調査結果
「じゃあ、異世界への道を開くわ。あなたは行かないんだったわよね?」
「そうとも。まだ僕にはしなくてはいけない事があるからね」
学級委員が頷くのを確認してから、私は異世界転送を発動させる。
私の意識した場所に光の柱が出現し、クラスメイトが息を飲む。
迷いは……そこまで無かったみたい。
5秒くらい立ち止ったかと思うと、ずんずんと光の中へ歩いて行く。
そうして4人……異世界へと旅立った。
「……光が出ている間は認識が続くのかね?」
「わかりませんけど……」
黒本さんが提案していた事があるのよね。
確かめたい事があるから私が行くのは5分だけ待っていて欲しいと言われている。
なので私は時計を確認して、五分間待った。
「じゃあそろそろ行くわ。次に来るのは……明日のこの時間、日本に来たら電話するわね」
「うん。覚えてはいないかもしれないが、出来る限り応じる様にする」
と、私は学級委員に手を振って異世界へ続く光の柱を潜ったのだった。
ちゃんと予定した場所……茂信くんの工房に辿り着いた。
「おかえりなさい、めぐるさん」
聡美さんが私を見るなり近寄って来る。
「ただいま、経過はどう……」
と、辺りを見渡すと茂信くんと萩沢くんが異世界に来たクラスメイトと話をしている。
「ったく、羽橋の奴! また仕出かしたのかよ!」
「そりゃあ助かったし帰りたいかなとは思っていたけど、あんな強引な手段じゃねーよ!」
幸成くんへの愚痴を茂信くん達に言った後、クラスメイトは私の方を見て頭を下げる。
「思い出したの?」
「おう! しっかりと!」
「すっげースッキリした気分だ。と同時に羽橋にイラっとしたぜ」
などとみんな顔は晴れやか。
状況は……良さそうなのかしら?
私は部屋の隅で資料を作っている黒本さんに顔を向ける。
黒本さんが私に声を掛けてくる。
「大体の変化と統計が取れたわね。色々と進展があるからみんなで聞いて欲しいわ」
「わかった。けど……」
新しく異世界に来たクラスメイトの方へ私は顔を向ける。
「荷物を降ろして椅子にでも腰掛けてで良いわ。後で知っている人から話を聞いてちょうだい」
「OK」
「何が何やらわかんねーもんな」
「後、後ほど王様と謁見してきなさいよ。戻ってきた事を教えないと施設や店が閉じられてるでしょうし」
なんて感じで注意した後、黒本さんは報告を始める。
「まず、浮川さんと共鳴を維持し続ければ認識改変に抵抗する事が出来たわ。これは飛山さんが日本に行ってすぐに判明したわね」
「はい」
「浮川さん……いえ、聡美、と呼んで良いかしら? 布教したくなったわ」
「こんな時にふざけないで」
「うふふ、冗談よ」
この人、ワザとやってるの?
聡美さんも凄く困ってる。
考えて見れば一日中一緒にいたのよね。
「その状態での変化はあまりなかったわ。かなり都合よく変化していたけどね。これが飛山さんや浮川さんが認識している世界と知って寒気がしたわ。隼人が飛山さんの事をすっかり忘れていたんだもの」
「それが恐ろしい現象なのは確かだな……羽橋の時も似た感覚だった」
「ちなみに飛山さんが買って来たゲームや漫画は羽橋くんが買って来た事になっていたわね。かなり強引な改変に驚きよ。羽橋君がいなかったらどんな扱いなんでしょうね?」
そこで茂信くんが手を上げる。
「確かルシアさんが言ってた様な覚えがあるな。突如、異世界から補充されたとかになるって」
「ま、強引に認識が変わるってそんな物なのかもしれないわね。話を続けるわよ」
黒本さんは資料に目を通し始める。
「隼人達の態度に大きな変化が出始めたのが12時間くらい経った頃ね。日本人が好まれている、忌むべき存在、とコロコロと主張が代わり、17時間を過ぎた頃には日本人は忌むべき存在として認識されている状態に統一されたわ」
「17時間って……細かく調べたのね」
さすがは実験を望んだだけはある。
具体的な時間は原因に近付く要因になるかもしれないし。
すると黒本さんは違うと手を振った。
「私の部屋にある蔵書物や隼人の漫画、更に坂枝君の所にあるゲーム機が点滅しながら消えて行ったのよ。で、飛山さんが日本に行った頃を逆算しただけ」
「幸成くんが持ってきた物が消えたって事……ですよね」
「ええ、で、その後……今と比べて人が少なくなった図書館で歴史を調べたわ」
「予想通り、国の保護はありませんでした。むしろ気を付けなきゃいけない感じでしたよ……」
聡美さんが補足してくれた。
国が斡旋した職業に就いているからこそ閲覧できる資料とかあるはずなんだけど……少ない資料で黒本さんは調べたって事よね。
「とりあえず日本人が忌むべき存在と認識されている世界での資料を調べた所だと、過去に日本人が森からやってきて好き勝手したと書かれているわ。名前も色々と書かれていたわ。小野や谷泉、山根とかね。羽橋君がなかった事にした歴史よりも悲惨だったわ」
ウンザリとした様子で黒本さんは答える。
……小野くんや谷泉くんか。
山根という人は知らないけど、並行世界のクラスメイトらしい。
この人達はどうしてこの世界に来たのかしら?
