年号
マジックスカイクレイゴーレムが動かなくなったのは良いけど、後はどうしたら良いのかしら。
大元へのアクセスは……難しいわね。
わかるのはメイン端末へのアクセス。
防衛装置は私達を驚異的な敵だと認識している。
ここに権力がある者として――
あ……マジックスカイクレイゴーレムの信号を怪しんだアラームが検索信号を私達に照射し始めた。
「誰かハッキング出来た人いる!?」
「こんなのわかんねーよ!」
「無理無理! 私達は天才ハッカーじゃないし偽装系の能力者じゃないのよ!」
ピーっと光が伸びて行き……あれ?
アラートが消える。
浮かび上がる文字が見える。権力者認識?
創立記念システムフォルダ内に魔力反応感知とシステム名が書かれている。
「あれ? 止まった?」
「みたいだな。このままどうなるかと思ったんだけど」
「よー……こー……そー……わー……様ー……」
と、言った所で警備装置類は寿命を迎えたのか機能を停止した。
……内部では一部稼働はしているみたいね。
「どうなってんだ?」
「システムを見てたら創立記念システムフォルダって所で何かが動いたみたい。装置類は来訪者の魔力を検索していたみたいだけど……」
「やっぱ並行世界の俺達が作ったとかじゃないのか?」
「可能性は高いな」
こんな物を作るのは、確かに私達しか考えられないわね。
少なくとも創作物に出て来る形状のロボットを作れるのは日本人だけでしょう。
「……後でこのガードゴーレムとか持ち帰って改造できねーかな。便利そうだし」
「萩沢くんなら出来そうね。仕事が捗るんじゃないかしら?」
「ニャー」
かと言って、人類を抹殺しそうなロボットを萩沢くんが使役している姿は見たくない様な気がする。
この中でこの手の物を一番上手く扱えそうだけどね。
「とりあえず、警備システムは通過出来たって所か?」
「この建物内ではね……先の重要区画は無理じゃないかしら」
少なくともこことは独立しているシステムっぽいのがあるのよね。
非常時以外は繋がらないみたいな。
端末に送電して物理的に破壊する事は出来そうなんだけどなぁ……やったら危なそう。
地味に魔法防御も高いのが分かるわ。
「うへー……」
萩沢くんが呻く。
気持ちはわかるわ。
こんな廃墟にどんな秘密があるのか、興味はあるけどそれ以上に厄介過ぎるものね。
「じゃ、警戒しながら行きましょう」
という訳で私達は建物の奥へと向かった。
「入り口よりも劣化は少ないみたいだな」
「そうね」
一言で言えば奥は研究所と会社を合わせたみたいな建物と言うのかしら。
更衣室とかトイレ、他に食堂。
どこも人が使う事を想定されている施設ね。
……人気が無いから不気味だけど。
で、その先には実験施設があった。
「IDカードが見つかって良かったわ」
「異世界でIDカードあるのもどうかと思うけどね」
「まあ、そのお陰でハッキングしやすくなったから助かったけど」
「君達、ハッキングとクラッキングの違いについて――」
ロッカーに入っていて助かった。
随分と劣化していたけれど、鍵としての役割は十分に果たせている。
「ただ、このカードもプラスチックじゃないわね。異世界の金属で作られているみたい」
再現した物……で、間違いは無いわ。
三枚ほど見つかった所で、私の魔力転送と送電を合わせて偽装IDが成功した。
指紋認証とかあったら困ったけど、魔力認証だったから誤魔化せるわ。
この手の魔法道具は萩沢くんの得意な所だしね。
萩沢くんに混ぜ合わせた魔力認証を転送させてカードを複製させる事に成功。
「警備装置の類はもう機能してないみたいだな……思ったよりも広いし、ぞろぞろと建物内をこの人数で進んで行くのもどうかと思わない?」
「じゃあ何個かのグループに分かれて調べましょう。カードを上手く使って。入れない所があったら報告よろしく」
そんな訳で私達は別れて部屋を調査する事になった。
寮なのか個室みたいな部屋が沢山あった。
やっぱりこの建物は人が使っていたんでしょうね。
私は聡美さんと実、茂信くんとで二つ目の建物の上の方……個室を調べる事なった。
「他の部屋よりも広い部屋ですね」
社長室みたいな部屋と言うのかしら。
あまり部屋の劣化は無い。
大きな机と機材が置かれていて……これはパソコンかしら?
