隠しキャラ
「ま、まあそんな犯罪行為を私はしたいと思わないわね」
「だろうね。しかし……音声を拾うのが行った事ある場所全てと言うのなら、確かに地獄耳だ。上手く使える方法があると良いな」
「国の貴族とか王様が暗躍しているかもしれないから情報を引き出すとか?」
「こんな感じ?」
試しに玉座の間を転送で繋いで見る。
……なんか軽快なゲーム音が聞こえてきた。
しかも時々『よっと!』とか『はっ!』とか王様の声がする。
「……」
「……」
「……」
「ニャー」
「やめろって言ってんだミケ! 俺で遊ぶんじゃねえ!」
萩沢くんとミケさんの事は置いて置いて……。
「王様、相変わらずゲームに夢中なんだな」
「そうね」
「というか寝室とかじゃなくて、なんで玉座の間でゲームやってるんだろう?」
「大臣に隠れてやってんじゃね?」
「……」
私はそっと転送をキャンセルした。
何かに使うかもしれないけど、今の所使い道は無さそう。
「えっと……見た所、こちらの声があっちに届いてないみたいだな」
「そういえばそうね」
「何かの役に立つかもしれないし、悲観はしないで良いと思うよ」
茂信くんの励ましに私は曖昧に頷く。
盗聴は犯罪だし、出来れば無い方向で行きたいわね。
音声だけで危険を察知出来れば良いくらいと思っておきましょ。
「じゃあLv30では……Lv上げをしている最中に使っていたっけ。一応、見ていない人がいるからお願いするよ」
「ええ」
私はLv30で覚えた拡張能力を作動させる。
バチっと私の体から電撃が発生して青白く帯を出し始める。
ちょっと静電気みたいで嫌なんだけどね。
「あら?」
黒本さんが驚いた様に私を凝視している。
「ニャー」
ミケさんは萩沢くんを降ろして顔を洗い始めた。
多分、静電気の所為でピリピリしているのかな?
「おお……もしかして攻撃系の拡張能力?」
「そうなるのかしら? 拡張能力名は送電、この通り魔力を消費して電気を発生させる能力みたい」
魔物相手に使った時、かなり便利だった。
ある程度、思い通りに電気が空気や水中を伝って魔物に命中するし、一旦近接でも何でも良いから攻撃が命中したら避雷針みたいに当て続ける事も出来る。
特に今回は水の中での戦闘が多かったから効果的だったのも理由かしら。
「攻撃にも防御にも使えて便利だと思っているわ。実の回復があれば永続的に発動し続けられるし」
「結構威力あるよね。私の回復とは言っても回復以上の出力を出したらあっと言う間に使えなくなっちゃうよ?」
確かに思いのまま出力を上げられるけど、その分、魔力の消費も増える。
ちなみに覚えてから電化製品……この場合、ゲーム機とかを充電する場合の電圧がどれくらいか分かる様になってしまった。
ちょっとした充電なら充電器を介すよりも早い……という事は黙っておきましょう。
「送るって意味で転送と繋がりのある能力が出たのね」
「だっちゃーとコインでバン! だな」
萩沢くんがよくわからない事を言っている。
それは何の話なのかしら?
「だな! 応用すれば空とか飛べるかもしれない!」
依藤くんが会話に乗った。
この反応から多分マンガ関連なんでしょうね。
「雷撃とか雷、電気の能力者じゃないんだからそこまで万能じゃないと思うわよ?」
黒本さんが補足しているけど、何か内輪ネタの匂いがするわね。
「ふふふ、羽橋の野郎もこれで他の女に色目を向ける度に電撃を受けるんだな?」
萩沢くん、その想像は何なの?
私が幸成くんに送電で何をすると思っているのかしら?
知りたい様な知りたくない様な……。
ともかく、私は鬼じゃないわよ。
色目って……話を聞く限りクマ子ちゃんって子とルシアって子が候補なくらいなんでしょ?
