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番外編 ラウンド2

 めぐるさん達が迎えに来てくれて、嬉しい気持ちが溢れて来る。

 決意を元に過去を変え、過去の異世界で一生を過ごすと思って生活していたのに、めぐるさん達が未来から来てくれたんだ。

 めぐるさんの差し出す手を掴んで俺は……元の時代に戻る。

 訳なのだけど――


「キュウウウウ!」


 その前にクマ子と実さんの勝負が先になっている様だ。

 チャンピオンベルトの特殊効果、1VS1でクマ子と実さんがボクシングの試合をしている。


 実さんが常時青い残像を展開し、クマ子を圧倒している。

 なんで実さんがグローブを所持しているのか不思議でしょうがないけど……。

 一応、実さんは自身の治療も出来ているのか戦闘中に怪我が治って行く。

 クマ子も休憩時間中に自身の治療は出来るけど、かなり不利だ。


 なんて思っていたら実さんの素早いフックがクマ子のボディに入り、そのままペンギン姿のクマ子はノックダウンしてしまった。

 ジャッジとばかりにカウントが取られて行き……クマ子は起き上がれずにカンカンカンと試合終了の音が鳴り響く。

 この鐘の音は何処から聞こえるんだろうと毎回思う。


「私の勝利ねクマ子ちゃん!」


 片手をあげて吠える実さんがクマ子に向けて告げる。

 ユラァっと実さんの背後にもう一匹、クマが出現した。

 だ、誰だそいつ?


「ガウガウ」

「嘆かわしいわ、クマ子ちゃん。まさかここまでハートを鈍らせていたなんて……」

「キュウウ……」


 ビシッと実さんがようやく置き上がったクマ子にグローブを向ける。

 するとクマ子の周りに謎の静電気が発生した。

 なんだ?

 何が起こるんだ?

 めぐるさんの方を見ると、俺と同じく唖然としている。

 ルシアは……目を細めているな。


「そんなクマ子ちゃんには少し反省してもらいましょう」

「キュウウウウ――」


 クマ子が何か絶句した様に両手を頬に合わせ……ボフンと姿が変わる。

 ……そこにいたのは……セイウチ姿のクマ子だった。

 実さんの背後に現れたクマもセイウチ姿に……って、ナイトウォールラスのボスじゃねえか!


 あのセイウチはどんな経緯で実さんと一緒にいるんだ?

 クマになっていたけど……。

 後で何があったのか聞かないといけないな。


「ヴォフウウウウウウウウウウウウ!」


 あ、クマ子が絶叫している。

 やがてがっくりと肩を落としたようにクマ子が倒れ伏す。

 まあ、あの姿って陸上じゃ動き辛いもんな。


「すげー、あんな事が起こるんだな」

「ユニークウェポンモンスターの生態って謎が多いな」


 萩沢と茂信がそんな感想を述べている。

 俺も驚きで開いた口が塞がらない。

 まあ……仮にもボスを連れているのだからそんな呪い染みた事が出来るのかもしれないけどさ。

 なんで実さんがボスをテイミングしているのかは謎だ。


「ヴォフウウウ」


 実さんが連れているボスが俺に向かって親しげに手を振っている。

 あー、はい。

 そういえば戦うって約束していたもんな。


「クマ子もだらしがないのう。まあ、鍛錬が足りなかったのは事実じゃし、この敗北を糧に更なる精進に励めば良いのじゃ」

「それを貴方が言うのかしら?」


 めぐるさんに抱きついてわさわさとセクハラ紛いな事をしているルシアが言っても何の説得力もないのは俺も同意する。

 最近妙にボディタッチが多いし、部屋の天井に引っ付いて降ってくる事もあった。

 正直な話、世界の為に戦う聖剣然とした雰囲気はほとんどない。


「貴方もダメですよ、聖剣さん」

「ぐぬ……お前はお呼びじゃないのじゃ!」

「そうはいきません」


 どう言う経緯かは少し聞いたけど、聡美さんがめぐるさんの手を握ってルシアと睨みあいを始めている。


「ヴォウー」


 ガックリと肩を落としていたクマ子が立ち上がり、敗北を素直に受け入れて実さんと握手を交わす。

 良い試合だったって雰囲気だ。

 まあ、最近クマ子はルシアに触発されて押しが強かったし、良い方向に向かってくれる事を祈るほかない。


「幸成君」


 試合を終えた実さんが俺の方へとやってくる。

 な、なんだ? 今度は俺への説教か?


「クマ子ちゃんのお世話をちゃんとしなきゃダメじゃないですか」

「いや、俺はちゃんとしてたって、クマ子が勝手にしてただけで……と言うか実さんもグローブを手に入れたんだね」

「うん。クマ子ちゃんともっと仲良くなるにはライバルになった方が良いと思ったの」


 ああ、そうですか……誰だ? 実さんにそんな事を囁いたのは?

