連鎖共鳴
「羽橋が来てくれたのか!?」
茂信くんと依藤くん、みんなが揃って辺りを見渡す。
けど幸成くんの気配は無い。
まるで、私達のピンチに駆け付けたかのように現れた剣を、私は全身の力を使って持ち上げて構える。
この剣、凄く手に馴染むけど、重い……。
身に合わない武器が不思議な力で私が使えるようにどうにか合わせてくれている様に感じる。
そんな決意と意志が伝わってくる。
もしかしたら……ユニークウェポンを持つってこんな感覚なのかもしれない。
「あの時……幸成が本当に守りたかったのは、めぐるさんだったんだと思う」
剣から伝わってくる想い。
胸を締め付ける様な激しい後悔。
傷付き倒れていく人を守ろうとする意思。
もう誰も死なせないという決意。
「幸成くん……」
どうして幸成くんが持っていた剣がここに現れたのかはわからない。
でも、この剣が私達を守ってくれた。
幸成くんは過去に囚われていると考えていたけど、違うんだね。
ここではないどこか、今じゃない場所で、ずっとずっと戦っていたんだ。
そして、今も挫けそうな私達に勇気を分けてくれている。
「んだよ! このタイミングで現れるってヒーローごっこか? 主人公は俺達なんだよ!」
「絶対に……違う。貴方達はヒーローでは絶対に……無い!」
捕えられていた聡美さんが言い切る。
「私の力は……蟲毒の力……もう一人の私、力を貸して」
「ええ、わかっています!」
聡美さん達が手を繋ぎ能力を作動させる。
すると私の背後に茂信くん、萩沢くん、実、依藤くん、黒本さん、更にミケさん達が招集で全員結界を飛び越えて瞬間移動する。
追跡するかのように加害者の会が私達に向かって無数の攻撃を放つ。
私の剣であり幸成くんの剣がみんなを守るかの様に勝手に動くのを感じる。
私自身が剣に振りまわされていて、力が足りない。
「くううう……」
「飛山さん!」
依藤くんが私を支えるように立ち、剣に触れる。
「なんて重たい剣なんだ……こんな剣を羽橋は振りまわしていたのか……」
「そりゃあ出来る限りの付与を施したワンオフの武器だぞ! ルシアちゃんだって敵うかどうかわからないピーキーな性能なんだ」
「ミケ! ぜってーここで引くなよ! 俺ですら引かねえんだから!」
「ニャー!」
ミケさんは主に信頼の目を向けたまま頷いた。
そんな萩沢くんは所持する魔法道具を片っ端から投げつけて、追撃で飛んでくる攻撃の弾道を逸らしてくれる。
「なんだ? 何をしたって俺達に勝てるわけねえだろ! そうだ……丁度良い。後少しで俺達が思い描く未来になるんだ。見せてやるよ! 最強の俺達をな!」
そう言って加害者の会は辺りの壁に映像を映し出す。
気に入らないクラスメイトを皆殺しにし、屍の山で高笑いをして女子生徒を侍らせて森を出る。
そして国を相手に身勝手な正義を振りかざして争い、勝って玉座に座り、姫たちを侍らして高笑いをする光景。
領地経営と称して能力を行使し、一見すると人々の生活は豊かになったかに見えるけれど国民に心からの笑顔は無く、彼等の顔色を窺っている光景。
気まぐれに気に食わない者を処刑し、反抗的な勢力は皆殺し、何百人もの美女をハーレムと称して並べる光景。
ユニークウェポンモンスター達の演技なんて知らないとばかりに、試合ではなく虐殺を行う。
見ていて不快にしか思えない。
だけど彼等の目には、とても楽しい事に映っているのでしょうね。
こんな事をやりたいだなんて理解に苦しむわ。
「いい加減諦めろよ! それこそ、奇跡でも祈るんだな!」
「……奇跡? 奇跡なら既に起こっているわ」
幸成くんはその身を以って奇跡とも思える数々を成して見せた。
死んだ人……私や数々の人々、不幸になってしまった人達を救い、悪い事をした小野くんみたいな人達でさえチャンスを与えた。
そのチャンスの全てを棒に振って悪を成す人達に、私達が奇跡を起こせなくて何が奇跡なのよ!
「……奇跡は起こしてこそ、奇跡……どうか、みんな……」
囚われていた聡美さんが聡美さんと手を合わせて呟く。
「どうか……力を貸して。私の信じる人達を……みんなを救ってくれた人の想いを守る為に!」
「全ての時代、私の加護を受けた全ての人達、全てのみんな……どうか、力を……」
聡美さん達から眩い光が放たれ、茂信くんや萩沢くん、依藤くんや黒本さん、ミケさんを初めとした周りの人達が目を見開く。
力を……貸してください。
今までの戦いに終止符を打つ為に。
力を貸しますか?
