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時間系の防壁

「こんな感じで、まるで人が近づく事を拒むように天変地異が起こる地域なんだけど、本質はそこじゃないの」


 黒本さんはブラックミストウォールを指差す。


「誰でも良いからあの霧に見える壁を攻撃して見て頂戴」

「わかった」


 依藤くんが剣で黒本さんの言う通りに斬りつける。

 が、依藤くんが霧に剣をぶつけた瞬間、剣が停まる。


「なんだ? 切った訳でも跳ね返された訳でも無く剣筋が止まったんだが」

「ええ、結界の一部なんじゃないかと認識されているのだけど、過去に存在した結界系の能力者が調べても分からないと言われている謎の防壁……赤黒い色合いと壁の様な性質、そして霧みたいに不確かだから、ブラックミストウォールと呼ばれているの」

「結界系の能力者がねー……」

「該当能力者ならば干渉して、普通ならどんな構造なのか分かるそうよ」

「見れば大体の構造が分かる俺みたいなもんか」


 萩沢くんが心当たりがあるのか頷いた。

 そう言えば萩沢くんは道具作成の能力だもんね。

 道具を見れば構造がなんとなくわかるらしいわ。

 ただ、完全再現出来るかと言うとまた別の話だそうだけど。


「じゃあどうすれば?」

「このブラックミストウォールはね、私の推測だけど結界であって結界ではない、疑似結界なのよ。該当能力で近いのは飛山さんじゃないかしら?」

「私?」


 どうしてここで私が出てくるのか分からないけれど、黒本さんが指名してきた。


「ちょっと危険かもしれないけど過去の調査で僅かに判明している事なのよ。ブラックミストウォールに触れてみてくれないかしら?」

「危険な事になりそうで怖いわね」


 私は徐に不確かな霧の壁に手を触れようと……。


「ちょっと待って、僅かに手に傷を付けておく事を勧めるわね」

「は?」


 何か理由があるのかしら?

 まあ、怪我をしても実やクラスの中で回復魔法が使える人に手当てして貰えば後も残らないんだけどね。

 そっと剣で軽く切り傷を作ってブラックミストウォールに触れる。

 依藤くんの時は剣が止まった……けど、若干、手が入った。

 ずぷっと何か膜みたいな物があった様な気がするのだけど……20センチくらい入った所で止まる。


 痛みは無い。

 けど、何だろう? 変な感覚。

 それ以上は何かに引っ掛かるみたいで奥に入って行かない。


「な、なんだ?」

「何かあるのか?」


 茂信くんが疑問を浮かべ、萩沢くんは気付かなかったみたい。

 私は……うん。何が起こったのかは少し分かる。

 傷を付けた部分はゆっくり塞がってまた開いたのよ。

 ただ、痛みも何も無い。


「やっぱりね。飛山さんだと多少入れる事が出来ると思ったけど、正解だったわ」

「何なの? これ」


 引き抜いて黒本さんに尋ねる。

 傷が塞がって、直ぐに開いた。しかも痛みは無い。

 その意味を彼女は理解している。


「国の調査だと移動系の能力者だと飛山さん程じゃないけど僅かに干渉出来ると分析されていてね。傷が塞がったのが見えたので確定したわ」


 黒本さん曰く、私が記録を更新したらしい。

 記録って手が入る範囲?

 そう思っていると学級委員も察した様に頷く。


「飛山くんが干渉できる、つまり認識改変か何かに属し、傷が塞がってすぐに戻った。ここから導かれるもので心当たりがあるとすると……時間系の防壁か何かだと黒本くんは思っているのではないかい?」


