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集合体

「最強……くだらない……実にバカバカしい」


 最も強いからって一体何だって言うの?

 確かに主張を通す為には力が必要な時だってある。

 結局はみんなから力を借りて、明日を守ろうとしているのは私も変わらない。


 でも、力無き正義は無力。

 誰かを守る為には暴力に限らず、力は必要。

 そうね、私達は誰もが矛盾しているのかもしれない。

 例えそうだとしても……!


「とある哲学者の言葉を貴方達に送るわ。正義無き力は圧政……貴方達の正義は本当に正義?」

「戯言抜かしてんじゃねえぞ! お前等だって身勝手な正義で俺達を無視して助けようともしなかったじゃねえか!」


 私は小野くんの学生生活を思い出す。

 確かに……私達は小野くんへ救いの手を出す事を怠ったのかもしれない。

 その点は反省しましょう。


 だけど小野くんはその救いの手を傲慢に、助ける事が当たり前だという前提で、常に何かに喧嘩腰で斜めに構えていた。

 まるで誰かが助けてくれるから何をしても良いみたいな態度で。


 もちろん理由があるからってイジメて良い理由にはならない。

 けれど何の努力もせずに、自らが行った怠慢のツケを他者に八つ当たりするのはどうなの?

 私だって、谷泉くん達にいじめられている小野くんを何度か助けた事はある。

 だけど小野くんの言葉はなんだった?


「おせーんだよ! その偉そうにクラスの連中を監視してますって態度に反吐が出るのに助けるのもおせーんじゃ意味がねーだろ!」


 彼の言葉に私自身、怒りを通り越してしまったのを覚えている。

 その時はもちろん説教をしたわね。

 助けられる事を前提に人に頼るなんてどう言う事?

 と、それはもう……みっちりとね。

 だけど小野くんはどこ吹く風と言った様子だった。

 それでも……彼を救えなかったのもまた事実。


「さっき言った哲学者の別の言葉が浮かんでくるわ」


 そう、既に私達は生きているだけでも罪を犯しているのかもしれない。


「人間には二種類しかいない。一つは自分を罪人だと思っている善人と自分を善人だと思っている罪人」

「あ!? また説教する気か!」

「……いいえ。ただ、私達も貴方達の様にならないように十分に注意して生きていかなきゃいけないって思っただけよ」 


 だけど、そんな私達だからこそ、誰かの痛みを理解する事が出来る。

 善人だなんて誇る気も無い。

 それでもここで引いたりなんてしない。


 小野くん達だって辛い思いを沢山してきたのでしょうね。

 でも……小野くん達は私達を巻き込んだ事に関して謝罪も罪の意識も、ましてや悪い事をしたという自覚すら無い。


「撃って良いのは撃たれる覚悟のある人だけよ。小野君や他の、並行世界の加害者の皆さん」


 黒本さんが軽蔑の眼を向けて言い放つ。


「誰かを殺そうとするなら自分だって殺されるかもしれない。だから貴方達は、誰かに殺されて失敗し、チャンスをもらったのに、それさえも不意にした。いえ、小野くんの例から既に罪人だったんでしょ」

「うるせぇ!」

「俺達が」

「正しいんだよ!」

「お前等は」

「只の踏み台だろうが!」


 私達目掛けて更に数の増した攻撃が降り注ぐ。

 ……身勝手も極まっている。


「聡美さん!」

「「はい!」」


 聡美さんが私に、山彦と共鳴波、更に様々な能力の加護を施す。


「みんな……力を貸して!」

「もちろんだ!」

「うん!」


 みんなの能力が私に集約し、無数の祝福が施される。

 私は幸成くんがくれた剣にありったけの送電の力を振り込んでから武器転送から連なる拡張能力……複製転送を発動させつつ投げつける。

 手から離れた剣が転送の光を潜りぬけ、加害者の会を含めた加害者の会を構築する全てを刺し貫く!


「ぐあああああああああああ!」

「バカな!」

「俺達の本体にまで――」

「攻撃を当てただと!」


 そして更に急速回復していく魔力やポイントをフル活用して手元に戻ってきた剣で幾重にも切り裂いた。


「ぐ……や、やめろぉおおおおおお!」

「こ、ここで負ける訳にはいかねえええええええ!」

「嫌だ! 俺達が何をしたって言うんだよ!」

「ただ気に入らない奴を殺したいだけじゃねぇか!」

「俺達は悪くない! 悪いのはそこのクソ女と俺達の前に出てくる連中全員だ!」


 私は彼等に憐みの感情を浮かべる。


「……貴方達は自分がした愚かな行いすらも理解できないのね」


 誰しもが彼等の前に立ちはだかるか、逃げるでしょう。

 そうじゃないと自分達の日常を、平和を保つ事が出来ない。

 他者を殺そうと考えている人達が認められる時が訪れる?

