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ヒーロー気取り

 谷泉達が森の出口を秘匿していた。

 考えてみれば納得出来る部分は沢山ある。

 拠点組を必要以上に監視していたし、Lv上げをさせない様に徹底していた。

 つまり谷泉は恐れていたんだろう。

 出口があるという事は自分の王国が崩れるという意味なんだからな。


「なんて人達なの!」

「秘匿していたって言うのかよ!」

「みんながこんな環境で我慢しながら戦闘組の人達に奉仕していた意味をわかってたのか!?」


 拠点組の連中が各々不満を谷泉達にぶつける。

 当然の反応だとは思う。

 だが……何か引っ掛かる。


「うるせえ! 俺に逆らうんじゃねえよ! 森を出たからなんだってんだよ!」


 追求される状態に谷泉達もたじたじと言うか……能力を使って黙らせるかと思ったが、みんな揃って視線を泳がせながら困惑している。

 やはり、何か変だ。


「くそ! なんで能力が消えちまっているんだ!?」

「うるさい連中を黙らせられねえじゃねえか! くそ!」

「何が起こってんだ!?」


 非は完全に谷泉達にある。

 何が起こっているのかを想像出来ない訳じゃないが、俺達が異議を唱えられる状態では無い。


「楽しい楽しい冒険、クラスの連中に尊敬して貰える環境の維持の為に、コイツ等がやった事は許されざる蛮行、力による圧政でしかない」

「そうだそうだ! なんて奴らだ!」


 結界能力の生徒が小野に便乗して谷泉を弾劾する。

 お前も小野派なのか?


「どうして能力が使えないか?」


 舐める様な、それでありながら挑発的に谷泉達に顔を近づけて小野は答える。


「それは俺の拡張能力で、能力が剥奪に進化したからに決まってるだろ?」

「な、何!?」


 能力を……奪う?

 おそらくはLvが一定数に達した事で拡張された能力だ。

 小野の能力は複写なんだから、強奪が出てもおかしくはない。

 そんな能力があっても不思議じゃない。

 だから谷泉達が能力を使えないのか。


 しかし……この状況ってやばくないか?

 俺が日本に帰っているのとは違う意味で、小野は責められる立場に置かれているぞ。

 なんせ、いつ奪われるかわからないんだ。

 そんな相手が傍にいて心中穏やかなはずがない。

 俺が小野だったら、言うか言わないか相当悩むはずだ。


「谷泉、他の連中もそうだけどお前等は許されない罪を犯した。そして能力が俺に奪われたと言う事は無能なお前等に存在価値なんて無い」


 ……?

 存在価値?

 小野は何が言いたいんだ?


「あ!? 舐めてんじゃねえぞ! 調子に乗るんじゃねえぞ!」

「そうだ! 一対一で勝ったからって調子に乗るんじゃねえ!」


 谷泉派の連中が各々武器を取り出して小野に向かって行く。


「だからお前等に生きる資格は無い!」


 小野が剣で谷泉の胸を貫く。


「ガハ――!?」

「この世から消えろ!」


 同時に炎を剣に辿らせ、盛大な閃光と共に谷泉が爆散する。


「……あああああ……」


 谷泉が爆殺されて谷泉の取り巻きだった連中が腰を抜かす。

 そりゃあそうだろう。

 さっきまで一緒だった奴が目の前で爆殺されたんだから。


「……え?」


 隣から茂信の唖然とした声が聞こえてきた。

 俺だって唖然とした表情でその嘘の様な光景を眺める事しか出来ない。


 コイツ……何やってんだ?

 俺の冷静な部分が危険だと知らせてくる。

 これは警報だ。

 もっとやばい事が起こる。

 すぐにでもここから離れるべきだ。


「お前等も同罪だ! 能力は既に奪い済みで……存在価値は無い! 死ね!」


 小野が手をかざすと風と水の刃が谷泉の仲間だった連中を切り裂く。


「ギャアアア――」


 悲鳴を上げる暇なく、切り裂かれ、トドメとばかりに焼き焦がされる。

 アレでは実さんの拠点回復でさえも効果があるかわからない。

 ゴクリとその場にいたみんなが息を飲んだ。


「という訳だ! これでクズは仕留めた! どうだ、お前等、俺の活躍は」

「キャー! ステキー!」

「谷泉達が死んだわー!」

「これでみんな啓介様にメロメロよー」


 小野の取り巻き連中が褒め称えているが、他の連中は誰も手を叩かない。

 当たり前だ。

 いや、むしろ、褒めている大塚達は正気なのか?

