表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
47/233

猶予

「ほら、立てよ。お前には自分が何をしたのか身を持って教えてやるからよ!」


 殺意を噴出させて俺は小野を蔑むように言い放つ。

 もっとだ。もっとコイツに自分が何を仕出かしたの惨たらしく教えてやらなきゃ俺の気が収まらない。

 小野の取り巻きが応急手当てとばかりに回復を施し、足を引きずり、腕にあまり力が入らないようだが、小野が戦意を取り戻す。


「く、くそ! 調子に乗りやがって! 俺は最強の能力者なんだぞ!」

「他者から奪った力で王者を気取るのか? めぐるさんならそう軽蔑するだろうな。そもそも何が原因で授かったのかわからない、そんな借り物の力でふんぞり返って何になるんだ!」


 ……自分で言ってて吐き気がするな。

 誰が何の目的で俺達にこんな力を授けたのか知らないが、人を選べ。

 殺人に対して躊躇しない奴にこんな力を授けたら碌な結果にならない。

 いや、むしろこれを狙っていたのかもしれないな。


「俺はここで最強なんだ! お前の様な底辺が触れる事すら叶わない高貴な存在なんだぞ! 調子に乗ってるんじゃねえ!」


 小野が炎を纏って、クラスメイト達の能力を駆使して攻撃を放とうとしてくる。

 炎、水、風、土、呪術、光……基本的に便利な力だな。


 木を高速で生やして俺を絡め取ろうとしてくる。

 ああ、学級委員から栽培の能力でも奪ったのか?

 森を出た後に……とか考えていたのか?

 おい、学級委員! お前の能力、攻撃向きじゃねえか!


「ふん!」


 絡みつこうとしてくる木々を薙ぎ払って切り裂く。

 くだらない。

 何が最強だ。

 谷泉も言っていたが、本当にくだらない。

 お前と谷泉のどこに違いがあるんだよ!


 ……ああ、あるな。

 小野は殺人鬼で谷泉は支配者だ。

 殺人鬼よりは支配者の方がマシだな。


「まだだ! 木を切った程度で調子に乗るんじゃねえぞ!」


 小野は折れた剣を握りしめ、炎を出現させて折れた剣先と剣を接合……違うな、材料を元に再生成する。


「お前の飼い主はポイントをケチって完成までの時間を引き延ばすみたいだが、大量にポイントを稼いでいる俺様はすぐに剣を完成させられるんだよ!」


 茂信の鍛冶の能力まで奪ってやがるのか!

 ご丁寧に自慢までするとか、何様のつもりだ!


「それは茂信の能力だ! この泥棒野郎!」

「は! 能力が多い方が偉いんだよ。ちょっと有利になったからって良い気になるんじゃねえ!」


 小野が体術のステップで俺に殴りかかってくる。

 まず降り注ぐ魔法の類を見切りながら最小限の動きで避け、小野の剣につばぜり合いをする形で再度切断、殴りかかろうとしてきた小野の顔面にボクサー経験を生かしてカウンターパンチをして殴り飛ばす。


「く! その剣が攻撃の要だな!」


 メタルタートルの剣に向かって小野が何やら能力を作動させて光るコインを飛ばしたので切り伏せる。

 光系の能力だな。

 俺が剣を手放せば勝機があるとでも思っていたんだろう。


「弾けない!?」

「悪いが魔法攻撃……能力の類は効かない!」


 俺に能力を放った小野へ、自分でも驚く速度で追撃を仕掛ける。


「おらぁ! まだまだ足りねえよ!」


 防御の構えをしたので剣で腕をなぞる様に切りつける。

 すると小野から鮮血が飛び散った。


「ぐううううう……痛い……痛い! 最強の俺がなんで痛みなんて……!」

「何が最強だ! 本当に最強ならみんなを守れよ! みんなを返せよ!」


 痛みでもだえる小野。

 そうだ。もっと痛み苦しめ!

 お前に殺されたみんなはもっと痛かったんだぞ!


「どれだけ能力を重ねたって、お前は最強にならない。俺がさせない! 能力を使用せずに追い込まれたのがその証明だ!」


 戦闘組は能力に頼り切った戦い方でもしてきたのか?

 異世界での戦闘……めぐるさんや茂信達との戦いが今、俺が小野を追い詰める手助けとなっている。


「小野、お前の流儀で言うのなら、非道な殺人に手を染めたお前は許されない罪を犯した。そして、みんなの能力を使用しても拠点組の雑魚に勝てないお前に存在価値なんて無い!」

「ヒィイイイイイイ!?」


 俺が剣を高らかに振りかざすと小野が脅えた様な声を上げる。


「お、俺は悪くない。お前等クズが悪いんだ! 俺がお前等を救ってやったのにお前等は感謝もせずに、女を差し出さないから!」

「めぐるさん達はお前の物じゃない!」


 まだ抵抗するかと思ったが……辺りを見渡すと、戦闘組拠点組を閉じ込めていた結界が破壊されていた。

 戦闘組も壊せない程の物じゃないのも然ることながら、ここまで連戦をしていた小野の魔力が尽きたのだろう。

 後は追い詰めるだけだ!

