山彦
「萩沢も大概にな。俺達だって何だかんだ言ってこの世界の人達よりも恵まれた能力なんだからさ」
「わかってるって」
さて、みんな知っているから敢えて話はしないけれど、私は反芻しておこうと思う。
聡美さんがLv25で習得したのは山彦と言う拡張能力。
最後に聡美さんが共鳴で援護を施した相手が使った能力、攻撃をもう一度発動させると言う、物凄く強力な拡張能力だ。
わかりやすく説明するなら、依藤くんが魔物に天魔一刀を当てたとする。
するともう一度、天魔一刀が即座に放てる。
私の場合は、転送を二度使えるって事ね。
送電の場合の方が便利かしら。二度命中させられるし。
黒本さんの魔法とも相性が良いとか言っていた。
ただ、茂信くんの鍛冶に使えないかと試したけれど、物を二つ作る事は出来なかったわね。
不思議なのは道具の使用。
萩沢くんが能力を使って爆弾を投げると、どこからともなくもう一つの爆弾が出現して二つ爆発する。
アレってどんな原理なのかしら?
「ただ、強力な分魔力を大量に消耗しますし、一日の使用回数制限もあるので乱発は出来ないのが難点でしょうか」
「使い時を誤らなければ強力なんだから気にしなくて良いよ」
「むしろ無制限だったら凄過ぎじゃね?」
確かに、ここまで強力な拡張能力で敵わない相手がいたら、単純に私達の戦力不足でしか無い。
ミケさんや国の騎士、依藤くんが束になっても敵わない相手がいるとは思いたくないけどね。
基本、幸成くんの残した物資で作りあげた装備のお陰で順調だし、Lvも最初に森で戦っていた頃とは嘘みたいな速度で上がって行っている。
生活も安定しているし、森での頃とは心の安定すらも違う。
毎日、谷泉くんと言い争いをしていたのがもう遠い日々に感じてしまう。
「で、30になった時に覚えたのが……」
「はい、招集です。使用すると、私が来てほしい人……共鳴した事のある方達に承認アイコンが出現し、応じると私の周りに召喚出来る拡張能力です」
「幸成がオンラインゲームでやっていた時に似た効果の奴を見たな。確かギルドだったかのスキルにあったぞ」
茂信くんが思い出す様に言った。
私もゲームに関して熟知しているって程じゃないからよくわからないけれど、似た発想の物はある訳だと納得する。
「呼び寄せ、って感じだな」
「人手が足りない時に援軍を要請すると思えば便利かもしれないわね」
依藤くんと黒本さんが各々分析する。
「めぐるちゃんがいると割と死に能力じゃね?」
「いつも私と一緒と言う訳では無いし……私の手が回らない時に、応援を呼べたら良いんじゃない?」
萩沢くんの問題提示に私なりの見解で答える。
創作物じゃないんだし、似た様な効果のある能力を複数人が使える事は無意味じゃないと思う。
でなければライクス国が騎士や魔術士を何百人も雇用する意味がないしね。
「国中を回る際に聡美ちゃんが招集を使ってくれれば、それだけ時間を短縮出来るんじゃないかなー」
一応、強化合宿をしている所為で国中を回る事が出来ていない。
もちろん、身を守る意味でもLvは必要だから不満は無いけど。
その点で言えば実の言う通り、効率的に回る事が出来ると思う。
「土産物屋を早く巡る事が出来ますね」
「聡美さんって土産物屋が好きね」
「土産物屋と言うよりも名産品とかが好きです。後はお菓子とか……その村や町独自の物を知りたいんです。食べ物はとても重要ですので」
これって何か理由がある様に感じてしまう。
最初にあった時にも飴玉をくれたっけ。
「はい。お腹が空いた時の飴玉は何よりも美味しい物です。私はお菓子が大好きです」
空腹で飴玉……たぶん、夢に見た並行世界の聡美さんの影響って事なのかな?
