売買
「すっげーゲームっぽいけど、そりゃすごいな!」
「ああ、今までは新しい武具を作って乗り換えて行くしか無かったけど、強化があれば新しい装備よりも良い装備が出来るかもしれない!」
「問題は素材か?」
「これは俺が後で教えるから必要素材は集めて行くしかないな」
ふむ……今装備している装備をより強く出来るという事か。
Lvが低くて装備出来ない武具とかもあるっぽいし、繋げるには良いかも。
というか茂信はますます鍛冶師っぽい技能を覚えて行くな。
俺も似た様なもんだけどさ。
「で? 萩沢は?」
見ると萩沢が俯いて震えている。
なんだ? とんでもないハズレ能力でも引いたか? 爆弾人間化とか自爆とか?
道具作成だから華々しく散るとかのコンセプトの能力かもしれない。
「う……うおおおおおおおおおおお!」
すごく興奮した様にガッツポーズを萩沢は取ってから俺達を見る。
「その態度は良い物が出たんだな?」
「おう!」
「なんだ? もったいぶってないで教えろよ」
「うんうん!」
めぐるさんも気になっているご様子。
この状況で萩沢が出ると良い能力って何だろうか?
今までの傾向から考えるに道具作成だろ?
コストダウン? それとも戦闘向けの能力とか? 魔力で爆弾生成とか?
「売買だ」
「売買?」
売り買い……何を?
もしかして材料とかを購入出来る様になったのか?
その割には喜び過ぎだな。
「そう、どうやら入手した素材をポイントに変換する事が出来るっぽい!」
「という事は隠すのに困って来た素材とかメタルタートルの素材とかをポイントに変換出来るって事か!」
そりゃあすげぇ!
「しかも手に入れた事のある素材とかをある程度までポイントを使って生成出来る!」
うわーお! 物凄い能力に目覚めやがったな。
ポイントの消費量は上がるが、必要な素材を戦わなくても手に入れられるのは大きいぞ。
「これさえあれば羽橋にもっと良い物を取り寄せてもらえる……日本の贅沢品……うへへ……」
……ダメだこりゃ、良い装備品を作るとかより食い気か。
萩沢らしいな。
「これで茂信くんに良い武具を作ってもらいやすくなったんじゃない?」
「そうだな。ポイントがもっと入りやすくなったのなら、より良い装備が作れる!」
なんとも良い感じに進めて来ているな。
「しかも採取した鉱石を使えばエイトバード辺りの問題もある程度どうにか出来るだろうしな」
「ああ、そろそろ戦闘組でも危険な魔物が出てくる範囲になると思う。十分に注意してくれよ」
「あんまり興奮し過ぎてやり過ぎたらあぶねえもんな。どっちにしても良い物が出た」
「っと、そろそろ実を誘って行かないと怒るんじゃない?」
めぐるさんの言葉に俺達は頷く。
少し怪我してる所があるし……転移を何度も使った影響で魔力もかなり減って来ている。
一旦休憩を取るには良さそうか。
「じゃ、帰るとするか」
「そうだな。実さんの準備が出来るまで、萩沢は要らなくなった素材をポイントに変化させてくれ」
「もちろん、それがしたくてしょうがなかったんだしな!」
という訳で俺達は足早に転送で帰還したのだった。
「夜戦をしてたら腹が減って来たな」
「まあ……普段は寝てる時間だしなぁ」
仮眠を終えた実さんをめぐるさんが起こして準備を始める。
その間に萩沢に要らなくなった素材を茂信が手渡して売買の拡張能力を使ってポイントに変換していく。
俺達の目の前で素材が光となって消えて行くのはなんとも驚きの光景だ。
「これって他人の物とかも売れるのか?」
何かフッと考えが過る。
「ん? じゃあ羽橋、ボーンソードを持って居てくれ」
「ああ」
言われるまま、萩沢が能力を使うのを見ている。
所持している物を売却しますか?
