ミケの屋敷
少し休憩した後、屋敷探索を再開する。
「こちら、ワインセラーになります。此度の夜会でも使用するワインが貯蔵されております。ミケ様、何をお出ししましょうか?」
ワイン蔵と言うのかしら。
地下のひんやりした部屋に勢ぞろいしているワイン樽や保管されたワインがズラッと並んでいる部屋。
うん。凄いと思うけど、私達はお酒を飲める年じゃないから紹介されても困る。
「ニャー……ニャア」
で、ミケさんはワインを徐に何個か指差している。
「さすがはミケ様、匂いを嗅がずとも旬のワインを選ぶとは……承知いたしました」
で、執事が一礼する。
え? 何か凄いの?
私の知らない世界が展開されて行く……ミケさん、貴方は一体何者で、どうして萩沢くんのペットを喜んでしているの?
「……」
というか萩沢くんの機嫌が最高に悪いからいい加減、自由行動にして欲しいわ。
ミケさんと萩沢くんの関係的にもその方が良いと思うんだけど……。
「ニャ」
「ええ、それでは何かあったら御呼びください」
そう言って執事は立ち去って行った。
ミケさんが命じて離れていったんだと思うけど……。
「ワインセラーまで完備って随分と豪勢な屋敷だなー」
「金はどこから出てるんだ?」
「ニャ?」
ミケさん、あなたまで首を傾げないで欲しい。
「男爵の地位と一緒に土地ももらったそうだから、そこからの税収でしょうね。国からも援助金が出ているみたいだし」
「細かい事は誰かがやってるって事……なのか?」
「ニャ?」
「だからなんで首を傾げてんだよ」
「えっと、ミケくんは領民に指示は出しているみたいだよ。みんなが働きやすいように投資してるって。後は萩沢くんのお店の収益も一部当てているみたい」
「勝手に使ってんじゃねえよ!」
「だけどその分、萩沢くんが使う素材の調達をしてもらっているって言ってるよ」
「あ、あの素材ってミケの領地原産なのかよ!」
あ、心当たりがあるのね。
だけど、それって大丈夫なのかしら?
「実際、萩沢の倉庫管理ってミケがやっているし、結果的に萩沢の仕事がやりやすくなっているんだから良いだろ」
「そうだけどよー! あ、そういやメイドと仲良くなるのを忘れてたー! ナンパして来るぜー!」
なんて言いながら萩沢くんが走りだした。
相変わらず萩沢くんは細かい事は気にしないみたいね。
「フシャー!」
あ、ミケさんが嫉妬と威嚇の声を上げながら萩沢くんを追いかけていく。
仲が良いのか悪いのか、どっちなのかしら。
「しっかし……ミケの屋敷が凄くて驚きの連続だな」
「使用人達もやりたくて仕事をしているって言うし……本当なのかしら? ちょっと気になる」
「給金が良いのかなー? 国の騎士達は幸成君と茂信君の護衛と依藤君、黒本さんの護衛の人気が高かったけどー」
「そうなの?」
実に聞くと、頷かれた。
「うん。ラムレスさんとか見れば分かるんじゃないかなー?」
「あー……ゲームが出来るからか」
茂信くんの工房に行くと暇さえあれば騎士達が集まってゲームをしている。
飽きないのかと思う位夢中にしていて、警備は二の次な匂いがした。
黒本さんの方はマンガかしら?
「まあ良いや。私達は案内された部屋に戻りましょ。夜までまだ時間があるし」
「私達は後で帰るけど……」
「パーティーでどんな食事が出るのかな?」
聡美さんはお菓子、お土産の次に食事が好きなのがわかってきた。
「……後でミケに頼んでパーティーで出る食事を持ってきてもらうよ」
「はい」
茂信くんが苦笑しながら聡美さんに言った。
そんな感じで部屋に戻った後、パーティー準備の光景を窓から見る。
やっぱり……なんて言うか専門の人には敵わないな。
あ、萩沢くんがミケさんを連れてメイドに声を掛けている。
有言実行って凄いなぁ。
メイドの方も、若干気があるのかなーって感じで萩沢くんと話をしているけど……ミケさんに時々チラッと視線が行くのを無視できない。
アレはきっと萩沢くんと仲良くなれば自然とミケさんとも近づきに成れるって思っている態度だ。
もしくは嫉妬しているミケさんを見ているのか使用人が嬉しそう。
ミケさんが若干不快そうな歩調で歩いていて、萩沢くんも相手の下心が分かっているからか、ナンパはあんまり成功している様には見えない。
窓から見える光景だけでこれだ。
ちょっと萩沢くんが可哀想になってきたわね……。
「萩沢はブレないなー。やっぱ憎めないのがアイツの長所だ」
「そうなんだけどね……」
依藤くんが微笑ましいって様子で見てる。
「ここはミケさんのハーレムですか?」
「あはは……」
茂信くんは苦笑いで誤魔化すのをやめた方が良いと思う。
ここに幸成くんがいたらなんて反応するのだろうか?
