倉庫
「素材もポイントも順調に集まってきたし、次はどうするか、だな」
「出来る事がどんどん増えて来て楽しくなってきたね。もしかしてこれが戦闘組の楽しさなのかもよ?」
「それを拠点組と共有して欲しかった」
「分かち合って欲しい」
茂信とめぐるさんが各々呟く。
拡張された能力を見る限り、拠点組を育てない事で明らかに損しているしな。
特に萩沢の売買とか重要過ぎるだろ。
ポイント効率的に考えてさ。
「まあまあ、大分目処が立ってきたしもうひと踏ん張りだよ」
「そうだね。今は少しでも早くLvを上げて行こう」
「おう!」
で、実さんに預けた包丁なのだが、しばらくして細かな傷が減った。
なくなった、ではなく減った、だ。
「ある程度は修理出来るみたい……ただ折れた武器や壊れた防具とかは無理っぽい」
なるほど、耐久率を回復させるって事か。
「後、ポイントが減ったみたいだよ」
「ポイント消費で武器の耐久を回復させるか……使いようによっては役立つ」
「茂信も覚えそうな能力」
「幸成、わかってるから黙ってくれ」
谷泉達は最近、武具の破損を気にし出している。
拠点組を育てろよって感じだ。
まあ知らないからなのかもしれないが。
でも……想像付きそうなのにな。
アイツもゲームに多少は詳しい訳だしさ。
ここまで来ると拠点組を育てられない理由でもあるんだろうか? と疑ってしまう。
「とりあえず、幸成の武器は後回しで俺や萩沢の武器、それから防具を鍛えて行こう」
「メタルタートルの鎧は……まだ遠そうだね」
めぐるさん。貴方は鎧を好き過ぎです。
メタルタートルの鎧がそんなに欲しいのですか?
「出来あがっても使いこなせなかったら目も当てられないし」
俺の言葉にみんな同意した。
あの重い甲羅をふんだんに使った鎧がどんな物なのかと想像すると少し憂鬱になる。
プロテクターに使ってもちょっと重くなるんだし。
で、朝日が見えた頃、帰りがけに俺は尋ねた。
「プレイヤー組って何Lvくらいなんだ?」
「確かLv22とか言ってたな。今まで能力頼りだったらしいんだが、最近は魔物に苦戦して来てるそうだ」
茂信の強化を受けて俺達は快勝で突き進んでいる。
そのお陰か俺はLv14まで上昇した。
大分差が縮まって来ている。
この分なら二週間あれば余裕で追い抜いて谷泉達を見返せるようになるかもしれない。
ああ、そういや戦闘組が実さんの事を気に掛けてLv上げをしてくれたそうで、めぐるさんよりも早く上がりそうになってきた。
次はどんな拡張をするか楽しみだな。
「しかし……谷泉達はどんなゲームを参考に行動しているんだろうな?」
行き詰って来ている自覚は無いのだろうか?
それとも能力の拡張に期待して地道なLv上げをして行くとかの方針?
