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生まれ変わっても

 加害者の会は穴の中に消えていった。

 やがて……穴は学校まで飲み込み始める。


「めぐるちゃん、これってブラックホールじゃねえの?」

「違うわよ。要である加害者の会が消えた所為ね。あの人達と儀式が作った物なんだから」


 まあ私が呼び出した冥府転送の穴は一見すると全てを吸い込んでいる様に見えなくもない。

 けど……あるべき物をあるべき場所へ送る、という意味がある。

 生がある者が吸い込まれたりはしない。

 死霊を冥府に送っただけ。


「ここもすぐに消滅するわ。急いで逃げましょう!」

「わかった!」


 既に戦いの余波で天井が抜け、景色は随分と良くなっていた。

 空間の繋がりも正常化しつつある。

 今ならタイムマシンで脱出する事が出来るはず。

 実が倉庫からタイムマシンを出してみんなで急いで乗り込んで脱出を図る。

 崩壊して行く学校に背を向けて、タイムマシンは急速に浮かび上がって素早く発進した。


 振り返ると学校は形を崩し、跡形も無くなっている。

 残っているのは……私の作り出した穴が大きく膨張しているだけね。

 一応、縮小して行っているわ。


 という所で聡美さん達の共鳴の効果が切れて私のLvが元に戻った。

 使えた技能も全て元に戻ってしまったわね。

 時空転送とか事前に使っておきたかった……という訳にもいかないわね。


 発動コストがあのLvでも足りないのはわかっていた。

 なんて言うのかしら、何でも分かる凄い万能感があったわ。

 今にして思うと何でも出来そうな感覚、アレは……危ない感覚だと思う。

 あんな感覚で固定されてしまったら第二の小野くんね。


「とりあえず……俺達の勝利だよな!」


 運転席に座っている萩沢くんが宣言する。


「そうね。私達、いえ……みんなががんばったから勝利する事が出来たのよ」

「おっしゃーー!」

「やったね!」

「これで終わり……だよな?」


 茂信くんが辺りを確認しながら呟く。

 確かに、気が抜けないわ。


「なんて言うか、凄く気が抜けない。警戒は解けないな」

「そうね。次は何が起こるのやら……」

「これでやっと、過去へ向かう事が出来ます……けど……」


 聡美さんがそう言いながらもう一人の半透明の聡美さんに目を向ける。

 両手を合わせ、祈る様に聡美さんの共鳴に合わせていた蟲毒の聡美さんだ。

 蟲毒の聡美さんは目を開き、私達を見て微笑む。


「ありがとうございました……これでやっと、召喚の儀式は元より、第二の私や犠牲者が出る未来は駆逐されました」

「本当に?」

「はい。あの吹き溜まりに残っていた召喚儀式の残滓は……ここにしかありません」


 聡美さんは自らの胸に手を当てて答える。


「後は……私がめぐるさんの作り出した、後少しで消える転送に飛び込めば召喚儀式に出来る事はもうないでしょう」

「そんな! もう一人の聡美ちゃんも小野共と同じ所へ行くってのか!?」

「それが私の罪滅ぼしですから……」


 彼女は今まで私達の冒険の原因であるのは聡美さんから聞いていたし、私達自身も答えを出している。

 みんな、彼女を許し、力を貸してくれた。

 だからこそ、加害者の会に勝てたと言うに……それでも彼女は自身の罪を許す事が出来ない。


「せめて幸成にもう一度会ってからじゃダメなのか?」


 茂信くんの言葉に蟲毒の聡美さんは苦笑を浮かべながら頷く。


「この空間から出たらどうなるかわかりません。あまり猶予は無いと……思います。何だかんだ言って、私が彼等の核の様な物なので」

「そう……か……」

「後は……私の願いに応えてくれた全ての人々に感謝と礼を……蟲毒の力を全て振り絞って送ります。こうしないと召喚儀式がこの結末を変えかねません」


 そう蟲毒の聡美さんが言って両手を合わせて祈ると……私達の視界に文字が浮かび上がる。


 協力してくれた人々全てに感謝を……拡張能力、時空認識耐性(中)を習得!


「おお! これってもう時間が変わって認識が変わっても俺達は変化を受け付けないって事で良いんだよな!」


 凄いわね。

 この耐性が本当に想定していた物であるのなら聡美さんと共鳴しなくても変化を認識できる。


「はい。ある程度は……これから歩む皆さんの未来が幸福である事を節に願っています」

「こりゃあ儲け物だー! がんばった甲斐があるぜー!」

「一番がんばったのはめぐるさんだけどな」


 茂信くんが萩沢くんに注意する。


「そうだねーめぐると聡美ちゃんが一番の立役者だと思うよー私は回復をしてただけだし」


 実がシャドーボクシングを始める。

 まあ、あの状況だと前に出られるのが一番危なかったものね。

 でも、みんなの協力があったから私達は立っていられた。

 一人で戦える程、私は強い存在じゃない。


 私は……ずっしりと重くなった幸成くんの剣を握り締める。

 貴方のお陰で私は助かったよ。

 絶対に再会して、後ろ向きになってるっていう所を治してあげたい。

 そう気持ちを新たにすると、剣が光った様な気がした。


「これでとりあえずその召喚儀式って言うのは潰しても大丈夫そうね」

「つーか……想定されてたんじゃね? タイムマシンのデータ内にそれっぽい表示があるぜ。過去の召喚儀式の書き換えって奴がある。これを羽橋のいる時代に行って行えば万事解決だろ」

