カマンベールニャンコ
「そうなの?」
ミケさんの屋敷でパーティー……どんな事が行なわれているのかしら?
「ええ、私もこの国の同志達から色々と話を聞くわ。ミケさんの所で開かれるなら安心だと言う声も多いし、信用は高いみたい」
同志って言い回しが非常に気になるけれど、一応スルーしておいた方が良いわよね。
趣味は人それぞれだし。
「始まりはミケさんに因縁を付けた貴族の一言だったそうよ。たまたま出世したからと言ってユニークウェポンモンスター如きが偉そうな顔をするな! 文句があるなら素晴らしい宴を開いてみろ! だったかしら?」
どんな因縁なのかしら?
お祭とか好きな人達だったり……いえ、絶対に好きね。
じゃないとあんなにゲームやマンガにハマッたりはしないでしょうし。
ともかく、この世界の人達って私達に良くしてくれているから、そういう人がいるなんて知らなかったわ。
「その時に開かれた宴がそれはもう素晴らしくて、貴族が意図的に起こしたハプニングでさえもチャンスに変えたミケさんのお陰で、国の貴族はぐうの音も出なくなってしまったとの話よ」
そう言えば城下町でミケさんが萩沢くんと歩いているのを見た時、近くの人達、主に女子が囁き合っているのを耳にしたわ。
何か暴漢に襲われた所を助けてくれたとか、落し物を探して届けてくれた。
迷子を背負ってあやしながら親元に届けたとかいろんな話を聞く。
男爵の地位を授かった事に対して納得だとか言われていたっけ。
後は……一部の女子達の受けが良いとか何とか。
いろんな理由があって、ミケさんは国でも評価されているって事なのだろう。
萩沢くんのペットであると同時に、幸成くんが戦いに備えて上げたLvのお陰でとても強いし。
強化合宿中、萩沢くんのパーティーと一緒に組んで戦った事を覚えている。
萩沢くんは道具を使って援護をしていたけど、ミケさんの動きはとても滑らかで一種の芸術的歩調をしていた。
長靴を履いた猫とも言えるし……猛々しい獣とも言える。なんとも表現し辛いのがミケさんだ。
剣の持ち方も小剣っぽくて、戦える貴族を素で行くスタイルだ。
……萩沢くんのピンチ以外ではね。
私はこの前たまたま目撃してしまった。
この前の休日の夜の城下町の道で……小走りで走って転びそうになってしまった女性を転ばない様に手を伸ばして手繰り寄せ、立たせているミケさんの姿を。
私はなんで女性が小走りだったのかな? くらいにしか考えていなかった。
「あ、ありがとうございます」
「ニャーニャニャ」
それからどこから出したのかわからないけど手から花を一輪差してそっと髪に差して何やら囁いていた。
で……ミケさんは女性が走ってきた方角に目を向けると数人の男が追いかけてきた。
「チィ!」
「その女をこっちに渡してもらおうか」
「ニャ?」
ミケさんは女性を守る様にマントを翻しつつ、事情を尋ねるように首を傾げる。
まるでこのレディに何の用だ? って言っている様に私には見えてしまった。
話次第では……と交渉している様に見える。
助けに入る事も出来たのだけど、野次馬が集まって来ていて、輪に入るタイミングを逃した。
「そいつには俺の肩の治療費を払ってもらわなきゃ行けなくてよ。おー痛ー」
凄くワザとらしい演技にさすがの私も呆れたわ。
そんなありきたりな……ってね。
被害者の振りをした悪い女性ってのもありえたけど……幾らなんでも貴方達が悪いでしょ。
「だからさーちょっと話をしたい訳。わかる?」
「ニャ?」
で、ミケさんは銀貨を一枚、コイントスみたいに指で弾いて男達に投げ渡す。
「あ?」
これで大丈夫だよレディって感じで……女性を逃がそうとしている。
「あ、ありがとうございます」
女性はミケさんの様子を心配しながら、ミケさんが道を開けるように指示を出して割れた野次馬達の間を通って走り去ってしまう。
「てめぇ! 邪魔するってのか?」
「ニャー」
治療費は払った。これ以上は不必要な事だと思うが何か?
