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サバト

「何か心当たりでも?」

「あー……うん。何なら屋敷内を千里眼で見渡してみると良いかもしれない。きっと屋敷内の部屋にいる」

「わかるのね?」

「ま、何だかんだ言って俺の彼女だしな」


 理解が深い彼氏で黒本さんは幸せなのかしら?

 とはいえ、依藤くんは我慢し過ぎだと思うの。


「えっと……じゃあ一応探してみるわね。聡美さん、お願い」

「はい」


 聡美さんと手を繋いで私は千里眼を作動させる。

 範囲は屋敷内っと、何か視界に地図っぽいのが浮かんでいる様にも見える。

 屋敷内の個室で……黒本さんっと。

 先ほど屋敷に入ってきた女騎士が向かう先を目印にする。

 意識で追い掛けて行くと……あ、壁抜けした際に王様を発見したわ。


「よーし! 皆の者! ここは一気に攻め込むのじゃ! ワシに続けー!」

「「「ハッ!!」」」


 ……王様と貴族がゲーム機に意識を向けてピコピコとしている。

 お酒や食べ物を片手にゲーム……うん、楽しそうね。

 だけどこれってミケさんの屋敷で集まってする事?

 ここはその手のイベント会場なのかしら。


「王様発見……ゲームしてる」

「まあ……城でやれって気持ちはわかる」


 なんだかな……そんなにまでしてゲームをしていたい理由がわからないわ。

 というかダンスはどうしたのよ。

 いないとは思っていたけど、王様が席を外してゲームしているって……。

 割と本気でお客なのね。


「休憩時間の息抜き……だと良いんだけどな」

「そうだと良いわね。そうじゃなくて、今は黒本さんの行方ね」


 視界に浮かぶ地図でマークしていた女騎士を目印に……部屋の外に女騎士が二人も警備してる厳重な部屋の中を見る。


「……っ!?」


 中では今、まさにサバトが開かれていた。

 黒いローブを羽織った女性達……黒本さんらしき人もいる。

 が、蝋燭とランプ、魔法で部屋を明るくして何やらぶつぶつと話し合いをしている。

 そして一際強い明かりを放つ魔法の光を浮かべ……回し読みしていた。


「ウホホホホ」

「ホホホホホ」

「ウヒヒヒヒ」

「ブフフフフ」


 ……ここは動物園かしら?

 室内には何人もの女性が、だらしない顔で……原稿を読みふけっている。

 それとなく内容を盗み見る。

 ……ミケさんと萩沢くんが描かれているとだけ分析しておきましょう。


「新しいネタを仕入れてきました! ハギサワ様とミケ様のページが増えます」

「フフフフ、良くやったわ! 早く聞かせなさい!」


 と、入ってきた女騎士に命じているのは……王妃様!?

 え? 王妃様がサバトに参加して、え?

 理解が追いつかない。

 王妃様は鼻息を強めて女騎士から先ほどの出来事を聞いている。

 このサバトに王妃様まで参加していると言う事は……きっと彼女も腐海の住人だと言う事なのね。

 腐の魔女集会という単語が私の脳裏を過る。


「フヒヒヒ……素晴らしい、ハギサワ様にドレスを着用し、ミケ様がダンスを……そしてドレスに使われているのはベッドのシーツ……そのままベッドイーン!」


 なんてこと……それが一国の王妃が言う事なのかしら。

 何がベッドインよ。

 先ほどのミケさんのフォロー兼リカバリーによる素敵な出来事が台無しね。


 被害者だった女性を萩沢くんにあてはめるってどう言う事よ。

 しかもテーブルクロスがいつの間にベッドのシーツに?

 どうしてそんな絡みへと向かっていくのか。


 だけど……誰かに迷惑を掛けている訳では……ないのでしょうし、みんなで楽しく話し合っているだけなら、私も踏み込まない。

 出来れば関わり合いになりたくない部分だからって事じゃないわ。

 じゃないわ。


「甘いですわ王妃様。この場合は、下手なシチュの改変をせずに女性をそのままダンスに混ぜ、各々女性を挟む事で嫉妬の感情を見せるのです。シンプルイズベスト。ミケさんの紳士の中にある野獣の顔と萩沢君の中にある想いを魅せた方が、より素敵では無いですか?」

「おお……素晴らしい。さすがは伝道師クロモト。まだ私は未熟と言う事ね」

「いえいえ、良い発想をしております。その案もマンガにして行きましょう」


 何がして行きましょうなのかしら?

 やがて回し読みをやめて、みんな揃ってカリカリと書き始める。

 スケッチの段階みたいだけど……。

 私は千里眼を解除して、依藤くんの方を見る。


「依藤くん……あなたは一度黒本さんと腹を割って話し合った方が良いと思うわ」

「……リバーシブルだから! 俺とも恋愛出来てるから! ちょっと腐海の住人ってだけなんだ! って羽橋とも話をしたな……」


 ああ、幸成くんともそんな話をしたんだっけ?

