タイムマシン
空間が歪み雷光が室内を何度も照らす。
「な、なんだ!?」
「何が起こっているんだ!?」
「誰か何かしたのか? 萩沢に制裁を与える為に!」
え? これって誰かが能力を使っているの?
「飛山さん落ちついて!」
「そうだ! めぐるさん落ちついて!」
「私じゃないわよ!」
なんで私が速攻で犯人扱いなのよ。
見た目が送電みたいだからでしょうけど、非常に不服だわ。
確かに短気な方だと思うけど、能力を使ってまで制裁したりしないわよ!
まずは話し合いと言うか、説教が先だもの!
「じゃあ誰がやっているんだ!?」
「逃げるか!?」
なんてみんな大きく下がろうとした次の瞬間、空間……いえ、時間の壁を突き破ってタイムマシンが現れた。
何故、タイムマシンだとわかったかって?
それは……そうね。
「うお……すげータイムマシン、これ以外の連想をさせない形状をしてるぞ」
「しゃららら出来ると良いなー」
「実、黙って」
それは危ない。いろんな意味で。
後、新旧混ざっているわ。
微妙に歌詞や音程を外しているのは何か意図があるの?
「この形状なら確かにタイムマシンだとしか思えないな」
「さすが萩沢、ミケを連れているだけの事はあるな。よくわかってやがる」
そう……私達の目の前にはあの、国民的人気アニメのタイムマシンとそっくりの道具が現れた。
「なんで兄の方なんだよ。普通は妹の方だろ」
いや、その基準はわからない。
ともかく、私達の目の前に……黒本さんの提案通りにタイムマシンが現れた。
萩沢くんがタイムマシンの操縦席に恐る恐る腰かけて、スイッチを押す。
するとタイムマシンが起動したのか、ウィンドウパネルが光った。
「うえ……これ、マジでタイムマシンじゃねえか? あ……」
チーンと操縦席の下に引き出しが出て操縦マニュアルが出てきたみたい。
萩沢くんが読んで行く。
みんな興味本位でタイムマシンを思い思いに触れる。
「あ、脇の燃料タンクはあんまり触らねー方がいいみたいだぞ。大活性の魔力とエネルギーを全て凝縮した物だって書いてある」
「い!?」
「はぁ!?」
「ちょっと見せなさい……ふむふむ」
黒本さんがマニュアルを広げて一読して行く。
「どうやらこれは……萩沢君の一族が研究を継続して作り出し、初代の遺言に従って送りだした物みたいね」
「俺の子孫! じゃあ美少女がいるはずだな! なんでいねーんだ!?」
「ニャー!」
「えーっと……人体の時空耐性関連は出来ておらず、その時代に存在する能力者の力を借りろと書かれているわ。ご丁寧に共鳴の消費魔力を下げてくれる道具付きね」
聡美さんにみんなの視線が向く。
「時間の壁を超える際には共鳴しろって事ね」
「がんばります!」
「なんか拍子抜けするほどアッサリと手立てが来たな」
「そ、そうだな」
「冗談にしか思えない手立てで来るとか、世の中何が起こるかわからねえな」
みんな揃ってタイムマシンを見て黄昏ている様な気がするわ。
私だって同じ気分よ。
そう思っていると依藤くんが萩沢くんに言った。
「萩沢、何だかんだ言いながらもタイムマシンを作ったって事は、友情に篤い男だったんだな!」
「え? ま、まあな!」
依藤くんが号泣しながら萩沢くんを褒め称えている。
萩沢くんの方は……若干引き気味と言うか腑に落ちないって様子ね。
ところで『え?』って何?
