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断罪の剣

「お前等に面白い事を教えてやるぜ! 未来で俺達はよー無数のエネルギーを集めてすっげーレベルまで上げてんだ。精々100程度の連中がどれだけ束になって掛って来ても本気の俺達に勝てるはずねーだろ。今まで遊びだった事を教えてやるぜ!」


 炎、水、雷が物凄い速度で放たれ、私達の近くを掠める。

 たったそれだけなのに衝撃波でみんな壁に打ちつけられた。


「うぐ……」

「ニャ!」


 ミケさんが萩沢くんを庇うように飛んでいたけれど、ダメージが大きく、二人揃って倒れ……辛うじて立ち上がる。


「くそ……俺は……負ける訳にはいかないんだ。美樹……力を貸してくれ!」

「ええ」


 依藤くんと黒本さんが支え合う様にして各々戦闘態勢を維持する。


「ゲホ……ゲホ! みんな……大丈夫? 今すぐ回復をするね」

「ヴォフ」


 実を守る様にボスさんが本来の姿で抱きかかえて衝撃を分散させた。


「……幸成はこんな化け物みたいな奴を相手に戦ったのか」


 茂信くんが構えていた盾が衝撃で壊れ……腕が折れているんじゃないの!?

 実の手当てを受けて辛うじて戦えるまでに回復して行くけれど、それでも遅い。


「く……」


 私も聡美さんと一緒に吹き飛ばされ、どうにか起き上がったに過ぎない。


「いい加減諦めろよ。お前等に俺達を止める術なんてねーんだからよ。最後に笑っていた奴が正しいんだ」

「何が正しいのよ。みんなを殺して、女の子を泣かして、気に食わない人達を排除して、その先にあるのは何? 貴方達の描いた未来の先に何があるかわかっているの?」


 黒本さんが教えてくれた未来。

 研究所の記述。

 その全てが物語っている。

 小野くんみたいな加害者の会達が思いのままに異世界を荒らしまわったら、その先には何にも残されていない。

 無数のゴミと廃墟が出来るだけよ!


「貴方はアレだけの事をして、幸成くんに負けて、死んだ事が無かった事になって、ここに流れ着いて全てを思い出しても、全く変わらないのね」


 人間は成長するからこそ前に進める。

 谷泉くん達を殺して、みんなを殺そうとして私を殺し、幸成くんに返り討ちにあってその果てに、どうして自分がこんな目にあったのかを考えず、全部相手が悪いなんて発想に至るその成長の無さに私は唖然とするし、軽蔑する。


 小野くん達の思い描く先にあるのは、世界中の人達に恐れられ、忌み嫌われる世界。

 強いから何をしたって良い?

 力こそが正義?

 最強?


 そんな物の先にあるのは破滅だけ。

 悲劇しか生み出さないじゃないの。


「貴方は自分が他人にどう映るのか、死んでもわからないのね!」


 そう、これはあの時と同じ。

 私自身も自覚する。


「ゲームの様に能力を使って遊び、殺人にまで手を染める人なんかに心の底から慕ってくれる人なんていないわ。居たとしたらそれは洗脳されている人形。知能と良識のある人間ではなく、タダの獣よ! お人形遊びは一人でやって!」


 何度だって言い切って見せる。

 正しさなんて小野くん達に一部も無い。


「……聡美さんが酷い人間? いいえ、聡美さんはそんな暴挙をしようとしている貴方達を止めようとしている。貴方こそ……世界の敵。邪悪な存在!」


 こんな人達がいて、裁かれたにも関わらず反省していない事実に苛立ちを覚える。

 バカは死んでも直らないとはこの事ね。

 呆れて物も言えないわ。


「うるせーな! 力こそが正義なんだよ!」

「力こそが正義? だから何? 貴方の認識する地獄の様な世界では一番強い人が王だとでも言うつもり?」

「そうだ! 文句あんのか!」

「そんな事しか言えないから貴方達は良い様に利用されてこんな所で偉そうにしているのが精一杯なんだわ。現に私達の行動一つでてんやわんやしていたんでしょうが!」

「あ!? 何ふざけた事言ってんだ!」

「強過ぎる力なんて争いの道具でしかないのよ? 力しか無い貴方達に何が出来るの? 壊すだけ? 殺すだけ? もはや野生動物にも劣るじゃない! 力に頼って、利用されたら相手の所為。その口で何でも思い通りにしようと暴れて喚くだけ」


 怒りで口が止まらないって自覚がある。

 これではあの時と変わらない。


 それでも私は我が物顔で並行世界の聡美さんを人質にしている小野くんを弾劾する。

 脳裏に浮かぶ幸成くんの声が聞こえる。

 刺激するなって言っている。


 だけど、ここで言わなきゃ私は私じゃない。

 私は胸に手を当てて言い切る。


「力よりも重要なのは人としての心。その心を捨てて、気に食わない人を殺すことしか考えない貴方達はゴミにも劣るケダモノでしかないわ。知恵すら持たないケダモノだから良い様に利用されたのよ!」

「毎度毎度説教しやがって! いい加減にしろ!」


 私はメタルタートルの剣を前にかざして構える。

 絶対に、負けない。


「お前等雑魚に現実ってものを教えてんだろうが! 無数の能力を持っている俺達が最強だって事をよ!」

「――させない」


 加害者の会に縛り上げられていた聡美さんが抵抗を示す。


「ぐ……邪魔すんじゃね!」

「例え何があろうと、私が消える事になろうとも……この人達だけは死なせる訳にはいかない……」

「てめぇ……良い能力を持っているから利用してやってるだけなのに、邪魔するってのか? 羽橋の野郎の前で俺の女になる所を見せつけてやろうってのに!」


 どんだけ外道な連中なの!


