冥府転送
この反応で小野くん達の思考はある程度推測できる。
事前に打ち合わせをしていれば、なんて発想は彼等もするでしょう。
でも、人を騙したり殺したり、そんな事を平然とやってのける彼等が口約束を守れるはずがないわよね?
それは彼等自身もわかっている。
わかっていない人もいるでしょうけど、それこそが彼等の結束が中途半端で脆い証。
その証拠に、今まで一つの集合体の様に見えた加害者の会の塊がうごめいて分離しようとしている。
「騙されるな! アイツの見せた幻覚に決まってるだろ!」
加害者の会の内部で私達への責任転嫁の声が響く。
けど、彼ら自身が持つ力で、未来予測をしてしまっている。
「それは本当? だって貴方達は究極で最強の能力者なんでしょ? 未来予測なんて簡単でしょ」
考えない様にしていた彼等の行動の末路。
自分が一番と思っている彼等が、その一番を誰かに譲るなんて精神があるはずがない。
テストの様にちゃんと実力で評価され、自分達の預かり知らぬ所で順位が決まるのとは大きく違う。
気に食わないテスト結果を、主催者を抹殺する事で改竄する様な人達でしょ。
彼等が見えてしまっている力を、見せつける様に描写して後押しをするだけね。
今は被害者意識で纏まっている。
いえ、今までもずっと被害者意識で、気に食わない人を殺しても良いと考えてきたんでしょう。
そんな彼等が、この事実を知ったらどうなるか?
映し出される映像をマジマジと見せつける。
クラス転移してきた次の加害者とクラスメイト達を……不死や不老の力で延命した加害者が彼等を皆殺しにして自らの王国を守る。
権力を使って森の中を整備し、次の加害者を皆殺しにしているパターンも添えておきましょう。
「何しやがる!」
加害者の中で見覚えがあるのかしらね。
加害者の会で殴り合いのケンカをしている姿が僅かに見えたわ。
「うるせえ! お前なんかに子孫を殺されてたまるか! 不死や不老の能力を得て、出てきた所をぶち殺してやる!」
「そんな事させるか! 順番に決まってるだろ!」
「いや、お前に俺の子孫を殺されてなるものか! ハーレムは俺のだ!」
「みんな! そんな争いをしている暇があったらアイツらを仕留めてからにしろ!」
「うるせえ! そうやって後ろから隙を窺ってんだろ!」
「なんだとう! 俺は事実を事実として言ってるだけだ!」
ますます結合が緩んでいく。
こう言った精神攻撃は、本来私の得意な事じゃない。
拡張された能力やみんなの助力を得た事による変化ね。
私達の、未来を守る為にみんなが知恵を貸してくれているの。
「さあ、成功者は一人よ。最初の一人が永遠の最強に至り、次の人達を支配下に置くか、殺すわ。さて、誰がなるのかしら? 貴方?」
加害者の会の中にいる……聡美さんと一番因縁が深い加害者を指差す。
「そ、そう――ガハアアアア! 何をする!」
言い切る前に加害者内で、私が指差した彼を攻撃する者が現れた。
「俺に決まってるだろ!」
「俺だ! 俺が世界を手にするんだ」
「ふざけんな! 俺が最強になるんだよ!」
「俺の王国を邪魔するのか!」
「ハーレムは俺んだ!」
完全に統率が取れずに加害者の会がバラバラに解けていく。
けど、一部はまだ余裕を持っているみたいね。
「は! 幾らお前等が知略を駆使して俺達を揺さぶったって無駄だ! それならやる方法がまだあるんだからな!」
ああ、その手ね。
異世界の並行世界へ侵入する考えが何となく読める。
荒れる彼等を鎮め、自我を抑え込んで加害者内で洗脳して行おうと……。
させる訳ないでしょ。
そもそも世界構築さえ今の私には見えなくはない。
それこそ、大活性で繋げれば良いのかもしれないけど、繋がりがあるという事は並行世界を統べる最強……一人のモノになるってわかっているの?