 生きる為に必要な事なの?

 誰かを守る戦いがあるの?

 弱肉強食の掟は確かにあるけれど、私達は人間よ。ケダモノじゃない。


「こ、この程度か!?」

「……いいえ」


 聡美さんの発生させた山彦が時間差となって、再度加害者の会を刺し貫く。


「ぎゃああああああああああああああああああああああ!」

「はぁ……はぁ……」

「く……」


 私の、私達の攻撃を受けて加害者の会は勢いを弱める。


「やったか!」


 茂信くんや依藤くんが加害者の会がいた場所を恐る恐ると言った様子で見て尋ねる。


「……いいえ」


 今ならわかる。

 まだ、倒せていない。


「は、ははははははは……! 残念だったなぁ! 俺達は不死身なんだよ! 既に死んでるし、好きなタイミングで体を再構成出来る! 永遠で究極の存在である俺達を、どれだけ強くなったからって時間すら干渉できない奴に敵うはずはねえんだ!」

「そんな……」

「どうすりゃいいんだよ! めぐるちゃんがみんなの力を集めてスゲー強く……それこそ羽橋よりも強くなってもこれじゃあ泥仕合じゃねえか!」

「まさに召喚儀式とやらが望んだ究極の存在でしょうね」

「加害者の連中が一個の生物として心を一つにして繋がっている……」

「だから諦めろ! お前等雑魚がどれだけ群がっても俺に――俺達に敵うはずねーんだよ!」


 勝ち誇り、再生して行く力で再度無数の能力を私達に放とうとする加害者の会に私は手をかざす。

 諦める気はない。

 負けるつもりもない。


 私の……手……体……頭……全身、細胞、魂に至るまで、みんなの意思、祈りが集まっている。

 私は、幸成くんが助けてくれた、この命を掛けてでもここで引かない。

 引いて良いはずがない。


 死なない? 消滅しない?

 戯言ね。

 そんな物は存在しない。


「例えどれだけ貴方達が強大だって、負けない」


 聡美さん達が言い切る。


「ええ、決着を付ける時が来たわ!」

「どうやって倒すんだよ! 俺達だって無尽蔵の力を持ってる訳じゃねえんだぞ!」


 萩沢くんが苦しそうに言い切る。

 私に集まる力はみんなから提供された物……聡美さん達だって辛いのを必死に堪えて維持している。

 それこそ全身を刺し貫く様な激痛が来ているでしょう。

 早く終わらせないといけない。


 敵は悪意の集合体

 なら、その結束を断つ!


「確かに……貴方達は私達と同じく結束し、永遠で究極で最強の能力者となったのでしょうね。そして目的を達成し、思い思いの未来を築く……」

「そうだ! 俺達の未来の為に! お前等を殺す!」

「……じゃあ逆に尋ねるわ」


 私はLvの上昇で習得した映像転送に……時空転送という欲しい能力だと思った物を重ねて見せる。

 それは加害者の会が見せた映像の続き。

 世界を支配し、思いのままに描いた彼等の世界図。


「ふへへへ……後少しだ。後少しで叶う……」


 彼等はそれを見て全員が揃って笑みを浮かべる。

 もう少しで達成する夢だと思っているのでしょう。

 私は、その先……無数の可能性を描写させる。

 好き勝手やって女性と関係を持って子を育み、幸せな世界の先……。

 世界支配をした一人の加害者が寿命を終えた頃に現れる、次の加害者達をね。


「な、何!?」

「どう言う事だ!」

「ふざけんなよ!」


 クラスメイトを皆殺しにし、森を出て、現体制……過去の加害者が作った国へと乗り込み、加害者の子孫達を虐殺し、王に収まる光景を。


「何か気に入らない事でもあったのかしら?」

「当たり前だ! どうして俺達の子孫が死ななきゃなんねーんだよ!」

「あら、おかしな事を言うのね。貴方達は私達に勝った後、各々世界を支配して幸せな家庭を築くんでしょ?」

「当たり前だ!」

「そうしたら次の転移で次の貴方達が現れるのは当たり前じゃない。なんせ貴方達は沢山の意思の集合体。一人じゃない。そして聡美さんの時の様に核となる人格もいない」


 今の私は沢山の人から力を借りている。

 だからこそわかる。

 この力は一つの目的を達成する為にだけにしか使えない。

 強い共通の意志が無ければ維持する事が出来ない。

 とても強く、とても脆い力。


「その子孫達は新たに現れた貴方達の一人を歓迎してくれるの? 無理じゃない? 壊す事しか出来ない貴方達を受け入れてくれる様な人が本当にいるのかしら?」


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