鑑定
「凄い! そんな事が出来るんですか!?」
実さんも興奮して尋ねてくる。
「私の能力よりも凄い! これならみんな喜ぶんじゃない!?」
「は……?」
しかし萩沢が表情を曇らせた。
そしてその意味をめぐるさんや実さんは理解して表情を暗くさせる。
そうなんだよなぁ。
プレイヤー組の連中に知られたらどうなるかわかったもんじゃない。
日本の物を取り寄せられる事を知ったら間違いなく、俺がいろんな問題に巻き込まれる。
その辺りを萩沢は察したんだろう。
他にも、谷泉達に冷遇された事に対して、思う所もあるのかもしれない。
「日本の物を引き寄せられるって能力だと大塚辺りがまた羽橋に八つ当たりしそうだよな」
「う……ありえますね。大塚さんの場合、幸成くんが私達をこの世界に引き寄せたんだとか言い出すかもしれません……」
「そう……だね。谷泉くん達もどうやってLvを上げたんだとか詰問してくるだろうし、大塚さん、私や幸成くんを目の仇にしてるから酷い事をしてくるかも」
ありえる。今じゃ大塚もプレイヤー組で地味にLvが高い。
今の俺じゃ手も足も出ないだろう。
「俺も出来れば隠したい。ただ……この能力でみんなの力にはなりたい」
この気持ちは本当だ。
どうしたら良い?
と、みんなに尋ねる。
「うーん」
萩沢が呻く。
そりゃあそうか。
ずっと俺が悩んでいる案件だ。
そう簡単に答えが出るはずもない。
「とりあえずさ、食料とかそういうのを金銭で取り寄せられるみたいだから、みんなが持っている日本のお金を使って購入するとかどう?」
俺がそう言うと腕を組んで考えていためぐるさんが手を上げる。
「待って。ここで決めて良い事じゃないけど、幸成くん、さっきポイントとお金をひとまとめって言ったよね?」
「うん。持っているお金もポイントに出来るみたい」
「そこで中断すると、どうなるの?」
……かかった!
そう、俺が敢えて気付かない振りをしていたのをめぐるさんが気付いた。
これで気づかなかったら後で気づいた風にして話すつもりだったんだ。
「試してみよう」
俺は財布にあった千円札を取り出して、能力を作動させる。
千円札は光となってポイントへと変換された。
「ここで中断……あ、ポイントになったままだ! お札に戻らない!」
「待てよ! つまりここで金銭をポイントに変換すれば坂枝に武具を発注してもらうポイントを早く集められるんじゃないか!?」
萩沢が興奮して言い放つ。
そうだ。それで良い!
後はLv10で出た拡張能力によって、また考えれば良い。
何が出るかわからないしな。
「みんなのお金を集めるってのは難しいけど、今じゃゴミの紙幣がポイントになるならやり用がある!」
「そうだね。上手く行けばもう少し強い魔物と戦える装備がすぐに作れる様になるね」
「問題はみんなの所持金がどれくらいかによるけど……」
証拠とばかりに俺はめぐるさんに1000ポイントを渡し、めぐるさんは実さんに、実さんは萩沢に渡す。
で、最後に萩沢が俺に返した。
「後で確認しよう。何、この中で小銭しか学校に持ってきてないって奴はさすがにいないだろ?」
俺達は高校生だぞ?
学校へ行くにしても小銭しか持ってないとかはさすがに無い。
買い食いとか普通にするだろうし、電車やバスで来ている奴もいる。
まあ……計画性の無い奴が金を使いきって持っていない、とかあるかもしれないけどさ。
「銀行預金のカード類とか使えるかな?」
う……萩沢め、難しい事を……。
というかカードって……お前、どこのブルジョアだよ。
「お年玉を貯めてるから上手く変換出来たらかなりの金になるんだが」
ああ、そういう事か。
考えてみればバイトをしていた人もいるだろうし、口座位持っていてもおかしくはない。
「どうだろう? 試してみないとわからないけど……」
「良いの? 全財産でしょ?」
そう言うと、萩沢はここで胸を張り、男の顔で言い放った。
「この窮地を乗り越えられるなら安い金だ。そもそも日本に帰れないと使えない物だし」
「日本に帰った時に無一文だよ?」
「金を惜しんで谷泉の奴隷になる位なら、俺は喜んで全財産を差し出す」
おお……萩沢が漢に見えたぞ。
お年玉で男を上げれるとか、何事もタイミングなんだな。
「じゃあ後で銀行のカードを貸してくれ、出来るか試してみる……暗証番号も含めてな」
「任せた。みんなだってそうだろ?」
俺も……まあ、多少は貯金を持ってるけどさ。
ぶっちゃけそれを切り崩していた訳だし。
「そうだね。日本のお金なんて戻ってからどうにかすれば良いし」
「今はこの時を乗り越える為に貯金を切り崩すか……日本の私物とかは取り寄せられる?」
「うーん……ちょっと難しいと思う。項目に無いっぽい」
それぞれの私物と言っても、あっちではみんなはいなかった事になっている訳で、銀行口座もあるか怪しいな。
しかも俺が不法侵入してまでみんなの家の私物を持ってくるのは難しい。
下手をすれば逮捕されかねない。
「そっか……どっちにしても素敵な能力が出たね」
めぐるさんが嬉しそうに微笑んで歩きだした。
「帰ったら茂信くんも喜びますね」
姫野さんも我が事の様に喜んでいる。
というか、姫野さん。貴方の拡張能力はどうなったんですか?
