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「ヴォフ!」

「で? なんで貴方はそんなに落ち込んでいるの? 目的は一緒で、実の師匠として色々と叩きこむ役目を了承したんでしょ?」

「ヴォフー……」


 で、私がそう尋ねるとボスさんは途端に視線を外して実の方を見る。

 そしてクマ姿に変化した。


「えへへークマのボスさんー。約束通り基本その姿でいてねー」

「ガウー……ぐふっ」


 なんか最後ちょっと笑ったわね

 嫌そうだけど、本気で嫌ではないみたい。

 まんざらでもない様に見える。


「ガウガウ」


 で、クマ化したボスさんは自らの胸を何度か叩いて見せて自己主張する。


「あー……師匠にはなるし実さんに色々と教える、戦いも手伝うけど、クマ化する事に不満があるって事?」

「ガウ」

「そこは……実だから諦めて」


 説得して止まるものじゃないのは私もみんなもわかっている。

 それくらい実のクマ好きは筋金入りだ。


「クマさーん」

「ガ、ガウー」


 実に抱きつかれて鼻の下を伸ばしている様に見える。

 クマにされた事の悩みは大した事じゃないんじゃないの?

 というか実に鼻の下を伸ばすのは辞めてくれないかしら?


 なんて言うか……ボクシング漫画のセコンドとかに居そうなおじさんが美少女に抱きつかれて鼻の下を伸ばしている様に見える。

 セイウチでは無くクマを強要されるくらい我慢しなさい。

 実と一緒に居ると言うのはそう言う事よ?


「私は、修業してクマ子ちゃんともっと仲良くなる! ボスさんは幸成君と再戦して今度こそ勝つ」

「ガウ!」


 二人揃って目に炎を宿らせて、背後に炎を背負って見える。

 実の野望はわかったわ。

 幸成くんとクマ子ちゃんも大変ね。


 なんて言うか……ホント、異世界に来て実は変わったわよね。

 天然でちょっと変わり者くらいの少女趣味だっただけなのと、ボクシングとクマをこよなく愛する熱血になるんだったらどっちが幸せなのかしら。

 結論は出なかったけど、実を異世界に誘った事を僅かに後悔する。


「そんな訳で私は来るべき時の為にもっと修業するの! 精神も鍛錬し、何があっても乗り越えてクマ子ちゃんが羨む人になるわ!」

「ああ、そう。実がそう決意したのなら私は止めないわ。ただ、幸成くんやクマ子ちゃんって子を困らせない様にね」

「うん!」


 返事はしっかりしてるのよねー……。


「だから、これから私は山籠りをする! 既に修業地は決定済み!」


 どれだけ熱心な鍛錬をする気!?


「実さん……なんて立派な志なんだ。それに比べて俺って奴は……」


 そこで黙っていた茂信くんが感激したって顔で言った。

 えっと……感動する要素あったかな?

 実のどこに共感する部分があったのかは謎だけど、何か理由があるのかもしれない。


「坂枝?」

「茂信くん?」

「一体……?」


 依藤くんと私、そして聡美さんが首を傾げながら茂信くんを見る。

 そう言えば集まる前に若干震えていたと言うか、挙動不審だったけど、一体どうしたと言うのかしら?


「はは……みんな、俺を嘲ってくれ。俺は……幸成がいないとダメな奴なんだ」


 ……この場に黒本さんがいなくてよかったわ。

 絶対に曲解してゴリラになっていたはず。

 それはともかく、どういう事なのかしら?


「一体どうしたと言うの?」


 私の質問に聡美さんが同意する様に何度も頷く。

 情緒不安定というか、何か懺悔とかをしそうな雰囲気の茂信くん。


「そうだ。坂枝、一体何があったんだ?」


 依藤くんもそんな茂信くんの様子に困惑気味だ。

 すると茂信くんはカウンターの下から……何か刀身がキラキラと発光しているメタルタートルの剣を取り出した。

 確認する。


 フルメタルタートルの剣+12


 フルメタルタートル?

 たぶんメタルタートルの剣よりも良い武器よね?

 上位武器とか、そういう感じなのはわかる。


「坂枝……まさかお前……」


 依藤くんはそこで事情がわかった様に、何か同情的な目を向ける。


「んだよ、過剰かよ。ビックリさせんな」


 と、萩沢くんは呆れ顔。

 結構深刻そうだけど……よくわからないわね。


「笑うが良いさ」

「いや、よくわからないんだけど」


 何を笑えば良いの?

