吹き溜まり
「あの……」
そこで聡美さんが恐る恐ると言った様子で答える。
「……その、この建物が何なのか、感覚ですけどわかりました」
「何なんだ?」
茂信くんが眉を寄せ、辺りを警戒しながら聞き返した。
「ここは……幸成君が無かった事にした物の吹き溜まりです」
吹き溜まり?
無かった事にしたのに吹き溜まりって?
「なるほどね。時間を改変するとそういう事が起こるのね」
黒本さんは理解した様子で頷いている。
「どういう事だ?」
「パソコンとかに例えてみると良いかもしれないわね。プログラムを更新した場合、古いプログラムを捨てたりするんだけど、中には残っている物もあるでしょ? そう言った物が集まったみたいな場所なのかもしれないわね」
「幸成が世界を更新した所為で使われなくなった部分?」
「並行世界の聡美ちゃんが作り出した物に似てるのもその所為か?」
「おそらく……」
「とはいえ、時空間はパソコンとは異なるでしょうから私の例えが正解かどうかはわからないわ」
つまり幸成くんが除去した悪い物が溜まっている。
だから吹き溜まりという事。
……嫌な物が集まっているわね。
「時空転移で歴史を変えると時空間にそんな場所が出来てしまうのかもしれないわ。いえ、もしかしたらタイムパラドックスなんかはここで一旦集束しているとか……もしくは、私達が取り戻した記憶はここから再度流れ出した物かもしれないわよ」
黒本さんが推測する。
こんな場所から記憶がやってくる?
「うげー、俺達の記憶ってここから来たのか? 嫌じゃね?」
「もっと綺麗な所から来てほしいなー。ね? みんな」
実が願望を言ってる。
確かにそうね。
こんな廃墟から私達の記憶が来たとかは出来れば考えたくないわ。
「あくまで可能性よ」
「その点はわからないです。ただ、並行世界の私が作り上げ、無かった事になった物がここに集まって、こんな空間を作り出したのだけはわかります。力の流れも……たぶん、めぐるさんしか日本に帰れないのはここが邪魔をしているからだと思います」
「え? そうなの?」
それってかなり重要な情報なんじゃない?
ここをどうにか出来ればみんなを自由に日本へ帰せる。
……幸成くんを見つけた後、もう一度来る必要があるかもしれないわね。
「はい。行き……日本側から来る場合はこの空間自体は認識できません。ですけど異世界から日本へ行く場合、防壁となって邪魔をしているのかと……思います」
「じゃ、ここでなら飛山さんは日本転送で帰れるかもしれないのね」
「こんな所で使ったらどうなるかわからないってさっき言いましたよ?」
「試せとは言わないわよ。とはいえ、浮川さんの話が本当だとするのなら、ここは日本へ行く事への障害って事になる。飛山さんが居なかった時に起こった忌むべき日本人って伝承とも関わりがあるかもしれないわね」
……そうなのよね。
本当にここが色々な物の吹き溜まりなのだとしたら、その原因があるかもしれない。
「はい……後は……気の所為かもしれませんけど……」
「何があるの?」
「……すいません。確証が持てないのでもう少し待ってください」
「わかったわ」
「面倒くせー。爆弾で壊せれば良いのによ」
萩沢くんの意見には賛成したいわね。
何だかんだ言って時々まだ人影が襲いかかってくる。
勝てない程じゃないけれど、何か厄介な攻撃を時々放ってきているみたい。
聡美さんが相手の攻撃を共鳴で弾いている様に見えるのよ。
「ぐ……イツまでも、ジャマを……」
そう言ってシャドウドッペルゲンガー達は消え去る。
一体……何がこの建物に隠されているのか。
その謎を解かなきゃいけない気がしてきたわ。
「お前ラさえ……来なけれバ!」
「さっきから話をしなさいよ! 恨み節を言われても知らないわよ!」
私も送電で現れた敵を感電させて霧散させる。
「勝てない相手じゃないのが救いね。いえ……浮川さんが厄介な攻撃を防いでくれているのでしょうけど」
「はい……それと、彼等はタダの分身体です。本体は……こっちだと思います」
聡美さんの導きのまま私達は進み続けた。
分身体?
