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ベアー

 詠唱が終わり、転移するとそのまま向こう岸から先の森の中を掻き分けて、辺りを確認する。

 ……足跡が見つからない。

 周囲を見渡すと岩場っぽい所があった。

 もしかしたらそっちへ行ったのか?

 何処だ!?


「……」


 それから俺は川向こうに進み続けた。

 Lvの影響で息切れ等もせずに軽快にみんなに追いつこうとしたんだが、いつまで経っても追いつけない……。

 くそ! 俺はまた同じミスをするのか?

 目を放した隙に茂信達の身に何かあったらと思うと、背筋が凍りつく。


「邪魔だ! どけぇえええええ!」


 行く先で魔物……アンバーヴァイパーという大きめな蛇の魔物の群れと遭遇。

 俺に向かって襲いかかってくる。


「こんな事をしている暇は無いのに!」


 メタルタートルの剣のお陰で命中すれば仕留められるが、数が多い。

 6匹も一度に出てきたら戦闘に時間が取られる!

 無視して茂信達を追い掛けても良いが、無視ばかりしていると魔物共は俺をずっと追いかけまわし、最終的に茂信達に迷惑をかけかねない。

 それだけは避けなればならない。

 面倒でも……仕留める!


 と、アンバーヴァイパーを全部仕留めてから、すぐに追跡を再開して追い掛けて行ったんだが……。

 結局、茂信達の足取りは掴めなかった。


「はぁ……はぁ……」


 萩沢からもらった薬を傷口に塗って回復する。

 茂信達を追い掛けて数時間。

 遭遇する魔物を出来る限り仕留めて進んで来たので疲労が大分重なって来た。


 茂信が強化してくれた防具のお陰で大抵の魔物の攻撃は抑えられるが、それでも怪我をしない訳じゃない。

 実さんがいればすぐに回復させてくれるんだけど、いない今は非常時用にと萩沢が俺に預けた傷薬を使うしかない。


 こんな事になるんだったら買い出しになんて行かなきゃよかった!

 何十回目の愚痴を呟いた所で、ベビーブルーパンチングベアーというバンチグローブを着用した……ワラビー系みたいな独自の武器を装備した魔物と戦った。

 ボスじゃなかった様で、特別な戦闘は発生しない。

 が……。


「く……」


 メタルタートルの剣さえ命中すれば硬い毛皮を切り裂いて仕留められるはずなのだが、動きが良く、攻撃を紙一重で避けられて思い切り殴りつけられる。

 そんなのが三匹も一人で相手にしていたら苦戦なんてLvじゃない。


「ガアアアア!」

「うぐ――」


 メタルタートルの剣で一匹を斬り殺した直後に全身を使ったタックルを受けて思い切り吹っ飛ばされる。

 ガスっと木に強か背中を打ちつけられて激痛に顔が歪むのがわかる。

 茂信が防具を強化しててくれなかったら死んでいたかもしれないぞ。

 朦朧とする頭を振って急いで体勢を立て直してベビーブルーパンチングベアーの残り二匹に斬りかかる。

 戦闘組の剣術の能力者みたいに俺は戦闘向けの能力をしていない。

 だけど、それでも俺はやらなきゃいけないんだ!


「どけええええええ!」

「ガ――」


 ドスっとベビーブルーパンチングベアーの胸にメタルタートルの剣を突き刺し、残りの一匹に向かって突き飛ばして乗り越える様に跳躍して逆手にメタルタートルの剣を持って最後の一匹の眉間に突き刺す。


「ガアアア」


 ドスンと眉間にメタルタートルの剣は突き刺さって最後の一匹は倒れた。


「はぁ……はぁ……」


 荒れた呼吸を整えてから再度辺りを確認する。

 何処かで道を間違えたのか?


 幾らなんでもおかしい。

 人数が人数だ。探せば見つかるはずなんだ。

 痕跡すら見つからないなんて、何かを間違えている気がする。


 ……念の為に茂信達が居た場所を視覚転移で覗く。

 もしかしたら茂信達が思い出して戻って来てくれているかもしれないと思ったからだ。

 だが……どうやらその様子は無い。


「く……」


 背骨や肺が痛い。

 けど、今は茂信達を探す方が先決だ。

 という所で、茂信に持たされていたメダルが光って浮かび上がる。


「何!?」


 こんな時に!?

