夜間戦闘準備
「結構経験値美味しかったんじゃないか?」
スカイグリーンミニドラゴンを倒した俺達はそんな感想を漏らした。
確かに結構経験値が入っている。
「そうだね。ロックリザードよりも良い感じだと思う」
「その分強いみたいだけどね。包丁じゃ切るのに引っかかった」
さすがにドラゴン相手に包丁じゃ太刀打ちできないか?
「能力的な差かもしれないよ? 本当はもう少しLvが必要な相手かもしれないし」
「そうだなぁ……」
能力的な面では確かに包丁はかなり良い方の装備品だとは思う。
切れ味が悪かったって訳じゃないし、まだ通じる。
「むしろミニドラゴンとはいえ、容易く切れるこの剣の方がおかしいんだよ」
「まあね。どっちにしてもまだ行けそうだな」
「うん。とはいえ、この辺りでもう少しLvを上げるのが良いかもよ?」
「そうだな。良い素材が手に入ったし……今装備している物の皮を張りかえるだけでどうにかなると思う」
リザードの皮からミニドラゴンの皮か……。
仮にこれがゲームなら装備が一新出来そうではある。
「とはいえ、劇的に防御力が上がるかわからないけどな」
「キリも良いし、この辺りで一旦帰るか?」
「うん。時間もギリギリだし、帰ろう」
「そうだな」
という訳で俺達は一度帰還し、機会を待つ事になった。
次は萩沢を連れての狩りだな。
「時に大胆に、時に慎重に行くのが良いと思う。強めの魔物が出てきたからあの辺りでLvを上げる方が良い」
「了解……とはいえ」
茂信の工房から帰って来た戦闘組の様子を見る。
「ぶっちゃけ戦闘組ってどれくらいの強さなんだ?」
「んー……手探りの探索なのと装備の更新とかで手間取っていてトップの谷泉がLv17とか聞いた」
あれ? 思ったよりも高くないな。
だが、あくまで思ったよりは、だ。
少なくとも今の段階で追いつくのは自由に動ける時間的な問題もあって心もとない。
この際、茂信達に俺単独なら転移出来る事を話すか?
いや、日本に帰れる事じゃなくてあくまでも別の場所に移動できるって話。
最初の頃、小野と実験しているから知っているかもしれないが。
というかそれはめぐるさんも変わらないか。
中途半端に監視体制があるのが問題なんだよなぁ。
「ポイントで暗視ゴーグルでも買うか? 一回の狩りが二時間、というのが障害になっている気がする」
「確かに……」
……とりあえず差を埋める為にも短時間で稼げる方法を模索したい。
今は二時間毎に結界を維持する為、実さんが拠点に戻らないといけない。
しかも怪しまれない為に茂信もある程度、戦闘組の応答をしなければならないからな。
まあ、タイミングが良ければ一日三回位狩りに行ける。
しかし谷泉達は一日中Lv上げをしているはずなんだよな。
その割にLvが低い。
とは言っても、一日の全てを戦っている訳じゃないだろう。
安全第一とか? それともさっきの話と同じく、装備が揃っていないのか。
まあ5人と戦闘組全員とでは効率に違いが出るか。
「暗視ゴーグルを取り寄せるのにどれくらい掛る? ポイントも含めてだ」
「んー……」
おもちゃ屋で売ってるとか聞いたから早めに取り寄せる事は出来るだろうが、クロスボウの購入費を考えると馬鹿に出来ない。
人数分揃えるとなると今の俺達の手元の金がな……。
「正直、厳しいな。人数分を揃えるよりも明かりを用意した方が良いかもしれない」
俺の返答に茂信が肩を落とす。
今の俺達からすると少し難しい問題なのは確実だな。
「萩沢がなんか夜間戦闘出来る道具とか作れればな」
「あったらそういう話をしてる」
「懐中電灯でも取り寄せるか?」
「この際、高めかもしれないがキャンプ用のランタンはどうだ? 三人が持っていれば多少は明るくなるだろ」
ふむ……悪い手じゃ無い。そっちならどうにかなる。
ああいうのってどこで売ってるんだろう?