って顔でミケさんが鳴いている。
と言うかなんで私はミケさんの態度で言葉がわかってしまっているんだろうか?
普段は全然わからないのに。
これはその場の空気とか流れって奴ではないだろうか? そうとしか思えないわ。
「ふざけんなよ! この程度で足りるかよ!」
「邪魔すんなら痛い目にあわせてやるぜ!」
と、痛いと騒いでいたはずの男が武器を抜いてミケさんに襲いかかってくる。
「わー! ミケさんのアレが見れるぞ!」
「「「おー!」」」
「あの野蛮な人達、ライクスに来るのは初めてなのかしら? 少し可哀想ね」
何? もうミケさんってみんなが知ってる有名人な訳?
「ニャ」
スパンと、ほぼ一瞬だったと思う。
いつの間にかミケさんは男たちの背後に立っていて、剣を鞘に収めていた。
カチっと鞘に剣を収めると同時に、男たちの鎧の留め金が外れて全裸になる。
「うわ!」
男達は揃ってバラバラになった鎧を拾い、大事な場所を隠していた。
「ニャア」
まだ戦う気かな?
って様子で両腕を広げて首を傾げるミケさん。
「くっそ! 覚えてろよ! このネコ野郎!」
「ニャニャニャ」
ミケさんはハンカチを胸元から出して逃げ去る男たちを見送った。
「おおおお! さすがはミケさんだ!」
「ニャアア」
コレは見苦しい所をって感じでミケさんは頭を掻いて野次馬の輪を飛び越えて立ち去ろうとして……私を見つける。
出来れば見つかりたくなかった。
「ニャアアア」
で、私に一礼してエスコートするって様子でマントを広げて背中を押してきた。
「知り合いかしら?」
「いいなーミケさんにエスコートしてもらって」
凄いプレッシャーがあるんだけど?
私は苦笑いをしながら、ミケさんにエスコートしてもらって家路に付いた。
後日、城下町でミケさんに助けられた女性が頭を下げているのを見た。
タイミングが良過ぎないかと思ったけど、国の騎士とか街の人達から聞いた話だと萩沢くんと出かけていない時は見回りをしているのだとか。
その日は小さな子供を背負って遊んで上げていた。
ミケさんの周りは笑顔に包まれていたと思う。
なんて言うか萩沢くんの前ではお調子者を演じているけど、その内面は紳士、に見えなくもない。
実際はどっちなんだろう?
ちなみにラムレスさん達、騎士内での渾名は何故かドスオトモキャット。
萩沢くんが持ちこんだ新作ゲームをプレイした後はカマンベールニャンコって呟いていたけど……。
多分、モンスターをハンティングするゲームよね?
前にテレビのCMで見た事がある。
「ま、ミケさんの本来の種族、サーベルキャット相手に無謀な提案なんだけどね。それこそ得意な事でしょ。元の種族を知らなかったんじゃないかしら?」
「そうなの?」
「ええ、サーベルキャットは礼節を重んじる貴族肌で有名なユニークウェポンモンスター。独自の正義感はあるらしいけど、ミケさんはライクス国に上手く順応したと思うわ」
「あった当初は海賊っぽい連中だったぞ! ボスもそうだった! 紳士服着てキザっぽかったけどさ」
「私達の世界基準だと海賊の一部が貴族へと変化した歴史のある国があるくらいだし、二面性を持っている可能性だって無い訳じゃないわよ」
黒本さんは随分とミケさんを庇うわね……気持ちはわかるけど。
「日本基準で考えちゃいけないわ。サーベルキャットはそんな特色を持っているで良いでしょ。ミケさんはライクスの貴族を良く学び、人を惹き付けただけなのよ。萩沢くんもそこは認めて上げなきゃ」
「く……」
まあ、確かにミケさんは萩沢くんにとても懐いているけど、それ以上に他の人への対応は紳士的なのよね。
むしろ主である萩沢くんよりもみんなから慕われている。
そこが萩沢くん的には嫌なんでしょうけどね。