共鳴両替
「また何か嫌な陰謀とか根深い問題が関わってるってオチじゃねえよな?」
「す、すいません……」
萩沢くんの愚痴に聡美さんが頭を下げる。
「ごめん、聡美ちゃんが悪いんじゃねえって! そうだよな、聡美ちゃんが関係していたら理由を教えてくれるよな」
「はい。何か分かれば絶対に話をします」
「そもそも行き来出来る可能性が見つかっただけでも儲け物だ」
依藤くんが腕を組みながら答える。
そうね。行き来出来る事に利点はあるはず。
「前みたいな陰謀で俺達がー……って事にならねーと良いけど」
「この世界の人達もとなるのが違う点ね。ともかく、色々と調べて行くしかないわよ」
「かと言って俺達のLv分相手が強くなるとかあったらどうすんだよ?」
黒本さんの意見に萩沢くんがもっともな問題を言う。
確かに……少しでも強くなるべくと思っていたのに、こんな所で出鼻を挫かれてはたまったものじゃない。
「敵がいるかもわからないのに警戒していたらキリが無いわ」
私は一歩踏み出して答える。
そんな何度も同じ事が起こっているとは思い難い。
第一、クラスメイトではなくこの世界の人達と言う点だってあるのだし。
「ここは私自身の能力に問題があったって事で一度置いておきましょう」
「うん、めぐるさんがそう言うなら」
「ああ、そうだな」
「共鳴をしないと発動できない……何か気になりますね。ですがわかりました」
そう纏めようとした所で黒本さんが考えながら呟く。
「そもそも浮川さんの話を参考にしたとしても……謎は残っているのよね」
「何かあるんですか?」
「ええ、そもそも最初のクラス召喚が起こった時よ。なんで、そんな事が起こったの?」
「それは……私の記憶内だと森にあった魔法陣というか儀式が原因だと言う事しかわかりません。その儀式に浸食されてからは憎悪の感情をクラス召喚の引き金に使われていたようで……」
「そう。始まりがなんで行われた事なのかがすっぽりと抜けている。原因はそこに関わっている可能性もゼロじゃないって事も忘れずに調べて行くわ」
「黒本さん……」
普段はとても知的で凛々しい人よね。
色々と考えが深い。
能力がどんな理由で授けられるのか分からないけれど、書記という能力は、まさに彼女にピッタリだと思える。
血が上りやすい私に比べたら魅力的な女性が黒本さんだ。
「で、物は相談なんだけど……羽橋君と同様の事が出来るんだったら、日本で色々と買出しをお願いできないかしら? 出来ればいろいろと……くふふっ」
ウホ! っと背後に文字を背負って黒本さんが言い放つ。
……直前に抱いた尊敬の念を返して欲しいわね。
「ずりーぞ美樹ちゃん! めぐるちゃん、俺も俺も!」
「そ、それは私達もお願いしてよろしいでしょうか!」
さっきまで黙って私達の話を聞いていた騎士達が身を乗り出して来る。
「王も前に述べておりますが、新作のゲームや漫画をヒヤマ様が持ちこむだけで経済効果は元より、無数の金銭やポイントを稼げるでしょう」
この前のパーティーの席での事を思い出す。
確かに王様や王妃様を含め、サブカルチャーを待っている人は無数に居るでしょうね。
今の私達は資金が潤沢で困ってはいないのだけど……かと言ってむやみに断るのは国で色々と優遇して貰っている手前、避けるべき。
そもそも……。
私はクラスのみんなに視線を向ける。
「またMDバーガーくいて―」
「ニャー」
「漫画の新刊とか読みたいな」
「燃料は多ければ多いほど良いわ! 時期的には地方イベントに飛山さんを経験させるのも視野に入れるべきよね(ウホッホ!)」
とまあ、割と日本の品々を欲している人もいるみたい。
イベントはお断りよ。
……まさか幸成くんをその手のイベントに行かせたとか言わないよね?
「私は別に困って無いなー何だかんだ言って萩沢くんが色々と生活用品を作ってくれるもん」
「ガウー」
実はボスさんを撫でまわしながら日本で必要な物は無いと答える。
貴方は異世界で欲しい物があるんだものね。
ボスさん、困りながらも鼻の下が伸びてるわ。
エロクマ化したら許さないわよ?
