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強奪条件

「め、めぐる……さん?」


 嘘だよな……? さっきまで近くにいたはず……。

 そこには、めぐるさんであったと主張する痕跡は僅かにしか転がっていなかった。

 炭と化して僅かにしか残っていない……手が無情に俺の目の前に転がって……。


「あああああああああ……ああああああああああああああああああああああああああ!?」

「めぐる!?」

「めぐるさん!?」


 うあああああああああああああああああああああああああああ……あああああ……う、嘘だ……こんなの……。

 俺の叫びに茂信、実さんが声を失っている。


「く……羽橋!」


 萩沢の呼びかける声であっても俺は先程の光景が脳裡に焼きついて離れない。


「さて、続きを始めるか。どうせ男はみんな殺すつもりだったし、羽橋、お前からだ。お前はなんか俺を遠くで全てを見透かすみたいに見てて気色悪かったんだよ!」


 小野の声に……腹の奥からマグマの様な感情が、俺の中から噴出してくる。


「幸い、めぐるを殺そうと思った所で転送を奪えたから良いとするか」


 小野がニヤ付く。

 わなわなと全身が震えと指示を出し、俺は立ち上がる。

 その瞬間、余りにも遅く、苛立つ程の俺の……めぐるさんに遥かに劣る能力、転移でメタルタートルの剣が手元に出現した。


「お? 転移ってのはそういう事も出来るんだな? そんな剣でどうするつもりだ? ま、転移なんてゴミ能力、めぐるの転送に比べりゃゴミみたいな能力だもんな。それ位しか出来ねぇか」


 遅い、遅過ぎる。

 俺も、能力も、何もかも……。

 全てに吐き気がして止まらない。


「その力はめぐるさんの物だ……今すぐ、返せ……」


 震える体を押し殺して絞り出す様に言い放つ。


「返せ? 既にあの女はこの世にいねえのにどうやって返すってんだよ。馬鹿じゃねえの? これでトドメだ! 生きる価値も無いゴミ能力!」


 小野が先ほどの炎と風の複合の能力を俺に向かって放つ。

 俺は……とある物を転移指定し……顔を上げて怒りのまま、メタルタートルの剣で振りかぶる。


「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」


 スパンと小野の作り出した結界を切り裂く。


「何!?」


 続く刃で小野の放った業火を切り伏せて小野の元へ駆け寄った。


「馬鹿な! 拠点組のLv1が俺の能力を突破しただと!」


 小野は近寄らせまいと谷泉達から奪ったであろう能力、水や風を織り交ぜた攻撃を放ってくるが、俺は走るのを止めずに全てを切り裂く。

 そして小野の前に俺は立ちはだかり、メタルタートルの剣を大きく振りかぶった。


「く……俺の剣術の能力を受けてみろ!」


 俺の剣を受け止める様に小野は剣を合わせ……スパンと小野の持っている剣が二つに切り裂けた。


「なに!?」

「これで剣術は効果を無くした。剣が折れたら剣術もクソも無い」


 剣が折れては剣術は効果を発揮しない。

 技術は劣っているだろうが、武器は上だ。


「ふん! 剣が無ければ体術があるんだよ!」


 と、小野は拳を握りしめてパンチを繰り出し、柔道の様に胸元を掴もうとしてくる。

 だが、おそらく小野は体術を使うのは初めてか、二、三度程度だろう。

 動きが良くてもキレが無い


 俺は……覚えている。

 グローブを着用してボクサースタイルで魔物と戦った経験を……ボクサーとしての能力の感覚を覚えている。

 例え、やり方があやふやでも、小野程度の体術を見切る事は……出来る!

 小野の手を体を逸らすだけで避け、小野の腕の腱をメタルタートルの剣でなぞる様に切りつけて肩を突き刺して引き抜く。


「あぎゃああああああああああああああああ!? いてぇえええええええええええ! 何しやがるぅうううううううう!?」

「啓介様! 下位互換の癖に啓介様に何をなさると言うの!」


 小野を庇う様に大塚と取り巻きが駆けつけて俺を殴り飛ばそうとして来る。


「啓介様の手を煩わせる事も無いわ!」

「お前は毎度毎度同じ事しか出来ないのか!」


 俺は大塚の殴りを見切って避け、髪を掴んで左に大きく振り回す。


「きゃああああああ! 女の髪を掴んで何すんのよ! 親に教わらなかったの!?」

「うるせえ! 自分の思い通りにならなかったら暴力に走る奴が女と見てもらえると思ってんのか!」


 そのままの勢いで大塚の腹に蹴りを入れて突き飛ばす。

 今の俺に男だとか女だとか通じると思うな!


