表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
37/233

修復

 泉のほとりに座って、水面を見つめる。

 淡く発光しているけど、どう言う原理なんだろう?

 発光塗料の泉だよと言われたら汚染物質っぽく感じてしまうかも……。

 むしろ、泉の中に照明でもあるんじゃないかって光り方だけど……違うっぽいんだよなぁ。


「思えば色々とあったね」

「そうだね」


 異世界にクラス転移して、魔物の襲撃……谷泉達の活躍による撃破の後、能力確認をしてからの帰還。

 それからも色々と俺だって谷泉達に意見したし、行動にしようとした。


 だけど、雑魚扱いで俺の言葉等聞き入れることなく、森の方は危ないって強引に引きとめられた。

 俺だって何もしなかった訳じゃない。

 茂信と一緒に意見くらいしたさ。

 だけどまったく聞き入れる気配は無く、教師を火あぶりにした事で拠点組は身をすくませてしまった。

 サバイバル時のリーダーが誰であるのかそこで決定したんだと思う。


 既に俺はこの時に大塚に殴り飛ばされていて傍観者を気取ってしまっていたし……。

 後は転がり落ちて行くように谷泉の支配力が増加して行くだけだった。

 楽観的だったのは事実だ。

 まさか……谷泉の奴が予想よりも悪い行動を取ったんだもんな。

 拠点組と戦闘組で分けるなんて事をするとか……ゲームや漫画、小説に詳しいなら拠点組も育てると思っていたんだ。

 Lv5で既にLv1じゃ叶わない戦力差が開く……その段階で既に遅かった。


 二日……三日だったな。

 最初に家を建てる時に集落の端の方へ行って木を斬って運ぶ時も魔物が現れた。

 拠点組の連中も最初は魔物と戦えるって意気込んで行ったとも聞く。

 戦闘組の助けが無かったら危なかったと怪我をした連中を見て思った。


 それから、二週間はご存じのとおりだ。

 今はそれなりにLvが上がって戦えている状態……思えば遠くへ来た。


「幸成くん」

「何?」


 明日からはまた、戦いをしなくてはいけない。

 もう少しなんだ。

 谷泉達の暴挙を止められる様になるのは。

 例え、人里が見つからなくても、どうにか出来る。


「その……幸成くんは、どうしてそんなにも他の人達に優しく出来るの?」

「……俺は別に優しく何か無いよ」

「嘘。だって拠点組のみんなをいつも気に掛けているでしょ?」

「余裕があるし、元気な人が心配しなきゃいけないでしょ」

「少ない食事をみんなに分け与えているし」

「実は取り寄せで食べてるから大丈夫なだけだよ。むしろ軽蔑される事だ」

「少ない手持ちの飴やチョコを上げるのを見たの」

「見られてたのか……」


 内緒だよって渡したのが周知の事実じゃ無かったのか?

 めぐるさんもよく見てるなぁ。

 目立たない様にしてたんだけど。


「それも持っていたからだし、甘いのは苦手なのは話したでしょ」

「だけど、こんな状況で人に躊躇なく渡せるのは普通は出来ないわ」


 ……確かに。

 だけど俺は……余裕の無いと思われる状況で余裕を出せる能力を得てしまった。

 だからこそ、みんなに色々と施しを出来るだけなんだ。


「あのね……私ね。幸成くんのそういう所が、その……とても素敵な事だと思うの」


 俺を褒めようとしてくれるめぐるさんの言葉が俺に突き刺さる。

 褒めるその声、顔……それが真実を知った時に、俺を詰る姿に変わると思うと……つらい。


「だからってだけじゃないのだけど……その」


 う……まさか!?