「み、皆、めぐるさんが日本に帰れるのがわかったからと言って幸成と同じ事が出来る訳じゃないぞ?」
「そうです。お金とか……」
茂信くんと聡美さんがみんなを止めるべく、近づくみんなに立ちはだかる。
なんて言うか……幸成くんがこの世界で日本の物を買って来た際の苦労を垣間見た気分ね。
「それなら」
「この世界の」
「両替系の能力者に」
「ポイントを日本円に出来るか」
「試してもらおう!」
凄い連携だったわ。
まるで一つの生き物みたいに考えを合わせて答えている。
目的が一致した時の団体こそ恐ろしい物は無いと、私は直に体験していると思った。
「ニャー?」
「ガウー?」
ユニークウェポンモンスターの二人が不思議そうにしているじゃない。
人間の欲って凄いものなのね……。
「というか、知らない通貨への変換って出来るのか?」
「仮に出来なくても、聡美ちゃんと共鳴したらできるかもしれねぇぞ」
萩沢くん、こんな時も余計な知恵を……。
はあ……。
という訳で私が日本へ行き来出来る事は即座に騎士から王様に伝わり、国が斡旋したポイントを通貨へ変換する能力者を斡旋された。
そしてみんなが持っていた日本円……1円から始まり、1万円は……さすがに無かったけど5千円紙幣を見せてから変換できないか実験した。
結果は……聡美さんが共鳴したら成功して私の手には無数の5千円札が握らされた。
これは共鳴両替とでも言うんでしょうね。
このお札……大丈夫なのかしら?
幸成くんは能力で変換して出していたと言うけど……犯罪に加担している様な気分だわ。
今からでもやめた方が良い様な気がしてきた。
「何なら銀行に行って確かめたら?」
私が困った顔で5千円札の束を見ていると萩沢くんが言ってくる。
「それって仮に偽札だったら捕まるのは私なんだけど? その責任を萩沢くんは取ってくれるの?」
「めぐるちゃんが彼女になってくれるなら責任は取るぜ!」
「ニャー!」
親指を立てた萩沢くんにミケさんが襲いかかった。
グッジョブ! 丁度、怒ろうかと思っていた所よ。
「ミケさん、そのまま萩沢くんを犯して良いわ」
「にゃあああん」
「ちょ! なんて言う事を言いやが――」
萩沢くんは私の顔を見て絶句と言う顔をしていた。
ええ、冗談ではないわよ?
犯罪者になる様な事を不用意に言い放った挙句、勝手に人を彼女にしようとした萩沢くんには良い末路だわ。
「わ、悪い! おい! マジで謝るからミケやめろ!」
「ニャアアアア!」
萩沢くんはふざけているミケさんのお手玉にされる罰を受けてもらった。
さすがに紳士で男爵のミケさんがそんな真似はしないに決まっているでしょ?
「ウフフフ」
黒本さんもスケッチをやめない。
ネタを提供してしまった様な罪悪感はあるけど我慢するわ。
「自販機辺りで試したらどうかな? 人通りの無い場所ならどうにかなるでしょ? 幸成もきっと試したと思うし」
「そうね……多分、大丈夫だとは思うけど……万札を1枚は持って来ないと行けないと言うのが面倒ね」
使用出来る事を確認したら、銀行に1万円分振り込みをして紙幣に変換してみましょうか。
失敗したら……私は日本に帰れなくなりそうで怖い。
幸成くんのように認識改変で誤魔化せる事を祈るしかない。
本当、幸成くんも体験した事なんだろうなぁ。素直に称賛するわ。
犯罪をしている様に見えてしまうけど……確かめなきゃ始まらない。
というか、そもそも日本の物を異世界に持ちこんで利益にするのって犯罪ではないのかしら?
……この考えはやめましょう。
小野くんみたいな殺人とは違って誰かが死ぬ様な問題ではないし、そもそも異世界に日本の文化を無断で持って行って儲けていますと言って信じてもらえる訳がないわ。
異世界転送で連れて行って証明する事は出来るけど、そうなったら今度は連れて行った人を帰す術が無い。
中々難しい問題ね。