「俄然やる気が出た。後で物を頼んでも良いよな?」
「ああ……どちらかと言えば食い物とかなら簡単に取り寄せられるみたいだぞ」
「じゃあMDバーガーが食いたい!」
萩沢も現金な奴だな。さっきの漢が台無しだぞ。
そう思いながら、俺達は狩りを続行した。
ちなみに実さんの拡張能力である魔力補給はすぐに効果がわかった。
地味に切れ味が良くなっていて血糊が付かない。
とはいってもしばらくすると切れ味が戻るんだけどさ。
もしかして日本から持ち込んだナイフの切れ味が悪いのって……。
どうやら武器に内包された魔力という物が一時的に切れ味を上げて、油をはじいてくれるようになるっぽい。
谷泉が能力を使って魔法剣とかやっていたけど、それと相性が良さそう。
出来る限り効率良くを目指して、Lvも上がったので迅速に魔物を倒し、萩沢がLv5になった所で帰還する事になった。
「うえ……鑑定って拡張能力が出たぞ」
「へー……どんな事が出来るんだ? 未鑑定品とかのドロップがあるのか?」
「物の値段を測れるとかだったり?」
「そんなゴミ拡張能力だったらいらねー」
そう言いながら萩沢は落ちてた……ハーブっぽい良い匂いのする草を抜いて鑑定する。
「お?」
萩沢は俺にその草を渡す。
ビルチャー 効果 戦意高揚 ポイント価値 10
薬草、調合で使用すると薬になる。
スパイシーな薬草。食事に使うと興奮効果あり。
とまあ、詳しい効果が映し出されている。
「用途がわかりやすくなりそうだな」
「ああ、武具とかに使うと良いかもしれない」
「今までどんな効果なのかと装備時の能力差でしかわからなかったし、キノコ類も鑑定すれば食えるかわかる!」
「そうだな。どんな物でも鑑定すれば食えるか食えないか見極められる」
ヒャッホーと萩沢が興奮して声を上げる。
いや、食べ物だけなのか?
「これって人や魔物は対象か?」
「いや、物限定みたいだ」
「そうか、わかれば谷泉達の状態が遠隔で見れると思ったんだが……」
「出来ればよかったな……」
……いや、出来なくてよかったんじゃないか?
逆を言えば、俺が嘘を言っている事が間接的にバレる。
危ない危ない。
まあそうなったら本当の事を言うけどさ。
「ともかく、こりゃあ大収穫だ! 坂枝の奴もササっとLvを上げた方が良いかもしれないぜ!」
「そうだな。後で狩りを再開して行こう」
「とはいえ……今日はもう無理じゃないですか?」
「あー……そうだな。谷泉共がいつ帰ってくるかわからねぇし」
「どっちにしてもそろそろ帰ろう。かなり良い収穫が出来た事を報告しようよ」
めぐるさんがそう言ってポータルを出す。
「上手く行けば装備も新調出来て、どんな物でも鑑定可能!」
スキップをしながら萩沢が潜る。
興奮し過ぎだ。
「良かったですね」
「そうだね」
実さんも我が事の様に喜びながら萩沢の後を追う。
「やっと幸成くんが凄いって事を証明できそうだね」
「うん。だからめぐるさんももう俺を気にしないで良いよ」
めぐるさんにそう言ってから俺はポータルを潜って茂信の工房に戻った。
まあ、これで……日本の物を堂々と茂信達に渡せるな。
クラスのみんなに渡す事は……出来ないけどさ。
茂信に報告すると、我が事の様に喜んでくれた。