それくらい彼等が愚かなのは時空転送で予測出来る。
「どんだけ弱らせてもお前等は俺達を消す事なんてできねー! 調子乗っていられるのも今の内だぞ!」
「あら? 消せないなんて……誰が言ったの?」
私は素早く拡張能力の詠唱に入る。
既に弱りきり、連携や結合が崩壊している悪霊の彼等では絶対に抗いきれない必殺の一撃の詠唱は……容易く完了したわ。
私は手を前にかざし、彼等の後方に……ある転送の穴を作動させる。
強制転送と言う引き摺りこむ力を併用してね!
「みんな、大丈夫だとは思うけど、屈んで!」
振り返ったみんなに確認を取る。
「あ、ああ! めぐるさん! がんばってくれ!」
「めぐるー! 後少しだよー」
「ニャー」
「アイツ等って……」
萩沢くんが呆れている。
ハーレムの夢を持つのは萩沢くんも同じだけど、彼等とは過程が異なる。
その違いはきっと……萩沢くんは誰かの事を考えられるからかもしれないわね。
蹴落とす、殺す、憎む相手じゃないとしっかりと認識しているのよ。
私は萩沢くんをお調子者だと思っている。
場の雰囲気を読まない言動をする時もあるけれど、憎めない面が強く出ているし、その言動による報いを受けてもケロッとしている。
理想や願望が多分に含まれているけど、女の子と付き合いたいだけ。
……小野くんって自身をお調子者だと認識していたみたいな事を、昔言っていたのを覚えているわ。
加害者の会にはそんな自称、お調子者が多いような感覚……意識を感じる。
「気を抜くな!」
「力になっているから! 早く!」
依藤くんと黒本さんが私へ供給する力を更に強めている。
それ以上振り込んだら貴方達が危ないのに……。
「めぐるさん」
「後少しです……」
聡美さん達が私を後押ししてくれる。
そうね、この因縁も後少しで終わり!
発動した力によって発生した転送の穴から嵐のように辺りに風が巻き起こり、彼らを吸い込み始める。
もちろん、敵味方の認識はしっかりしているから、蟲毒の聡美さんは被害を受けていない。
「うわ! な、なんだ! 引きこまれる!」
「うお!」
「放せ! 俺も巻き込まれるだろ!」
「放す訳ねえだろ! 俺を助けろ!」
「嫌だね! 死ぬなら勝手に死ね!」
醜い争いを始めた彼等は、ボロボロと私が呼び出した穴へと吸い込まれて行く。
「魂である俺達がここまで追い込まれるだと!? 何をしやがった!」
「わからないの? 魂だけの存在なら……一番行かなきゃいけない場所があるじゃない?」
彼等が一番嫌いそうな思わせぶりな態度で私は笑みを浮かべる。
「くっそ! 吸い込まれてたまるか! お前等を道連れにしてやる!」
「させる訳ないでしょ! まだ私の攻撃は終わってない」
再度幸成くんから届けられたアダマントタートルの剣を複製転送を使用して彼等を串刺しにして弱らせる。
もはや加害者の会の攻撃で、みんなを傷つけさせなんてしない!
「ぐああああああああああああ!」
「ぎゃあああああああああ!?」
「くっそおおおおおおおおおお! このビっちぃいいいいいいいいいいいいいい!」
「誰がビッチよ! 自分に都合の悪い女性はみんなビッチとでも言う気!」
私が暗躍して悪事をしているのならともかく、私はあるべき所へ彼等を誘導しているに過ぎないわ!
