じだと迂回しないと行けなさそうだ」

「この壁がすげぇ頑丈でな……」

「メタルタートルの剣で切れないのか?」


 そう言われて、俺は巣に向かってメタルタートルの剣で突いて見る。

 ガツッと最初の一撃は深く入り、行けるかと思ったのだが、蜜が剣に引っ付いた瞬間、二撃目が入らなくなった。

 く……。

 刃に付いた蜜を拭おうとするのだが、全然取れない。


「この蜜は熱に弱い。火であぶれば少しは落ちる」

「俺が転移で行けば間に合うか!」


 見えるなら壁を突破出来るはずだ。

 茂信達の助けになるなら早く行った方が良い。


「お前一人は行けなくは無いだろうが」


 そういう訳で、俺は転移を使う。

 苛立ちながら詠唱を待っているとパンチングベアーがハチの巣の前に立つ。


「ん? どうした?」

「ガウ!」


 そして立ち上がって、拳を叩きつけた。

 ゴスっと良い音がしたと思う。

 風の拳がツメの様な形状に変化していた様にも見えたな。

 そんな使い方があったのか?

 蜜をそれで吹き飛ばし、命中すると同時に拳を地面にたたきつけてアッパーを放った。

 岩の拳の変形?

 バキっと音を立てて……巣の壁が砕け散って道が出来た。


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ヒロインoutでクマinされてもなー
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