少なくとも私の知る幸成くんは、萩沢くんじゃないんだからいろんな女の子に親しげに声を掛けて隙あらばエッチな事をする様な人には見えない。
無難に事を流しつつ、誰かの手伝いをしているってタイプで……言ってはなんだけど女子内でも隠れた人気を得ているタイプだ。
何だかんだ言ってみんなに嫌われない様に立ち回っていて、茂信くんみたいな目立つ優等生とも違った意味で人気がある。
だけど本人にその気は無くて、最初に告白した人を大事にしてくれると思うのは……私自身もちょっと女の嫌な部分を自覚してしまう。
たぶん、最初に告白したのは私だし……複雑な気分だわ。
「幸成が色目ねー……」
茂信くんが思い出に浸る様に腕を組んで考える。
「ないなー。アイツはそんなタイプじゃないだろ」
「ええ、萩沢くんじゃないんだから、ガッツいたりしないでしょ」
「そうよ!」
黒本さんが何故か強く賛同する。
私や茂信くんならともかく、どうして黒本さんがここでそんなに?
「羽橋君は押しに弱いタイプなのよ! 押すタイプじゃないわ! 受けよ!」
「美樹、ちょっと落ち着こうな」
依藤くんの苦労が知れるわね。
私も黒本さんの趣味も大分わかってきたけど、言い切ったわね……。
「とりあえずこの拡張能力で武器とかに電気を付与出来るし、使いこなせば結構戦えそうよ」
血糊の類は茂信くんが作った物だとあんまり付かないけど、電気を帯びさせるとある程度緩和出来る。
油とかをある程度、飛ばせる感じかしら?
「うん。それで良いと思う。とは言っても、電撃属性の武器は無い訳じゃないから残り魔力と相談しながら使って行けば良いと思う」
「ええ、来るべき時に、何があっても対応出来るように努力は続けるわ」
「なるほどな……じゃあ次は浮川さんだね」
と、茂信くんが聡美さんに尋ねる。
「は、はい」
聡美さんはポケットからまたテーブルにお菓子を載せている。
本当に土産物が好きみたいね。
「えっとLv20で振動波を覚えました。最近では戦闘でも使ってます」
「通常状態だと大きな音を立てる拡張能力で音波攻撃に該当する奴ね」
「はい。広範囲に攻撃できますけど、威力は低めです」
「耳に悪いアレかーミケなんてクラクラしてたもんな」
「ニャー」
耳が良ければ良いほど、ダメージが大きい攻撃だった。
魔物は色々な種類がいるけど、聴覚が優れるのも多いから種類によっては効果的よね。
「ある程度、飛ばす方角も決められますし、インパクトの瞬間も操作出来ますけどね」
ただ、普通に使う分には、決定打とするには心もとない物だった。
けれど、やっぱり応用で使い勝手が向上する能力なのよね。
「武器に付与して魔物に攻撃してもらった時が一番すごかったな」
そう、この振動波の拡張能力、私の送電と同じく、武器に付与させる事が出来るのだ。
しかもその状態で攻撃した時こそ、恐ろしい攻撃となる。
命中と同時に武器が振動して相手の内部へと何度も衝撃を与える……らしい。
その辺りは鍛冶の能力を持っている茂信くんの分析でしか無い。
依藤くんの武器に一定時間付与して魔物を攻撃した瞬間が凄かった。
耐久力が無い魔物が一瞬で弾け飛んだくらいだ。
付与系として使った方が強い能力って事らしい。
ただ……武器の劣化も激しく、しかも持ち手の反動もあるからここぞと言う場面以外で使用するのは危ないと言われた。
まあ、もっとLvが上がれば何度も使えるようになるだろうとも言っていたけどね。
「どんどん纏めて行こう」
「はい。次が25で山彦と言う拡張能力でしたね」
「あー……あの物凄く万能拡張能力な」
そこでミケさんに抱えられた萩沢くんが何度も頷いて答える。
「やっほー」
実、間違っていないけど、もう少し昔の様に話をして。
段々子供っぽくなって行っている気がして怖いわ。
「強力過ぎて、ゲーム風で言うなら聡美ちゃんって隠しキャラだよな」
「そりゃあ、本人曰くラスボスだった様なもんなんだからとも言えるが……」
「現実に存在すると不公平にも思えるな!」
「あ、あの……なんかすいません」
謝罪する聡美さんにみんな揃って気にするなと手を振る。
便利な能力が味方にいて悪い事は無い。
嫉妬なんてするのは、その人の人間性が小さいからだって私も思うし、出来る事と出来ない事があるんだからしょうがないでしょ。
みんなを日本に返した幸成くんだって、能力的には強力という訳じゃない。
能力を工夫してがんばった訳なんだし、そこは使い方しだいなんだと思う。
私も今ある能力を工夫してがんばろう。