まあ……さすがに自分達が何処へ連れて行かれそうになっているかわからないと可哀想ね。
教えてあげましょうか。
「その穴が何処へ繋がっているのか教えてあげる。私が唱えたのは冥府転送……地獄転送とかいろんな呼び名がある拡張能力よ」
一つの能力なのに、名称がいくつも頭の中に浮かぶ。
だけど、その意味は全て一緒。
「なんとなくでわかるでしょうけど、その穴を潜ったら最後、異能力は使用不可能、ステータスとかの加護も無くなって戻る事は出来ないわ」
「ふ、ざけるなぁああああああああ! お前らなんかに、お前なんかに! 俺達の野望が――」
「地獄!? ちげーだろ! 俺達は仮に死んでも天国行きなんだよ!」
凄いわね。
まるで自分達が善業をしていると心の底から思っているみたい。
吸い込まれまいと抵抗している加害者の会達に、私は素直に称賛の思いを持つ。
理解できない人がいるのはわかっていたけど、完全に別の精神構造をしているわ。
「既に私の預かり知らぬ場所へ行くのでしょうけど……アレだけの事を仕出かして天国へいけるのなら、それはそれで良いわね」
「く……どうしてそんな拡張能力を使っている癖に、お前等は――」
「魂の存在に特効ってゲーム風に答えるのが貴方達にピッタリね。ちなみに受肉しても無駄よ。もはやそんな余力さえ残って無いでしょうけど」
それこそ必殺になる様に私は彼らを弱らせた。
この攻撃で逃げられない様にしなくては意味が無い。
「悪霊は成仏してあの世に行くのが相場って事だな! さすがめぐるちゃんだぜ!」
萩沢くんが親指を立ててる。
まあ……間違ってないけど。
なんか実達が山修業をしていた時の出来事が脳裏を過ぎる。
別に訂正するつもりはないけど、そこで思い至った訳じゃないわ。
「うわああああああああ……」
「おおおおお……違う。こんな終わりじゃ……俺は……ここじゃ終わらない」
「そうだ。あの世に行って俺は……神様に謝られて転生をするんだ。そういう未来なんだ」
「え? な、何!? そんな考えが――」
バラバラと彼等が穴の中へと吸い込まれて行く速度が上がる。
抵抗をやめた?
いえ、むしろ自分から入りに行っている。
「転生、出来たら良いわね? その穴の先……煉獄でもあるんだけど」
煉獄転送でもある訳よね。
地獄よりはマシな人は行けるかも。
煉獄って言うのは簡潔に言うなら天国と地獄の間にある火炎地獄……かしら?
罪を炎で焼き、魂を清めるとかそんな場所なのよ。
中世の魔女狩りで火炙りが多かった理由って、この煉獄に身立てていたらしいわ。
それこそ火炙りの刑に処される地獄が一番しっくりくる場所。
そんな場所でしっかりと罪を償って……転生出来たなら許されたってことでしょ。
「転生して……最強になってハーレムを作る!」
「こんなクソみたいな世界、お前等にくれてやる!」
「もうお前等に付き合ってられねー! あばよ!」
「俺が気持ち良い異世界を探すんだ!」
「俺達の新たな旅立ちだ!」
そう言って……加害者の会の殆どが消えて行った。
最後まで理解出来ない人達だったわね……。
「やべぇ……アイツ等メンタル強過ぎだろ」
「陰気なのか前向きなのか、どっちなんだよ……」
「というか、あの穴に入ると記憶持ったまま転生出来るのか? 無理じゃないか?」
萩沢くん達が呆れながら話し合っている。
そして最後まで抵抗していたのは小野くんと他数名。
「諦めなさい、小野くん。もう……あるべき場所へ還りなさい」
この小野くんは私達の世界の未来にいる小野くん。
みんなを巻き込み、思い通りに事を運ぼうとした首謀者。
「うるせえ! 羽橋もそうだが、どうしてお前等はそんなに俺の邪魔をするんだ!」
「貴方がみんなを傷付け、殺そうとするなら私達はいつだって立ちはだかるわ」
「くっそ……」
小野くんが私に向かって何かしらの攻撃をしようとしたその時、私は陽炎転送と送電を同時に放つ。
「あまり流儀じゃないんだけど、目には目を歯には歯をで、関係を終わらせましょ」
「ぐあああ……熱い! 熱い! くおおおおおおおおお!」
魂だけの存在となっている小野くんにはこの手の攻撃で致命傷には至らないのかもしれない。
けど、冥府転送に逆らう力は完全に払われた。
「私達もいつかはそっちに行くわ。来世で会えたら、また会いましょう」
「くそおおおおおおおおおおおお……――――!」
そうして小野くんを含めた加害者の会の全てが吸い込まれていった。