「どこまで準備万端なんだよ」

「ニャー」

「しらねーよ! 未来人にでも聞いてくれ」


 みんなして楽しげな声を上げている。


「それでは……」


 蟲毒の聡美さんが私達に向かって手を振る。

 そして……共鳴の聡美さんへと視線を交わした。


「あの吹き溜まりは辛く長い時間を過ごした場所だったけど、幸成くんに助けられるまでよりも遥かに耐えられる場所だった……」

「そうでしょうね……あの決意を胸に無数の時間内で力を貸してくれた人達との対話をしていたら……あの地獄よりも待てる……全ての時間、全ての時に来た並行世界の優しいクラスメイトに世界を守る因子が宿っていました。あの想いが今を作ってくれているんです」

「貴方が心の底から羨ましい。どうか、私の分まで、私の意志を……受け継いで」


 すると共鳴の聡美さんは首を横に振る。


「受け継ぐんじゃないです。生まれ変わっても、みんなと、めぐるさんや幸成くんに会いに行くんです。それくらいの意志を、決意を胸に行って来てください。蟲毒の力をすべて吐き出す勢いで行けば出来なくはないはずです」


 と、共鳴の聡美さんは蟲毒の聡美さんに手を差し出し、握手する。

 蟲毒の聡美さんは差し出した手に恐る恐ると言った様子で手を伸ばし、何かを理解した様に頷く。


「そう……ね。うん。絶対に、会いに行くから……その時まで……またね」


 握手を終えた聡美さん達、蟲毒の聡美さんは笑顔で、僅かに涙を流しながらドンドン小さくなって行く冥府転送の穴へと向かって進んで行き……見えなくなった。

 穴は閉じて消えた……。

 私達はタイムマシンの上に乗ってその姿をずっと見届けていた。


「彼女に罪なんて……本当に無いと思えるよ」


 茂信くんがぽつりと呟いた。


「罪の意識に苛まれながら生きて……あんな場所に捕えられて、更に地獄に落ちてまで苦しんで……その罪が許されたって、幸せなのか?」


 みんな黙り込んでいた。

 彼女の決意を無下には出来ない。

 行った事は重いし許されない事かもしれないけど、それは全て利用されていたに過ぎない。

 全ての原因はあの異世界の大活性による覇権争い……私達が行わなければいけないのはきっと、遥か未来の果てまでそんな争いの火種を消し続ける事なのでしょうね。


「……幸せになれますよ。自分で選んだ道ですから」


 聡美さんが振り返ってみんなに向けて強い意志を宿した瞳で答えた。


「不幸そうに見えても幸せな人がいたり、幸せそうな人が不幸である事もあります」

「……」

「自分で選んだ道ならどんなに辛い道でも、がんばって幸せになれるんです」

「そっか……じゃあいつまでもここにいる訳にもいかねーし、さっさと羽橋の所へ行こうぜ!」

「ああ」

「頼んだぞ、萩沢」

「任せとけ!」

「私達はいろんな私達の協力の元に、羽橋君を迎えに行くって事を忘れちゃダメなのね」


 と、タイムマシンは時間の流れを逆行して進んで行く。


「幸成に今までの事を全部教えてやらないとな」

「羽橋の事だから文句言うんじゃね? 俺が必死にみんなを元の世界に帰したのに勝手な事をするなとか」

「ニャー」

「どうだろうな。羽橋の事だから許してくれるだろうけど」

「クマ子ちゃん、後少しで逢えるね」

「ガウー」


 みんな、興奮が冷めやらないと言った様子で幸成くん達と再会する事を話し合っている。

 私は、蟲毒の聡美さんが向かった方角を見つめ続ける。


 幸成くんが小野くんを倒した時に思っていた感情は、きっとこんな思いだったのでしょうね。

 もっと上手く行動すれば、彼女を救う事が出来たんじゃないかってタラレバが無数に浮かんでくる。


 どうしたら彼女を救えたんだろう……。

 タイムマシンを使えば、救えるのかしら?