 私も茂信くんとか萩沢くんからまた聞きで知った。

 黒本さんが描いた漫画では、幸成くんがいろんな意味で題材に使われているらしいしね。

 茂信くんとの絡みは……うん、私も良く知っているから理解している。

 仲良いものね。幼馴染で、付き合いが長いみたいだし。


「聡美さんは美樹の趣味に興味は無いの?」

「依藤くん、女性がみんな腐の住人だと思うのはどうかと思うわよ?」

「わ、わかってるって。姫野さんは違うみたいだし」


 実を出されても……その実は実で黒本さんの腐の燃料になっている気がするのよね。

 クマ子ちゃんとやらで。

 アレを実が見たら覚醒するかもしれない。

 私は理解はあるけど住人では無いし……。


「えっと……楽しそうな話ですね。私は……誰かが幸せそうにしている姿を見れれば何でも良いですよ?」


 聡美さんは聡美さんで曖昧な返事をした。

 うん、良い子だと思う。

 出来れば目覚めないで欲しいわ。

 こういう子は深みに引き摺り込まれると怖いのよね。


「とりあえず、国のトップとその奥さんがこの屋敷内で各々趣味に嵌り込んでいると言うのは……大丈夫なのかしら?」

「王様がミケさんのお屋敷でパーティーに参加したのはゲームがしたかったからでしょうか?」

「……かもしれないわね」


 城という事は王様は休む暇なく来賓者の相手をしなきゃいけないだろうし、その点で言えば招かれただけって名目で休憩をしたいと部屋にこもって遊べる。

 で、妻である王妃様はサバトに参加出来る。

 王様は廃人ゲーマーで王妃様は貴腐人……。


「二回目だけど……この国は大丈夫なのかしら」

「あはは……」

「俺達の所為でいろんな悪影響が出ているんだなぁ……どうしたら責任を取れるのか……」

「ゲームと漫画を日本に持ち返って私達が帰ったら……無かった事に、出来るかもしれないとしか言いようがないわね」

「飛山さん、それをするの?」


 私は首を振る。


「まさか……さすがにそこまではしないわ」


 私だって鬼じゃないし、そんな大変な事は出来れば避けたい。

 だけど……私達の所為で国に問題が起こってしまうなら、いつか責任は、取らなきゃいけない時が来ると思った。


「とりあえず……割と平和なんだと言う事は、今回のパーティーを盗み見てわかったわ」


 ちょっと人同士の小競り合いはあるようだけど、概ね大事件と呼べる物は無い。

 むしろそんな光景を盗み見ている私の方が悪いんじゃないかしら。

 他人の趣味に口を出して、恥かしい行動をするのだけはやりたくないわね。


 私は部屋の窓からパーティー会場を見る。

 ……ミケさんと萩沢くんが代わる代わるいろんな人達と楽しげにダンスをしている光景が、広がっていた。

 うん、萩沢くん達の方がパーティーの趣旨を理解している気がする。

 成功の有無はともかく、パーティーって萩沢くんの目的みたいに、未来の彼女を探す意味もあると聞く。

 そんな、参加は出来なくても楽しそうなパーティーを私達は見ていたのだった。




 ミケさんの屋敷で行われたパーティーから数日後。


「依藤君ーめぐるー私も後ろから見ているだけじゃなくて少しは戦えるようになりたいの、だから少しだけ別行動させて」


 実がやってきて、そう言った。

 あまりに突然の事だったので、少しビックリね。


「え?」

「Lvを上げるだけなら一緒に居た方が効率的だけど?」


 すると実は首を横に振る。


「私は技術を上げたくなったの。見ているだけじゃ上手くならないでしょ?」

「まあ……そうだけど」


 依藤くんが少し考えた後、頷いた。


「わかった。だけど無理はしないで」

「うん。わかってるよー騎士さんや冒険者さんも一緒に来てくれる人がいるから大丈夫」


 そんな訳で実が単純な技術を磨きたいと、騎士や冒険者を連れて出かけて行った。

 出発は私が転送で送り、帰宅時間になったら迎えに行く形ね。


 私も依藤くんと相談した結果、各地を回って転送できる範囲を網羅する予定だった。

 なので一週間くらいは出撃は無い。タイミング的には問題は無かったのよね。

 ラムレスさん曰く、実は自己回復が出来るからやろうと思えばかなり戦えるだろうとの話。


 ミケさんのパーティーで何か意識改革でもあったのだろうか?

 曖昧に答えられてしまっていたわね。

 何故か茂信くんにグローブを改造してもらって出かけて行ったけどね。

 そう言えば……海岸沿いの村で実は海を見ながら考え込んでいる事があったっけ。

 何か思う所があったのかもしれない。


 そうして実が出掛けてから一週間くらい経過した頃だったかしら?

 何だかんだあって、国内の主要都市を大体網羅した頃。Lv上げを本格的にしようかな?


 なんて話になり、みんなで集まった頃(黒本さんは情報収集の為、不参加)に実が……クマを連れて帰って来た。


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