「やめなさい!」


 私は出来る限りの力を込めて送電を発動させ、加害者の会に向かって放つ。

 けど、私の一撃なんて痛くも痒くもないとばかりに雷は霧散してしまう。

 っ……こんなにも実力差があると言うの?


 だけど――絶対に私は引かない。

 こんな所で終わらせない。

 もう一人の聡美さんを助けて見せる。


「やっぱり――飛山さんは、飛山さんなんですね」


 加害者の会に縛られている聡美さんが私へ優しげな目を向ける。


「もう良い。俺達に指図する。悉く邪魔ばかりしやがる。活動に大きく支障が来るがここまで来たら用済みだ。そこの羽橋に股を開いたクソ女共と一緒に、お前を飛山共々葬ってやる!」


 ズルっと捕えられていた聡美さんが加害者の会から解放され、目の前に転がされる。

 と、同時に加害者の会が私達を囲う様に結界を生成させる。


「く……これは!?」

「くっそ! この結界を早く壊さないと!」


 依藤くんが手から血が出る勢いで結界を切りつけていく。

 天魔一刀も使っているけど結界はビクともしない。

 これは……あの時と同じ!?


「飛山……お前等諸共、あの時と同じように……いや、今度こそお前等全員! ぶち殺してやる! そうすれば……」


 加害者の会の背後で映像が映し出される。

 幸成くんを亡き者にして、過去改変を無かった事にし、聡美さんさえ返り討ちにして生き返り森を出て暴れ回り世界を支配する光景。

 こんな事を小野くんを初めとした首謀者達は考えているって言うの?


 わかっていたけど反吐が出るわ!

 傲慢にも程がある。

 世界は貴方達の思い通りになる玩具じゃない。

 日本での生活に馴染めず犯罪者になるのは当たり前の事じゃない!

 異世界に夢見て、自分こそが一番と容易く人を殺める殺人鬼達。


「まずはお前等からだ!」


 小野くんが昔、幸成くんを殺そうとした時と同じく炎と風を合わせた業火の塊を私達に向かって放つ。

 あの時よりも遥かに規模が大きい。

 転送の能力を使えば……。


「聡美さん!」


 メタルタートルの剣で弾けるか分からない程の高密度の能力攻撃。

 聡美さんの共鳴が発生している範囲内、結界で阻まれた空間内を私は転送の光を出して、もう一人の聡美さんを庇う為に光を潜る。

 けど、私の手を繋ぐように一緒にいた聡美さんまで付いて来る。


「一緒です! 誰かを庇って死なれたら、幸成くんがした事が無意味になってしまいます!」


 そうね……それでも私は、成し遂げたいと思った。

 同じ鉄を踏む愚かな行為だと私自身でも嘲る。


 でも……勝算が無い訳じゃない。

 あの時とは違う。

 手には武器がある。


 メタルタートルの剣で振りかぶる。

 とても重たい小野くんの業火を私は……全身の力を入れて送電を纏って尚、斬りつける。

 ジュッと、メタルタートルの剣が堪え切れずに融け始めている。

 熱が伝導して、手が火傷して行く。

 それでも……あの時とは違う結果を……手繰り寄せる!


「はあああああああああああああ!」


 剣を振り切ると、業火の玉は二つに裂けて散った。

 私は……あの時を越えて見せる!


「はいざんねーん。二発目だ!」


 斬った直後に二発目の業火が飛んでくる。

 メタルタートルの刀身は融けて既に無い。

 転送はクールタイムで使用できない。

 私の能力であれ程の業火を止める力は残されていない。

 日本転送では私しか、しかもこんな場所じゃ使用出来るか未知数。

 それでも!


「絶対に、諦めない!」


 業火が目の前まで迫って来ていた。

 私は加害者の会から視線を逸らさず睨みつける。


 世界から色が消えていく。

 感覚が研ぎ澄まされて時間が遅く感じる。

 ……また同じ事になってしまうかもしれない。


 決して引いたりしない。

 負けないという心は動き続けている。

 でも、ほんの少しだけ、私が歩いてきた道が間違っていたんじゃないかって考えてしまう。

 せっかく幸成くんが過去を変えて、みんなの死を無かった事にしたのに。

 全て無駄にしてしまう。

 それが……どうしようもなく、嫌だった。


 瞬間。


 色の無い世界が一瞬にして掻き消されて、色を取り戻していく。

 そして私の目の前に一振りの剣が次元を切り裂いて降り注ぎ、業火を容易く切り裂いた。


「あ!?」

「そ、その剣は!?」


 茂信くんと依藤くんが揃って私の目の前に突き刺さる剣を指差す。


 ――アダマントタートルの剣


 そう名前が表示されていた。

 無数に付与された能力。

 光り輝く刀身。


 吸い込まれる様に私は剣の握りに手を伸ばす。

 重過ぎて振りかざす事は出来そうに無かったけれど、それでも不思議な程、手に馴染む感覚。


「幸成が持っていた……めぐるさんの剣だ……」


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