 何故か……出来ない様な気がするわ。

 そこに聡美さんが私の顔を覗き込む様に上目使いで顔を傾けて見てくる。


「どうにかしたいと思っていますか? その顔、誰かの力に成りたい時の並行世界のめぐるさんと同じ顔ですよ」

「……ええ」


 彼女と深く繋がっていて、記憶を継承していた聡美さんは私の事や幸成くんの事を詳しく知っている。

 お見通しって事は、彼女の中に、あの彼女の記憶も受け継がれているという事なのよね。

 ……まるでここで妥協しろと突き付けられた様な気がする。

 だけど……聡美さんは苦笑いをして答える。


「大丈夫ですよ」

「どうしてそんな、気楽に答えられるの? まだ何処かで、意識が繋がっているから?」


 すると聡美さんは思わせぶりな顔で人差し指を口元に当てて微笑む。


「違いますよ。あの戦いの時、私は思い出しました、と答えましたよね?」


 言われて思い出す。

 確かに、聡美さんはあの時、思い出したと答えた。

 それは蟲毒の聡美さんが発したメッセージを取り溢す事なく全てを掬いとったと言う意味で言ったのだと思ったんだけど……?


「実はですね……どうやら皆さんのいた並行世界の日本に浮川聡美という人間はいなかったみたいなんです」

「え?」

「死産だったのか、両親が結婚しなかったのか、家系が何処かで途絶していたのか、原因はわかりませんけどね」


 聡美さんは『私が来た事であった事になった』と続けた。


「じゃあ……貴方は?」


 そうなると目の前にいる浮川聡美さんの正体がまるでわからない存在に感じてしまう。

 戦慄する訳ではない。

 敵意や嫌悪を向けられる仲じゃないし、むしろ良い方に考えてしまう。

 けれど、それならば貴方は一体どこから現れたと言うの?


「蟲毒の私はあの後、冥府、地獄……煉獄……まあそういう場所に言って罪を償う為にがんばります。その最中、自分が何者であったのかなんて大半は忘れてしまいますけど、心に刻んだ想いがありますから、耐え切れるんですよ」

「はあ……」

「……その果てに念願かなって転生するんです……私は、また私に。記憶の大半は失われて思い出す事もなく、とある時代、とある世界の日本に潜り込んで、認識を改変し受肉の許可を得て……思い出すのに半年以上掛ってしまうんですけどね」


 それじゃあまるで……。


「はい。私は、蟲毒の浮川聡美の未来の姿だったみたいです。だから新たに共鳴なんて力を持って時間と空間の認識耐性を持っていたんでしょうね。もちろん、過去の私からの干渉を受ける役目も持っていました」


 聡美さんは私の手を握って小首を傾げる。


「約束は絶対に果たします。その為ならどんな苦行だって耐えて見せました。加害者の会、なんて呼ばれていた人達は耐えきれなかったみたいですけど、私には冥府が匙を投げましたから」

「大丈夫なの?」

「ええ、しっかりと冥府から追放処分です。私は……幸成くんとめぐるさんと再会して、しっかりと幸せになるまで諦めません。あの終わりの無い憎しみと苦しみからしたら冥府や地獄、煉獄の炎なんて何でもなかったです」


 彼女の我はそこまで強くは無い。

 けど、それでも譲らない想いが奇跡を産んだ……と言う事なのかもしれないわ。

 不安に思う私に都合の良い話をしているのかもしれない。

 だけど、私は、そんな彼女の言葉を信じる事にした。


「それに……意外かもしれませんが、冥府という場所は度量の大きい、思ったよりも優しい場所みたいです。だって私が今、ここにいるんですから」

「そう、なんだ」


 死んだ後に行く世界。

 そこがどんな場所なのか、私達に知る由もない。

 けれど、聡美さんがそう言えるなら、きっと優しい場所なんでしょうね。


「飛山めぐるさん」

「何? 改まって」

「絶対に幸せになってくださいね」

「もちろんよ。まずはその第一歩を踏む為にこうして過去へ向かっているんだから」

「わかっています。確認ですよ」


 聡美さんは満面の笑顔で言い切った。


「……聡美さん。貴方も、幸成くんの事が好きなのかしら?」


 もしも幸成くんに助けられた聡美さんが彼女なのだとしたら、無限に等しい年月を、この瞬間を生きる為に生きてきたと言う事になる。


「はい! 大好きですよ」

「じゃあ……ライバルって事なのね?」


 これだけ壮大な旅路を乗り越えたからには幸成くんを取り合う相手として、あまりにも壮大な相手ね。


「んー……」


 聡美さんは黒本さんにチラッと視線を向けている。

 気付かれない様に私の耳元でそっと囁く。


「ライバルであると同時に、幸成くんもライバルですよ。私は……貴方も大好きですから。黒本さんが反応しかねないくらいに」


 背筋にヒヤっとした感覚が通り過ぎた。

 もしかして、私と幸成くんの両方と付き合いたいとか言う程好きと?

 私は引き攣った笑みをする事しか出来そうにないわ。


「ニャー」


 萩沢くんが所持する武器化したミケさんを聡美さんは見つめていた。

 ここにも腐海の住人がいるという事……とは違う様な気もする。

 きっと幸成くんと幸せになる事を聡美さんは願っていると、思いましょう。


 そうして、タイムホール内を私達は進んで行くのだった。


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