表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
40/233

異世界転送

「え!?」


 それってつまり、異なる世界へ移動できるって事!?

 そりゃあ……もはやゲームクリアの如く、みんなが元の世界に戻れる手段になるんじゃないか!?


「おおおおおおおおお!」

「やったな!」

「これで日本に帰れるんですか!?」


 萩沢も茂信も実さんも我が事の様に両手を上げて喜ぶ。

 俺だって同じだ。


「待って待って、まずは試してみないとわからないよ」

「そ、そうだよな」


 めぐるさんが能力を使用するべく、目を泳がせる。


「……ダメみたい。日本から異世界へ転送させる能力だって警告文が出てる……」


 くっ……文字通りの意味なのか!

 異世界転送だから、確かに異世界に転送する能力、という意味でもおかしくはない。


「はぁ!? 異世界へ転送させるなら、せめて異世界から異世界へ転送させろよ!」

「めぐるさんを問い詰めてどうするんだよ」

「わかってるけどさぁ!」


 萩沢の気持ちもわかるけどさ。

 これで俺の重荷が降ろせると思ったのに……。

 けれどそれをめぐるさんに言うのは間違っている。

 めぐるさんだってどんな能力が出るかわからない訳だし。


「仮にそれでも、異世界から異世界へ行ったら大変な事にならないか?」


 茂信がもっともな事を言うなぁ。


「行けたらよかったんだけどね……今よりは好転するかもしれないし」


 まあ、谷泉達戦闘組の天下から未知の場所への移動を出来るなら、それはそれで良かったかもしれない。

 ジャングルみたいな森ではなく、街とか草原かもしれないしな。


「ハズレ能力……かな」


 めぐるさんがそう言ってがっくりと肩を落として呟く。


「そうでもないよ」


 俺はここで一つの可能性に気が付く。

 いや、俺だからこそでもあるし、本来はみんな気が付いている事だ。

 今はそう言って納得するのが一番だ。


「異世界転送なんて拡張能力が出たという事は、逆の……日本転送って能力が目覚めてもおかしくない。めぐるさんがもっとLvを上げたらいつか出てくるかもしれないよ?」


 項垂れためぐるさんが顔を上げて俺を見る。

 うん……これは希望が見えてきたぞ。

 めぐるさんはみんなの希望になりうる能力の片鱗を持っている。


「そうだよな……そんな拡張能力があるって事は逆も存在する可能性は高い!」

「ああ! じゃあこの事実をみんなに報告すべきだな」


 茂信の言葉に萩沢と実さんが首を振る。


「まだ早いと思いますよ?」

「そうだ。谷泉達は帰ろうなんて微塵も思ってない。むしろ帰りたくないとか思ってるだろ。下手をするとめぐるさんの命が危険になるかもしれねえ」


 ……確かにそうだ。

 俺が日本に帰れる事を知られるのと同じくらい、危険な可能性を持っている拡張能力なんだ。


「話すにしてももっと強くなってからにした方が良いと思う」


 俺も賛成だ。

 とはいえ、めぐるさんの考えも重要だ。


「めぐるさんはどう思っている?」


 茂信がめぐるさんに尋ねると、めぐるさんはしばし考えた後、頷く。


「確かに……今、話すのは危ないと思う」

「わかった。この事は内密に、それでありながらめぐるさんのLvを上げる事を重点的にして行こう」

「おう!」


 俺達の心は一つだった。

 帰れるかもしれない。

 それだけで希望を持てる。


「じゃあそろそろ……拠点に帰って休んだ方が良いよな? 実さんも眠いみたいだし」


 萩沢が欠伸をしながら答える。

 まだ朝じゃないけど……良いのか?