その壮絶な経験を追体験したから食料やお菓子を集めるのが趣味……いえ、手元に無いと不安って思ってしまっているのかもしれない。
「OK。とりあえず今回のまとめでみんな、何が出来るか再認識できたな。じゃあまた機会があったらLv上げをしよう。飛山さんもいるし、そんなに時間は掛らないはずだ」
海岸沿いの村近隣に出没する魔物は冒険者と私達が討伐したお陰でしばらくは大人しくなるらしい。
その分、私達は経験値を稼ぐ場所に困る羽目に……なる訳じゃないのが依藤くんの話。
他にも手頃で戦いやすくて、Lv上げに向いた場所があるそうだ。
一度行った道故に詳しいって事なんでしょうね。
確かに……依藤くんはとても強くて頼りになる。
ミケさんもだけどね。
飼い主が萩沢くんだって言うのが嘘だと思う位に強い。
優先順位は萩沢くんが一番みたいだけど。
「あの頃は何だかんだ言って移動が面倒だったからなーめぐるちゃんがいるってすげー便利だぜ」
「行きの移動時間を短縮出来るってここまで時間の節約になるんだな」
「休憩は城下町で済む分、精神的な疲労も抑えられるから助かっているよ。手堅く、それでありながら効率よく回れるからさ」
「そんなに褒めたって私が出来る事なんて限られているわ」
褒められるのは嬉しいけど、幸成くんを迎えに行く手立てが見つかっていないと言うのはちょっと歯がゆい。
今は出来る事をしていかなきゃいけないんだけど……どうしても焦りばかりが募る。
「じゃ、明日は明日でみんな手分けしてする事をして行こう」
「「「おー!」」」
そんな感じで私達の日々は過ぎて行った。
ある日の事。
みんなで集まると、王様と謁見していたらしい依藤くんが苦笑いをしていた。
「ちょっと話があるんだ」
「あーめんどくせー出たくねー」
萩沢くんがそんな風に言いながら、凄く困った表情で出迎えてくれた。
あ、黒本さんも一緒だ。
「どうしたの?」
「日本人である俺達が再来訪した事で祝いの席を設けたいって王様に言われてさ。一応、信用出来る人の集まりだから出席してくれないかって話をされたんだ」
「やっぱりそう言う事もあるのね」
「まあね。幸成は出席した事がないけど、俺やクラスの連中は結構あるよ」
「戦闘向けの俺も何だかんだ言って武術大会に出させられたなぁ。その後の祝いの席で乾杯の合図とかさせられて緊張した」
茂信くんは何だかんだ言ってクラスのまとめ役をしていたから納得できるし依藤くんも分かるけど……なんで幸成くんはないんだろう?
まあ幸成くんは目立つのが好きじゃないし、なんとなくはわかるんだけど。
「幸成くんはなんで出席しなかったの?」
「あの頃のアイツは何だかんだ言ってピリピリしていたし、その特色故にな……下手に付けこまれない様にその手のイベントでは出席しない様にしてたんだよ」
考えてみる。
確かに、この国の人達を見るとサブカルチャーに夢中になっている人が多い印象を覚える。
その文化流入の仕掛け人である幸成くんは言わば国でも最重要人物。
そんな幸成くんをおいそれと顔出しするといろんな意味で狙われかねない事を懸念していたって事……なんでしょうね。
「他にもいろんな理由がある訳だけどさ。アイツはいろんな所を飛びまわっていたし」
「なるほどね」
「ニャー」
ミケさんはなんか蝶ネクタイを直す様な動作で萩沢くんに出てくれないかって態度を見せている。
そう言えばミケさんって貴族だし、宴の席での評価が高いんだっけ?
「ニャーニャーニャニャニャ!」
ミケさんが鳴いて何か事情を説明しようとしているけど私は……わかる時とわからない時がある。
「しかも開催場所がミケの屋敷だって言うんだから余計いきたくねーよ!」
「行きたくないって愚痴っていたのってそれが理由?」
「当たり前だろ! 何が悲しくてミケの屋敷に行かなきゃいけねーんだよ」
「とは言っても形式上は萩沢、お前の屋敷でもあるんだから一度は顔を出しておくべきだろ」
「わかってるって、ミケ直属の手伝いとやらが宴の準備をするらしいし、俺も代表の一人としてやらなきゃいけないそうだから渋々出るよ」
「ニャ!」
なんかミケさんが満面の笑みを浮かべている。
そこでどうして笑みになるのかしら?
大分一緒にいる期間も長くなってきたけど、相変わらずよくわからないわね。
「話によるとミケさんの屋敷で宴って結構な頻度で開かれているそうよ」