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十分な決意

 そうして黒本さんは資料を纏めてから私の方角を見る。


「大凡の時代の目処は立ったけど、確定には至っていない。そもそも迎えに行く術も無いし」

「というか時空転移を持っているなら使えば良いんじゃねえの?」

「確か呪われた時の浮川さんは善意で作られた半身が幸成に力を貸していただろ? その加護無しで帰って来れるのか? いや、来れないから今があるんだろう」

「でしょうね。それこそ今の状況が発生している時点で、何かが過去で起こっているのかも知れないわ」


 嫌な汗が背筋を通る話だった。


「現状持っている情報で纏めるとこんな所ね」

「……」


 あまり良い状況じゃないわね。

 幸成くんを助けにこの世界へ戻ってきたけど、もしかしたらまだ何も終わっていない可能性まで出てきたわ。

 どうにかしたいけど……。


「それで飛山さん、頼んだ物は持ってきてくれた?」

「え? ええ、あんまり買い占めると怪しまれるから程々に……ゲーム機を買った時は不良に絡まれて困ったわ」

「うわー……」

「幸成の時は聞かなかったな? アイツの事だから卒なくこなしたんだと思うけど」

「私もそう思うわ。幸成くんは人の目を掻い潜るの上手だし」

「めぐるさんはそんな幸成をしっかり捕捉出来る目の良さがあるみたいだけどね」


 う……茂信くんに痛い所を突かれてしまった。

 幸成くんが如何に目立たない様にしていたのか、その難しさを実感してしまったわ。

 だけど、捕捉って言うのはやめて。

 まるで私が幸成くんを監視しているみたいになっちゃうから。


「じゃあ話はこれくらいでめぐるちゃんは頼んだ物を配りに行く感じか?」


 今話せる問題は話した訳だし、こちらの相談もした方が良いわよね。

 丁度みんな揃っているんだしね。


「そうなんだけど……その前に、あっちで起こった事でみんなに相談したい事があるの」

「こっちでも問題があったけど、日本側でも問題があるのか?」


 萩沢くんがウンザリする様に答える。


「まあまあ、一つずつみんなで解決していこーよ」

「ガウー」


 実がそんな萩沢くんを宥めて答える。


「ニャーン」

「それでめぐるさん、日本側で何があったの?」


 ミケさんも同意って感じね。

 茂信くんの問いに私は頷く。


「実は――」


 私は日本で起こった事、クラスのみんなが私に声を掛けて力になれないかを揃って尋ねてきた事を伝えた。

 ここにいるみんなとほとんど同じ状態だったから、相談する必要があると思う。


「これは何かの予兆的な物なのか……それとも俺達が異世界に来た事で認識改変の穴が出来てしまっているのか……?」

「アイツらがねー……ちなみにどんくらい?」


 私は声を掛けてきた生徒の名簿をみんなの前に差し出す。

 正直、結構な人数ね。

 もしも全員連れてきたら、あのクラスがガラガラになる位にはいる。


「ふむ……割とみんな異世界を恋しがっているって事なのかな? 共に助けあった連中が揃って聞いて来てるな」

「そうなんだ?」

「まー小野や谷泉一派の連中は退学してるし、小野一派は問題起こして停学してるだろ? ここに書かれていない残った連中と言うと一癖ある連中ばかりだったし」

「私を物みたいに扱ってたよね」


 あー、結界の能力を得て増長し、実にご執心だった彼ね。

 小野くんに頭を踏み抜かれるって酷い状態になった覚えが……。

 うっ……思い出したら気持ち悪くなってきた。

 ちなみにその彼はリストの中にはいない。

 実の事が好きだったらしいけど、その実はクマ子さんにご執心なのはどんな因果なのかしら。


「とは言え、小野に殺された奴も混ざってるし……依藤はどう思う?」

「あの状況が状況だっただけに調子には乗っていたけど、根は悪い奴じゃない」


 ちなみにミケさんの部下と言うか同僚にユニークウェポンモンスターが何名かいるんだけど、その方達はクラスメイト達の武器だったみたい。

 幸成くんへ戦力として力を貸した影響で萩沢くんを思い出す前のミケさんと同じ状態で国を警護しているらしい。


「要するに連中がめぐるちゃんを経由して異世界に行きたいって声を掛けて来てんだろ? どうするんだ?」