22という事はもう少しで25だ。
25になれば新しい拡張能力が得られる可能性は高い。
萩沢を蔑にするという事は回復アイテムに頼らないプレイスタイルなのは想像に容易い。
「古いRPGとかだと武具とLvでどうにかなったりするような……」
茂信の言葉に俺も昔やったゲームを想い浮かべる。
店で売ってる装備品で固めたりして攻略するゲームだ。
だが、さすがに谷泉達もその辺りとは違う事を理解してるだろ。
……考えれば考える程、奴の行動が読めない。
「オンラインゲームとかでも無い訳じゃないが……無理があるな」
むしろオンラインゲームであっても装備品とアイテムは重要だ。
モンスターを狩るゲームなんて装備を鍛えてどうにかなる所だぞ。
「アレじゃね? 拠点組をNPC、育てない方針でいるから強化が蔑になって行く、能力頼りで切り口が見えない。かと言って今更拠点組を育てるなんて認めたくない」
萩沢の言葉になんとなくしっくりくる。
「谷泉達も愚かじゃない。ここ三週間で死者を出さずにいる事がその証。注意はしているんだ……なら和解の切り口はある」
茂信の言葉にみんなして頷く。
行き詰った時、俺達が谷泉達を遮る様に立って、勝負の後に勝利すれば谷泉達も新たな切り口として拠点組を認める。
いや、認めさせる。
「怖いのは中途半端に利用される状況ですよね」
「そうだね。茂信くんとか一部の拠点組の人だけを優遇するだけで終わらせちゃいけない。他の冷遇されている子も大きな可能性が眠っている事を認めさせてこそ、私達の勝利の一つ」
そう、これは人里を見つけられない場合の勝利条件。
探索は続ける事が前提だ。
だけど、こっちはこっちで重要なんだ。
どっちか一つじゃない、後少しでこの鬱屈した状態を突破出来る。
そう思うと俄然とやる気が出てくる。
俺達はますます結束し、Lv上げを勤しんで行った。
強化が出来る状況、魔法効果を宿す武器の使用に谷泉達と距離は少しずつ近づいて行っている。
今では戦闘組の二軍くらいの強さを持っているはずだ。
なんて矢先に実さんのLvが15に達した。
経験値効率が上がった所為か、随分と速く15になった気がする。
「あ、Lvが上がりましたー」
「昼間も遠距離攻撃で狩ってる羽橋よりも実さんの方が先か」
萩沢、俺を引用に出すのは余計だぞ。
一応、めぐるさんも俺と一緒に時々狩りをしてるんだぞ?
メタルタートルの出現範囲はそこまで強いのがいないから、昼間でも注意すれば行けなくは無い。
ポイントになるから重点的に倒してるし。
「しょうがないですよー戦闘組の人達に少し上げてもらったので」
「拡張能力の話はしてるの?」
「一応はね。武器に魔力を補給できるって話したけど、あんまり評価されませんでした」
戦闘組では以外と認識の落とし穴扱いなのか?
武器に魔力を補充すると結構馬鹿にならない威力になるはずなんだが……。
「便利だけどそれ以上の物じゃないって思われてる感じでした」
血糊が付かないとか、振れば魔法が飛び出す武器の残弾補充って馬鹿にならないはずだが……って結局は回復でしかない扱いって事か。
茂信や萩沢とは毛色が違う。
ましてや俺みたいな日本の物を引き寄せるとか、あっても戦闘では貢献されない。
うん……なんて言うか茂信と萩沢の能力の方がやっぱすごいと思える。
「で、今回は何が出たの?」
めぐるさんが実さんに尋ねる。
すると実さんは小首を傾げながら答えた。
「えっと……倉庫?」
めぐるさんと茂信、萩沢が硬直する。
おいおい……それって……。
みなさん、ゆっくりと視線を俺に向けるのはやめて頂きたい。
俺はめぐるさんの方を見てるんだけどさ。
「実さん、使ってみてくれない?」
「うん」
実さんがそう言うと、カパっと実さんの目の前に空間の亀裂……黒い穴が広がる。
「わー何これ?」
っと、めぐるさんが顔を穴に通す。
「えっと……なんか暗いけど広い場所みたいだよ」
そう言いながら入ろうとしてるけど、頭より先には入れないっぽい。
というか、これって入って大丈夫なのか?
「うーん、入れない」
「入ろうとしないでください。何処に行こうとしてるんですか」
「アイテムボックスって奴か?」
「じゃないか?」
「じゃあ、試しに今回倒した魔物の死骸を入れて見るか」
実さんに穴を開けておいてもらって俺達は穴に入れる。
あ、他の人も穴を見る事が出来るのか。
中は……うん、宇宙みたいにキラキラと光ってるな。
ちょっと幻想的だ。
「で、入れたのを取りだせないの?」
「えっと? この死骸の所持者は誰なんだろう?」
「パーティーじゃないの?」
「あ、そうみたいです。共有ボックスって項目に入ってるみたいです。文字が浮かんでます」
実さんが目を泳がせてステータスを弄る様に何かをしている。
やがて空間が開いてボトッと入れた魔物の死骸が出てくる。
「少しだけポイントを使うみたい」
「RPGの袋とかの能力だ」
萩沢が的確な事を言った。
確かにそんな感じだ。