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調査

 教室に入ると、密かに声を掛けてきた生徒達が周りに悟られない様に気を使いつつ私に目を向ける。

 ねえ……お願いだからその態度やめてくれない?

 いじめられている様に見えてしまうわよ?

 私はなんともないけど。


「おはよう、飛山くん」

「おはよう」


 学級委員が私に挨拶をしてくれる。

 特に何か変化のある態度では無い。

 コレはコレ、それはそれと使い分けているみたい。

 まあ相談するにしても昼休みか放課後にしましょう。

 という訳で私は昼休みになるまで待ち、学級委員に声を掛けて人通りの少ない所へ案内する。


「飛山くん、どうしたんだい?」

「この前の件で進展があったわ」

「……その件か。わかった」


 自然を装っていた学級委員が静かに答える。


「どうなったか教えてくれるのかい?」

「ええ。とは言っても、少しややこしい問題も関わっているわ」

「ふむ……」

「前もって確認するわね。幸成くん……は、前に話をしたから知ってるわよね」

「あくまで飛山くんのする話の範囲でしか認識はしていない、と答えよう」


 学級委員も私の言った事はしっかりと覚えている様ね。


「じゃあ次……坂枝茂信くん、萩沢大くん、この二人に覚えは?」


 色々と実験の為にみんなから試した方が良い事は聞いてある。

 この質問もその一環ね。


「今までの流れから察する事は出来るが、少なくとも僕の記憶には無いと答えるべきだろうね」


 やはり認識改変は発生しているみたいね。


「じゃあ次……貴方の様にクラスメイトの殆どが私に協力したいと声を掛けているわ」

「なんとなくそうだろうとは思っていたよ。クラスのみんなの視線が自然と向かっているからね。それはクラスの全員なのかい?」

「いえ……一部、声を掛けず興味も無さそうな生徒もいるわ」

「理由は?」

「信じてくれる前提だけど、茂信くんや他の異世界にいる人達の話では心の底から日本に帰りたがっていた人達や好き勝手し過ぎだった人……みたい」

「無意識に僕達は選んでいるのかもしれないね。話はこれだけかい?」

「後は……本当に異世界へ行けるとして、帰って来れなかったとしても後悔しない覚悟があるのかを問いたいわ」


 私は学級委員に異世界での生活の大変さや帰る術が私以外に無い事、危険がある事、そして実験中ではあるけれど日本人が危険分子として国に追われる改変が掛る可能性がある事を説明した。


「なるほど、確かに危険な話だ……だが、僕は引く気は無い。事実だったら恐ろしいはずなのに、僕自身も不思議なくらい行きたいという気持ちが強いんだよ」

「そう……本当に良いの? 日本での安全な生活があるのに」

「構わない……と思えてしまうのがまさに不思議だね。覚悟はあるさ。無いなら最初から声を掛けたりしない」


 客観的に見ると私の妄言にしか見えないのに、信じてくれている。

 やっぱりみんな、相応の覚悟を持って声を掛けているのね。

 その覚悟に私も応えないといけない。


「僕に協力出来る事は無いのかい?」

「あります。この前、私に声を掛けた人達と連絡を取ってください。異世界側で実験と調査が終わったら連れて行こうと思っていたので」


 私は生徒手帳に書いたクラスメイトのリストを学級委員に手渡す。


「実験か……となると段階を追って見るのが良いかもしれないね」

「と言うと?」

「例えば歴史や世界の変化……クラスメイトを連れて行く事でどこまで明確に変化するのかを黒本君と言う人に観測してもらうんだよ。自然と答えに近付くかもしれない」

「な、なるほど」


 この人、凄く真面目で勉強しか出来ないと思えるような人だったけど、黒本さんと同じく、応用を覚えると知識を生かせる人なんだわ。


「となると……僕は最後の方に回すべきだね。実験には付き合わせてもらうけどね。それと……」


 声を掛けてきた生徒のリストを学級委員は私に返す。


「覚えている限りで良いから、所持していた能力を教えてくれないかい?」


 所持していた能力?

 どうしてそんな事を知る必要があるのかしら?