 背後にいるセイウチのボスに目を向けると違うと首を振っている。

 めぐるさんの方を見ても若干呆れ気味に肩を上げるだけ。

 実さん自身が導き出した結論か……。

 まあ、仲が良かったのは事実だしなぁ。


 で、実さんはギュッとグローブをはめた手を握りしめて俺に向かって突き出す。

 速い……けど、避けられない程じゃない。

 紙一重で交わしカウンターの拳を実さんの目の前で止める。


「うん! 幸成君はしっかりと修練してるんだね!」


 なんか実さんが満足した様な満面の笑みを浮かべてくる。

 ルシアやクマ子の猛攻を避けるのに必要だっただけで……。

 まあ良いか。


「ところで幸成君。物は相談なんだけど……クマ子ちゃんが良ければ、ボスさんとクマ子ちゃんと交換移籍しない?」

「実、その話、さっそくするの?」

「徹底してるぜ、実ちゃん!」

「ニャー!」


 交換移籍……たぶん、クマ子とそのボスをトレードしてくれないかって事なんだろうけど。

 さすがにそれはまずいだろ。

 クマ子も嫌だろうし……。

 なんて思っているとさすがにクマ子も嫌らしく、必死に首を振っている。


「そう……クマ子ちゃんが嫌ならしょうがないわ」

「ヴォフヴォフ!」

「だけどクマ子ちゃん、私のジムに所属する事も、強くなる可能性として必要になるかもしれないと頭に入れておいて」


 ジム……なんだろう。実さんが何か遠い所へ行ってしまった様な錯覚を覚える。

 クラス転移前はクラスでも美少女でみんなに好感をもたれていたのに今では女子ボクサー……日本に帰ったらどうなるか怖い所があり過ぎる。

 出来れば実さんは看護師とかになってください。


「にしてもクマ子の奴、幸成へアピールするためにペンギン姿で居て、それを剥奪されたってのに気にしてねーみたいだな」


 萩沢がそこで余計な事を呟く。

 ま、不味い!


「そういえば……」

「負けは負けと素直に認めて反省してるって事なんじゃないの? 私は好きよ。その割り切り方」


 めぐるさんもクマ子に向けて良い印象を持っているみたい。

 すまないめぐるさん、クマ子の場合はそういう精神じゃないんだ。


「実に勝てばその変化も解除されるでしょうし」

「そうね……クマ子ちゃんが鈍った腕を直してくれたら私も大賛成!」


 一応、実さんもクマ子に関しては前向きなんですね。


「とても熱い試合になりそうですね。是非見せてください」


 聡美さんも賛同してる。

 意味分かってるのかな?


「実さんはクマ子をどうしたいのかな? 俺から奪いたい感じ?」

「え? うーん……よくわかんないかなー幸成君と一緒に居るクマ子ちゃんも好きだし、私を見てくれるクマ子ちゃんも好き」

「百合カップル!」


 萩沢、黙れ!

 ミケとホモカップルになっていろ!


「ウホホホ」

「美樹! 落ちつけ! そう言うのは帰ってからにしろ!」


 黒本さんがスケッチブックを広げて描き始め、依藤が止める。

 この二人は相変わらずなのか。

 うれしい様な嫌な様な、微妙な気分だ。


「フフフ……クマ子よ。めぐるが来たからにはユキナリのハートをゲットするハードルは上がったのじゃ。ペンギン姿を失っては出来る事が減るぞ? 早く取り戻す事じゃな」

「貴方は何を言っているのかしら?」


 ルシアはまだめぐるさんに引っ付いている。

 いい加減、その恋愛脳から覚めて欲しいのはルシア、お前の方だ。


「ヴォフヴォフ!」


 あ、クマ子がルシアの挑発を受けて鳴く。

 それから余裕を見せるかの様な目でルシアを見返して姿を変えようとしている。

 ま、まずい!


「待てクマ子! そこは人化するだけで抑えろ!」

「ヴォフー」

「幸成くん?」

「クマ子、わかったな? 俺はお前の為を思って言っているんだ。今はそのままでいるんだ」

「羽橋! 何を隠してやがる!」

「別に隠してはいない!」


 余計な騒ぎを起こしたくないだけだ!

 やがてクマ子は俺の忠告を受け入れて……いや、受け入れずにもう一つの姿に変身しようとしている!

 一瞬で姿を変えたクマ子は胸を張った。


「キュウ!」


 そう、既にクマ子が……クマですらない事をみんなに晒してしまった。

 其処に現れたのはレッサーパンダ姿のクマ子だった。


「キュウ!」


 どうだ! とばかりにクマ子は胸を張り俺の方へ駆け寄ってくる。

 俺は額に手を当て、溜め息を吐く。

 ……俺は止めたからな?


