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 城下町の集会所に戻った私達は今回の調査で分かった事を反芻する為に用意した黒板に聡美さんがメモをする。

 時空耐性を持っている聡美さんが書く事で未来と過去との変化をしっかりと認識する為ね。


 1、手立てになりそうな壊れたタイムゲートらしき物を発見した。

 2、未来では召喚された日本人が暴れる現象が確認されている。

 3、幸成くんを迎えに行く事は、現状、エネルギー関連が確保できないので無理。


 簡潔にまとめるとこんな所よね。


「未来で召喚された日本人が暴れるなら今の俺達がどうにかすれば良いんじゃないのか?」

「そうね。いずれ来るその問題を私達が潰せば自然と解決はするかもしれないわ。ただ……手立てとしてタイムゲートが消えるかもしれないわよ?」

「どう言う事だ?」

「だって原因が取り払われちゃうでしょ?」

「確かに……未来を変えることで結果的に過去へ来たあの施設が消えてしまうだろう。やるせない問題であるのは確かだ」


 学級委員が納得するように言う。

 クラスメイトは聡美さんの方へ視線を向ける。


「浮川さんに頼っても難しいわね。タイムゲートの構造を一から覚えて作りなさいと言う様なもんなんだから。設計図があったとして、能力で保護しても難しいと思うわよ……模写をしたらどうなるかもあるけどね」

「そ、それが私の役目なら……がんばります。一生を賭けてでも覚えて見せます」


 意気込む聡美さんに私は手を置いて無理をしない様にと首を振る。

 同様に黒本さんが優しい目を聡美さんに向けた。


「気にしないで……とは簡単に言う事が出来る話ね。あくまで手立ての一つでしかないわ。難しい問題だし、国家事業にもなるわ。おいそれと命令出来る問題じゃないわね」


 それから黒本さんは私を見て、クラスメイトのみんなを一度見る。


「この問題の解決は世界の未来と羽橋君を天秤に掛ける事になる。みんなはどうしたいかしら?」


 確かに……未来で日本人が召喚されて世界に害を成すと言う事実が判明した今、幸成くんを迎えに行くのは手立てがあってもハードルが大きく跳ね上がる。

 遥か未来の人々を犠牲にしてタイムゲートを作らせて、それを利用してどうにかするヒントを得ようとしているに過ぎない。


「飛山さん、貴方はどうしたい?」


 黒本さん、学級委員、茂信くんが揃って私に決断を迫ってくる。


「どうして私に?」

「私達が異世界に戻ってこれたのは浮川さんが飛山さん、貴方に声を掛けた事からよ。そして浮川さんは飛山さん、貴方の決断を求めている。決定権は貴方にあるわ」


 ……そうよね。

 全ては私のワガママから始まった異世界転送。

 もうクラス召喚では無い。

 みんなの決意を聞いていたし、みんなの合意の元に、みんなここにいる。

 上手く、タイムゲートを解析出来れば幸成くんの元へ行く近道になるかもしれない。


「貴女が仮に未来を犠牲にすると言っても、私達は協力する」

「未来の事は未来の人達に任せる、という考えだってある」


 ……私の正義感と幸成くんを迎えに行くと言う決意が天秤となって揺れる。

 人道的に考えれば未来の為にそんな事をする訳にはいかない。

 だけど、幸成くんへの元へ行く手立てを手放す事になりかねない。


 ただ……仮に未来の人達を犠牲にして、幸成くんを迎えに行った私を……幸成くんは許してくれる?