 時間系の防壁……。

 私は異世界と日本を行き来出きる影響で認識改変に耐性がある。

 だからそういった現象を認識出来るという訳ね。


「ええ、正解よ。空間が歪んでいるから隼人の剣は通過出来ない。けど時間も歪んでいる。入れると同時に戻る現象が起こって停止させられたみたいになるのよ」

「飛山くんの場合、空間に属する耐性が高い。だから時間の歪みの方で遮られた……って事だろうね」


 なるほど。

 耐性というのはこういった効果もあるみたい。

 学級委員は首を傾げるクラスメイト達に考えるように口元に指を当ててから喋り出す。


「わかりやすく説明するなら映像機器を見た時の現象が近いかもしれないね。巻き戻しと再生を繰り返しているのさ」

「あー巻き戻しでめぐるちゃんの傷が治った様に見えて再生させたから傷が開いた様に見えるって事か?」

「そうなる。しかも霧に入れる前の状態を前提に巻き戻りをしている。でなければ巻き戻っても傷が塞がる事は無い」

「そして巻き戻りと再生がぶつかって一時停止で止まる訳よ」

「でも羽橋が遺跡に侵入しようとした時に跳ね飛ばされていなかったか?」

「アレは結界系、侵入者を感知して跳ね飛ばしたのだろう。あの頃の羽橋くんはそこまで強かった訳じゃないし、飛山くんも同様の事が出来るのなら同じ結果になっただろうね」

「な、なるほど……それで、判明したのは良いけど……どうしたら良いの?」


 すると黒本さんは聡美さんの方を見た。


「私ですか?」

「ええ、私の勘だと浮川さんなら問題なく進めるんじゃないかしら?」

「その根拠は?」

「飛山さんが日本に行った際の認識改変を受けず、17時間経過した後の二つ目の認識改変……おそらく時空改変に耐性を持っていると私は推測するわ」


 私や幸成くんが居なかった事にされる認識改変、それとは異なる忌むべき日本人と、様々な認識が大きく変わる現象。

 これを黒本さんは時空改変という物だと認識しているって事なのね。


 確かに黒本さんが見つけた情報を調べると、過去へ転移して無かった事にしたはずの犯罪者とも呼べる日本人達が好き勝手する歴史が生まれる可能性がある。

 世界も大きく歴史が変わり、まさに暗黒と呼べる時代が起こった。

 だけど私達が戻ってくる事でそれは変わる訳だけど……。

 少なくとも幸成くんがそんな状態にするとは思えない。


「ま、その答えはこの先で判明すると思うけど、どちらにしても入る手立てが無いの。だから浮川さん、貴方しか頼りに出来ないわ」

「わかりました」

「一人でそんな事をさせて危なくないか?」

「それこそ、浮川さんには共鳴の力があるわ。この中で戦闘向けの人と共鳴状態を維持して行けば良いでしょ。中に入ったらみんなを招集すれば良いわ」


 危険ではあるけど、それが無難な手段なのは事実ね。

 聡美さんは周りを見渡した後、力強く頷く。


「私が出来る事なら何でもします。皆さん、良いですか?」

「危険だとは思うけど……やってみるしか無さそうね」

「面倒くせー話になってんなー。手がかりがあるかわかんねーのに」

「ニャー」


 相変わらず萩沢くんは空気を読まないわね。

 やり過ぎると小野くんと変わらないわよ?


「ま、羽橋を殴る為の手がかりがあるならやらなきゃダメか。危険だと思ったらすぐに逃げるんだぜ聡美ちゃん」

「はい」


 ……これが萩沢くんの長所よね。

 なんだかんだで憎めないというか。


「はーい! 私も行きたーい。聡美ちゃんの護衛と魔力の回復が出来るでしょ?」

「ガウー」


 実が立候補する。

 今の実はLvも結構高くて、グローブもかなり強化しているらしい。

 ボスさんはグローブ化するみたいね。

 回復が出来る近接ってかなり万能な強さを持っている。

 しかも能力上昇の拡張技能も持っているし、隙は無さそう。


「作戦立案者である私も行くべきよね」


 黒本さんも手を上げる。

 そうね。事情に詳しい黒本さんは必要だと思う。

 この場合、依藤くんも一緒よね。

 と思ったのだけど……。


「隼人は留守番していて欲しいわ」

「美樹、俺が前衛をしなくて良いと?」


 黒本さんが依藤くんの同行を断った。

 どんな考えなのかしら?


「あんまりぞろぞろと連れて行くのは浮川さんの魔力的に厳しいわ。守りの面で言えばグローブ持ちで回復が出来る姫野さんが優秀よ。私が居れば魔法で援護が可能だし、最低限の戦力で動くにはこの辺りが妥当だと思うの」


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