聡美さん、貴方は何を理解したと言うの?
その道中、ハーフゾンビと呼ばれる人体模型みたいな敵と遭遇した。
「うえええ……気持ち悪」
「獲物が来たぞ……オレにチカラを捧げろ! 寄コセ、クズ共!」
しかも見覚えが無いけど、私達と背格好が良く似た人が邪悪な笑みを浮かべて襲ってくる。
「ナンでだ! ナンでオンナを洗脳が出来なくて、能力もステータスもチカラも奪えないンダ!」
そんな風に叫んでいるハーフゾンビをミケさんが喉笛を剣で貫いて萩沢くんを守った。
「ニャ!」
「オノレエエエエ……!」
ドサッと倒れるけど、気持ち悪い。
そこまで強くないから大丈夫だけど、やっぱり不気味ね。
そうして会話を切り上げて進んで行く。
すると……。
「なぁ……ここって俺達のクラスだよな?」
やがて私達は学校の……私達のクラスへと辿り着いた。
そこには見覚えのある、怪しげな魔法陣が部屋中に刻まれていた。
「これは……」
「あの時の魔法陣?」
そして部屋の真ん中に怪しげな歪に歪む黒い球体が浮かんでいる。
見るまでも無い。
肌に張り付く様な……嫌な感覚が全身から湧き上がってくる。
「アレは……」
聡美さんが目を瞑り首を振る。
「皆さん、戦闘に備えてください! 今までの比じゃない程強い敵が出て来ます!」
「わかったわ!」
私の合図に合わせてみんな思い思いの武器を取り出して構えた。
黒い球体へ辺りに漂う瘴気とでも呼べそうな物が集まって行く。
一体何が出てくると言うの!?
ボコっと……黒い球体から泡の様に膨らみが引っ付いたまま弾ける。
「よお」
そこには……邪悪な笑みを浮かべた小野くんの頭が顔を出す。
凄く不気味な光景。
小野くんだけあって警戒を解けない。
「小野!?」
「久しぶり……とでも言えば良いのか? どうもここは時間の感覚がわからなくてなー」
「なんで小野がここにいんだよ!? アイツは今頃、犯罪者って事で収監されたはずだろ!?」
「あ!? そりゃあ収監されたに決まってんだろ!」
黒い球体から幾重もの鎌が出現して私達に向かって発射される。
「はぁ!」
「ニャ!」
それを前衛に立つ依藤くんとミケさんが鎌を叩き落とした。
「いきなり何すんだ!」
「何すんだ! ってお前等を殺そうとしてるに決まってんだろ! ふざけた事ぬかしてんじゃねえぞ!」
「ふざけてるのはお前だ!」
「また何か企んでいるって事で良いの!?」
クラス転移事件は小野くんが実質実行犯でみんなを巻き込み、最終的には気に入らないクラスメイトを皆殺しにするつもりだった。
こんな所に潜んでいるって事はまた何か企んでいると思って間違いは無いはず。
「企む? それはお前等の事だろ! いや、羽橋が一番の首謀者か! 俺の邪魔をしやがってよ! ぜってー許さねえ!」
「私達が何を企むって言うのよ!」
「俺の……いや、俺達の邪魔をしようって事だろうが!」
ボコボコと黒い球体から小野くんの様な顔付きをした人達が顔を覗かせて私達を睨みつける。
その中には谷泉くんみたいな人や、知らない人も沢山いる。
ただ、研究所の写真で嘘くさい笑顔を見せていた人がいるのを発見した。
……まさか。
「邪魔? 俺達がお前等の何を邪魔してるって言うんだ」
茂信くんが小野くんを指差して尋ねる。
「わかんねえのか? ったくよー! わかんねーのか? お前等は息をしているだけで俺を、俺達を不愉快にしているんだ! その意味を察しろよ!」
「知るか! 勝手に不愉快になってろ!」
「……私達は人の心を読む事が出来る能力者じゃないよ」
萩沢くんが強く言い、実が冷淡に答えた。
実は普段ボーっとしてる所があるけど、今は不快そうに小野くんを睨んでいる。
私だって、この小野くんを相手に良い感情は湧かない。
そろそろ投稿数を増やしていこうと思います。