「うー……ん」


 茂信くんが腕を組んで物凄く悩みながら呻く。

 やっぱり悩むわよね。


「幸成が命がけでみんなを日本に帰した訳だし、それを無下にはしたくない……けど、みんな、この世界に行きたいと思っているとは……」

「さっき坂枝君が言っていた、私達が異世界に来た事で認識改変の穴が出来たと言う所が気になるわね」


 黒本さんが間に入って答えた。

 認識改変の穴……本当にあるのなら確かに気になる。

 今まで異世界を行き来していた幸成くんを認識してなかったみんなが、そろってこういう反応を取っているのは偶然ではないはず。

 そもそもここにいるみんなだって、どうしてほんの少しの記憶があったのかすらわからないんだけど。


「もしかしたら日本人が敵だと認識改変されるのって、飛山さんが欠けた所為じゃなくて、日本人の数が理由なのかもしれないわよ?」

「そうなの?」

「ええ。飛山さん、最初に異世界転送を試そうとした時の事を思い出して。貴方、浮川さんと二人で行こうとして失敗したでしょ? 本能的な何かで最低限の人数を察した……と言う可能性は無い?」


 どうなんだろう?

 あの時は私と聡美さんの二人で行って良いのかな? と考えたけど……。

 わからない。

 だけど、能力というのは感覚さえも変化させる部分がある。

 異世界転送もある意味、そうだし。


「もちろん可能性の範囲でしかない。検証しないとわからないわ。かと言ってこの案が正解だと浮川さんとの実験後にある調査に支障が出るわね」

「どんな?」


 萩沢くんを筆頭に私達は黒本さんに尋ねる。


「日本人が指名手配されている世界での資料の閲覧が出来なくなるかもしれないのよ。その変化中しかわからない事があるかもしれないでしょ?」

「な、なるほど」

「それ以前にアイツ等を連れてくる事は確定なのか?」


 萩沢くんの意見はもっともだと私も思う。

 事情に詳しいみんなを連れてくるのはメリットが多い。

 けど、さっき問題を話したばかりなのよね。

 こんな状態でみんなを連れてくるのは危険だと思う。

 それに……。


「幸成くんの決意と行動の殆どが無意味になってしまう様な気がするわね……だから、悩んでいるのよ」


 そう、クラスのみんなを異世界へと連れて来るというのは、幸成くんが命を賭けてまでやり遂げた事を踏み躙る行為にも近い。

 これは茂信くん達に相談した時も同じ考えに至った。

 また同じ事で悩む時が来るなんて……。


「難しい問題ですね。あまりみんなを巻き込みたくないというめぐるさんの気持ちもわかります」


 聡美さんも私と同意見みたい。


「その相談って、みんな決意を元にめぐるさんに聞いているの?」


 茂信くんが尋ねてくる。


「まだそこまでは聞いてないわね。ただ、力になりたいって感じだったわ」

「それなら……二度と帰って来れないかもしれない。この世界で死ぬ危険性は大いにある。生活が不便な所だって山ほどある……それでも来たいと思っているかを聞いて、頷くなら連れて来ても良いかもしれない」

「茂信くん?」


 茂信くんがまっすぐな瞳で言い切った。


「確かに、幸成のお陰で俺達は日本に帰る事が出来た。不本意で飛ばされ、幸成のお陰で日本に戻ったんだ。感謝の気持ちはもちろんある。だけど、勝手に日本に帰されるのはそれはそれで違うんじゃないか?」

「それは……そうね」


 幸成くんの行動を否定する訳じゃないけど、茂信くんの言い分もわかる。

 みんなとしては相談してほしかったはず。


「幸成一人を犠牲にして日本に帰れたとしても俺は嬉しくもなんともない。むしろ日本で何かを忘れたままの生活の方が苦しかった。今なら痛いほどわかる」


 茂信くんの気持ちは理解出来る。

 私は異世界での出来事を日本にいる時に思い出して、行く術も無く悩み続けていた。

 平和なはずの学生生活……幸成くんだけいない教室が恐ろしく感じていたわ。

 何かを忘れている様な感覚が一生続くよりも……と茂信くんは言っていた。


「十分な決意を持って、永住する事になっても後悔しないなら、連れて来ても良いと俺は思う」


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