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日本転送

「なるほど……だけど結果的には良かったんだし、今回は水に流せば良いんじゃないの?」


 幸成くんと茂信くんなりの関係らしい。

 それを一時の衝動で破ってしまって、後悔しているみたいね。

 反省しているなら幸成くんも文句は言わないと思う。


「いや、この経験をしてしまう事に問題があるんだ!」


 茂信くんが強い決意に満ちた目で言った。


「成功したと言う経験が、また精錬をしたくなる……やがて来るのは、並行世界の俺と同じく……破滅だ。絶対にこれ以上する訳にはいかないんだ!」


 並行世界……聡美さんの話で出てきたこの世界の過去に召喚された私達の事ね。


「並行世界の坂枝って賭博系の能力所持者で割と悲惨だったらしいんだ」

「俺の成功は幸成が影で支えてくれていたからなんだ……!」


 なんでもルシアちゃんという子から聞いたらしいのだけど、並行世界の茂信くんはギャンブルが凄く好きで失敗する事が多かったらしい。

 その時は並行世界の同一人物という事で納得したみたいだけど、幸成くんがいなくなった世界で茂信くんはメダルゲームにハマってしまった。


「理由はわかったけど……じゃあ、どうするの?」


 無駄に自己主張するフルメタルタートルの剣+12。

 どう言おうか悩んでいると、依藤くんがフルメタルタートルの剣の柄を持って指差して言った。


「これを街中で見せたら泥棒とか強盗、ガラの悪い冒険者に絡まれる事請け合いってくらいの品だな。身を守るには相応の強さが必要だろう」

「それほどの物なの?」

「過剰一つで、金額が跳ね上がるからなー」


 なんともすごい話ね。

 でも、確かに通常以上に鍛えた剣……それも茂信くんが作ったフルメタルタートルという、元が凄い武器だから、価値が上がるのも理解出来る。


「限界まで過剰出来たら……ユニークウェポンとは異なる聖剣と呼べる次元じゃないか? それくらいの品さ」

「俺は……これ以上、この拡張能力を使う訳にはいかない! もっと精神を鍛えるんだ!」


 ガバッと茂信くんは立ち上がって、まだ熱血している実とボスさんに声を掛ける。

 え? その二人と繋がるの?


「実さん、話は聞かせてもらった! 俺も一緒に修業させてくれ!」

「うん! 一緒にがんばろー」

「ガウー!」


 何か実の派閥に茂信くんが所属してしまったんだけど、大丈夫かしら?

 とはいえ、茂信くんの気持ちも理解出来るし……う~ん。


「依藤君とミケくん、そして騎士さん達には悪いけど、私達は私達で精神を含めたLv上げにいくねー!」


 えっと……実が凄く燃えている。

 実がいなくなると効率がちょっと落ちるけど……効率云々とか言える雰囲気じゃないわ。

 なんでも理論で話すつもりはないし、どちらかと言えば私も理屈ではなく感情的だから、今の実と茂信くんにあれこれ言えない。

 そんな二人を止められないし、がんばろうという気持ちはとても素晴らしいもの。

 気分を害する意味は無いわね。


 効率云々は解決手段が無い訳じゃないし、私は私でがんばりましょう。

 私が城下町にみんなを転送で返せば魔力とかいろんな物を補給する事は出来るしね。


「ま、まあ……精神修行って事で良いんじゃないかな?」


 依藤くんも若干押され気味だけど同意した。

 そんな訳で私は実達を本人が望んだ山奥の修業地へと転送したのだった。



 その日の夕方に顔を出したら、滝修業を実、茂信くん、ボスさんがやっていたっけ……。

 白い修道者の衣装に身を固めた実と茂信くんが両手を合わせて滝に打たれていた。

 ボスさんも一緒だったけどね。

 クマだったりセイウチだったり忙しそう。


「……」


 ドドドと結構、滝の勢いは強そうだった。

 三人は瞑想するように滝に打たれていた。

 一応、焚き火が焚かれていて、直ぐに体温を回復出来るようにしてある。


 結構、本格的な修業だけど……これってボクシングに関係あるの?