「付き合ってください!」


 めぐるさんが俺に向かって深く頭を下げて言い放った。

 可愛いめぐるさんからの交際の申し込み……普通だったら男が女の子に告白するのに逆に告白される状況。

 嬉しい気持ちが無い訳じゃない。

 だけど……。


「ごめん……」


 それは俺が受け取って良い物じゃない。

 俺は小さな自己満足の為にみんなに施しをしているに過ぎないんだ。

 みんなを見捨てたくない。

 だけど何か出来る事がある訳でも無い。

 体を張って谷泉達に異議を唱えた訳じゃない。


 だから……めぐるさんの好意を受ける資格は無い。

 バッと顔を上げためぐるさんが今にも泣きそうな顔をして、俺は言葉が出なくなってしまう。

 だけど、絞り出す様に俺は答える。


「今は……考えられないし、俺にはめぐるさんの好意に答える……資格が、無いんだ」


 本当の事を話せずに居る俺は、自己嫌悪に陥る。

 話しても良いと思う心と、下手に話してクラスのみんなにばれる事が揺れ動く。

 俺がクラスから追い出されるならまだ良い。

 だけど俺の秘密を知る人が巻き込まれるのが怖い……。


 めぐるさんもグルだったと知られたら、逃げ場の無いめぐるさんはどうなる?

 転送で逃げる事は出来ても、こんな森の中じゃ長く生きられるか分からない。

 ここは魔物が寄り付かないかもしれないけど、絶対じゃない。


「資格なんて……」

「もしも知ったらめぐるさんは俺を軽蔑する。それくらい、俺は卑劣な奴だ」


 溢れるように自己嫌悪が出てくる。

 自覚はある。

 みんなが生きる事すら必死に中、安全な所から手助けをしたい、なんて言う傲慢。

 日本に逃げずにみんなと一緒に行動した方が良いのだってわかっている。


 だけど少ない食料を……他人の食事を羨ましそうに見ている級友達に俺の分を上げたらそのツケはどうなる?

 帰す事が出来ないんだ。

 贅沢な思いをしている自覚はあるさ。


「だから……みんなが安全な日本に戻れるまで……考えられないし資格も無い」

「それじゃあ……もしも、みんなで日本に帰って、幸成くんが隠している事が判明したら……もう一度、私の話を聞いてくれる?」

「……俺の所業を聞いて、それでも同じ思いでいられるなら……ね。どっちにしてもみんなが日本に……帰ってからしか考えられないよ」


 俺は卑怯者でしかない。

 だけど、こんな状況を利用して女の子と仲良くしようなんて考えるほど、クズじゃない。

 そう思いこまないと、やって行けなさそうだった。


「じゃあ、幸成くんに付き合ってもらえるようにがんばろうかな」


 めぐるさんは両手を上げて背伸びをして、俺に笑いかけた。

 その笑顔が明るくなってきた空と合わせて、とても……眩しく思えた。



 それから二日の間の報告だ。

 グローブを使った結果がこれだ。


 カンガルーのパンチグローブ+10

 付与効果 動体視力向上 風の拳 野生の勘 インスタント拡張能力 カンガルーステップ ボクサー


 既に包丁を越えた武器になっている。

 幸いなのは10が限界で素のメタルタートルの剣の三分の一くらいの攻撃力しかない事だな。

 メタルタートルの剣は強化にも物凄くポイントが掛るので戦えている現在は使用してない。

 ああ、その間に実さんのLvが上昇し、10になった。


「Lvアップしましたー修復だそうです」

「修復? 武具の損耗を修理してくれるとか?」


 元々能力で作った武具は頑丈なんだが、定期的に茂信が研いだりして修復をしている。

 なので今まで問題無く使ってこれたけど……。


「うん。ちょっとやってみるね」


 そう言って、実さんは切れ味が落ち始めた包丁に能力を使用する。


「うーん……時間かかるみたい」

「じゃあしばらく預けるよ。どうせ俺はボクサーだし」

「僻むな僻むな」


 茂信に慰められる。

 お前が専用装備で戦えって指示したんだろ。


「あー……でも幸成くんのお陰で戦いやすいよね?」

「そうだな。飛んでる魔物にはそのグローブが効く」


 まあ……動体視力のお陰で当てやすいし、無尽蔵に放てるし、飛ぶ魔物も戦い辛いのか戦闘が楽になった。

 コレを使えば飛行系の魔物も割と簡単に対処出来る感じだ。

 弓矢とクロスボウは今はいらないな。

 戦闘組に能力持ちがいるけど、どうやって運用してるのだろうか?


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 和解とか、認めさせるとか、主人公の能力で他の人より余裕があったとしても、主人公一行は人間が出来すぎてるよなぁ…普通なら戦闘組へのヘイトが溜まって報復…とまでは行かなくても追放くらいを考えても…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