「国……果ては世界の人口もかなり減っているんじゃないの? どれだけ異世界で好き勝手しているのやら……国の形状や立地も滅茶苦茶。荒野や死の大地化してる所もあるみたいね。戦争の影響で」
「国名も違いましたよね? 確か……アースでしたっけ? その後にライクスに戻ったみたいですけど」
アース……大地という意味ね。
どうしてそんな国名なのかしら?
それ以前にアース=大地という変換は英語よね?
その人達が付けたって事なんでしょうけど。
「他にも色々な国名があったわね。共通して言えるのは日本人が考えそうな名称だったわ」
「……」
「それで好き勝手やった後、世界支配した日本人が寿命で死んで、その後すぐ大戦争になるみたいね。まさに革命のオンパレード。群雄割拠って感じね」
それって暗黒の時代じゃないの?
「各地で日本の血の入った子供もいたらしくて、能力もあって戦いには困らなかったでしょうし」
……確かに小野くんは女の子を執拗に求めていた。
そんな人達が好き勝手やったら、子供位出来るでしょうし、暴力が優れる人に魅力を感じる人もいたでしょうね。
それこそ、あの時みたいに。
「とまあ歴史を見るのは良いけど、戦争で資料が失われて口伝になっている所も多くて困ったわ」
「それで何か手掛かりは?」
「何個かあるけど、最初の忌むべき日本人という記述に羽橋くんっぽい存在が見え隠れしてるわ」
「ほんとですか!?」
「正確には……羽橋くんの持つ転移の能力者を探して殺そうとしていたってだけでそれ以上はわからないけど」
過去に忌むべき日本人がいて、幸成くんの命が狙われた?
じゃあこの実験は少しでも早くやめなきゃいけなさそうね。
「歴史などでわかったのはこれだけ。次に認識改変等の検証結果、具体的には先ほど判明した事」
「皆さんが来た同時に、認識改変で忌むべき日本人の話を萩沢さん達がしなくなりました」
「ここからの推測だとクラスメイトの数説が有力化してきたわね。次の実験で飛山さんが日本に17時間以上滞在する事でわかるでしょうね」
「わかった……けど……」
結局、何もわかっていないんじゃ?
いえ、過去の状況が少しでもわかったのは前進したって事よね。
「後は……そうね。推測の域を出ない事なんだけど、クラスメイトがこの世界に永住する事で、変化を起こしている場所があるのかもしれない……って事かしらね」
そう、黒本さんは地図を見ながら呟いていた。
その手はまだ聡美さんと繋がっている。
結果は近々出ると言う事なのでしょう。
「どっちにしても近日中に調べなきゃいけない場所がわかったわ。そこへ行くにしても……国の資料を纏めるともう少し戦力が欲しいし、クラスメイトが来た事で起こる変化を観測させて頂戴」
という事で調査は続行となった。
一週間もすると大分分かってくる事も増えた。
判明した事は17時間制限はクラスメイトが増えた事で無くなったみたいね。
忌むべき日本人の記述も今の所見つからない。
黒本さんが目星を付けた場所に関しても……どうも私達のメンバーが増える毎にハードルが下がっていると言っていた。




