ピンチはチャンス
パーティーの様子をぼんやりと眺める。
すると聡美さんが心配そうに尋ねてきた。
「羨ましいですか?」
「そうね。少しばかり羨ましいとは思うわ」
幸成くんはこう言うの面倒臭がって参加しないのはわかる。
彼は目立つのを嫌うから。
「ただ、かと言って絶対に出たいかと言えばそこまではって所ね」
ちょっとだけ輪から外れているだけだもんね。
みんなが楽しげにしている光景を見れるだけでも良いと今は思う。
なんて感じに部屋で休んでいると依藤くんが戻ってきた。
「はー……疲れる。こうして休める部屋に逃げれるのは良いな」
「お疲れ様。パーティーの様子は見ていたけど、好評みたいね」
「ああ、ミケの顔見知りが多くて、規模が大きいのもあるけどさ。マンガとかゲームの話題で一杯だ」
やはりこの国はそういう方向で盛り上がっているみたいね。
まあ王様や騎士達はゲームが好きみたいだし、共通の話題という事なのかしら?
王と騎士の距離感が近いのは……きっと良い事よね。
話に聞く限り、仕事はしっかりやっているらしいし。
「さ、サブカルチャーに飢えているのね」
「元々俺達日本人がある程度文化を持ちこみはしていたけど、本格的な物となると羽橋が持ってきた物が初めてでさ。結果的にな」
「それは前にも聞いたけど……それにしても賑やかね。お城でやった方が良かったんじゃない?」
「……言えてる。ミケの所で開く規模を越えているのは確かだ」
「と言うか……男爵の屋敷で王様達まで来るとか前代未聞なんじゃないの?」
確かにそうよね。
この世界の地位については、基本的には私の知っている貴族の爵位に近い。
なので、言い方は悪いけど一国の王がやってくる場所としては不適切だと思う。
すると依藤くんは頷く。
「ほら、アレを見てみな?」
言われて私は依藤くんが指差す先を見る。
すると屋敷の庭で今、ダンスパーティーが開かれているのだけど、ミケさんが小さな女の子と踊っている。
その歩調は、優しげな紳士!
やがて、小さな女の子を高い高いをして決めポーズ。
女の子は凄く楽しそう!
「ニャー!」
「わーい!」
ある意味想像通りの光景を余所に、私はその主を探す。
萩沢くんが何をしているのかと思ったら、メイドとダンスを楽しんでいて、ミケさんの方に視線が行っていない。
ミケさんは曲調が変わると、今度は老婆を相手に踊っている。
単純な踊る時間は短いけれど、みんな満足している様に見えるから不思議ね。
「ミケってダンスの相手を選ばないんだよ。しかも踊るのが上手くて、踊る前に相手が一番映える場所に誘導したり、花を添えたりするんだとさ」
「凄くキザっぽくない?」
「そうなんだけど、評価は高いみたいなんだよな。この世界の感性なのかな? さっきの乾杯の合図の時も覆面付けて目立つアピールをしてみんなを喜ばせていたし、猫だからか体が柔らかくてなー……剣舞は見ただろ?」
剣の舞って言うのかしら。
依藤くんの攻撃を仰け反って避ける様はアクション映画を見ている様な感覚だった。
「真似は出来る奴はいるんだけど、ミケは魅せ方が上手くてな。サービスを忘れないから好評なんだと」
「へー……」
やがて……アレ?
