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誤解された少女

 チラチラと私を見る店員の態度に、犯罪をしている様な錯覚を覚える。

 五千円札を数枚提出して会計を済まして店を出た。


「ありがとうございましたー!」


 台車に本を載せて運んでいるけど……思ったよりも軽い。

 やっぱりLvの影響って日本でも出るのね。

 三十冊程度なら片手で持てそうだった。


 とはいえ嵩張るのでする必要は無いわね。

 人目を避けるようにトイレに移動し、転送の光の中に入れ込んでからすぐに出る。

 地味に台車は便利だわ。幸成くんの知恵に感謝しましょう。


 次はゲームソフトね。

 ゲーム機も何台か頼まれていたっけ。

 と言う訳で本屋と同様にゲームショップに行ってゲーム機を複数購入し、ソフトを人数分買った。


 店員の目が少しばかり怖かったわ。

 アレって売春をしている女子に向ける目じゃないかしら?

 ゲームショップから出て、手頃なトイレを探す。

 何か映画か何かであった様な光景よね。


「お? 売春で稼いだ金でゲームを買っている女子発見ー一人で歩くとあぶねーよ! 俺達が持ってやろうかー?」


 何か谷泉くんみたいな雰囲気をした人達が私を囲むように集まってきた。

 以前の私だったら少しは恐怖を抱いたのかもしれないけど、魔物と戦うのに慣れてしまった今となっては不良程度の脅迫では冷たい思考のままでいられる。

 なんか嫌な感覚だわ……。


「……ちょっとどいてくれません? 邪魔なんですけど」

「どいてくれません、だってよ!」


 仲間内でヘラヘラと笑い始めている。

 思ったのだけど、私達の住んでいる地域って治安が悪いのかしら?

 谷泉くんや小野くん、それ以外にもこういった人までいるんだもの。


 そういえば聡美さんが、私達の世界ではクラス転移に巻き込まれなかったけど、並行世界では巻き込まれた人で悪事をしていた人がいるって聞いた。

 学校やクラスは違っても、そういう人達がこの街にいる可能性はあるのよね……。


「良いから俺達と一緒に行こうぜ。せっかく買ってくれた物だし」

「……貴方達の物じゃないです」


 こういう人達ってどこから出てくるのかしら?

 さっきまで全くいなかったのに……はぁ。

 思わずため息が出るわ。

 ゲームを買うと絡まれるの?

 それともゲームショップに不良がたまたまいたのかしら?


「いい加減にしないと警察を呼びますよ」


 呼ばれて困る事態に私もなりそうだけど、注意はすべきよね。


「警察呼びますよ! だって、かーわいい! いやいや、みんなで楽しみたいんだよ。ささ、こっちへ来いって」


 かなり強引に私の背中を押してきたけど、Lvの影響を受けた私の体勢を崩すほどじゃない。

 押すのに失敗した不良が力を込めて押そうとして来るのでサッと避ける。


「てめ! 抵抗する気か!」

「もちろんするに決まってるでしょ! 勝手に絡んで来たのは貴方達なんだから!」


 頭に血が上って来ているのは自覚している。

 私が買ったゲームとソフトを奪い、更に何をする気なのかしら?


「このビッチが! お前の様な世の中舐めた奴に現実を教えてやろうと思ったらコレかよ!

 ゲームなんて百年はええよ!」


 そもそも誰が売春をしたお金でゲームを買ったって?

