ベルト
「それはお前等の伝統か何かなのか!?」
余裕あるよな!
さっさと立ち上がれと指示を出すと、なんか真っ白になったぜ……って感じに笑みを浮かべて前のめりに倒れる。
親指を立て、光となって消え去った。
「ガアアアアアアアアアアアア!」
観客をしていたベビーブルーパンチングベアーが喝采を始める。
と、同時に俺のグローブが光って変化を始めた。
ベビーブルーパンチングベアーのパンチグローブ 付与効果 動体視力向上 風の拳 ベアークロー アースクラッシュ 野生の勘 インスタント拡張能力 カンガルーステップ ボクサー
随分と強化された様だが、俺はめぐるさんの遺品であるメタルタートルの剣を使って行くと決めているから使う必要は無い。
足元にメダルが転がる。
今度は随分と大きいな。
メダルというかベルトだぞ。
ベビーブルーパンチングベアーの王者のメダル 効果 王者防衛 グローブ強化 1VS1 使用可能
防具としても機能するみたいだが……使い道に悩みそうだ。
こんなの腰に付けていたくない。
で、勝負が終わったので立ち去って行くベビーブルーパンチングベアー達。
俺のコーナーサイドでアシストしていたグローブを付けていないベビーブルーパンチングベアーが手を振る。
「く……」
「ガウ?」
ボロボロで立っているのもやっと……思わず声が出て倒れそうになってしまう。
するとグローブなしのベビーブルーパンチングベアーがコーナーに上がって俺を支えてくれた。
「ああ、ありがとう」
「ガウ」
勝負が終わった後の治療とかは……してくれないよなぁ。
萩沢がくれた傷薬を転移で取り寄せよう。
という所でグローブなしのベビーブルーパンチングベアーが俺のグローブを見ている事に気づいた。
……欲しいのだろうか?
考えてみればこんなグローブとメダルを持っているから戦いに巻きこまれた様なもんだ。
勝てば魔物の群れから見逃してもらえると言っても、逆に引き寄せてしまう性質のある武器を持っている必要なんて無い。
メタルタートルの剣を使って行くと決めたんだ。
だから、言葉が通じるかわからないが取引をしようと思った。
インターバル中、俺の傷を舐めて回復をしてくれたコイツに……。
「これが欲しいのか?」
「……ガウ」
コクリとベビーブルーパンチングベアーは頷く。
やはりこの種族はグローブが好きらしいな。
「ユニークの専用装備だぞ? 俺以外は……ってお前なら付けられるか?」
装備条件がどうもよくわからない所があるけど、同族なら着用可能だろうか?
「ガウガウ!」
欲しいとばかりに何度もグローブなしのベビーブルーパンチングベアーは鳴く。
まあ、装備出来なかったとしても約束くらいさせるか。
「じゃあ取引だ。これをやるから俺の手当てをして欲しい」
「ガウ!」
再度グローブなしのベビーブルーパンチングベアーは頷く。
理解したのだろうか?
俺はグローブなしのベビーブルーパンチングベアーにグローブを渡す。
グローブを受け取ったベビーブルーパンチングベアーは手にグローブを嵌めようとする。
するとグローブは大きくなってピッタリと収まる。
「ガアアアウウウ……」
バチバチとグローブなしだったベビーブルーパンチングベアーの全身の毛が逆立ち……毛の色合いが変わった。
茶灰色?
テイミングに成功しました!
視界にそんなアイコンが浮かび上がり、パンチングベアーと名前が浮かぶ。
◇パンチングベアー Lv15
能力 ボクサー
特殊能力 アシスト インセクトキラー
能力はボクサー……って当たり前か。
そういう種族だしな。
他にアシストという能力を持っているっぽい。
複合能力か?
よくわからない。
インセクトキラーの方は単純に虫に特攻って事だろう。
熊だからな。虫と相性が良いのかもしれない。
だけどテイミングってどういう事だ?