 コイツ等は今何が起こっているのか、本当に理解出来ているのか?


「あ? どうしたんだよお前等、お前等を支配していた悪を俺が消してやったんだぜ? ここは喜ぶ所だぞ?」


 ……本気で言っている顔だ。

 小野は心の底からそう思っている。

 するとそこで、茂信とめぐるさんが一歩踏み出して言った。


「確かに、谷泉達はとても酷い事をしていた」


 みんなを閉じ込め、出口があるのに隠匿していたのは許せない横暴な事だとは思う。

 その事に関してはここにいる連中は揃って頷くだろう。

 だが、問題はそこじゃない。


「だけど殺人まではしなかった!」

「谷泉くん達の暴挙は許せる物じゃないけど、目の前で人を殺した貴方を受け入れろって言うの?」


 戦闘組も拠点組も揃って小野に警戒態勢を取っている。

 頭がすげ変わっただけ所じゃない……立派な殺人……公開処刑を目の前でされたんだ。

 例え常識が破綻した状況であっても……いや、あったからこそ、この状況にみんな合わせる事なんて出来ないだろう。


 小野は一体何を考えて谷泉達をみんなの目の前で惨殺しようなんて考えたんだ?

 みんなを支配している谷泉を殺した俺がヒーローとでも思ったのか?

 みんなは殺人を犯したお前に恐怖の感情しか浮かばない!

 だから俺は小野に向かって指差して言った。


「小野、お前は悪からみんなを救ったヒーロー気取りみたいだが、みんなはお前の事を谷泉よりも危険な殺人鬼だと思っているんだよ!」

「はぁ? 何言ってんだお前等? 俺が殺人鬼?」


 心の底から信じられないと言うかのように、小野は答えた。

 その反応に俺は薄ら寒い物を感じる。

 この感覚……覚えがある。

 あれは去年の夏休み、小野が蝉の羽を毟っていた時と同じ恐怖感。

 いや、それ以上だ。


 大塚達、小野に心酔している連中はクラスのみんなを理解できないとばかりに睨み返している。

 どうやらコイツ等は小野がやった事を正しいと思っているみたいだな。


「俺はみんなを救ってやった救世主だぞ? みんなの為に手を汚しただけだ」


 心外だとばかりに両手を広げて言うが、みんな間合いを測っている。

 逃げるにしても、攻めるにしてもだ。

 というか、自分で勝手に手を汚しておいて何を言っているんだ?

 誰がそんな事を頼んだ?

 それは谷泉が本当にどうしようもない領域に足を踏み入れた時に効果があるセリフだ。

 しかも、自分で言ったら意味が無い。


「そうだそうだ。谷泉の奴、そんな事を隠してやがったのか。とんだ外道な奴だったんだな」


 そこに、結界の能力を持つ生徒が小野を守る様に立つ。


「お前……」

「俺は小野、お前を尊敬するぜ。よくぞ谷泉を仕留めてくれた。これでみんなの日常がもっと良くなる」


 そして、結界の能力を持つ奴が実さんに色目を使い始めた。

 こんな時までコイツは……。


「谷泉の野郎。実さんを独占して、奉仕させやがって、前々から気にくわなかったんだ。実さんは俺――!?」


 ドスっと小野が結界能力者の腹部を剣で思い切り貫いた。

 ……何が起こっているんだ?

 谷泉は……まあ小野の考えからして、まだ理解出来る。

 したくはないが。

 だが、そいつはお前の仲間なんじゃないのか?


「言い忘れたが、お前も同罪に決まってるだろ? 実を独占しようなんて汚い考えをしてるんだからよ」

「な、そん――」

「ああ、お前の能力は便利だし、みんなの生命線だから俺がもらっておいてやるよ。ありがたく思うんだな」

「やめ――」


 俺を含めてみんなが飛びかかろうとした瞬間、俺達の四方に謎の障壁が発生してぶつかる。


「い!?」

「実は俺の物に決まってんだよ……俺の女に手を出すな。くたばれ!」


 小野が剣を引き抜き、結界能力者の腹部から血が溢れだす。

 そしてドサッと倒れる結界能力者の頭を思い切り踏み抜いた。

 グシャッと嫌な音が辺りに響き渡る。


「うわ……よええ。Lv1ってこんなに弱いのか」

「きゃあああああああああああああああああああああああ!?」


 今更になって悲鳴が上がる。

 能力による殺害なんて目ではなく、目の前で人が殺された事がありありと語られている。

 こんな状況、誰だって悲鳴を上げる。


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