何か悲鳴が聞こえる。
「キャアアアアアア!」
見ると服が破けている半裸の女性が座りこんでいて、その背後で何やらニヤニヤと笑っている女性がいる。
「……ちょっと気になるな。かと言って距離があるし、すぐには行けない」
依藤くんが即座に警備班として出動しようとした所で止める。
「待って、聡美さん。何が起こっているかちょっと能力で調べるから共鳴をお願い」
「は、はい」
私は聡美さんと手を繋いで千里眼を発動させる。
範囲は……うん。屋敷内なら何処でも見えるし聞こえそう。
私は千里眼と地獄耳を共鳴で立体的に見える所で、半裸の彼女の方へと一瞬で近づく。
「あら? 大丈夫? ちょっと、この夜会に来るにはみすぼらしいドレスを着ていた様だけど」
「田舎娘が身の程を知らないのかしら?」
うわ……女の嫌な所を見せつけられたわ。
遠目で見ているからどうにかなるけど、その場に居たら飛び出してしまいそう。
「何? あんな猫相手とダンスなんて踊りたいの? バッカじゃない?」
ミケさんと踊りたい女性に何かしたって事なんだろうけど……。
何か証拠になる物が無いかと思っていると、彼女達が小さくガッツポーズして薬瓶を胸元に隠したのが見えた。
即座に解除して私は依藤くんの方を見る。
「家柄が良い女性が半裸になった女性に何かした見たいなんだけど……胸元に薬瓶を隠しているわ」
「ああ、ミケのパーティーで稀にあるハプニングらしいな。どっちにしても注意をしなきゃな」
と、私の証言を元に依藤くんが窓から出て注意しようとしたその時。
「ニャアアアア!」
パアアアっと半裸の女性の近くに大量の花が舞い、テーブルクロスが半裸の女性に振りかかる。
シュッと犯人臭い女性達の手に花が握られて、その花にみんなが目を奪われている次の瞬間、半裸だった女性は白いドレスを身に纏っていた。
「え? あ、あれ!?」
「ニャー」
ミケさんはその女性の手を握って、キザっぽく立たせる。
「大丈夫かー? お! すげー美人!」
萩沢くんも心配して半裸だった女性に声を掛ける。
そしてミケさんは半裸だった女性を萩沢くんに預けると、犯人っぽい女性達に近付き、手の甲に自然にキスをしてから流し眼を送る。
「ニャアア」
何だろう……やんちゃなレディ達だ、お遊びは程々にしたまえよと……注意した様に見える。
しかも犯行に使われた薬瓶を隠した場所にもいつの間にか花が添えてあるし、彼女達の髪にも付けてある。
なんて言うか、少しばかり見栄えが良くなっている様な……?
「あ……」
それで何故か犯人っぽい女性達は顔を赤くして座りこんでしまう。
「お嬢さん、俺と踊ろうぜー」
「あ、は、はい」
「ニャー」
ミケさんが楽しげに笑顔を向け、半裸だった女性は答える。
萩沢くんと軽く踊ってから、ミケさんとも踊り始めた。
「あ、あの時はありがとうございました」
「ニャー」
気にしなくて良いんだよ。レディって字幕が見えるのは、私の気の所為では無いと思いたいわ。
頭が痛い。
早く家に帰るべきかしら。
「あんな事をミケさんはパーティーの度にしているの?」
「そう……なんじゃないか?」
誰が悪いかは分かっていて、敢えて逃がす。
なんて言うかハプニングをチャンスに変える手腕がキザっぽい。
それがこの国の人達に受けるの?
萩沢くんも綺麗な人と踊れて上機嫌だし。
と言うかミケさんに誘導されているのに気づいているのかしら?
「あはは……なんか、楽しそうですね」
聡美さんも苦笑いしている。
と言うか、茂信くんも依藤くんも苦笑いを禁じ得ないって様子で見てるわ。
えっと、実はどこかしら……何か一部の貴族相手と踊りをして何やら熱弁をしている様に見える。
貴族の方も何か真剣なやり取りをしているし、何を話しているのかしらね?
少なくとも良い雰囲気とはちょっと違った趣ね。
「しかし飛山さんの千里眼は警備の面で言えば優秀だな」
「咄嗟の事とは言え、よく聡美さんと協力して出来たと私自身も思うわよ」
こう言った使い方が出来るとは思ったけど……壁とか何も関係なく偵察に使えるって事なのよね。
便利だとは思うわ。
「あれ? そう言えば美樹はどこだ?」
「え?」
言われて私は庭の方を見る。
……人込みで黒本さんがどこにいるかわからない。
少なくともハプニングが起こる前にはいなかったのではないだろうか?
「どこかしら?」
窓から見ていると女騎士っぽい人が人混みを掻き分けて屋敷内に入ってきた。
アレは……誰かに報告に行ったって事よね?
王様もいる訳だし、厳重注意って事になるのかしら?
「あ……もう始まっているのか?」
と、依藤くんは事情を知っている様子で呟いた。