 修業地って言うか、山なんだけど。

 近くにユニークウェポンモンスターが縄張りにしている建物があるらしくて其処を拠点に修業をする……らしい。


「よっほっは! よーし! 後一周ー」


 滝の修業を終えた後は近隣をランニング。


「ガウー!」

「おう!」

「その後はめぐるに頼んで温泉に入って疲労を取ってから自炊の準備だよー!」

「おー!」

「ガーウ!」


 ボスさんがクマにしてはおかしな両手を叩く挙動をしている。

 元がセイウチと言う所を考えるにオットセイみたいに拍手って感じかしら?

 実際のオットセイがするか分からない、あくまで私のイメージだけど。

 ま、修業に付き合っている訳じゃないし、私は私で仕事と言う感じで……実達を送り届けたのだった。

 なんて言うか、みんな色々と変わって行っているんだと実感する出来事だった。



 実達が山籠りをしている間に、依藤くんの協力もあって私はLv40になった。

 依藤くん曰く、昔に比べて成長が遅いらしいけど、これだけ環境が整っていて楽に戦える状況ならば良いんじゃないかと思う。

 毎度のことながら黒本さんは書庫で調査の為に留守番で、萩沢くんはミケさんと狩りに出かけている。

 っと、倒した魔物を回収してから私達は各々状態を確認していた。


「Lv40になったわ」

「おお! という事は何か拡張能力が出たって事だね」

「ええ」


 最近では依藤くんとも大分打ち解けてきたと思う。

 森の中での出来事は既に過去の認識になっている。

 ちなみに聡美さんもLv40になった、確か出たのが遠隔共鳴。

 範囲5メートル圏内の相手と手を繋がずに共鳴を発動できるようになる拡張能力だそうだわ。

 ただ、離れた分だけ魔力の消費が増えるらしい。

 私は自身に追加された拡張能力を確認し……目が一点に集約する。


「……日本、転送」

「え!?」


 依藤くんと聡美さん。同行している騎士達が揃って私を凝視する。

 そう、私の視界に浮かんでいる拡張された能力名は日本転送と書かれていた。


「これは確か森の中で羽橋や坂枝、飛山さんが待ち望んでいたみんなを元の世界に帰す事が出来る拡張能力って事か!?」

「一刻も早く実験をした方が良いですよね」

「おお……異世界とこの世界を結ぶ希少な能力ですね! ハネバシ様と同様の事……いえ、それ以上の事が出来るのでしょうか」

「一応、みんなと相談してから実験したいと思うわ」


 この日の狩りは中断して私達は帰還した。

 そうしてみんなを招集、実験として毎度の事ながら茂信くんの工房で話し合いをする事になった。

 一応、みんな注目していると言う事なのか、国の騎士達も期待の眼差しで警護している。

 さすがにゲームはしていない。


「日本転送を習得したんだって?」

「ええ」

「しっかしLv40で習得かよ。森の中でLv上げしてたらいつ頃覚えたのかわかったもんじゃねえな」

「覚えていた頃にはきっと小野君の暴走が無かったとしても、谷泉君位なら倒せていたんじゃないの?」


 黒本さんの言葉に私も同意してしまう。


「そもそも送電を習得した段階で正面から谷泉くんには勝てたでしょうね」


 私の攻撃系の拡張能力である送電は、威力の面で言えば魔力の消費こそあれど、かなりの威力が出せる。

 少なくとも谷泉くんの炎に負けない攻撃が出せたはず。

 そんな状況で茂信くんの武具があったら確実に勝てた……とは思える。

 谷泉くんが何を覚えたかによるけれどね。

 メタルタートルの剣もあったし、炎の力に頼っている谷泉くんなら……うん。


「あの頃の事を考えるとな……手堅く、それでありながら魔物の猛攻に手間取っていた頃だからな。俺も支給される武器の攻撃力の差が無くて苛立っていた時期だった」


 依藤くんが思い出に浸る様に答える。


「坂枝からもらった剣の威力で台頭出来たもんだし、実質俺は戦士扱いだった」


 目に見える程、万能に見えなかったのが依藤くんの剣術だったらしいから……戦闘組も結構大変だったのね。


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