壊れているみたいだけど。
「そうね」
「この建物の中でも偉い立場の部屋って事だろうか?」
「そうかもしれないわ」
で、机の中には持ち主の物なのかいろんな雑貨が入っている。
ちなみに死体みたいな物は廊下とかに所々あるんだけど、風化していてそれっぽいモノとしか言えないのよね。
でも……あれだけ風化するのってどれ位の時間が必要なのかしら?
白骨化のもっと先というか、そもそもあれって骨で良いの?
とにかく人型の、よくわからない物体の名残。
「あ、これは……」
手帳を発見した。
ただ、中はなんて書いてあるのか分からない文字ね。
黒本さんに解読してもらいましょう。
「あれ?」
壁に立てかけてある、保存状態の良い写真に目を向ける。
……家族写真でしょうね
「猫さんだね」
「ガウ」
みんな猫耳が生えた人種ね。
この世界には亜人はそれなりにいる。
人化したユニークウェポンモンスターというのもいるらしいけど、違いがわからないのでそこは考えないでおきましょう。
「あ、この人なんとなく萩沢くんのお父さんに似てない?」
実が写真を指差して呟く。
文化祭の時に見た様な……記憶が曖昧で頷けない。
猫耳の中年男性ね。
写真に写っている人達はみんな研究者みたいな恰好をしている。
一番左が古い人なのかしら……?
猫耳少女が白衣を着て胸を張っている。
ただ……薄い。
で、右の方はまだ判断出来そう。
……何かしら?
美人ネコミミ教師みたいな人が、日本人っぽい人と握手している写真。
見た事が無い人だけど、小野くんや谷泉くんみたいなウソ臭い笑みを浮かべている。
見ず知らずの人にこう思うのは失礼だけど、あまり信用したくないタイプの人だと思う。
「調子はどう?」
そこに黒本さんが依藤くん、萩沢くんとミケさんを連れて来る。
「この部屋が重役っぽい部屋だって聞いたから来たのだけど」
「資料を見つけたわ。そっちは何か見つかった?」
私は机から見つけた手帳を黒本さんに見せる。
「一応ね。ちょっと嫌な予感はしていたんだけど……ね」
「悪い話なのか?」
「……判断に悩むわね。後でみんな集まってから話そうと思っているんだけど、相談すると言う意味で話しても良いかもしれないわ」
黒本さんは手帳を受け取り、読む前に話し始めた。
「資料室と思われる部屋を見つけたから調べて見たのよ。そこでわかったのは、本当かどうかはわからないけど……この建物は未来から来たみたいよ」
「それってどう言う意味? 根拠は?」
未来からって……。
でも、幸成くんは過去に行っている。
過去に行ける能力があるのなら、未来に行く事も可能性かもしれない。
問題はどうして未来にあるはずの建物がこんな所にあるかだけど。
「資料の日付がね……ライクス歴って書かれていて、私の知る年号よりも七百年後なのよ」
黒本さんが見つけた資料には年号と研究内容が書類として残されていたらしい。
ただ、劣化が激しくて資料を読み取る事が難しく、辛うじて修繕の拡張能力で解読した結果だそう。
またその資料室に戻って修繕をして解読する予定だとか。
「アレだ。未来から来たって事はタイムゲートとかありそうな建物だな。上手く使えば羽橋を見つけられんじゃね?」
萩沢くんが黒本さんの話を参考に言う。
そうね。そんな装置があるなら助かるわ。
「そこまで上手く行くかわからないわよ。何せ八百年後だし」
黒本さんは『さっきと同じ年号』を言った。
……? あれ? 何か引っ掛かる様な気がするんだけど、おかしい所は無い。
そこで聡美さんが首を傾げる。
どうしたのかしら?
*伝わらなかったみたいなので追記です。
今が動いているのではなく、何時の時代からこの建物が来ているのかが変化しています。