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MDバーガー

「さてと……」


 俺は萩沢の頼み通り、MDバーガーへと足を運こんだ。

 目立つMのマークが目印だな。

 最近じゃ度重なる不祥事で色々と客離れが起こっているMDだが、それでも時々無性に食べたくなるのがMDバーガーだろう。

 地味に高くて学生の財布に優しくないけど、たまには良い。


「いらっしゃいませー! ご注文はなんでございましょうか?」

「MDバーガーセットを五人分ください。お持ち帰りで」

「はい。ご一緒にナゲットはいかがでしょうか?」

「いえ、今回はこれだけでお願いします」

「わかりましたー」


 愛想の良いアルバイトの店員に注文をして、お金を払う。

 ナゲットはちょっと前に問題あったしな。

 それに萩沢はナゲットも、とは言わなかった。

 さて、商品を受け取ったら茂信の工房に戻るぞ。


「MDバーガーセットを五つご注文のお客様ー」

「あ、はい」


 商品が入った袋を受け取る。

 右手も左手も物だらけだ。

 背負っているのもある。


 ……その割に軽いな。

 言っては何だが、俺は帰宅部だったし、特別筋肉が付いている訳でもない。

 この量を持ち運べる程の腕力は無かったはずだ。

 ……もしかして、Lvって日本でも影響あるのか?

 う~ん、よくわからないが、役得という事にしてこう。


 現在俺のLvは5だ。

 Lvが5になった程度でこんなに変わるのかと驚く。

 今まで力を使う機会が異世界だけだったから実感がなかったって事か。


 さてと……公共のトイレにある個室に入った後、俺は早速能力を発動させ、茂信の工房をイメージする。

 ぶっちゃけ、千里眼が欲しいな。

 詳しく見えないと怖い。


 やがて砂時計が落ち切り、俺は異世界に舞い戻った。

 昼間は魔物退治で今は買い出しか……一体どうしてこんな生活をする羽目になってしまったのやら……。

 

 スッと転移を終えて着地する。

 地面ピッタリだと足が地面に嵌りそうで怖い。


「ただいま」

「おかえりってどっか行ってたみたいな言い方してるが、どうしたんだよ?」


 なんか茂信が工房の扉の方を見てた。

 で、見覚えの無い魔物の解体した物が袋詰めされている。

 雰囲気的に谷泉達がやって来た後って所かな?

 あっぶねー!

