メタルタートルの剣
「無茶して倒れたら意味が無いんだからね」
「今日のMVPは羽橋なのは確かだな。MDバーガー美味かった! ありがとう!」
萩沢まで同意して俺を見てる。
ポテトのカリカリとした食感、バーガーの濃い目の味付けとケチャップの味が口の中に広がる。
うん、ジャンクフードって感じ。
みんなは二週間以上食べてないし、俺もバーガーは食ってないけど俺自身は日本の味は懐かしくない。
……出来ればみんな当たり前の様に日本の飯を食える環境を提供したいと思いながら……俺はみんなが見張る中でバーガーを食べたのだった。
思いやりが心にしみるね。
逆に罪悪感が募るよ。
「さっきも話したけど……俺達だけ贅沢して良いのかな?」
ふと、そこで茂信が表情を暗くさせて呟く。
「それは……しょうがないんじゃないか? 隠れてLv上げしてて日本の物を取り寄せられる様になったぜ! なんて言ったらどうなるかわかったもんじゃないぞ」
萩沢はバッサリと茂信の話題を切り捨てる。
いや、言い方があるだろ……。
萩沢はどうにも空気を読めない感があるな。
ムードメイカーであるのは確かなんだけどさ。
「そうなんだろうけどさ」
「確かにそうですよね」
「うん……だけど、今の私達がその事を言っても奪われる、命令されるだけになる……みんなに教えるのはもっと強くなってからじゃないと……いけないと思う」
めぐるさんが窓を少し開けてこの集落を盗み見る。
「昔、聞いたんだけど、『力無き正義は無力であり、正義無き力は圧政である』って言葉があるの。今の私達は正義を貫く為に牙を研いでいる最中だと思う」
「日本の物を取り寄せられる事が交渉の材料になりませんか?」
実さんの言葉に茂信とめぐるさんが唸る。
「難しいよ、やっぱり」
「うん。良い様に利用される、最悪は搾取されるだけで終わると思う。幸成が優遇されるかもしれないけど、谷泉の態度を考えると今の方針を切り替えるのは難しい」
「かと言って……このまま私達はLvを上げて谷泉くん達に勝たないと行けないって事なの?」
実さんの言葉に茂信は首を振る。
「違うよ。今は仲間が少ないけれど、拠点組のみんなが強い事を、NPCじゃなくて人間である事を認めさせれば良いんだ」
「どういう事?」
「谷泉達プレイヤー組の連中に組み伏せづらいと思わせるのと、拠点組のみんなが戦力になる事を証明すれば良いんだ」
そう、プレイヤー組の奴等が拠点組のみんなをLv1にして閉じ込めて置けない状況を作れば良い。
数は力だ。
今の所、プレイヤー組の連中の方が力が強いけど、拠点組の仲間と均等さえ取れれば谷泉達を頂点とした関係は瓦解する。
「それこそ、誰かが谷泉に一騎打ちで勝てば、こんな歪な状況を打破できる」
「他にも手が無い訳じゃないけどね」
俺の言葉に茂信は頷く。
とはいえ、俺が何を言うかを想像しているかわからないけどさ。
「ここは異世界だけど、人間が俺達だけとは限らない。何処かに人里があって、ちゃんとした文明を築いているなら、めぐるさんがいるから、この関係は終わる」
俺の言葉にめぐるさんがポンと手を叩いて納得する。
「なるほど、もしこの世界に他に人がいた場合、閉鎖環境でいる意味は限りなく少なくなる。仮に国があった場合、有利なのは拠点組よね?」
「そうなるね。戦える人も迎え入れられるだろうけど、俺達にはいろんな能力がある。上手く交渉すれば、少なくともこの環境を打開できるんだ」
もちろん、言葉が通じる前提だけど、案外人間同士ってボディランゲージでも意思疎通は可能だそうだ。
それこそ、無い知恵絞って異世界言語を理解して行けば、能力以外でも評価される。
そんな状況で戦えるだけが取り柄の連中が今の様に幅を利かせるのは難しくなるだろう。
「話し合えば結構勝利条件は並んでいるんだね」
「そもそも魔物が襲ってくるかもしれない。遭難した様な状況というのがこの集落を形作っているだけなんだもの、問題のどちらかを除去出来れば自然と谷泉やプレイヤー組の暴挙は抑えられる」
