暗証番号
「明日には俺もLv5になる。そうなったらどんな拡張能力が出るか楽しみだな」
「そうだな。茂信は割と良い能力だからどんなのが出るかわからないけど、どう拡張するか見物だな」
「生産系だから俺と同じじゃね?」
萩沢がそう答える。
「幸成とめぐるさんが別々の拡張を得たからわからないぞ」
そうだよな。
俺とめぐるさんは別々の拡張能力を得た。
ぶっちゃけ、誰かを飛ばすという能力で言えばめぐるさんの方が俺よりも格上なのはわかる。
転移って相転移までカバーしてるって事なのか?
俺も千里眼とかでも良かったんだけどなぁ。
ポイント相転移って、要するに変換能力って事みたいだし。
金とポイントだけだけどさ。
「じゃあここにいる奴らで金を出し合ってポイントにするか? それとも幸成に何か買ってもらうか?」
「うーん……」
「正直、汎用性は高いと俺は思っている。武器だって日本から取り寄せ出来るなら損じゃないだろ」
「とはいえ包丁とかが限界だぞ?」
「鉄製のハンマー、バールとかはリストにあるか? そんな感じので良いから取り寄せられれば今の装備よりは良いはずだ。最悪鉄を素材にして鍛冶が出来る」
ああ、そういや谷泉達って何だかんだで魔物の牙とかを素材にした武器が大半だもんな。
金属製の物も倒した魔物が持って居た物とか、その辺りの流用で、質は悪いらしい。
そこでいきなり包丁とかハンマー、バール辺りが手に入ったら役に立つかもしれないって事か。
「懸念として日本製の武器の魔力的な問題も実さんの魔力付与で軽減出来ると思うし」
「そんな問題があったのか?」
「ああ……日本製のナイフをくれただろ? 実験に使ったんだが不思議と切れ味が悪いんだ。その問題を一時的とはいえ実さんが付与する事で解決出来るなら使えなくもない」
「なるほど、だから渡したナイフを使ってなかったのか」
「やったね」
ふむ……日本の武器も使えると。
売っているとしたらホームセンター辺りか?
じゃあさっそくホームセンターに行って買って来よう。
「じゃあ、購入できるか試すのはその辺りで良いのか? 食い物とかはどうする?」
「MDバーガー」
「それはさっき聞いた。やってみるから待ってろ」
「ここで出来る物が良いよね? みんなにばれたらどうなるかわからないし」
出来る限り隠しておきながらも、みんなの手助けをしたいというワガママな要望だ。
上手く立ち回らないと痛い目をみるのはこっちだ。
もちろん、どっちつかずにいる様な奴を引き込むには良い交渉材料だけど、どっちにしても谷泉達に俺達がある程度戦える、意見が出来る状況にしなくては始まらない。
「化粧品とかを取り寄せしてもらうのはばれちゃいそうだし……うーん」
実に女の子らしい返答だと思う。
萩沢が『こんな状況で?』みたいな顔をしているが、そこは流してやれ。
ちなみにしょぼい石鹸などの入浴用品は能力で作成出来るので、谷泉達が補給している。
不潔は病気になる可能性があるからな。
それも姫野さんがいればある程度治せるとは思うけど。
「もどかしいなぁ。自分達の食べ物を調達するくらいしか今の所手が無い」
「まあ……そうなるね。お菓子とか購入する手はあるけど」
みんなで考えて何を購入するか考える。
以前俺が考えた様に、腐り易い物から順に対象から外れていく。
更に、俺達が持っていたらおかしな物も除外対象だ。
「結局、無難な所で食べ物に落ちついちゃいそうだね」
そこなんだよなぁ。
隠しながらというのが問題だ。
みんなに相談出来る様になったのは大きいが、どっち道隠しながらだから大胆な事が出来ない。
「でも金をポイントにする事も出来る応用は良い作戦になると思う。これでポイントが足りなくて作れなかった武具にも手が出せる」
「それじゃあ茂信に任せるのが一番か」
コクリと茂信が頷く。
「機材が必要になったら幸成に頼もう」
「了解」
「とはいえ、それだけポイントを使ってもメタルタートル素材の武器となると……日本製のバールの方が良いかもしれないな」
「そんなに必要なのか?」
茂信は黙って頷く。
「人数分揃えるとなるとな。バール位なら俺達の金でも揃えられるだろうし」
「今まで通りに一番良い武器をめぐるさんに持たせて安い日本製の武器を俺達が使えば良いんじゃね? 実さんの魔力補給も必要だろうし」
「ま、そうなるよな。萩沢の案に賛成」
その場は異論が無い方向で終わった。
「カード類も使えるかどうか試してみるよ。暗証番号を教えてくれると助かる」
それで解散となり、その日は素材解体をしてから、俺は何食わぬ顔で日本へ戻った。
頼まれたカードと品々を購入する為にな。
日本に戻った俺は、まずポイントで変換した500円玉を自販機に入れた。
認識している。動くみたいだ。
偽硬貨として後々問題なったらどうするのか、日本に帰って来てから不安になったんだ。
試した所、お札の方も大丈夫だった。
これなら……大丈夫か?
