贖罪
剣、槍、矢、魔法、銃器、様々な攻撃が私達に向かって飛んできた。
私は送電を張り巡らせて飛んでくる攻撃を弾き、依藤くんやミケさん達は迎撃、茂信くんは能力で盾を生成させて守る。
萩沢くんは反撃とばかりに爆弾を投げつけ、黒本さんは本を開いて魔法を唱えて補佐をする。
実はみんなの手当てに集中しているわ。
聡美さんは言うまでも無いわ。
共鳴でみんなを補佐し、彼等から来る致命的な状態異常を無効化してくれている。
つまり、彼等も統率がとれず、力の根幹にある聡美さんが妨害を続けていたって事なのね。
彼等が出現すると同時に人知れず止めていた……。
幸成くんだけじゃない。
みんなががんばって、この世界を守ろうとしていたんだ。
「力の本質が同じなので不確かな状態が過去と未来で起こり、資料が見つからない結果で集束してしまっていたみたいで……」
「良い結果だけが残ると資料が見つからず、異世界に日本人が来ただけで終わってしまっていた訳ね。確かに……そうなっても不思議じゃないわね。悪い結果だけとなると抵抗する術が無い」
「両方が噛み合う時が無かったのかよ」
「無いのでしょうね……」
「はい。そして一番の転換期である幸成君がいる時のクラスメイトである皆さんが異世界にまた来る事によって彼等は大幅に妨害される事になりました。私達のいる時代が……一番、彼等の時代に近く、同時に遠くする事の出来る時代だからです」
「だから浮川さんの話で、時代が進んで行ったのか」
なるほど、小野くん達の野望には大活性を利用しなければならない。
だけど、私達のいる時代よりも過去は幸成くんが全部使ってしまっている。
そして私達が思い描く未来では彼等の計画が伸びる。
いえ、阻止出来ると言っても過言じゃない。
だけど、それ故に矛盾した出来事が発生した。
未来から来たタイムマシンを利用するのは良いとしても、あの研究所へ行く事を無かった事にすると私達も目標が揺れる。
「クラスメイトが増える毎に安定して行ったのは、人が増える事で未来が確定して行った結果ね」
「そうです。ただ、同時に彼等にも手があります。彼等も今は時空耐性を持っている……」
「ここから生きて帰って未来を固定させるのはダメなのか?」
聡美さんは頷く。
「時空耐性はある意味、時間の影響を受けない要素でもあるんです。大活性のエネルギーを奪えなくても、時間を掛けて余波のエネルギーを貯めて……儀式の再生を出来る様です」
……厄介ね。
どうすれば止める事が出来るの……。
「私達に邪魔されて未来が固定出来ないなら、更に過去を変えようと暗躍する。結果、ここで私達と交差する事になりました」
無かった事になった残留物がいまだにしつこく留まって、元の歴史へ……いえ、もっと悪い歴史へと変貌させようとしている。
私達が幸成くんを迎えに行く事が達成するという事は、萩沢くんの発明によって野望を大幅に妨害される事に他ならない。
小野くん達からすれば邪魔をするはずよね。
「あの私は、私と出会ってメッセージを伝えるために力を行使し続けました」
「どうにかして助けられねーのか?」
聡美さんに胸に手を当ててから目を瞑り、勇気を出す様に私達に尋ねる。
「……全ての黒幕だった私を、皆さんは助けたいですか?」
「うん」
最初に頷いたのは実。
「確かに、あの聡美ちゃんは悪い事をしてしまったのかもしれない。だけど、それは本意ではないし、やらされていたに近いんでしょ? とても反省をしていて、しなくても良い罰を自ら被っていると私は思うな」
「ガウ」
ボスさんも意見は同意みたいね。
「俺もだ」
茂信くんがハンマーを片手に答える。
「俺達は巻き込まれた様なものだ。彼女も犠牲者じゃないか。なら仲間だし、あの幸成が助けたのなら俺も文句は無い。全力で助ける。聡美さんのお陰でここまでこれた訳だしね」
「俺は……彼女の事を許せるかなんてわからない」
依藤くんが飛んでくる攻撃を弾きながら答える。
「だけど、羽橋が力になってみんなを助けて、彼女も助けられた事実は確かなんだ。そして俺は彼女に罪なんて無いと思う」
「隼人は前しか向いていないわね」
黒本さんは呆れるように依藤くんの背後を守る様に言う。
「良い迷惑だと思う所が半分、新たな刺激を楽しんでいるのが半分ね。それは小野君の所為であり、羽橋君や飛山さんのお陰でもあるわ。彼女は黒幕に操られていただけだし、原因は異世界側にあっただけで十分。人の業と思って我慢するわ」
「まー……異世界での日々は楽しいしな。日本で高校生をしていた時よりも生き甲斐は感じるぜ。その原因が聡美ちゃんだって言ったからって恨む気はねーよ」
「ニャアアン」
「ああはいはい。ミケにも会えたしな」
萩沢くんも意見は同じって事ね。
「だが小野、お前は別だ。お前はみんなを殺したいから巻き込んだんだろ? 利用されたとか関係ねーだろ。お前等は……召喚事件の被害者じゃねえよ! 加害者の会だ!」
加害者の会……冗談にしか聞こえないけど、聡美さんから聞いた経緯を整理するとあながち間違いじゃないわね。
囁いたのは呪われた聡美さんかもしれない。
だけど、その甘い言葉に乗ってクラスのみんなを巻き込んだのも彼等。
そんな彼らが幸成くんによって元の世界に戻されただけ。
自分の人生が上手くいかなかったからって、なにもかも聡美さんの所為にするのはお門違いよ!