 俺を取り囲むように四方から杭が地面から急速に生えてビイン! っと蔓が三本……四角いコーナーリングを作り出す。

 同時にわらわらと十匹以上ベビーブルーパンチングベアーが集まってきた。


「ふざけやがって!」


 そして、上から二回りほど大きなベビーブルーパンチングベアーが降って来て着地……俺を蔑むように睨み、挑発的に手招きする。

 他のと大きく違うのは肩辺りの毛が派手に逆立っている。

 武道家が袖を強引に引き裂いたみたいな感じだ。

 ガムなんて何処で手に入れたんだ? って感じに風船ガムを噛んでいる。

 ふざけんな! 喉に詰まらせて死ね!


「ガアアアアウウウウウ!」


 勝負だ!

 とばかりにベビーブルーパンチングベアーのボスが雄たけびを上げる。

 転移で撤退を検討するか?

 一旦戻るのも手だが……。


 そもそもあの川が怪しい。

 考えてみれば川を通り過ぎた辺りから茂信達の動向が掴めないんだ。

 あの辺りに手掛かりがあるかもしれない。


「「「ガウガウガウ!」」」


 受けるか、それとも拒むのか?

 と熊共が叫んで俺に選択を押しつけてくる。

 逃げるにしても詠唱に五分……戦闘中に撤退をするとしても……いや、敵前逃亡をしたらこのボスが何をするかわからないぞ?

 カンガルー共は俺を馬鹿にして笑っていたが、あの時よりも血の気の多い連中な匂いがある。


 ベビーブルーパンチングベアーのボスが俺の仕留めた同族の配下をリングから投げ飛ばして捨て去る。

 その目付きは王者の風格を宿している様に見えなくもない。

 言う事を聞かず先行した配下を蔑んでいる様だ。

 他の熊共もその死体に目もくれない。

 カンガルーの例から考えるに戦いを楽しんでいる。

 大量の熊を相手に、俺一人でここを切り抜けるのは不可能だ。


 2:59


 返答に迷っていると視界に数字が浮かび上がった。

 3分の返答猶予時間とでも言う気か? 

 転移を使えば逃げる事は出来る。


 だが……俺が逃げた所為で茂信達に被害が及ぶ可能性はゼロじゃない。

 ……俺が探している様に、茂信達だって俺を探しているかもしれない。

 そんな状態で、こんなにも魔物が集まっている場所に来たら、数は五分でも死者が出る可能性がある。

 絶対にそんな真似はさせられない!


 俺はメタルタートルの剣を仕舞って、カンガルーのグローブに持ち替えて構える。

 必要Lvは足りているのかはよくわからないが、メダルが光ったんだ。

 条件を満たしてしまった可能性は大いにある。


「良いだろう。俺と勝負だ! 俺が勝ったらさっさと消えろ!」


 カンガルーの時の様な対等な条件での勝負なんてする気は無い。

 何にしても俺は勝たなきゃいけないんだ。

 そうする事で茂信達の危険を出来る限り下げないといけない。


「ガアアアア!」


 にやりと笑ったベビーブルーパンチングベアーのボスがグローブを強く握りしめる。

 そのグローブ……ツメが飛び出しているように見えるぞ。

 グローブの先にツメを付けてるのか?

 どっちにしてもボクシングのちゃんとしたルールじゃ適用しない様な一品だ。

 攻撃力が高そうだな……。

 ジャッジがコーナーに入って来て手を上げる。


「ガウガウガウ!」


 ん? 俺の方のセコンドにグローブを着用していないベビーブルーパンチングベアーがタオルっぽい葉っぱを首に回して声援を送っている。

 茂信達がいないからインターバルでの補佐をするのか?


「ガウアアアアウガウ?」


 両者見合ってーとジャッジの熊が俺とボスが構えるのを待つ。


「ガウ!」


 ファイト! とでもいうかのようにジャッジのベビーブルーパンチングベアーが手を振りおろした。

 カーンとやはり何処からか音がなる。


「ガアアアアアアアア!」


 開始早々大ぶりの一撃をベビーブルーパンチングベアーのボスが放つ。

 上から地面にたたきつける様な強力なパンチだ。

 俺はステップを駆使して、距離を取ってパンチ避ける。


「っ!」


 右手で地面を殴りつけるボスの一撃に、左手を警戒して顔面を殴りつけようとした。

 その瞬間、足場がぐらぐらと揺れて思わず転びそうになる。

 と、同時に衝撃波が発生し、体を通り抜けて行った。


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