「性転換薬は無いのね」
ポツリと黒本さんが呟く。
確かにあれだけ豪語していたのにどうして一緒に入れなかったのかしら。
そう考えていると依藤くんが力を込めて言った。
「きっとタイムマシンを優先してくれたんだ! な?」
「あ、ああ! なんつーの? 出来ないかもしれない事をみんなにホイホイ言うのも無責任っていうか?」
「ニャー」
これ、私が性格悪いからなのかもしれないけど……萩沢くんがその場の雰囲気に合わせている様に見える。
自分の発言に引っ込みが付かなくなった人と同じ反応だと思う。
とはいえ、実際にタイムマシンが来た訳で。
うん、きっと萩沢くんなりに幸成くんとの友情を重んじてくれたのね。
「じゃあ私が推理してある羽橋君の所在時間をセットしてみましょう」
「羽橋が厄介事に巻き込まれていたとしても、それを羽橋自体が解決した後の時間に行くようにしてくれよー」
「あのね……」
「萩沢、お前な……」
茂信くんが注意する。
幸成くんが困っているかもしれないのに、どうしてその後なのよ。
「なんだよ。クマ子ちゃんとルシアちゃんがいるんだから大丈夫だろきっと!」
「出来れば幸成が俺達と同じくらいの年齢の時に出会えるようにしてくれよ。老人の幸成には会いたくない」
「わかっているわ。おそらくこの時代で良いわ」
と、黒本さんが装置を弄ってセットした。
「後は行き来の燃料だけど……推定消費は大丈夫そうね。相当なエネルギーを貯め込んであるみたい」
黒本さんが燃料タンクの方に目を向ける。
エネルギーの目盛りは満タンを指しているけど、時間移動にはどれ位の消費があるのかしら。
「この燃料タンク一つでどれだけのエネルギーを入れてあるのかしらね。羽橋君は浮川さんの話じゃ一回の時空転移でそれぞれの大活性までしか戻れなかったそうだけど」
「相当貯め込んでるんじゃねえの? むしろ使わずにいると炸裂してスゲー事になりそうだな」
「確かに長時間使わずにいると爆発するから気を付けろとも書かれているわ」
「うへぇ……とんでもねー」
「……仮に大活性のエネルギーを溜めるように組みこまれていたとしたら未来で起こる争いの種はしばらく潰されているでしょうね」
黒本さんがポツリと呟いた言葉が印象的だった。
「もしかしたら時代が伸びたのって萩沢君の一族が大活性のエネルギーをタイムマシンが完成するまで独占していたからでしょうか?」
聡美さんが黒本さんの言葉に推理している。
うーん……それはどうなのかしら?
それだと萩沢一族が技術者の家系で……ってあの研究所もそんな感じだったわね。
その後に研究所を作ったとすると、技術が失われている様に感じるわ。
というか、この燃料タンクにそこまでの技術が使われているかもしれないと思うと恐ろしいわね。
正直、ミサイルにも見える形状をしている。
見た所、二本ある燃料タンクの一つが古い。
運転席の方にみんなの意識が向かっている中、燃料タンク周りを確認してみる。
あれ?
私自身の能力の影響か、古い方の燃料タンクの後部に妙な空洞があるのがわかる。
巧妙に細工されているけど、これって箱じゃないかしら?
鍵とか掛かっていないし、簡単に外せそう。
蓋を外して箱を出し、顔を上げる。
「ねえ――」
そう思ってみんなに声を掛けようとすると……強烈な違和感を覚える。
な、何? 何かが……起こってる。
すると聡美さんに肩を叩かれた。
顔付きが真剣だ。
そしてすぐに共鳴させられた。
「どうした――」
の? と言う前に私は事態が急変している事に気付く。
タイムマシンが点滅していて、今にも消えそうになっていた。
みんなその違和感に気付いていない。
「これは一体……」
「わかりません。ただ、飛山さんが屈んだ辺りでこうなってしまって」
この隠してある箱が未来に大きく関わってしまうって事?
触れない様にすると、点滅が収まり始める。
……開けると爆発するとかじゃないみたいだけど。
そーっと隠してある箱へ手を伸ばすけど、変化は無い。
みんなに声を掛ける事が原因?
「これが原因って事よね」
「はい」
この人数の中で私が調べて気付かれないってのもある意味凄い。
まあ、みんな揃って運転席に夢中だもの。
物がタイムマシンだし、説明書とか気になるんでしょうね。
だけど私が見つけた箱をみんなに話すと、タイムマシンが消えてしまうらしい。
……どんな重要な事がこの中に入っているの?
箱は凄く軽くて……能力の影響でわかる空間把握によると、そんな大層な物は入っていないはず。
紙だと思う。
聡美さんと一緒にみんなの輪から少し離れて、背を向けて箱をそーっと開ける。
うん。特に仕掛けがある訳じゃない。
中には数枚の写真と手紙らしき物が入っていた。
後……何かのメモ? レシピの様にも見える。
どれもかなり古びた物ね。
掠れていてボロボロ。
まずは手紙の方を確認する。
……読めない。
ただ、これって多分、萩沢くんの文字だと思うわ。
見覚えのある形状をしているからわかる。
研究所で何度か見た物と同じ文字。
次に写真。
一枚目、萩沢くんに良く似た雰囲気の長髪の美少女が不機嫌そうに腕を組んで仁王立ちしていて、ミケさんが凄く楽しそうにじゃれている。
背景に茂信くんの工房が見えるわね。
煙が上がっているけど、大丈夫なの?
二枚目、ミケさんが何かダンディーな付け髭を着用して紳士みたいな衣装でウェディングドレスを着た一枚目の美少女と結婚式を挙げている。
美少女の方は満更でもなさそうだけど、どうしてこうなった? みたいな顔をしているわね。
三枚目、猫耳が生えた赤ん坊を抱いている美少女の写真。
もちろん、背後にはミケさんが幸せそうにしている。
美少女も幸せそうにしている。
……これだけだったわ。
並行世界の萩沢は犬耳派です。