 この無駄に自己主張して発光する剣を見て、何を笑えば良いのかわからない。


「この剣ってこの前、私と共鳴して打った奴じゃないですか?」

「うん……実験と言うか名目を立ててさ」


 名目?

 というか、聡美さんも協力して打った奴なのね?

 それならとても良い武器なんじゃないの?


「この剣が微妙に光っているのはわかるけど、それって何かの付与効果を付けたって事でしょ? 夜に振りまわすには良さそうよね?」

「あー……飛山さんは知らないのか」


 依藤くんが苦笑気味に私に向かって答える。

 何かいけない事なのかしら?

 そもそも名目、とか何か後ろめたい気持ちがある事を前面に出している様に聞こえる。

 悪い事、で作られた物なのかしら?


 刃物で悪い事……何か非合法な物質で作られているとか? 国が指定した行けない事だとか?

 うーん。

 茂信くんの性格から考えた方が近い様な気もする。

 だけど、それは何だろう?

 心当たりがありそうな気はするけど出て来ない。


「何が悪かったの? 私にわかる様に教えて欲しいわ」

「法律的な意味合いの犯罪とかじゃないさ。そうだな……敢えて言うなら坂枝自身が戒めていた事を思い切り踏み抜いた感じだな」


 依藤くんが説明すると茂信くんが同意する様に反省の表情を見せて頷いている。

 というか壁に反省するサルみたいに手を付けないで。

 ふざけているのかと思うから。

 しかし……なんとなく吸い寄せられるような不思議な魅力のある剣になった気がする。

 良い仕事をしたんじゃないの?


 戒め……茂信くんがこの世界に来てから注意されていた事とか、本人の口調から察するに……たぶん、ギャンブルかしら?

 なんて思っていると依藤くんは剣を指差して答える。


「今回の問題は坂枝の拡張能力にある強化、これは知ってるね。プラスを付けて武具の性能を引き上げる能力と精錬、強化を越えた強化を施す拡張能力が関わっているんだ」


 今までの材料から察するに……。


「前に萩沢くんが注意していたり、なんとなく今までの事を判断材料にすると出てくるのだけど」

「理解が早くて助かる。そう言う事、失敗すると武器が壊れる。まさに博打だけど成功すると強化の比じゃない性能上昇が出来るんだ」

「なるほど」


 私も事情を察する事が出来た。

 萩沢くんの話では幸成くんが居なくなった事で茂信くんはギャンブルをするようになってしまった。

 この事がどうも茂信くんのコンプレックスなのだ。

 ただ、私は既にメタルタートルの剣を持っている。少なくとも私の剣では無い。


「しかもよりにもよってフルメタルタートルの剣でしたとか……こりゃあ羽橋が居なかったら坂枝がダメな理由には十分だな」

「ねえ、なんで幸成くんがこの話に関わってくるの?」


 確かに幸成くんがいない世界の茂信くんはギャンブル好きの面がある。

 けど、それくらいは……って高額ギャンブルに手を出してしまったって事なのかもしれない。


「飛山さんはわかるだろ? 羽橋ってどんな奴か」

「ええ……それはわかるけど」


 結構手堅いと言うか保守的なのを信条にしていて、守りの戦いを好む人。

 森の中でも当初は盾役を買って出ていたくらい。

 状況分析をしっかりとしていて、茂信くんに助言しつつ影で支える。

 そんな風な人に見えた。


「こう言うのをオンラインゲームとかだと過剰精錬って言って当たれば大きいギャンブルとして認識されているんだ。で、羽橋は過剰にリスクが高いと注意していた。その注意を破って、しかもフルメタルタートルという高額で取引される武具を精錬したもんだから問題があるって話さ」


 だから、萩沢くんが過剰と言ったのね。

 リスクは大きいけど、成功した時の見返りが大きいからギャンブル……。


「損失を取り戻す為に妻の貯金を奪ってまでギャンブルする、みたいな感じ?」

「事の重さは間違いない!」


 あ、茂信くんが叫んでから頭を抱え、カウンターにうずくまった。


「成功したから良いモノを、羽橋に誇れるもんじゃないのは確かさ」


 茂信くん……誰も知らない所で闇を抱えていたのね……。

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