次に萩沢のカードを持ってコンビニに足を運んだ。
上手く行けば良いが……失敗したら危なくね?
ま、最初の一回は成功失敗の可否に関わらず言い逃れくらいは出来るだろ。
そう思いながらATMの前に立って、残高照会を押し、カードを挿入。
……お? 暗証番号を求められた。
やっぱこの辺りはかなり適当なのか?
相変わらず認識の改竄は随分と杜撰だよな。
それとも日本にカードだけ戻って来たので、ある事になったとか?
萩沢から教えてもらった通り、奴の生年月日から連想できる危ない番号を押す。
すると残高が表示された。
……うん。本人の承諾は得ているし、全額引き出す。
で、手に入った金銭を当たり前の様に財布に入れ、茂信の貯金を別のコンビニで引き出す。
少し面倒だけど実さんやめぐるさんの貯金も引き出しておいた。
ついでに俺のも引き出しておこう。
なんか悪い事をしている様な気分だ。
「……」
やべぇ、今俺の財布には凄い大金が入っている。
お札だけで財布が膨らんでいるのがわかるぞ……。
「後は……」
茂信の注文通りに包丁、バール、ハンマーをホームセンターで購入しに行こう。
物が物だけに怖いな。
そうしてホームセンターで包丁を物色する。
並んだ包丁が怪しげな光を放っている。
どれが切れ味が良いんだ?
というかサバイバルナイフとかの方が良いのかな?
ガーデニング用品とかキャンプ用品のコーナーも覗いておくか。
「これを使えば少しは戦えるか?」
まあ、石器武器や骨の剣よりは良い物なんだろうけどさ。
異世界で魔物と戦う為に包丁やサバイバルナイフか……。
ゲームであったな。悪魔と戦うとかいうシチュエーションの奴。
モップが武器になっていたけど。
「無駄な事を考えるのはこれくらいにして行くか」
レジに包丁とバール、ハンマーを持っていく。
初めて買ったぞ包丁なんて。
これで目をつけられたりしないか怖いな。
店員さんが怪訝な目で見ている様な気がする。
後は……まあ、防弾チョッキとか異世界じゃ役には立たないか。
プロテクターとかも……異世界の方が優秀そうだ。
そもそも日本で防弾チョッキとか買えないよな。多分。
ボウガンとか買えれば良いけど、さすがにホームセンターじゃ売ってないか。
ああいうのは何処で買うんだっけ?
なんか危ない匂いがするなぁ。
インターネットで取り寄せられるか調べてみよう。
上手く行けば取り寄せ出来るかもしれない。
問題は親をどう誤魔化すかだけどさ。
「さてと」
袋に物を入れてからホームセンターを後にする。
包丁、バール、ハンマー、などという殺人でも計画しているんじゃないと疑われそうなセットだ。
日が沈み、夜の色合いを残す街を俺は物騒な物を片手に歩いて行く。
車の騒音がなんとなく心地よく思えてしまうのは森の中で生活している茂信達への優位性から来る物なのだろうか?
……能力を授けた奴がいたとして、どうして俺にこんな能力を授けたのか尋ねたい。
もちろん、良い能力だとは思う。
だけど、俺達を異世界になんて飛ばして何を企んでいるのだろうか?
街灯に明かりが灯り、閑散とした商店街を通り抜ける。
またスーパーでお菓子でも買うか?
これからは不自然に持ち込んでも茂信達は怪しまなくなっていく。
自分でも上手く説明出来たとは思うしな。
感想欄で言われている生理用品などは物語上、次の機会という事でおねがいします。