うん。
今の俺達がしなくてはいけない事は強くなる事と、探索に寄る森を抜ける事。
もちろん、森を出られる保証がある訳じゃないし、ゲーム風で言うなら攻略を終えるまで森から出られず、人の居ない異世界かもしれない。
それでも探さない理由にはならない。
だからこそ、俺達は強くならないと話が進まない。
「という訳で、変わらずLvを上げて探索して行くのが当面の方針で良いと思う」
まあそうなるよな。
ちなみに複写能力の小野が俺達に気付く事はありえない。
アイツは拡張能力を複写する事が出来ないからだ。
それを谷泉に『相変わらずつかえねぇな!』って文句を言われていたのをみんな知っている。
もしかしたら小野がLvを上げて行ったら拡張能力を複写出来る様になるかもしれないけどさ。
なので当面は問題無い。
「茂信がLv5になった時にどんな拡張能力が出るのか楽しみだし、Lv10になった時に何が出るのかも楽しみだな。それを目標にして行こう」
「ああ、とりあえず幸成に武器を調達してもらったし、明日にはメタルタートルの武器を作ってみる。調達した武器を含めて、戦力増加……強くなっていけば良いよな?」
茂信の言葉に頷く。
「こんな状況だからこそ、少しでも前に進めれば良いと思う。俺もがんばりたい」
「うん。私もそう思うな、辛いとだけ思って行くよりも前向きで良い」
めぐるさんが強く頷いた。
うん。俺達はこれから強くなって、この歪んだ環境を打破するんだ。
という思いと、新しい武器を手に入れた興奮によって強く結束が出来た日だった。
翌日、やはり谷泉が出発をしたのを機に俺達はLv上げに出かける事になった。
萩沢も新しい武器の試し切りをしたいと言っていたが順番なので、素直に受け入れていた。
その代わりに、昼飯を牛野屋の牛丼を食べたいと言われた。
しょうがないので買ってくる羽目になった。
美味い美味い連呼されると、なんだこっちも良い気分になる。
やはり、萩沢はムードメイカーだな。
「じゃあ出発しよう」
めぐるさんのポータルに乗って今日も狩りに出発!
になるのだけど、俺達は隠し持っていた武器をそれぞれ取り出す。
「取り寄せて何だが、包丁ってこの世界でも武器として使えるのかな?」
「実さんが魔力も付与すれば使えると思うぞ」
ステータスを確認すると確かに攻撃力が数値として表れている。
今までの武器よりも随分と……高い。
包丁 付与効果 無し 切れ味 良い
「鉄製の武器は何だかんだで谷泉達もそこまで手に入れていない。しかも切れ味が良いのはな」
「茂信の鍛冶でも切れ味が良いのは無いのか?」
「元の素材が良くないとなぁ……環境にも左右されるみたいだし、何よりかまど程度じゃどうにもならない」
火力の問題とかあるのか。
道具の補正って馬鹿に出来ないんだな。
「という事は萩沢も機材があればより良い物が作れるって事か」
「おそらくな。それこそメスシリンダーとかフラスコとかあれば役立つかもしれないけど、どっちにしろ環境が整ってないから無理に集める必要は無い」
生産系能力持ちってのも色々とあるんだな。
俺やめぐるさんは行動系だからまた別なんだろう。
というか……ぶっちゃけて言えば道具がいらない能力だし。
「実さんに魔力を補充してもらって……よし! じゃあ出発だ」
魔力補充を包丁やその他の武器に施す。
「そういや、メタルタートルの素材の武器は出来たのか?」
「ああ」
茂信が工房の奥から一振りの剣をめぐるさんに渡す。
柄の部分が亀の甲羅模様をした……不思議な光沢のある金属製の剣に見える。
「凄い……包丁よりも遥かに攻撃力が高い。名前はメタルタートルの剣?」
めぐるさんが息を飲んで呟く。
やっぱり相応に優秀な装備品なんだろうな。
「必要ポイントがシャレにならない物だけど、どれだけの武器かは確かめてみないとわからない」