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羊皮紙

「小野や谷泉達は結構いろんな物を仕舞い込んでいたんだな」


 死者の埋葬を終えた俺達は生きて森を出る為、拠点組のみんなも戦えるように、谷泉達の家を物色する事になった。

 そこで出てくる出てくる……茂信や小野に作らせた武具の数々。

 まあ、戦闘組も使わなくなった物とか色々と出て来てるけどさ……。

 今は森を抜ける為に拠点組も最低限身を守れる物が必要だろう。


 めぐるさんはもういない……だから自分達の足で移動しなくてはいけなくなった。

 俺の転移は人は飛ばせないからな。

 出来たら良かったのに……。


 ちなみに教師は家に閉じこもっていて、出て来ない。

 なんか一悶着あったらしい。

 茂信や萩沢の話だと俺は近寄らない方が良いと、強引に距離を置かれた。


「死んだ人の物を使うのは悪いかもしれないけど、みんなの為に使わせてもらおう」


 俺を含めみんなで手を合わせて谷泉達の私物を頂戴する。

 まあ……俺達が使っていた装備品とあんまり差が無い状態みたいだから、単純に数が増えて助かっているという所だ。


「谷泉達は俺達を支配する為に隠していたそうだけど……」


 冷静になった戦闘組から事情を聞いた。

 俺達に情報が行かないのと同じように、戦闘組も谷泉達トップの連中とは少し距離があったそうだ。

 情報もある程度制限されていて、森から出られる事を知らなかった者も多い。


 なんでか?

 基本、谷泉達と小野に転送してもらって周囲の魔物を倒してLv上げをしていたからだ。

 それだけめぐるさんの転送という能力は戦闘組も重宝していた事なんだろう。


 よく考えてみれば森を出るまでに二週間掛ったんだ。

 自分達の足で遠征等していたら拠点に帰るのも時間が掛るし、安全地帯で休息を取るなど、便利な事も出来ない。


 自然と谷泉達の指揮に依存せざるを得ない。

 谷泉達の話術に釣られて行くのは当然の結果だったって事か……。

 今では憑き物が落ちた様に戦闘組だった連中は拠点組に謝罪し、森の中でみんなを守る、と話している。


 あんな事があって傷付いているのは俺だけじゃない。

 みんな、辛い思いを我慢しているんだ。


 防具の類もあんまり高性能の防具は重量等の問題で低Lvの拠点組の連中には装備させられないという話だ。

 まあ、そこはLvを上げていくしかないか……。

 パーティー編成も戦闘組が拠点組のLvを引っ張る形で編成されている。

 本来目指すべきだったパーティー構成が叶った、と言った所か。


 俺達も秘匿していた情報を公開し、出来る限り安全に森を抜ける方針で進めている。

 ポイントや素材は多いに越した事は無いからな。


「次は小野か……」


 谷泉達の私物の物色を終えた俺達は小野の部屋を調べる事にした。

 珍しそうな鉱石、武具が転がっている。

 あとはベッドが随分と豪勢な作りをしているようだ。

 天蓋付きのベッドで、かなりふかふかだ。

 日本で俺が使っているベッドよりも品質が良さそう。

 こんな物、よく作れたな。

 ベッドに異様なこだわりを感じる。


「ずっげー柔らかいな。こんなベッド、谷泉の所にも無かったぞ?」

「複写の能力を使って密かに作ってたって所だな」

「大塚達と毎晩楽しくしていたんだろ」


 萩沢が愚痴る。

 気持ちはわかる。

 何が最強だあの野郎……クラスメイトの命を何だと思っていたんだろうか。


「それも主がいなきゃ使う事は無いだろうな……幸成、転移でどうにか出来るか?」

「出来なくはないが、こんなのを持っていくのか?」


 これから二週間くらい森での移動を余儀なくされる。

 方角がわかっているし、大規模な探索をせずに行くのだから、少しは早くはなると思うが……。

 というか、こんなベッドを持って行きたいのか?