確かライトで照らす、明るいのがあるんだよな。
日本で調べてみないと。
「夜間に危険な魔物がーって心配があるが、試すのは手だな」
今回の出撃で稼いだポイントは三千ポイント。
変換すれば三千円だ。
安物を使えば、次の出撃で二個分くらいのポイントにはなるだろう。
いや……メタルタートルの剣を上手く運用すればもっと行けるかもしれない。
「プレイヤー組が気付かないくらい距離が稼げたと思うか?」
「怪しい所だな」
と話している所でめぐるさんが工房の扉を開けてやってきた。
「幸成くん、転送位置に魔物が来ました。旗を立てた所です」
そう、今は遠隔で魔物を仕留められるかの実験をしている所だ。
俺はめぐるさんに言われた旗のあった場所をイメージし、魔物の死骸を置いておいたのだ。
魔物がやってきたらめぐるさんが報告、それと同時に俺がイメージでその辺りに物を飛ばして殺せるかだ。
「了解」
俺は用意しておいた木の板を横にして転移を指示する。
出来る限り範囲が多めにしてっと。
「食事が終わるのにどれくらい掛りそう?」
「えっと、見た所犬みたいな魔物が死骸を漁っています。時間は大丈夫だと思います」
「OK、じゃあ大雑把に飛ばして見ますか!」
5分後……木の板を転移させる。
フッと俺の目の前から木の板が消えた。
「命中しました! 三匹中二匹に当たってもがきながら……倒れましたね」
遠隔で仕留めたのに経験値が入る。
結構やり方次第でここに居ても戦えそうだな。
「撒き餌戦法は成功か?」
「ああ、茂信達に経験値は入ったか?」
茂信達が確認する。
そして首を横に振られた。
「どうやら距離があり過ぎるとパーティーじゃ経験値が入らないみたいだな」
そりゃそうだよな。
それなら谷泉達も揃ってパーティー組んで魔物を乱獲狩りしてるだろ。
あっという間にメキメキ成長して行くって。
「良い手だと思ったんだけどなぁ……」
「幸成くんの経験値は稼げるから良いんじゃないかな? 取り寄せる事は出来る?」
「やってみる」
で、意識して取り寄せようとしたのだけど……上手くいかないな。
どういう認識なのかは知らないが、一度は実際に現地に行かないといけないみたいだ。
「やっぱ回収に行かないとダメか」
「取りに行くくらいならやる?」
「直ぐに戻って来れるから良いか」
「じゃあ幸成とめぐるさんはその案で空いた時間を埋めておいてくれないか?」
「了解」
「とはいえ私の方は再使用の時間が必要だからすぐには戻ってこれないよ?」
「その間に魔物を捌いて置くとかで良いんじゃない?」
俺の返答にめぐるさんはしばし考えた後、頷く。
「わかったわ。じゃあ幸成くん、行こう」
で、めぐるさんは転送の能力を作動させた。
「じゃ行ってくる」
で、俺達はさっそく転送先の罠のある場所に到着した。
「うわー……グロ……」
ホリゾンウルフと言う魔物が板に分断されて死んでいた。
ウルフの上半分ってのが尚グロイ。
もう少し角度を調整すべきだろうか?
「じゃあ解体しておく?」
「そうだね。食用って訳にもいかないし、持ち帰れる荷物は少ない方が良いでしょ」
「幸成くんが飛ばす?」
「この程度なら持って帰った方が良いんじゃない? 後は次の魔物が出てくるか警戒を……」
という所で何かが接近してくる事に気付いた。
二人で各々武器を取りだす。
現れたのはミニドラゴンが一匹……。
「一匹なら行ける!」
俺が駆け出し、僅かにめぐるさんが後ろを取る。
「うん! むしろ――」
めぐるさんがスナップを効かせ、俺に意識が向いていたミニドラゴン目掛けてメタルタートルの剣を投げつける。
「ガ――」
俺の一撃を避けようとしていたミニドラゴンが避けきれずに腹に命中して地に落ちた。
「トドメだ」
メタルタートルの剣を引き抜いて真横に切る。
それだけでミニドラゴンは絶命した。
「二人でも勝てたね」
「うん。良い感じだ」
茂信以外と息の合ったコンビネーションが出来るなんて思わなかった。
めぐるさんって呼吸を合わせるのが上手なのかな?
「しかし……」
メタルタートルの剣を握って刀身を確認する。
先ほど、ミニドラゴンにトドメを刺した時の感覚を思い出す。
切るって感じじゃない。素振りってくらい切れ味が良過ぎる。
切った感じすらしない。
こりゃあ、めぐるさんが驚くはずだ。
ステータスを確認すると……うわ、突き抜けてる!
包丁なんて目じゃない。
「凄い切れ味だよね」
「ああ……これなら何処まで行けるかわからないな」
「うん。あまりにも良過ぎるから危険な相手の区別が付かなそうで怖い」
確かに……十分注意して行こう。