「私も助けたい」
これは心からの言葉。
私の正義感。
身勝手な事なのかもしれないし、この正義感で余計な事を招いた自覚があるからこそ、あまり強く言わない様に意識していた。
だけど、これは別だと私自身が確信している。
「聡美さんも結局は犠牲者よ。こんな所で、あんな人達に囚われているのが罰だなんておかしい! 貴方がそこで自虐していたって何にもならない! 幸成くんだってそう思うに決まってる!」
幸成くんがどうしてもう一人の聡美さんを日本に帰したのか。
それは幸せになってほしいからに決まっている。
自分が元の世界に帰れないかもしれないって、幸成くんは思っていたはずだから。
だから聡美さんが不幸になっているなんて、あっちゃいけないの。
そんな罰、私が……みんなで壊す。
誰かの為にがんばっている人を不幸なままでなんて終わらせない。
幸成くんも、聡美さんも、みんなみんな、助ける!
そう決めたの!
「さっきから正義面してウゼー連中だ! 俺達に指図でもする気か!?」
「前にも言ったわね。何度でも言うわ。指図じゃないわ、軽蔑しているのよ!」
森の中での出来事が思い出されるわ。
あの時、谷泉くん達を殺してヘラヘラしている小野くんへ私は感情のままに罵倒した。
この思いを間違っているとは思わない。
余計な事をして結果、私は死んでしまったけれど、後悔は……無かった。
「毎回毎回ウゼー女だ! 羽橋の野郎に股を開くこのビッチ女め! お前なんか生きてる価値ねーんだよ!」
「それはあなたが決める事じゃないわ」
「そうだそうだ! 女の子に好かれたいなら好かれる努力をしろよな!」
私の言葉に賛同して、萩沢くんが煽る様に言った。
……上手くは行っていないけど、萩沢くんは好かれようと努力はしている。
ああだこうだ言いながらも手伝ってくれるし、例え下心があったとしても女の子には優しい。
「俺に優しくしない女はゴミなんだよ!」
「貴方に優しいというのは、あの森での大塚さんの事を言っているのかしら?」
黒本さんが質問している。
……そうなんでしょうね。
女の子に様付けで呼ばせる様な、独善的な行動を取っていたんだもの。
「ああそうだ。アイツと上手く行かなかったのは異世界じゃないからだ!」
「……おめでたいわね」
「んだと!?」
「貴方みたいな人を人と見ない野蛮な猿を好きになる人なんていないわ。あれはね、猿をおだてているだけ。貴方はおだてられて気分が良いんでしょうけど、安全な所に出たら貴方なんてお払い箱よ」
それは……大塚さんの性格を考えるとありえるわね。
あの時は色々と精神的な問題で誰かを頼るしかなかった。
そうやって不安を解消している人は沢山いたもの。
でも、力での支配は恋や愛にはならない。
例え強い力や権力があっても、その人の性格が悪ければ誰にも好かれたりはしないのよ。
仮にそれでも愛を囁くとしたら、騙そうとしているか、それこそ洗脳ね。
「うるせえ! いい加減、遊びもこれくらいにして本気で行くぞ!」
学校中に存在していた瘴気が加害者の会に向かって集約して行く。
肌でわかる……これは……今の私達の手に余る相手だって。
だからって心で負けたりはしない。
私達は勝つ。