デジャビュガール
「あの……嫌なら良いんですよ?」
聡美さんが考え込む私を心配してくれている。
私は頭を横に振ってから笑みを浮かべて答えた。
「気にしなくて良いわ。どっちにしても出来る事を確かめないといけないし、日本側がどうなっているか確かめないと行けないでしょ?」
そうだ。
仮に私がみんなを連れて行った事が明らかになっていたら失踪事件扱いとなっているはず。
幸成くんの時とは色々と事情が異なるんだし。
その確認もしなくちゃいけない。
……どちらにしても、お金が正しく使えれば合法であるだろうし、頼まれた品々を買って来たに過ぎない。
海外に個人取引していると思う事にしましょう。
確か古い玩具とかオークションで取引されるとか聞いた事があるし。
「とは言え……クールタイムが結構長いわね」
気が付かなかったけど異世界転送と日本転送は揃ってクールタイムがとても長い。
再使用出来るのは……この分だと1日くらいかかりそう。
安易に乱用するのは危険かもしれないわね。
聞いた話だと幸成くんは日本側から転移で狙撃とか出来るとか……茂信くんが言っていた。
私の場合は千里眼で見える範囲を超えてしまうと出来ない。
……物質転送でモノだけ異世界に送れるかも実験した方が良さそうね。
「まあ、調度良いんじゃないかな? みんなが欲しがっている品を一覧で纏める事が出来るし」
茂信くんが気楽な様子で、メモを纏めながら言う。
その動作が凄く自然で……これは以前もやっていたわね。
「一覧に纏めるほどの量を要求されている事に色々と言いたい事があるわ」
「あはは……」
「じゃあ、私達は今日もこれから修業に行きましょう!」
「ガウー」
実は会話に混ざって。
お願いだから。
「じゃあ行ってくるよ。もっと……心身共に強くならなきゃいけないから」
「……じゃあ夜になったら迎えに行くわね。私達もLv上げを再開しましょう。買い物は明日からだしね」
「はい」
という訳で私達は一時解散して、各々やる事をする為に出かけた。
翌日。
予想通りクールタイムは1日だった。
聡美さんと手を繋いでから日本転送を使用する。
転送先を変更する事は出来るけど……今は公園にしておきましょう。
茂信くんが纏めたメモを見て私は若干、頭がクラッとなる。
城下町の図書館には随分と漫画の蔵書数があるなぁと思っていたけど、どうやらアレは全部幸成くんが持ちこんだ物で間違いないみたい。
私は2代目……という事なのでしょうね。
「じゃあ行ってくるわ」
「うん。行ってらっしゃい」
「MDバーガー忘れないでくれよー! 後、うなぎ!」
萩沢くんに至っては、幸成くんにも頼んでいたのであろうお使いを当たり前の様に追加して来る。
若干イラっとしてくるけど我慢。
私もなんとなく日本の味が恋しいし、気持ちはわかるというのもある。
「色々と検証するから遅くなるわ。聡美さん、みんなが私を忘れて心細いかもしれないけど、お願いするわね」
「はい! とはいえ、めぐるさんがいないとみんな簡単に移動出来ないので、早く帰ってきてくださいね」
「ええ、物質転送も確かめるから届いたら整頓をお願い」
「もちろんです!」
「あ、めぐるさん」
「何?」
茂信くんが私を呼び止める。
そして台車を引いて私に握る様に渡してくる。
「幸成が使っていた奴だよ。日本で買出しするなら便利だと思って」
「あ、ありがとう」
台車で買い物……大量の本を買ったんだから持ち運びが大変だったのかしら?
