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カンガルー

 そういう訳で実さんをあの綺麗な泉に一度案内してから探索を続行する。

 で、茂信が俺が背中に担いでいる念の為用のグローブを背中から持って見つめる。


「なんだ茂信?」

「ん? ああ、このグローブってユニーク装備だろ? 強化出来るのかと思ってさ」

「ああ、能力で見てたのか」


 俺の返答に茂信が頷いた。

 ああ、そんなのがあったな。


「こんなもん強化してどうするんだよ……包丁とかメタルタートルの剣にしろよ……」

「変わり種もチェック……あれ? 能力で強化できるタイプじゃない……?」


 まあ、変わり種だしな。

 回避重視で動く時に使う武具ってイメージだし、そんなもんだろ。


「ちょっと待ってくれよ」


 茂信がポーンと何か小突く。

 すると俺の視界に矢印が……微妙に大きく出現する。


 強化条件……カンガルーのボスにグローブで勝利。

 必要Lv10


「なんか視界に強化条件が出現したんだが……」

「ああ、どうやらそっちの方角に行けば良いみたい……」


 矢印がかなり大きくなってる。

 これって目の前にいるとかじゃないか?

 というかボスなんかと戦って大丈夫なんだろうか。


「どうも目の前にボスがいるっぽいぞ! 早めに逃げるか!?」

「いや、新しい鎧の成果を見るべきじゃないか?」


 茂信……お前、それってワラビーの時の事を考えると俺がボスカンガルーを撲殺しなきゃいけないんだぞ?

 半眼で睨むと視線を逸らされた。

 お前な……。


 なんて思っていると、矢印が……。

 すごい数の足音が聞こえてくる。

 ふわっと何処からかストロベリーワラビーのメダルが浮かび上がる。

 おい、まさかコイツ等を招いたのか? このアイテム!


「闇の中から何かカンガルーっぽい姿が見えるんだけど!」


 ランタンで照らす範囲内には近寄って来ない。

 目を凝らすと魔物名が浮かんで見えた。

 ストローナイトカンガルー。


「数が多くないか?」

「そ、そうだな。こんなのを相手に真面目に戦ってなんていられないだろ」


 そう思ってめぐるさんが撤退をする為に手をかざそうとしたその時。

 ボッと!

 俺達の目の前に武骨な石造りの祭壇の四方に火が灯る。


「ん?」


 遺跡みたいな物が森の中には時々あるけど……ってこれ、石造りのステージか?

 草で編まれたコーナーリング?

 そのコーナーリングの真ん中でストローナイトカンガルーという、やっぱりグローブを付けた魔物が腕を組んで立っている。

 火が灯された所為で回りにいるストローナイトカンガルー達の姿が明らかになった。

 全部で10匹はいるだろう。


 ん? 一匹グローブを付けていないレアなカンガルーを発見。

 まあ今は良いか。

 それがコーナーリングを囲むように座ってこちらを見ている。

 ……いや、意味がわからん。


「えっと……」


 どういう状況だ?

 魔物の生態が理解できない。

 異世界ってよくわからないな。


「なになに? 何が起こってるんですか?」


 実さんがキョロキョロと辺りを見渡し、茂信が考えるように口元に指を当てている。

 めぐるさんは目を細めてカンガルー達を凝視し、萩沢は微妙な笑みを浮かべている。

 萩沢、笑うな。

 これってどういう事だ?


「キュ!」


 コーナーリングにいる大きなカンガルーが俺に拳を向けてから挑発気味に手招きする。

 本当に意味がわからないんだが。


「なあ幸成、これって」

「言うな。無視してコイツ等を全滅させるか撤退を考えろ」

「羽橋を御指名じゃね?」

「なんか幸成くんが挑戦者って感じだね」

「王者決定戦? グローブを持っているからですよ!」


 各々の返答はこれだ。

 そして最後の実さん、何故そこまで強気なんですかね?


「どうする?」


 取り巻きっぽいストローナイトカンガルーはまだ敵意を見せてはいない。

 魔物共もその辺りを察しているかのような体勢だ。


「キュ!」


 ボスのストローナイトカンガルーがコーナーを指差す。

 すると俺の持つグローブに似たグローブがコーナー端に何個も吊るされている。

 コイツ……集めてるって事なのか?

