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ボスさん

 実が来る前、なんか挙動不審な茂信くんの様子に首を傾げていたのだけど、その疑惑が一瞬で吹き飛んだ。

 えーっと……実の後ろに居るクマ、結構大きいわね。

 3メートルくらいあるんじゃないの?

 腰にはチャンピオンベルトを付けている。

 少なくとも愛しいクマ子ちゃんの話と身長が異なる。

 顔つきも何かオスっぽいし。


「ただいまー!」

「おかえり、えっと、そのクマは?」

「えへへー友達ー」

「ガウ……」


 何故かウルウルと泣いている様に見えるのは気の所為?


「えーっと、初めまして、よろしくお願いしますね」


 聡美さんは……やっぱり初対面の相手には飴玉を渡している。

 クマは聡美さんから素直に飴玉をもらった。


「実ちゃん! ユニークウェポンモンスターをテイミングしたのか!?」


 萩沢くんが驚いた様子で声を掛ける。


「うん!」


 そこで茂信くんと依藤くんが首を傾げつつ尋ねる。


「クマ子への浮気になるからって持たないんじゃなかったのか?」

「えっとねーこの前ね。ミケくんのパーティーでいろんな人と話をして私、気付いたの! クマ子ちゃんともっと仲良くなるにはどうしたら良いかって」

「で? それがなんでユニークウェポンモンスターをテイミングする事に?」

「んー? 違うよ。私がボクシングを覚えるのと、テイミングするのは別の理由だよ?」


 いやね……実、そう言う意味じゃ無くて……ああもう。

 何だかんだ言って実は少し説明が下手な時があるのよね。


「えっと、まずは順番に説明するね。さっき言った通り、クマ子ちゃんともっと仲良くなるには審判では無くボクシングでライバルになるのも重要なんだって教えてもらったの」


 誰よそんな危険な事を囁いた人達は!

 まあ……私も前衛を経験したいって言った実を止めなかったけど。


「戦いの中でしか築けない友情もあるって……考えてみれば幸成君もクマ子ちゃんのスパーリング相手になっていたし、ただ応援しているよりももっとクマ子ちゃんを知る事が出来るわ」


 そう言ってから実はファイティングポーズをとって背後に炎を見せながら答える。


「私がクマ子ちゃんと同じか、もしくはもっと強くなる事でクマ子ちゃんも私の事をもっと見てくれる。そして……願わくば私がクマ子ちゃんや幸成君に本気の勝負で勝てば、クマ子ちゃんは私の所へ来てくれる可能性もあるのー!」

「そうなのか?」

「あー……ユニークウェポンモンスターの移籍とかが無い訳じゃないって話を聞いた事があるな」


 茂信くんが心当たりがあるのか呟く。

 え? もしかして実は幸成くんのペットであるクマ子ちゃんを略奪するつもり?

 略奪愛までする程、実はクマ子ちゃんって子への想いが募っていたと言うの?


「ニャー」


 実のやる気にミケさんが合わせて鳴いている。

 愛に関して思う所がある二人だから気が合うのかしら?

 実が連れてきたクマがその光景を見て隅っこで泣いている様に見える。


「だから私はグローブを手に入れて修業をしてるの」

「そ、そう……」


 実が本格的に病んで来た様に感じる。

 こうなった実を止める術は無い。

 幸成くん。私も出来る限り力を貸すけど、クマ子ちゃんって子を出来れば守って欲しいわ。


「あれ? そうなると後ろに連れてる奴はどうなるんだ?」

「大丈夫ー私をもっと強くしてくれる師匠さんになってくれた友達なんだよー」

「ああ、そうなんだ?」

「もちろん、この子も幸成君の事が好きだから合意の上に移籍してくれるってー」


 なるほど、師匠としてだから大丈夫という訳なのね?