 彼ならきっと、許してはくれると思う。

 だけど、私はその選択をした自分を許せない。


「私は……未来の人達を犠牲になんてしたくない。もっと別の、良い手立てがある事を探します」


 するとクラスのみんなの顔は若干晴れやかになる。


「だよな。勿体ないとは思うし、手段なんて選ぶなとも考えはするけど、それをやっちゃ小野や谷泉と同じだと思う」

「そうね。効率と人道を天秤にかけて効率を取る様な事はしたくない」

「そもそも、今決めなきゃいけない問題じゃないんだ。本当に手立てが無くなるまでやって行こうぜ!」


 みんな……私のわがままに付き合ってくれてありがとう。


「じゃあこの案は未来の為に大活性をどうにかして行こうと言う事で決定ね」

「「「おう!」」」

「「「ええ!」」」


 みんな同意してから会議は続ける。


「かと言ってさー、他にどんな手立てがあるわけ?」


 萩沢くんが若干けだるそうに言った。

 その態度、やめてほしいんだけど。


「……世界各地の遺跡を調べたり、魔物を倒して羽橋君と似た様な拡張能力を得る。同様にLvを上げて出現するのを待つと言うのはどうだ?」


 依藤くんがそう提案した。

 幸成くんが覚えたという時空転移。

 それに近い能力が存在する可能性は確かにある。


「未来から来た遺跡じゃなくても過去に既に誰かが研究していたかもしれない。そこに頼るんだ!」

「確かに僕達には無数の可能性が眠っている。もしかしたらアッサリと時間を超える能力者が出てくるかもしれない。みんなで修練しLvを上げるのは前向きだし、建設的だね」

「それだけじゃなく、Lvを上げれば次元を切り裂く技とかを拡張能力で得られるかもしれない。俺が羽橋を迎えに……」


 依藤くんがやる気を見せている!


「一生修業かよ! 無茶言うなよ! あんなLv四桁行った奴を真似出来るか!」


 あ、野次が飛んだ。

 気持ちはわかるわ。

 私はやるけど、幾らなんでも全員に一生を掛けて……と言うのは酷よね。


「それでも俺は良い」


 依藤くん……その決意は称賛するわ。

 私も負けじと鍛錬をした方が良いかもしれないわ。

 幸成くんが時空転移を覚えたなら、同系統の能力者である私は時空転送を覚える可能性が0じゃない。


「私もクマ子ちゃんを迎えに行く為に強くなるならがんばるよ!」

「ガウ!」


 実は相変わらずね。


「前向きってだけで、それって今と対して違いがねーな。それこそ聡美ちゃんならありえるかもしれないけどよ」


 確かにそうね。萩沢くんの意見も正しい。

 正直、聡美さんの共鳴という能力は可能性が眠っていると思う。

 私に期待されていた日本転送と同じ様にね。


「がんばります!」

「うーん……それも良いけど、もっと明確な目標があれば良いんだけどさ。他に誰か無い?」


 茂信くんが若干苦笑いをして答える。


「「「うーん……」」」


 具体的なアイデアってそう簡単に出て来ないわよね。

 私だってそうだし……すぐに出てくるなら苦労しない。

 手立てが無いから現状に収まっている訳だし。

 未来の人達を犠牲にしないと言った傍から決意が揺らぎそう……。

 なんて思っている所で黒本さんが挙手する。


「手が無い訳じゃないわ。それこそ今回の調査で判明した事を有効活用しつつ、どちらにしてもいずれ行きつく可能性よ。例え何かが変わったとしても浮川さんが居れば即座に実験出来る案ね」

「そんな案があるの?」

「ええ……未来の人を犠牲にせず、大活性も鎮め、羽橋君を迎えに行く事が出来る案よ」

「そんな良い所取りの案が? 美樹、何なんだ?」


 依藤くんが黒本さんに尋ねると、黒本さんは萩沢くんを見る。

 すると萩沢くんの表情が曇った。


「また俺か! 困ったら俺に頼るのやめろっての! そもそもそんな便利な物作ったことねーだろ」

「確かに、この萩沢はみんなの役に立った事の方が少ない」

「うむ」

「間違いない。過去の萩沢が遺跡を作って保護してくれていただけだな」

「あれだろ? 人化薬だろ? 後は現地で作れる日用品を売るこすい商人だ」

「そうだ。この萩沢は精々羽橋のクマ子を目の保養として美少女にしたくらいだ」

「道具屋、絶対に許さない!」

「うるせーな!」

「ニャー」


 みんなして萩沢くんをボコボコにしてるわね。

 だとしても、ちょっと言い過ぎなんじゃ……。


「幸成にポイント相転移がどんな物なのかを聞いたって事があるからみんなそこまで言うなよ」


 茂信くんのフォローもあるけど、よくよく考えてみれば確かに萩沢くんが大発明をした事はないわね。


「後はサバイバル時に売買でポイントを稼いだりしてくれた事かしら?」


 フォローする私達だけど黒本さんは態度を変えない。

 というか、若干投げやりな雰囲気がある。


「俺の事は良いんだよ! そうじゃなくて、もっと具体的な案はねぇのかって聞いてんの」

「それが無いから困っているんじゃない」

「ちっ……日本からゾロゾロ連れて来たのに役に立たねぇな」


 ちょっと萩沢くん、それは言い過ぎ。

 さっきのみんなもそうだけど、言い方があると思うの。

 後、連れて来たのは貴方じゃなくて私よ。

 そう注意しようと口を開きかけた直後、黒本さんが大きな溜め息を吐いた。


「はぁ……具体的な案があれば良いのよね?」


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