「うぐ!?」

「いてぇ……いてぇえええ……お前、何しやがる! この俺様に向かって、こんな事して許されると思ってんのか! ぜって許さねえ! 殺してやる!」

「許さない? それこそお前……何を言ってんだ? めぐるさんがお前に何を説いたのか、その意味をわかっているのか!」


 戦争は自分がされたら嫌な事をした者が勝つと言うが、ここは戦場でも、ましてや戦争ですらない。

 みんなが必死に生き抜こうとがんばっていた場所なんだ。

 小野! お前がサル山のボスザルになる為のちんけな所じゃない!

 またも能力を使って俺を追い詰めようとする小野の攻撃……炎、水、風、土を斬り伏せる。


「は!」


 俺の目の前に多重に透明な防壁が出現する。


「また結界か! そんな物が通じると思ってんのか!」


 メタルタートルの剣を思い切り突き刺し、結界を突き破る。


「まだまだ! コレを受けて立っていられると思ってんのか!」


 小野の手から黒い塊が放たれる。

 確かこれは呪術とかの能力だった覚えがある。

 戦闘組の奴等が集落で練習に放っていたのを遠目で見た。

 剣で切り伏せるが、貫通して俺に命中する。

 その瞬間、腕の腱に激しい痛みを覚えて小野と同じように片腕に力が入らなくなった。


「はははは! どうだ! 痛覚共有の魔法だぞ! これでお前は本気で俺に攻撃なんて出来なくなった!」

「知るか!」


 剣を持ちかえて小野の耳を斬り落とす。

 瞬間、俺の耳に激痛が走った。

 普段ならのた打ち回る程の痛みだが、知った事じゃない!


「あぎゃあああああああああああああ!? 耳が、耳がー! 痛い! いたい……!」


 痛みで転げ回る小野に追い打ちとばかりに踵で足を踏みつける。

 ボキっと良い音がしたな。


「ぎゃああああああああああ!?」


 俺の足も激痛が走ったが、すぐに痛みが引いた。

 どうやら小野が奪った能力で俺に掛けた魔法が、小野の意識が継続出来なかった所為で切れたようだ。


「啓介様!」


 小野がのた打ち回りながら両足に奪った能力で回復を施す。

 そういや小野は俺の能力を奪わないな。

 下位互換と思って奪う気もしないか?


「俺の攻撃力を転移させたとかだな……く、転移にそんな能力が隠されてるなんて気づかなかった。複写じゃ真似出来ねえって事か!」


 痛みに呻きながら小野が俺を睨んでいる。

 もしかして、即座には奪えない?

 いや、事が判明してから小野は能力を奪い続けていた。

 にも関わらず、俺の能力を奪えない。

 ここで俺は小野が結界能力者に向かって親しげに話しかけていた時の事を思い出す。


 能力を奪えた相手達を思い出す。

 戦闘組の殆ど、拠点組の一部……俺の能力はまだ奪えていない。

 拠点組……仲良くない癖にしばらく一緒にいてウザがられていた。

 そしてめぐるさんの能力は奪えた。


 そもそも小野の複写って劣化するんだったか。

 だから本物の能力本体を強奪しようとしている。

 ここから導き出せる結論は何個かある。


「お前の強奪の拡張能力の発動条件は、対象の能力者と一定時間一緒にいた事がないといけない。だからほとんど近くにいなかった俺からは能力を奪えない!」


 俺が事実を突きつけると小野は舌打ちをして今まで以上の眼光で俺を睨んできた。


「なるほど! じゃあ戦闘組の中で小野にそこまで近づかなかった奴は結界破壊後、一斉に行くぞ! 拡張能力で戦える奴も準備しておけ!」

「ち! その程度で俺を倒せると思ったら大間違いだ!」


 ……大間違い? 多人数で?

 違うな、それは俺が小野を倒してからだ!


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