「ふぁああ……ううん。萩沢くん達が残ってますよ」

「いや、気にしないでくれ、正直疲れたし眠い……危ないから帰らせてほしい」

「茂信と萩沢の拡張能力が出るまでは戦いたかったんだがな」


 まあ茂信の能力が付与である可能性は高いんだけどさ。

 萩沢は何を覚えるだろう。


「パス……明日の楽しみにするさ」


 今日は実さんも仮眠せずに、出撃したからなぁ。

 なんか楽しみで寝付けないって話になっていたからなんだろう。

 そのツケか、深夜……三時くらいで眠気が襲ってきたって事か。


「良い能力が出ると良いな」

「ぶっちゃけ……戦闘向きな能力はこれまでの拡張から見て覚えるのは無理だから、そこまで期待はもうしてない」


 なんかクールっぽく萩沢が答える。


「売買がかなり優秀だもんな」


 俺の言葉にぐっと嬉しそうに拳を固める。

 満足って訳じゃないけど、期待以上の能力で妥協してるのか。


「まあ、好き勝手能力を選べるんだったら戦闘組の能力か、坂枝の鍛冶が覚えたかったってのは本音だけどな」

「萩沢の能力が無いと作れない武具もあるんだぞ?」


 茂信の言葉に萩沢が頷く。


「わかってるって、武具ってのは道具作成と切っては切れない関係なんだ。良い装備には必要って知って安心してるよ」


 作成系の能力者同士じゃないと分からない連帯感って奴だな。

 少し羨ましいな。茂信と仲良くする事が俺よりも出来そうだし。


「ま、坂枝が次に付与を覚えるのを楽しみにしようぜ。更なる強さが得られる事を期待してさ」


 俺達は今後の方針を決めて、拠点に戻った。


 この時の俺は、特に警戒も懸念もしていなかった。

 めぐるさんの拡張能力で、めぐるさんの身に起こる変化を……。



 朝の奉仕作業……掃除の手伝いを終えた俺は茂信の工房で仮眠を取った。

 最近じゃ茂信と交代で仮眠を取って、戦闘組が工房のカウンターに来ると起こす感じになっている。


 まあ、基本忙しいのは朝か夕方なんだけどさ。

 昼くらいまでは我慢して起きてて、頼まれたら昼飯を日本で購入。

 その後、茂信と交代で就寝、4時くらいになったら家の方に転移で飛んで再度昼寝。

 6時過ぎ頃に親の用意した飯を早めに食べてから必要な物があったら出かけて調達し、異世界で晩御飯の配給をクラスメイトに分けて、一度日本に戻って入浴後に異世界へ行く。

 こんなサイクルで動いているのだが……。


 ん?

 転移先でめぐるさんが茂信と何か言い争いをしているような……?

 茂信の方は何か首を傾げていて、めぐるさんの方は必死な様子だ。

 何があったんだろうか?

 念の為に別室の方へ転移で移動する。


「だーかーらー! 幸成くんだって!」

「ん? 幸成が何処かって?」

「え?」


 随分と大きな声だなぁ。

 めぐるさんどうしたんだろう?

 扉を開けて茂信達に声を掛ける。


「どうしたの? そんな大きな声を出してさ」

「え? 幸成くん? あれ?」

「なんかめぐるさんが幸成は何処だって聞いてきてな。ほら、いるじゃないか。探しまわって何か用事でもあるのか?」

「え? だって茂信くん、そんな奴知らないって今さっき――え?」


 な、何?

 めぐるさんが混乱した様に俺と茂信を交互に見ている。


「いやいやさすがに知らないはずはないだろ。隣の部屋で休んでいたんだし、風呂も入ったよな。なあ幸成」

「あ、ああ……」


 まあ、本当の事を言えば俺は異世界におらず、日本にいて晩飯食って風呂に入っていた。

 事実とは異なるのだが、俺が異世界に居ない場合、居た事になっている補正が掛る。

 これで時々知らないのに知っている前提で話をさせられる事があるから困る事もあるけど、大体どうにか誤魔化してる。


「ううん、入浴の時は茂信くんは一人で入りに行ったよ。出る時は萩沢くんと一緒だった。ちゃんと探したから間違いない。しかもさっきまで知らない人みたいな態度を取ってた」


 めぐるさんが確信に満ちた目で茂信に言い切る。

 う……これは……もしかして……。

 それからめぐるさんは今にも泣きそうな顔をして俺に抱きついて来た。

 え!? な、何がどうなってるの?


「幸成くんが最初からいないみたいに扱われてて……凄く怖かった。みんなして幸成くんを何処かにやってしまったんじゃないかって……」


 ……怖い思いをさせてしまった、という事かもしれない。

 しかし、これは……。


「ふむ」


 茂信も俺の方を見てから、何食わぬ顔をしてから答える。


「……もしかしたら何かあるのかもしれないが、幸成が黙っているという事は、必要な事なんだと思う」


 下手に日本に帰れるって事実を茂信が知っていたと知られれば被害が及ぶのは簡単に想像出来たから、敢えて黙っていたんだがな。

 知っていたらもしもばれた時に知らんぷりなんて出来ないのが茂信だ。

 間違いなく俺を庇って要らぬ被害を受ける。

 茂信が工房の周りに誰もいないのを確認してから、めぐるさんに答える。


「大方……この不思議な世界だ。この世界に来て最初の日に幸成が俺に聞いて来た事から連想すると自然と答えが何個か出てくる。どれかが当たっているかもしれないし、間違っているかもしれない。だけど、幸成が話さないなら聞く気は無い」


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