 家はそんなに貧乏じゃないし、身体を売ってまで欲しい物なんか無いわ。

 ヘラヘラとしながら男達は私に掴みかかろうとしてきたので、腕を掴んで軽く捻る。


「いてててててて!」

「いい加減にしないと……怒りますよ」


 名誉棄損なのは元より強盗傷害、挙句強姦未遂……。

 こんな人達が近くにいると思うだけで怒りがこみ上げてくる。


「女のくせに調子に乗るな! お前等、やっちまえ!」


 っと、男達が今度は拳を握りしめて殴りかかってきた。

 私は一発だけ拳を受けて、守りの姿勢を見せる。


「へへへ……調子に乗った罰を与えてやるぜ」


 こんな事で暴力を振るうなんてどうしようもないわね。


「……それは、こっちの台詞よ」


 もはや言い逃れも何も無いわ。

 私自身も拳を握って……やり過ぎたら危ないから弱い力で素早く男達全員を殴りつけた。


「ぐはぁ!?」

「ぎゃ!?」

「こ、この女!?」


 男達が苦悶の表情で腹を押さえてうずくまる。

 あまり良い光景じゃないけど、なんかスカっとした。

 自分がヒーローになったみたいな気分だけど……こういう気持ちになるのはダメだと思う。

 少なくとも幸成くんはレベルの強さで自慢したりはしない。

 なにより、幸成くんはこういう騒ぎを起こさない様に立ち回ったはず。


「さて、あんまり事を荒立てるのは嫌なんでどいてくれませんか?」

「くそ!」


 で、リーダー格らしき男がナイフを取り出して立ち上がる。

 そこまでするの?


「女の分際で調子に――」

「乗っているのは……貴方でしょ?」


 死なない程度に蹴りを加える。


「ギャ!」


 不思議なくらい呆気なく男は飛んで行き、壁にぶつかった。


「ガハ……」


 悶絶している程度だから……うん、大怪我はしていないはず。

 精々青あざ位でしょ。


「ち、ちくしょう! こりゃあ経験者だ! 引くぞ!」

「だが――」

「実力差を見ろ! 逃げなきゃ警察行きだ」

「よくわかったわね」


 私の言葉に脅えの表情を見せ、ナイフを取り出した男を担いで男どもは逃げ出した。

 かなりやり過ぎた気はする。

 けど、あそこで引く事は出来なかったし、しょうがないわよね。


 正直に言えば取っちめて警察に突き出したい所だけど、今は警察の所に行くのは避けたいわね。

 世界観の状況やその他情報を調べたいし、買い物もしなくちゃいけない。

 何より大量にゲームを買った事を警察に話されたらどう説明すれば良いかわからない。

 ……本当、悪い事をしている訳でもないのに罪悪感みたいな感情が沸き起こってくるわね。


 ……ゲーム一つ買うのにこんなに苦労するの?

 何か手段は無いかしら?

 ネットのショップを利用するにしても家だとお母さんに怪しまれるし……難しいわね。


 今回は運が悪かったと思いましょう。

 何か対策が必要ならみんなに聞けば良いだろうし。

 という感じで、私は足早にその場を後にしたのだった。



 その後も家電量販店とか薬屋等、色々と回って購入した物と一万円札を調達して異世界に送った後、私は自宅に帰った。


「た、ただいまー……」


 考えてみれば長い事家に帰らなかった事になる。

 幸成くんの話やこれまでの状況から怒られないとわかっていても、悪い事をしている気分になるわね。

 恐る恐る家の中に入ると、丁度リビングにいたお母さんとばったり視線があった。


「……っ」


 思わず凍り付いてしまうのだけど……。


「おかえり」


 お母さんは特に何か変わった事は無いと言った様子でそう言った。

 あまり不信がられない様に、それとなく部屋へ向かう。


「ふぅ……」


 やっぱり、前に幸成くんが言っていた様に、私は居た事として認識されているんだと思う。

 その後は自宅でのびのびと……風呂に入ったり食事をして部屋で休んだ。

 幸成くんが森でやっていた事を追体験しちゃったかな?

 これは確かに……罪悪感が凄いわね。

 私の場合でもここまでなのに、幸成くんはみんなが森で大変だった訳だしね……。


「さてと……」


 明日は学校で色々と確認しなきゃいけない訳だけど、その前に本棚に仕舞ってあるアルバムを確認する。

 今年、撮られた写真を中心に記憶を頼りに実や茂信くんを探す。


 ……やっぱりいない。

 実が私の隣でピースをしているはずの写真が私単体になっている。

 これが認識改変の恐ろしい所なのでしょうね。


 ちなみに私達の高校は二年から三年に進級する時にクラス替えをしない。

 例年通り大学受験に備えてって事らしいけど、私達の場合、色々と事件が多かったから例えクラス替えがあったとしても、どうなっていたかわからないわね。

 まあクラスの場所は変わるけど多分、大丈夫でしょう。

 なんて思いながら私はその晩、久しぶりの自室で眠った。


ちなみにこの不良、幸成達がゲーセンに居た時にその場にいた不良達です。

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