 こんなの持って居たら何してるかばれる所だったぞ。


「少し工房の外に出てたろ」

「ああ、そうだったな……って良い匂いするな」

「わかるか? 日本から取り寄せ終わったんだよ」

「おお!」


 俺は辺りを見渡す。

 萩沢も実さんもめぐるさんもいないな。


「冷めちゃうぞ」

「呼んでくるから隠しておいてくれ」

「あいよ」


 茂信が工房の窓を閉めて出て行く。

 やがてすぐに萩沢を筆頭にみんなが顔を出す。

 茂信は工房から外を入念に確認してから窓を再度閉めてから俺が隠しておいたMDバーガーセットの袋を広げた。


「おおおおおお!」


 萩沢が声を出す。

 みんなでしーっと指を立てると、萩沢も申し訳ないと言う態度で頭を下げてから袋に手を伸ばして広げ、ポテトを頬張り、バーガーの包み紙を取って匂いを嗅ぐ。


「嘘じゃないよな……能力を使ってそれっぽく見せたとかじゃないよな?」

「俺はタヌキかよ!」


 まあ世界移動による認識阻害はその一種みたいなものだが。


「安心しろ。俺が日本から……取り寄せた奴だから存分に食え」


 と言ったんだが、既にポテトを食っていた。

 ゴクリと萩沢所か茂信や実さんさえ唾を飲み込んでいる。

 まあ、味が悪くない様にしていると言っても、連日よくわからない魔物の死骸しか食ってないからなぁ。

 気持ちはわからなくもない。

 俺が頷くとみんな揃って小声で言う。


「「「いただきます!」」」


 貪る様に食べるその光景……ああ、日本の物にみんな飢えているんだなぁ。

 と、みんなが夢中で食べている間に俺は財布に入った金銭をポイントに変換しておく。

 あ、地味に魔力の消費があるなぁ。

 後で実さんに回復してもらおう。


「くー……今までで一番美味いかもしれねー!」

「そうだな。久しぶりに食うと美味い。サバイバル生活をしていたら尚更だ」

「うん、凄く美味しいです。でも、こういうのも良いですが、お米が食べたいですね」


 実さんも満足そうな顔をしつつ、提案する。


「それ位なら出来なくはないよ? コンビニのおにぎり? お弁当とか温めで取り寄せる事も出来るよ?」

「この際、お米を頼むのも良いかもよ? 炊けば良いし」

「調理はなー……ばれそうになるかも?」


 めぐるさんの意見に茂信が答える。

 などと話しているのを無視して、萩沢が言った。


「ゲームは買えるか?」


 いや、ゲームって……萩沢、お前な……。


「まあ、買えなくは無いけど……」

「そもそも充電は出来るのか?」


 出来るとは思う。

 俺が持って帰って充電器で充電させれば良いだけだからな。


「食べ物はともかく、ゲームは不味いだろう」

「うん。そういう嗜好品は生活に余裕が出来てからで良いんじゃないかな?」

「私もそう思います」


 さすがの茂信やめぐるさん達も突っ込んできた。

 まあ、この時点でゲームを買ってくるとかありえないよな。


「現在やってる事がゲームみたいなもんだしなー!」


 いや、冗談のつもりなのかもしれないが、それは笑えない。

 全員、半笑いしているぞ。

 しかも萩沢まで半笑いだ。

 自分で言っておいて暗くなるなよ。


「幸成、武器の辞典とか鍛冶の本とかあるか? 手に入った物で作れる物が増えるから、そういった書物も役に立つかもしれない」

「わかった。取り寄せてみるよ」


 確かに茂信の知識に比例して、作れる武器が増える可能性は十分ありえる。

 後で本屋に行って調べてみよう。


「とはいえ、MDバーガー最高!」


 ペロッと食べきった萩沢が両手を合わせて言い切る。


「明日も食いたい」

「ああ、銀行のカードも使えたから下ろして……変換しておいた。茂信と萩沢に半分ずつ渡しておくな」


 俺はポイントを二人に交換要請を出して送る。

 これまでで最大級に膨大なポイントになった。


「おお!」

「何か欲しかったら俺に言ってポイントをくれ。取り寄せしておく」

「サンキュー! しかし……随分とあるな。これだけあるならそれなりの装備が作れる」

「メタルタートル素材のもか?」


 俺の問いに茂信は頷く。

 というか、それ以前にメタルタートル製の装備はどんだけポイント使うんだよ。


「ただ、メタルタートルの素材を使うと精々一本が限界かな」

「こんなにポイントがあるのにか?」


 間違いなく十万ポイントは軽い。

 なんせみんなの貯金を変換した訳だし。

 ちなみに俺の金も入っている。


「ああ、後で調べてみるが、クロスボウとか取り寄せられるかやってみようと思う」

「そういや、MDバーガーに目が行ったけど、頼んだ物を買ってくれたか?」


 俺は無言で親指を立てる。


「そこの箱の中に入れてある。確認してくれ」


 茂信達は揃って物を調べ始めた。


「うん。これだけあれば……クロスボウか、あれば便利かもしれない。幾ら必要なんだ?」

「えーっと……」


 二万くらいあれば大丈夫か?

 指を二つ立てて、茂信達から二万ポイント受け取る。


「日本で調達が難しい奴は時間が掛るみたいだ。待っていて欲しい」

「了解……どっちにしても構造が複雑な奴はポイントが高めになる。幸成、任せたぞ」

「おう」


 とまあ、本日の収穫であるポイントも茂信に預けて俺達は飯にありついた。


「一個余るけど……幸成くんは食べないの?」


 最後の紙袋をみてめぐるさんが訪ねてくる。

 というか萩沢が狙っているんだが。

 咄嗟に五人分頼んでしまったけど、よく考えたら俺のは必要なかった。


「俺は大丈夫、食い足りない奴が食べて良いよ」

「じゃあ俺が――」


 手を伸ばした萩沢の手をめぐるさんが軽く叩いて俺に袋を差し出す。


「ダメだよ! ちゃんと幸成くんも食べなきゃ」

「大丈夫だって」


 これから家に帰って親が用意した晩飯を食うんだし……とはさすがに言えない。

 俺の事を心配してくれているんだし。


「むしろ今日は働きづめのめぐるさんや実さんに食べてもらった方が俺も嬉しい」

「働きづめなのは幸成くんもでしょうが」


 めぐるさんが何か不機嫌になっていく。


「そうだな。幸成はちゃんと食わなきゃいけないぞ。ケロッとしてるから忘れていた」


 あー……この空気は俺が食べなきゃダメな空気。

 しょうがない。


「わかったよ」


 俺はMDバーガーの入った袋を受け取り、みんなの前で食べる事になった。

 まあバーガー位ならおやつみたいなもんだ。

 実際、歩きっぱなしでカロリーを消費しているだろうし。

 ……カロリーとか、ダイエットしている訳じゃないぞ。


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