 で、俺に向けてシャドーボクシングを始めやがる。

 代表がグローブを賭けて戦うか、それとも数で挑むか?


「あ!」


 ここで茂信が思い出した様に手を叩く。


「なんだ?」

「谷泉達戦闘組がボスに関して話している時があった」

「今更何があるんだよ」

「なんでもボス魔物って仕留めても光となって消えるだけで、しばらくするとまたその辺りに居るらしい。挙句配下の魔物を何処からか呼びだすそうだ」


 ポップするのか?

 いやいや、謎過ぎるぞその行動!


「どういう理屈かわからねえけど、羽橋のグローブが欲しくて御指名してるって事だな」

「持ってない場合は普通に戦って倒すって事なんだろ」


 わかってるって、あの魔物が何を意図してるかって話を、俺は何が悲しくてここでボクシングをしなきゃいけないかって話な訳で!


「防具は良い物を付けているんだ。挑んでみるのも良いかもしれないぞ」

「あのな……防具着用OKなのか?」

「キュ!」


 頷くな!


「じゃあ逃げる?」

「キューキュキュキュキュー!」


 めぐるさんの言葉を理解しているのかカンガルー共のボスが俺達を指差して笑い始めた。

 うるせぇ笑うな!

 ムッカァアアア……。

 このカンガルーどんだけ煽ってくるんだよ。


「良いだろう、命を賭けるやり取りかは知らないが、アイツをボコボコにしたくなった」

「やってみてくれ幸成。めぐるさん、萩沢に実さん。幸成がピンチになったら助太刀宜しく」

「相手の目の前でピンチになったら不正をすると宣言するとかすげーな」

「なんだかな……ただ、少し面白くて微笑ましく思っちゃいそう」


 めぐるさんの悩みは十分承知だよ。

 だけど、あの俺達を嘲る笑みが気に入らない。

 谷泉が俺を馬鹿にした時の顔と重なるんだよ。

 俺はグローブをはめてステージに乗る。


「それでは幸成くんバーサス、ストローナイトカンガルーのボスさんの戦いを始めまーす」


 ……なんで実さんがジャッジをしてるの?

 ストローナイトカンガルー側にもいるみたいだけど。

 俺の後方、コーナーサイドで茂信達が応援しようとしてるし。


「キュ!」

「レディ……ファイト!」


 カーンと何処からか音が鳴った。

 俺はファイティングポーズを取り、インスタント拡張技能で使えるようになったボクサーのステップでストローナイトカンガルーのボスに近寄る。


「キュウウウ!」


 素早いジャブをグローブで防御……思ったよりも衝撃が無いな。

 鎧を付けているからか?


「はぁ!」


 大ぶりのストレートをストローナイトカンガルーに向かって放つ。

 当たる確信なんて無い。

 一発くらいならどうにか耐えられるだろうと読んでの一撃だ。


「キュ!」


 遅いとばかりにストローナイトカンガルーは頭を傾けてカウンターとばかりにデカイ体をくねらせて俺の脇腹目掛けてボディブローをかましてきやがる。

 バシンと衝撃が鎧を伝って来る。


「ガハ……」


 一瞬、息が止まる。

 やば、息が!

 思い切り呼吸をしてから良い感じに攻撃が入った事をにやけるストローナイトカンガルーのボスの顔面に目掛けてフックをかます。

 思ったよりも浅かったか!

 とでも言うかのように……面倒臭い、ボスは舌打ちをする。


「防具有りで挑ませてそれは無いだろ!」


 大物ぶっているのは良いが、茂信の鎧がこの程度で敗れるはずは無い。


「キュ!」


 ふん、その程度無いも同じ、防御の緩い顔面を狙うまで、お前がワザとかましたストレートの様にな。

 ……なんで魔物が言ってる事が分かるんだよ俺は!

 露骨にグローブを使って手で指示しやがって、察するなってのが無理か!

 手加減してるつもりか!

 良いだろう。やってやろうじゃないか!


 俺もお前の顔面だけ狙うと言葉が通じないので挑発する。

 ニヤッとボスが笑いやがる。

 戦いを楽しんでいるのか?


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― 新着の感想 ―
[一言] 最初は面白かったのですがカンガルーが出てきてからリアリティラインがギャグレベルまで下がったのが残念。ボクシンググローブとか現代に通じるアイテムが何かの伏線の可能性はあるのですが。
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