はい/いいえ
「なんか承認項目が視界に浮かんだんだが……」
「じゃあ次の実験だな。坂枝」
「ん?」
茂信が良く使う鉱石を萩沢が指差す。
「あれ? こっちにも承認が浮かんだぞ?」
「どうやらこの能力は所有者だと思われる相手に向かって了承するか浮かぶみたいだ」
なるほど。
つまりさっきまで当たり前のようにポイントに変えていたのは茂信が萩沢に、渡したという事で所有権が移ったと言う事か。
「合計どんくらいのポイントになったんだ?」
「ゴミ類を処分して……8万7千ポイントって所だな」
おお……。
今までだと2時間でみんな揃って4000ポイントくらいだった訳だから、効率が段違いだ。
「メタルタートルの甲羅が高値で変換出来るんだ。羽橋、重点的に狙うべきかもしれないぞ」
「ちなみにどれくらいだ?」
「甲羅1個で五千ポイント以上で売れる。臓物とかも売れるみたいだし、魔物の死骸でも売却可能だ!」
完璧じゃないか!
谷泉達が無駄な事をしている間に俺達はそれ以上の稼ぎが出来るかもしれない。
「戦闘組の連中はポイントは一応個人資産らしいからな。俺に武具を作ってもらうのも個人の使える範囲で作ってるらしい」
多少、谷泉達に献上しないと行けないらしい。
戦闘組も大変だな。
「二本目のメタルタートルの剣を作るか、それとも武具を強化するか、新しい武器を作るか……」
茂信の言葉にみんなして悩んでいると、実さんがめぐるさんと一緒にやってきた。
もちろん、この事は既にめぐるさん経由で説明済みだ。
「聞いたよ。大くん凄いねー」
「おうよ! ポイントの効率がますます良くなっているから、これからどうするか悩み所だな」
「そうだねーどうしようか?」
「とりあえず何か作るにしても強化するにしても素材がな……前衛をしている幸成とめぐるさんの防具を強化してみるか」
茂信の指示で俺とめぐるさんはミニドラゴンの皮で張り替えた鎧を脱いで茂信に手渡す。
「えっと、手元の素材で強化できる回数は……」
工房の火を灯し、茂信が拡張能力を使用する。
どうやらミニドラゴンの皮と鉱石を使って強化するっぽい。
工房内で隠していた素材を沢山持ってきて茂信が手をかざす。
ふわりと光となって鎧が浮かび上がって、茂信の目の前で炎と合わさって丸い膜を作り出す。
「実さん」
「うん」
日本で買ってきたハンマーを実さんに魔力補充もらい、茂信は光の膜を何度も叩き続ける。
その間に、俺達は実さんに回復を施して貰っていた。
やがて光の膜をガツンと茂信は一際強く光を叩くと、弾けるように光となって鎧に吸いこまれて行った。
「よし! 完成、手元の素材で強化出来る所までやっておいたぞ」
二つの鎧をそれぞれ俺とめぐるさんに手渡す。
ミニドラゴンの皮の鎧+5 付与効果 衝撃耐性 風耐性
おお……+5って付いている。
装備してみると今までの2倍くらい防御力が上がっている。
ミニドラゴンの皮の鎧って地味に防御力が高いから、これってかなりガチガチになったんじゃないか?
「ポイントを結構使っちまったけど大分強くなったと思う」
「そうだな……戦闘組の鎧と比べるとどんなもんだ?」
「防御力だけなら同格って所かな。この前作った装備と比べてな。まだ強化出来るから超えるのは時間の問題だ」
「つーことは決戦の日が近づいたって事か?」
「いや……」
茂信が若干悔しげに呟く。
「Lvは元より能力でまだ勝てないと思う。付与効果も不安点が残る。幾ら装備が良くなっても、まだ同格とは言い難いと思う」
「……そうだね。まだ搾取される範囲だと私も思う」
めぐるさんが鎧を着込んで答える。
確かになぁ。
「メタルタートルの素材で鎧とか盾とか作れそう? アレの武具があって使いこなせるなら……」
「難しい。剣の三倍のポイントと素材を要するから」
「探して仕留めるにしても希少だからねぇ……」
「さっきポイントにしちまったぞ!」
「売らなきゃポイントを稼げないんだからしょうがないだろ。目処が立っただけでもいい」
罪悪感に自身の頭を掴んで俯く萩沢を俺が注意する。
「他にも高値で売れそうな素材や鉱石を探して行けば良いだろ。萩沢、お前が稼ぎ頭なんだからがんばってくれ」
「おう! 羽橋! 俺はやるぜ!」
しかし……随分と強力な防具を調達できた気がする。
今まで苦戦していた所が雑魚になる様な気がしてならないぞ。