「それもそうだな」


 家の外で騒がしい音が聞こえてきた。

 どうやら魔物が拠点に侵入してきたようだ。

 くっ……結界が無くなったから魔物が当然の様に入ってくる。


「行ってくる!」

「待て、もう終わっただろ」


 俺が飛び出そうとした所で戦闘組が応戦して仕留めたっぽい。

 だから茂信に呼び止められた。


「……」

「落ちつけ幸成。で、話を戻すぞ。拠点を放棄するから、このベッドも無駄になるだろ?」

「じゃあ萩沢に売買でもしてもらうか?」


 俺の返事に茂信と萩沢が頷く。


「だな。とりあえずこのベッドは俺達の物だって事にして……」


 萩沢が能力で売買を指定する。


「少し時間が掛かる。出発までにはどうにか出来るだろうが、待ってくれ」

「わかった」


 で、小野の部屋を物色しているとカバンの中に何やら羊皮紙を発見した。

 ……他人の趣味にどうこう言うつもりはないが、ちょっと変わっているな。


「羊皮紙なんて変わった物を小野は持っているんだな」

「そうだな。シャレで作ったとかか?」

「日記とか?」

「あの小野が日記?」

「恨み手帳とか付けてるイメージはあるぞ」


 確かに。

 萩沢の意見に茂信も頷いた。


「どっちにしても森を出る為の地図とかを描いていた、とかなら助かるんだが……」


 と、茂信が羊皮紙を広げる。

 するとそこには見た事も無い文字で書かれた何か……と、小野が書いたっぽいサインだった。

 しかもこの羊皮紙の裏地に描かれている物には見覚えがある様な気がする。


「これって……」

「黒本さんを呼んでくれないか?」

「おう」


 茂信の頼みを萩沢が聞いて、黒本さんを手招きする。

 戦闘組の奴と恋仲になった書記の能力を持った女子生徒だ。

 何に使うかよくわからない能力持ちだけれど、確かに読めない文字であるコレを黒本さんなら解読出来るかもしれない。

 で、茂信は小野の部屋で見つかった羊皮紙を黒本さんの能力で解読できないかを頼んだのだが、残念ながら読む事は出来なかった。


「何なんだろうなコレ?」

「さあな……」


 特に気になる所に俺と茂信、萩沢の目は行く。

 この魔法陣だ。


「羽橋、坂枝もそうだけど、これに見覚え無いか? 誰か写真でも取ってれば確認出来たんだが……」

「幸成、教室を確認したんだよな? 証拠を持って来れないか?」

「悪いが教室には何にも無かった。あったら説明してる」


 そう、俺達の記憶が確かなら小野の部屋で見つかった羊皮紙の裏地に書かれている模様は、俺達が異世界に来る時……黒板に浮かび上がった模様と酷似していた。

 既に数週間が経過しているので記憶がおぼろげではあったが、似ていると思う。


「本当……この羊皮紙は何だろうな?」

「持ち主の小野がいないんじゃわからないだろう」


 アイテム名も謎の羊皮紙としか書かれていない。


「念の為に持っていくか……」

「あの魔法陣を調べてたとか……他にも小野が犯人とか?」

「どうだかな」

「まあ小野が犯人だったんじゃねーの? 一人だけ随分便利な能力だったしな」


 それは俺も人の事を言えないが……確かに強奪なんて拡張能力、便利過ぎるとは思う。

 ゲームじゃないんだからこういう表現はアレかもしれないが、明らかにバランスがおかしい。

 能力を奪って殺せ、とでも言われている様なもんだ。


 とはいえ、どっちにしても真相は闇に葬ってしまったのでよくわからない。

 今の俺達には小野が全ての元凶なのかすらも知る術は無い。

 実際、小野の部屋からそれ以上の情報が出てくる事は無かった。



 そんなこんなで死者の私物を徴収し、準備を終えた俺達は出発をする事にした。


「幸成」


 茂信が出発当初になって俺に声を掛ける。


「なんだ? 俺の準備なら出来ているが」

「そうじゃない」


 で、茂信は俺に強化したメタルタートルの剣……めぐるさんの剣を手渡す。

 アレから一度、茂信に預けていたのだ。


「これ……」


 小野を倒す時に役だった、戦闘組でさえも驚くほどの強力な武器だ。

 俺なんかよりももっと良い使い手がいるはずだろう。

 今は戦闘組も拠点組も、垣根なんて無いんだから。


「幸成……お前が使え。俺がめぐるさんだったら、お前に使って欲しいと思うはずだ」

「だけど……」


 俺よりも他の戦闘組が使った方が、みんなを生還させる可能性が高い。

 戦闘組……剣術の能力の彼がいたはずだ。

 だが、俺の意見を茂信は首を横に振って否定する。

 戦闘組に視線を向けるとみんなして同じ目をしていた。


「材料に余裕があるから二本目は作った。ポイントも戦闘組の奴等からもらったからな」


 で、茂信はもう一本を剣術の能力者に渡していた。

 ポイントに関しては現金が変換出来る事を説明してあるので、既にみんなからもらって変換して茂信に渡してある。

 そもそも戦闘組がポイントをかなり持っていた、というのもあるか。


「だけどその剣はお前こそふさわしい。めぐるさんの遺品なんだ。大事に使ってくれ」


 そう言われて、俺は断る事が出来なかった。

 めぐるさんが遺した剣……この剣のお陰でみんなを小野の暴挙から救う事が出来た。

 これはめぐるさんの意志だ……と思うほかない。


「わかった」


 俺はメタルタートルの剣を受け取り、腰に差す。

 めぐるさんは、俺なんかの為に命を使った。

 だから、この剣でみんなを絶対に守る。

 例え命を失う事になったとしても。


「それじゃあ準備も出来たな。みんな! 出発だ!」


 茂信の言葉にみんな頷く。


「水や食料が足りなかったらいつでも言ってくれ。実さんが倉庫から出してくれる」

「うん。こっちも準備万端。みんな、大変だろうけど出発ですよ」


 食料と水の心配は無い。

 いざって時は俺が調達してくる。

 だから、みんなで行けばもう大丈夫……そう願おう。

 俺は拠点に作られた墓に目を向ける。


 めぐるさん……行ってきます。

 絶対にみんなを生きて日本に帰すから、少しだけ待っていて欲しい。

 こんな事を考えているだけで怒られるかもしれないけど……。


「行こう」


 こうして俺達の移動は始まった。


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