 ちなみに身長はクマ子のままな訳で大きなレッサーパンダって感じだ。

 みんな唖然とした表情でクマ子を凝視している。

 だから隠したかったんだよ。


「ラ……ラウンド2! ファイトッ!」


 萩沢がクマ子を凝視しながら叫んだ。

 俺は実さんの方を見る。

 また青白いオーラを漂わせてませんか?

 つーかクマ子、今そんな姿を見せたら没収される事くらい想像出来ただろ!


「幸成……どうしてそんな真似を……」

「俺じゃねえよ! クマ子が執拗に欲しがったんだよ!」


 さすがにずっと森の中に居た訳ではなく、過去の時代を旅している最中にレッサーパンダのボスを倒した時、クマ子はクマ姿を破棄して手に入れた。

 かなり強情で俺に対して欲しい欲しいと駄々を捏ねたっけな。

 ルシアの話では俺の好きな動物がレッサーパンダとペンギンだから成りたいと願ったそうだ。

 やむなく許可した訳で……。


 実さんの方を見ると……青白いオーラを漂わせて、目に影が掛っていて怖い。

 が、青白いオーラが四散してクマ子に背を向ける。


「日を跨がずの連続試合はボクサーとしてのプライドが許さないから、今はやめましょう」


 え? ボクサーとしての矜持?


「どんな理屈なの実?」


 よかった。めぐるさんも俺と同じ感想を持っている!

 俺だけじゃないんだ。

 予想とは異なる反応に驚いていると実さんはクマ子の方を向く。


「でもクマ子ちゃん、わかってるわよね。次の試合で私に負けたら今度はその姿を変えてもらうわ!」

「キュウ!」


 クマ子も負けないとばかりに拳を突き出して応じる。

 何か背後に炎を纏って見える、熱い友情にも見えなくは無いのだけど……何か違う気がする。

 きっと実さんのパワーはペンギン姿で戦った時よりも強い気配がする。


「何が何でもクマ子ちゃんがクマ子ちゃんである姿を私はねじ込んでみせる!」

「実、落ちつきなさい!」

「これも愛ですね」


 聡美さん、何かうっとりとしていますけど、どんな感覚なんですか?

 そんなキャラだったの?


「なのじゃ!」


 ルシア……クマ子が色ボケたのはお前の所為じゃないかと思うのだが?


「羽橋を巡っての攻防……羨ましいぞチクチョー!」

「フシャー!」

「萩沢、お前は黙っていろ!」


 お前はミケと遊んでろ!


「ネタが! ネタが溢れて止まらないいわ! ああ……」

「それは危険なネタだ! まずは整理するんだ美樹!」


 依藤は相変わらず黒本さんに振りまわされているんだな。

 見た感じだと……萩沢とミケ関連か?

 いや、百合の妄想をしてるかもしれない。

 ……今まで通り出来れば見ない様にしよう。


「ますます混乱していくな幸成」

「ああ……相談に乗ってくれるのはお前だけだ親友。あそこの腐の住人に餌をやらない程度の友情が今は心地いい」

「相変わらず苦労しているんだな」

「急に色々と増えた気がするけどな」


 元の時代に戻ったら、これが日常になるのかと思うと頭を抱えたくなる。

 ルシアとクマ子の突撃に困っていて、みんなとの日々が恋しかったけど、いざ会えるともっと大変になった様な気がする。


「あはは……」


 めぐるさんの苦笑いが止まらないぞ。

 さっきの再会の感動が吹き飛んでしまった様な気さえして来る。


「キュウウウウ!」


 クマ子が実さんに再戦する為にやる気を出す声を上げる。

 そんな騒がしい状態のまま、俺はめぐるさん達が乗ってきた、あの造形のタイムマシンに乗って……過去の世界から帰還を果たしたのだった。


 ちなみにクマ子はその後、猛烈な修業をして昔の勘を取り戻し、前よりも強くなって実さんに再戦したのだけど……クマのクマ子への想いで限界突破していた実さんに手も足も出ずに敗北したのは言うまでもない結果だ。

 クマ化した後だと、実さんには勝てたみたいだけどさ。

 セイウチ姿は解除されてペンギンは返してもらえた。

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― 新着の感想 ―
[一言] 沢山でてきた認識改変は、結局回収無しなのかな?
[気になる点] 告白の返事しないで終わりなのかな?
[一言] 最近読み終わりました。 さすが色々な作品を出した方らしく、内容も濃くて楽しめましたがこの作品、ここで終わるのは少々もったいない気がします。 いつかプロットがある程度定まったら第三章を始められ…
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