はい/いいえ
視界にもそんな問いが浮かんでくる。
私は迷わず『はい』を選択した。
「当たり前だ。幸成の為にも、みんなの為にも、こんな所で俺達は負ける訳にはいかない」
「そうだ。例え何があろうと、羽橋が信じた人を俺は信じる」
「ええ、私達の未来の為にも、私は力を貸すわ」
「めぐるや幸成くん、聡美ちゃん、クマ子ちゃんやミケくん、いろんなユニークウェポンモンスターさん達の未来の為にも私が力に成れるなら、どんな事でもするよ」
「未来の彼女計画の為にも、ここはどんな奴にだって力を貸すぜ!」
「フシャー! ニャアアアアン!」
「あんな地獄の様な未来なんて、絶対に……阻止して見せる!」
そう、幸成くんは聡美さんを、様々な並行世界のクラスのみんなを救う為に過去を変えた。
過去に向かった幸成くんが作った世界。
たった二ヶ月しかこの世界を見ていないけど……わかるの。
明るくて、優しい。
誰かの為に生きて、誰かを心配出来る。
そんな人達が作り上げて行った場所。
その未来が血に染まろうとしている。
なら……。
「私は――みんなの未来を守る為に剣を振るう!」
私の叫びに、眩い光が強さを増していく。
みんなの全身に淡い光が発生し、聡美さん達を経由して光が私に集約していく。
私の視界に浮かぶLvやステータスの数字が急上昇している!?
120……235……362……489……571……想いが……伝わってきた。
現代に置いて来たみんな……そして――
『届いた。俺の力を使ってくれ』
『俺達は決断した。異世界へ戻る事を』
『未来を守る事を』
『日本のみんなと異世界の人達の平和を守る事を』
『お願い。私が力を貸すことで守れるのなら、存分に使って!』
『救ってくれた人の恩に報いる為に』
『苦しかったあの場所から助けてくれた並行世界のみんなの為に』
『今度は俺達が』
『私達が』
『『『貴方達の願いに応える番!』』』
無数の決意とその力……能力の片鱗が私に向かって集まってくる。
894……1586……3204……6078……9845……。
覚醒して拡張能力が増えていく。
これは……全ての時代、全てのみんなの総合計Lvとステータス!
「みんな、ありがとう……届いたわ」
私達の心はあの森でバラバラだった。
沢山傷付けあった。
それでも大事なモノを失わなかった人が沢山いた。
……剣が羽の様に軽く感じる。
そんなの当たり前。
今の私はみんなの意思を受け止めている。
その中には、幸成くん……あなたも含まれている。
幸成くんに聞こえているかな……。
私達は一人じゃない。
あなたは一人で全て終わらせようとしたけど、別のやり方もあったんだよ。
「はぁ!」
横に一線を引くだけで無数に飛んで来ていた加害者の会達の攻撃が全て弾き飛ばせる。
「な、何!」
ゆらゆらと体から力が溢れ出ているのが感じ取れる。
万を超えるLvはまだ上昇を続けている。
なかった事になっても忘れなかった大切なモノ。
今日までがんばってきた人達が積み重ねてきたモノ。
そんな想いが何重にも重なり合って私に力を貸してくれている。
「なんだ! なんなんだよ! お前等は俺達に勝てるなんて思ってんのかよ! ふざけんじゃねえぞ!」
加害者の会が更に能力を発動させ、無数の武器、魔法、能力が私達に向かって放たれる。
剣、槍、斧、矢、鈍器、銃器、火、水、風、土、雷、隕石、呪い、霊体……考えうる全てが壁さえも砕いて飛んでくる。
しかも強奪、盗み、剥奪、窃盗、洗脳等の効果まで入れているみたいね。
「うお!」
「や、やばくねえか!?」
「大丈夫!」
もう誰も傷付けさせない!
私は剣を振りかぶると同時に無数の転送……物質転送、魔法転送、能力転送、考えられる限りの転送を多重展開し、その全てを加害者の会へと向けて設置する。
「な――ぐああああああ!」
自らが放った攻撃の全てが加害者の会へ向かって逆に放たれて加害者の会は呻き声を上げる。
「く……だがムダムダぁああああああああああああ! 俺達は不死! 不死身の俺達に向かって俺達が放った攻撃を返したって痛くも痒くもない! 最強の能力者をなめるんじゃねええええええええええ!」