きっと私と同じ分析をするんじゃないかしら?
「ミケは萩沢以外興味ないのを貫いているしなぁ……」
「ウホ!」
そこ、ゴリラになってるわよ。
使用人が時々お茶やお菓子の差し入れをしてくれる。
私自身がなにもしないでいるのは気になる。
「あの、何か手伝える事は無いですか? 必要な物資が足りないとかあったら手伝いますよ?」
「お気遣いありがとうございます。そうですねー……実は貴族様達が欲している書物、皆さまが持ちこんだマンガの到着が遅れている所でしょうか」
「どんな?」
依藤くんが答える。
確かに漫画は依藤くんと黒本さんの管轄よね。
その管理分けはどうかと思うけど。
で、依藤くんが使用人から到着が遅れている漫画を聞いて私の元にやってくる。
「家にもある奴だから取ってくる。飛山さん、転送をお願いできない?」
「わかったわ。依藤くんの家で良いの?」
「ああ」
私は依藤くんの家に行ける転送の光を出した。
「ありがとう」
で、私も同行しようとすると依藤くんは首を振る。
「大した距離じゃないし、大丈夫。飛山さん達は休んでいて」
「いや……別に忙しい訳じゃないんだけど……」
むしろこの場に何もせずに居るのが居心地悪い。
そう答えるよりも早く依藤くんは行ってしまった。
ついて行った方が良かったかしら?
「ありがとうございます」
メイドが私達に一礼する。
「気にしないでください」
「いえ、せっかくのミケ様のお客人です。そのような方々の手を煩わせる事が失礼だと思いまして」
とは言いつつ、私達が何か出来ないか尋ねてしまった。
何度も断ったらそれはそれで失礼。だからこうして仕事を話してくれたと言う事だろう。
「あのー」
そこで実が興味津々と言う様子でメイドに声を掛ける。
「なんでしょうか?」
「貴方はどんな理由でミケくんの所でお仕事をしているのー? 国に雇用されて?」
するとメイドは首を横に振る。
私達と話すのは失礼なのかもしれないけれど、断るのも失礼。
そんな顔をしている。
「あんまり畏まらないで。ちょっとする事が無くて困っているから話をして欲しいの。私達がお願いした。貴方の出来る範囲での話で良いわ。何があっても文句は言わないから教えてくれない?」
するとメイドは当初こそ困った顔をしていたが、覚悟が決まったのか頷いて口を開く。
「私がミケ様の所で使用人をするようになったのは、助けてもらったからです」
「助けてもらったって、ガラの悪い人からとか?」
そりゃあ、あんな助け方していたら親近感は湧くとは思うけど。
するとメイドは首を横に振る。
「そのような理由で来る方も少なくはありません。ですが私の場合は」
で、彼女から聞いた話を纏めると、彼女は城下町で別の仕事をしていて真面目に働いていたけれど、ちょっとしたミスで解雇を言い渡されてしまった。
実家には病で苦しむ両親と何時も飢えて困っている兄弟達。
彼女こそが一家の大黒柱だったらしい。
そんな路頭に迷って、視界が真っ暗だった時に、ガラの悪い人達に巻き込まれ、いかがわしい店に売られそうになっていたらしい。
そこに現れたのがミケさんで、ガラの悪い人達と一蹴、彼女を助けて治療施設へ搬送。
とは言っても根本的な解決には至らずに仕事を探して城下町に居た際に、ミケさんに再会。
凄くさりげなくお茶に誘われて、ティータイムをしたそうだ。
ニャしか喋らないミケさんにお茶……まあ、時々何を言っているか私も分かってしまう時があるんだけど。
で、ミケさんは彼女がどうして困っているのか話に乗ってくれて、結果、彼女はこの屋敷でメイドをする仕事にあり付けたと言う事らしい。
「まだ数カ月しか働いていませんが、ミケさんに助けてもらって……御恩に報いたいと思っているんです。みんなも似た様な経緯の方が多いので仕事もとてもやりやすくて、ずっと続けたいと思っています」