 いえ、どんな事でも今は情報が欲しい。


「僕の個人的基準になってしまうけど、声を掛ける順番を決めたいんだ。異世界へ行った際に、君達の……いや、みんなの助けになる様にね」

「わかったわ」

「観測はこっちも出来る。異世界へ旅だった瞬間、僕達が旅だった生徒を忘れるのか、とね。その時は頼むよ」


 なんて話し込んでいる内に、チャイムが鳴り昼休みは過ぎて行った。

 私は放課後までの間に覚えている限りの能力を書き込んだ。

 そして放課後になってから学級委員に渡す。


「じゃあこれから僕は一人一人に声を掛けていくよ。まあ、僕の方も放課後になる前に独自に連絡網を取っておいたんだけどね」


 それから学級委員は人目を気にしながら小声で尋ねる。


「ちなみに、その転送の能力というのは今も使えるのかい? 異世界ではなく、移動する方は?」

「ええ」


 私も人目を気にしながら転送の光を出す。

 確かに、これを見せれば大概の事は信用出来そうね。


「なんと……ふむ、うん。これだけの判断材料があるなら十分だね。飛山くんはこれからどうするんだい?」

「異世界へ持って行く娯楽品の買出しをする予定ね。マンガが足りないそうなのよ」

「売れ筋商品って事だね。なるほど、こちらの娯楽が注目される様だね。ところで飛山くんはチューリップバブルという物を……」


 学級委員は、そう呟いてからピタリと止まる。


「この話、誰かに話した覚えがある様な気がするよ。似た様な状況だった気がするね。だが、そんな記憶は無い。デジャビュというには実感が強いし、やはり真実なんだろうね」

「はい。それでチューリップバブルって確か、プラントハンターと呼ばれた職業の話ですよね?」


 私だってそれなりに勉強をしている。

 確かに交易の面で言えば儲け話になりそう。

 学級委員はきっと幸成くんにそんな話を持ちかけたんだろうと想像出来た。

 そんな感じでその日、私は買出しをしてから家に帰って休んだ。



 翌日。

 私は茂信くんの工房を千里眼で覗きこむ。

 前もって打ち合わせをしていて、前回と同じ状況になっていた場合、工房の壁に合図の布を掛けるようにしてある。

 どうやら聡美さんの共鳴で認識改変に一時的な耐性を持たせる事は実証されたみたいね。

 しかも前回と同じく、既に日本人が忌むべき存在であると変化しているみたい。


 他の経過は……調査中って目印が付けてある。

 私の方は物質転送でメモを送ってある。

 クラスメイトが到着する時刻の予定だ。

 危ないかなと思うけど……と不安に思いながら私は学校へと向かった。


 放課後まで大きな変化は無かった。

 みんなの視線も怪しくない範囲まで収まっている。

 学級委員のお陰ね。


 放課後になった頃に千里眼で再確認すると、既に調査も完了した合図が掛っていた。

 茂信くんと萩沢くんが若干警戒気味に……あんまり店が流行って見えないなぁ。

 日本人だからって茂信くんの工房って人の出入りが激しいはずなのに。

 やっぱり目立たない様な工夫とか……変化が出てるのかしら?


 なんて思っていると学級委員から電話が掛って来たので呼び出しに応じる。

 そうして出発の準備が整ったクラスメイトを異世界へと送る話になった。

 で……人気の無い寂れた公園を集合場所に指定された。

 その公園へと出向くと既に学級委員を含めて5人程集まっている。


「やあ飛山くん、来てくれたんだね」

「ええ……」


 みんな私の顔を見て笑顔で手を振っている。

 各々自分で考えたらしき重装備で身を固めている様に見えるわね。

 あ、料理を担当していた彼もいるわ。


「今日はこの4人が先発隊として行く事になったよ。もちろん、十分に覚悟はしてもらっている」

「ああ、飛山さんや学級委員が再三に渡って注意した事はしっかりと聞いている。覚悟はある」

「帰って来れないかもしれないけど……後悔しない」

「自分達も不思議な気分だ。ここまで決意があるなんてさ」

「よろしくね、飛山さん」


 みんなの決意と言うか、私の言う事を心から信じている態度に嬉しいって気持ちが湧いてくる。

 茂信くん達と一緒に行った時は、本当に突然の出来事で時間が作れなかっただけなのかもしれないわね。


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