 問題は強奪した能力にポイント消費の能力があるかどうかだ。

 小野の胸倉を掴んで持ち上げ、トドメとばかりに剣を突き立てる為に構える。


「おお! やれ! 羽橋!」

「そうだ! 小野を殺せ!」


 みんなが俺に声援を送っている。

 当然の権利だ。

 何人死んだと思っているんだ?

 お前はめぐるさんを殺したんだぞ?

 死んだ位で許されると思っているのか!


「や、やめろぉおおおおおおおおおお!」

「やめてぇえええええ!」


 小野と大塚の懇願が聞こえる。

 ぶざまな声だ。

 ははは……今すぐ黙らせてやる。


『幸成くん』


 そこで、めぐるさんの幻聴が聞こえてきた。

 ……めぐるさんは誰かが誰かを傷付ける事、虐げる事を嫌っていた。

 今、小野を殺せば、俺はめぐるさんに顔向けが出来ない。

 ……俺は小野を、その場で投げ捨てて背を向ける。


「……今すぐ能力を全員に返せ。そして、ここから出て行け! 二度と顔を見せるな! 早く俺達の目の前から消え失せろ!」


 自分でも甘い事だと思う。

 だけど……これは、一時の殺意でやって良い事じゃない。

 めぐるさんならそう言う。


「……俺を……殺人鬼にさせないでくれ……」


 膨れ出す殺意を、めぐるさんが俺に向けた最後の笑顔でどうにか堪え、絞り出す様に言った。


 めぐるさんは勇気を出して、みんなに恐怖を与えた小野を咎めた。

 怖かったはずだ。

 恐ろしかったはずだ。

 逃げたかったはずだ。


 だけど、小野や大塚達がみんなを殺そうとするなら、俺はコイツを迷わず殺せる。

 本音を言えば、絶対に許せない。

 今すぐに殺したい。


 だけど。

 それでも……きっとめぐるさんが生きていたら、俺を咎める気がする。

 俺はめぐるさんの意志を汲み取ることしか出来ない。


 決着は付いた。

 これ以上、小野が俺達に関わらないと言うのなら、最後の……本当の最後の猶予として、見逃してやる。


「生ぬるい! 早く殺さないとみんな殺されるぞ!」

「そいつが反省なんてする訳無いだろ! 逃げてまた復讐するはずだ!」

「人を殺しておいて許される訳ないじゃない!」


 クラスのみんなが挙って声を上げている。

 それくらいわかってる!

 俺だってこんな奴、早く殺したいさ!

 だけど……せめて……めぐるさんの願いを、届くか試させてくれ……。


「幸成……」

「羽橋……」

「幸成くん」


 みんなが俺の名前を呼ぶ。

 その中に……俺が、心から……好きだと思った子はいない。

 失ってから気付くなんて……物語に出て来る主人公は馬鹿だなと思っていた……それが俺の番になるだなんて思わなかった。


 これは全て俺の責任だ。

 傍観者でいたから……いけなかったんだ。

 めぐるさんが許してくれたからと自惚れていた。

 茂信が察してくれていたから事態を軽く見ていた。


 もっと!

 もっと真剣に事に取り組んでいたらどうにか出来たかもしれないのに!


「幸成!」


 茂信の必死な声が聞こえる。

 本音を言えば、どうなるのかわかっていた。

 小野がこのタイミングで逃げるなんて行動は取らない事を。


 それでも、僅かばかりの可能性に賭けたかった。

 めぐるさんならほんの少しの可能性でも、賭けたはずだからだ。


「死ねえええええええええええ!」

「啓介様を傷つけた罪、命であがなえええええええええええええええ!」


 小野と大塚達が俺に向かって、攻撃をする瞬間。


「めぐるさん……ごめん」


 俺は……どうやらクラスメイトに手を掛けた殺人鬼に、成り下がってしまった……。

 グシャッと俺の目の前から……小野とその取り巻きがいた場所まで大量の土が出現した。


「グギャ――」

「ギャ――!?」

「……すぐに俺の指示に従って逃げていれば当たらなかった。小野、お前等は、最後の猶予を自ら蹴ったんだ」


 そう、小野との戦いの最中、俺は地面の土に向かって転移を詠唱していた。

 出現場所も指定。

 致命傷で無くても深手を負わせる為の必殺の罠としていたのだ。


 小野を追い詰め、残り時間を計算しながら選択をさせた。

 これで小野が逃げれば……まだ、俺は殺人に手を染めずに済んだ。

 だけど、結果は出た。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