「その理屈だと俺も剣術の腕を上げれば誰かのユニークウェポンモンスターをトレード出来るんじゃね?」

「フシャアアアアアア!」


 あ、ミケさんが本気で怒って威嚇してる。

 萩沢くんを後ろから抱き締めてスリスリを始めた。


「うわ! ミケやめろ!」

「ニャアアアアアアアアアアアアアア!」


 捨てないでー! って目をキラキラさせながら萩沢くんにじゃれ始める。


「萩沢とミケは置いておいて」

「置いておくな! うわ! ミケ、本気でやめろー! く……そんな目で見るなああああこのモテ猫ー!」

「にゃあああああああああああああああああ」


 ……うん。これがミケさんと萩沢くんの日常よね。

 相手をすると疲れるし、注意はしないでおきましょう。

 萩沢くんの不謹慎な発言とセクハラを抑制してくれる訳だしね。


「話は戻して、実がボクシングを始めて修業をしている理由はわかったわ。で、そのクマは?」

「めぐると聡美ちゃん以外は知ってる人だよ?」

「ガウ……」


 あ、注目されてまた涙目になってる。

 こんな筈じゃ無かったのにって言ってる様に見えるわね。


「誰だ?」

「こんな奴、会った事あるか?」

「つーか……妙に体格が良くないか? 歴戦の戦士って雰囲気と、妙にメンタルが弱い様に見えるが……」

「えー? わからないのー? ちなみに名前はねーボスさんだよー」

「ボス?」

「うん」

「ガウガウー!」


 で、ボスさんは実に向かって自己主張をする。

 実はそんな自己主張するボスさんの顔に抱きついて撫でまわす。

 あ、鼻の下が伸びてる。まんざらでも無いって表情。

 さっきまで強引な実に巻き込まれた可哀想な被害者かもしれないと思ったのは間違いだったのでしょうね。


「ボスって事は名前から考えるにパンチンググリズリーのボスとかか?」


 依藤くんが心当たりがあるのだろう、実とボスさんに尋ねる。


「ガウガウ」


 ボスさんは実を頭に載せたまま首を振る。

 違うみたいね。


「本当にわからないのー? 幸成君ともお友達の人だよ?」

「いや、だから誰だよ!」

「ごめん。もったいぶらないで教えて欲しいんだけど」

「ガウー」


 するとボスさんは光り輝いた。

 えっと、確かユニークウェポンモンスターは別の姿に変身する事が出来るんだっけ。

 それは前に聞いた。

 ミケさんがやっているのは見た事がないけど。


 と言うか、街中を歩くサーベルキャットというミケさんと同族とは外見が全然違うのが分かってる。

 アレはミケさん独自の変異らしいわね。

 ってそれは置いて置いてー……。

 変化が解けるとボスさんは……セイウチ?


「お、お前は!?」

「ヴォフー」


 巨漢と表現するほど体格の大きなセイウチがその場に……寝転んでいた。

 まあ水中生活に重点を置いている生き物なんだからこんな陸地じゃ動き辛いわよね。

 とも思うのだけど……。


「知り合い?」

「ああ、前に幸成が戦った事があるグローブ争奪戦のボスだ!」

「ボクシング島でのはぐれユニークウェポンモンスターと戦った時にも出てきた!」

「ヴォフ」


 あ、片手を上げて挨拶してる。

 なるほど、茂信くん達とは知り合いなんだ。

 魔物にも知り合いがいるってさり気なく顔広いわね……。


「そのボスがなんで実さんにテイミングされる事に?」

「ヴォフー」


 あ、またこんなはずじゃなかったって顔と声をしている。


「えっとねー。グローブをもらいにパンチングベアーのボスさんを探したんだけど見つからなくてー海辺の村の近くに居るのを知っていたから会いに行ったの。そしたら海岸沿いでたそがれててね」


 実はボスさんとの出会いを語り始めた。

 話によるとこのセイウチのボスさんはマイナーであるけれど幸成くんのお陰でそれなりに挑戦者が来る状態だったらしい。

 戦いの日々、ユニークウェポンモンスターにとっては誉れと言える良い戦いを何度も経験した……そうだ。


 だけど、満たされない想いが募って行っていたそうだ。

 何でも幸成くんと再戦する約束をしたはずなのに、何時まで経っても顔を出しすらしない。

 幸成くんって何か惹きつける魅力でも兼ね備えているのかしら……?

 話によると結構、名勝負をしている事が多いみたいだし。


 ともかく、幸成くんへの想いを馳せながら休憩時間中(夜専門での勝負らしい)に実と海岸で再会。

 事情を聞いて意気投合した結果、勝負の末に実のサポート役としてボスを退役してテイミングされたんだとか。


「一緒に幸成君とクマ子ちゃんに再会して勝負をする為に私の師匠になってくれたんだよー」

「ああ……そう」


 志は同じ訳ね。

 それなら良いのかしら?


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― 新着の感想 ―
[気になる点] あわよくば奪い獲ってやろうって魂胆なの流石に気持ち悪い 飼い主に凄い懐いてるペットを獲るって選択肢ある時点で終わってる
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