ステータスに関して言えば、俺よりも少し低めだ。
メダルを渡すと腰に巻いた。
あ……俺が着用するよりも効果が高い。
グローブ付けたら俺のステータスを全て上回った……しかも効果付き。
「ガウ!」
ぺろぺろと座り込む俺をグローブなしだったパンチングベアーは傷のある場所を舐めてくれている。
インターバル中に感じたのは間違いない様で、傷が徐々に治療されて行く。
五分くらい経った所で傷薬の取り寄せも成功して、手当てを終える。
この熊のステータスを見るに傷を舐めて治療するのに魔力を消費するっぽい。
「ありがとうな」
どうにか歩けるようになって俺はパンチングベアーに礼を言う。
「ガウ!」
どう致しましてとばかりに返事をされた。
「じゃあ約束通りそのグローブは渡す。じゃあな」
と立ち去ろうとしたのだが……付いてくる。
「どうした?」
「ガウ?」
なんでお前が首を傾げてる訳?
早く行かないと群れに置いていかれるぞ?
「いや、手当てをしてくれと頼んだだけなんだが……」
「ガウガウ?」
先ほどのテイミングという文字が頭に浮かんでくる。
ゲームみたいな世界だからな、文字通りの意味である可能性は高い。
「もしかして……テイミングって言うのは俺の配下になってずっと付いてくるって事なのか?」
「ガウ!」
思い切り頷かれた。
つまり魔物を仲間にしたって事かよ。
ユニーク装備にそんな効果があるなんて知らなかった。
……そういえばカンガルーの時も似た様な個体を見た覚えが……あっちもグローブを渡したらテイミング出来たりしたんだろうか?
ああもう……茂信達にどう説明すりゃいいんだ?
いや、今は茂信達と同流する事が先だ。
「茂信!」
早く茂信達を見つけないと!
そう思って視覚転移で戻って来ていないか確認する。
あ!
すると茂信達が待っていた場所に萩沢達がいるのを発見した。
「よし……今すぐ戻れば合流出来る!」
きっと俺がこの世界に戻って来た事を思い出してくれたんだな?
しかし……妙に辺りを警戒しているし、人が少ない。
急いで俺が転移で飛んで行った方が良いな。
「今から俺は転移でって……わからないか」
「ガウ?」
「転移という俺だけ瞬間移動する能力を使用する。だからお前は連れて行けない。わかるな? 下手なテイミングをしてしまったのは謝る。けど――」
「ガウ……」
だからこの系統の生き物はチワワみたいな目で俺を見るなっての。
散々殴ってきたさっきのボスならともかく、怪我が治してくれたコイツにそれをされると困る。
返答に迷っていると何かを閃いたのか、熊は手を叩いた。
「ガウガウ」
やがてボフンと煙を出して……何かグローブだけになったぞ。
ど、どういう事だ?
「……」
徐にグローブを拾う。
ほのかに温かい。
ステータスも確認可能だ。
扱いも装備品に戻っている。
これは……光となって消えたと思えば良いのか? それともグローブに化けてるのか?
装備品扱いで転移に便乗出来るかどうかわからないけど、やってみる手はあるか。
「わかった。試してみるけど失敗しても根に持つなよ?」
なんかグローブが振動した気がする。
ともかく念の為に視覚転移で登録して、俺は萩沢達のいる地点に転移した。
フッと視界が切り替わり、手にグローブがある事を確認する。
グローブなら便乗可能って事か?
「やっと見つけた! 何かあったんだよな?」
「羽橋! ってお前、怪我だらけじゃねーか! どこ行ってたんだよ!」
駆け寄って来る萩沢に尋ねる。
「俺の方はどうでもいい。そっちは何があったんだ?」
「ああ、いきなり魔物の群れと、強力な魔物に襲われてな。戦闘に自信の無い奴を守りながら少し移動して倒す事は出来たんだが、ここは危険だって移動する事にしたんだ」
「何! 大丈夫なのか!? 死者は出てないよな?」
戻ってきたという事は倒したって事なんだろうけど……。
萩沢は俺の言葉に頷いた。
よかった……。
「大丈夫だ。安心しろって……で、しばらくして羽橋の事を思い出してな。いると思ってたから気付くのに遅れた。友達を忘れてるとか嫌な感覚だぜ……」