他にも色々なモノを買っていたらしいから必要だったのかもしれない。
「新作の漫画……楽しみにしている」
「ええ」
……依藤くんもストレス解消は必要よね。
黒本さんは尋常じゃない量の本を頼んでいる。
正直、ちょっと前に萩沢くんにイラっとしていた部分が消えていく気がするわ。
幸成くん、こんな気持ちでがんばっていたなんて……凄いと思う。
やっぱりあの時、谷泉くんや小野くんに話さなくて良かったわね。
「アニメのDVDもついでに買ってこようかしら?」
「機材の調達は簡単だろうけど、携帯性が……と思ってさ。飛山さんが良いなら今度、頼むよ」
幸成くんがこの役目をしていた時は移動が不自由だったそうだものね。
発電機とテレビを携帯して……と言うのもどうかと思うし、携帯プレイヤーも結局は充電しなきゃいけないもの。
DVDの発想は自然と消えていたのかもしれない。
という訳で私は転送の光を潜って日本へと戻った。
もちろん、当然の事だけど鎧とかは外しているわよ?
昨日はすぐに帰ってしまったけど、と私は辺りを見渡す。
うん、昨日と同じく、異世界に行く時に集まった公園だわ。
時間を確認する。
今は……お昼前ね。
よくよく考えてみれば今日は何時で何曜日?
学校に行かなきゃいけない時間じゃないかしら?
「確認の為にも……行かなきゃいけないわよね?」
そう思いつつ、私は近くの自販機に両替で作り出された硬貨を入れて確認する。
……しっかりと使用する事が出来る。
機械すら騙す精巧な貨幣なのか、それとも本当に日本円なのか。
千円札を太陽に掲げてみる。
しっかりと透かしがあって、番号は記載されている。
偽札には思えない。
そもそも両替で出てきた紙幣って新品のお札じゃないのよね。
このお札……どこから出てきたのか実に不思議。
幸成くんは紙幣をポイントに変換していたけど、アレはアレで不思議よね。
まあ、結局能力って事で全て片付けられてしまうのでしょうけど。
とりあえず……うん。
どちらにしても私の能力は一度行ったところじゃないと使用できない。
日付を確認……あ、今日は休日なのね。
これは運が良かったかもしれない。
異世界に行くって準備して行ったから学生服とか家に置きっぱなしだったし、一旦家に帰るにしても怪しまれる時間だったもの。
なんて思いつつ、私はその足で買出しをする事にした。
町並みを観察する限りだと、コレと言って変化は無い。
実に平和な風景が続いている。
茂信くん達がこの世界で認識されているのかを確かめないといけないけど……それは学校へ行かなきゃいけないのよね。
明日学校に行った際に確認を取りましょう。
そうして私は依頼された物を纏めたメモを確かめる。
まずは……漫画ね。
物質転送で異世界へ郵送できるか確かめなきゃ。
何だかんだでクールタイムがあるのが問題なのよね。
幸成くんは詠唱時間だったけど。
「そうだ」
単純にさっき自販機で買った飲みモノを異世界に送る事が出来るか試してみよう。
人目を避けて使用してみる事にした。
……誰も見て無いわよね?
キョロキョロと辺りを見渡しつつ、手をかざして物質転送を指定する。
すると光の柱が出現。
これ、かなり目立つから使う場所を考えないと危ないわね。
自販機で買ったお茶の入ったペットボトルを光の中へと投げる。
それから反対側を確認……うん、貫通はしていない。
サッと転送を切ると……ペットボトルは消失していた。
光の中にある訳では無かった。
千里眼で確認すると、異世界の私の部屋にペットボトルが転がっている。
聡美さんが部屋に入ってきて、届いた物を見てペットボトルを立ててくれた。
物質転送は異世界にも飛ばせるっと……異世界転送でしか飛ばせないのだったら面倒だったわね。
コレは良い情報だわ。
なんて思いつつ本屋に移動し、店員に欲しい本のリストを手渡す。
「……こんなにですか?」
「はい、お金はあるので」
百冊とか買ったら怪しまれるので三十冊……ならどうにか誤魔化せるわよね?
アニメとかに嵌った女子高生って事で。
「うーん」
「どうしました?」
店員が私の顔を見ながら首を傾げていた。
後に判明する都市伝説と言うか口コミ的な噂話なのだけどデジャビュガールと私は囁かれてしまうっぽい。
大量に物を注文する変わった客なんだけど、前にも似た様な事をした様な錯覚を覚える人が多数居た……そうだ。
きっとその人物は幸成くんでしょうね。
噂のスパイスボーイも幸成くんなんじゃないかと確信しつつある私なのだった。