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温泉転送

 魔物退治を終えて、茂信くん達と合流してから城下町に帰る。


「めぐるちゃんがいるとどんな距離も一瞬で帰れて楽だな」


 萩沢くんが陽気に答える。


「味気ない様な気もするわね」


 素直にそう思う。

 だって私の能力って一度行った場所ならどこでも行けるけど、その分、現地での醍醐味が損なわれている気がするのだ。

 どこでも行ける扉を所持していたら便利であるけれど、移動のありがたみを失ってしまう。

 旅行の、宿泊先での出来事を私は楽しみたいとも思ってしまうのはワガママなんだろうなぁ。


「ニャー」

「ま、便利なのは確かだって、宿屋に泊まりたいなら何時でも泊れる!」

「……まあそうなんだけどね」

「今日の収穫と、現地で入手した鉱石を利用して商品でも作っておこうかな」


 茂信くんが工房に資材を運んで行く。

 ポイントに依存した武器作りでは無く、自ら作ることでポイントの節約と技術が向上する……んだっけ?

 奥が深いなぁ。


「武具の修理はー……必要?」

「うん。一応刃こぼれとかしていないかチェックしておくよ。実さんの修理だけじゃカバーし切れない所もあるしね」


 なんて感じで装備品を脱いで家に帰ろうとしていたら城へ報告に行っていたラムレスさんが戻ってきて私に声を掛けてきた。


「ヒヤマ様」

「何?」

「ヒヤマ様の転送の能力は確か物も移動させる事が出来ましたよね?」

「? ええ、そうですけど……何か?」

「いえ、せっかくなのでヒヤマ様へ仕事を依頼しては? と国の貴族が国の銭湯へ温泉水の輸送依頼をしておりまして……もちろん、報酬は弾みます」


 私は聡美さんや実、茂信くんや萩沢くん、ミケさんと依藤くんに顔を向ける。


「えっとー……」


 聡美さんは返答に困ってる感じだ。うん、私も困ってる。


「あの銭湯大きいよねー。私達は顔パスで入れるけどー」


 入った事あるのね実は。


「そこまで大変な仕事じゃないだろうし、やってみたらどうかな?」

「良いんじゃね? 俺達は帰る前に入ってきたしよ。つーか、現地に貴族共を飛ばせば良いんじゃね?」

「ニャ?」

「そこはー……まあ、そうなのでしょうが、銭湯であるからこそ、と言う方もいらっしゃいまして」

「ワガママで片付けるのも良いが、分からなくもない。あの村に揃って行くのは行き帰りが一瞬でも気が抜けない所があるだろうしな」


 依藤くんが分析しながら答える。


「図書館に缶詰である美樹に銭湯として温泉に入れてやりたい気持ちもあるし」

「凄く断り辛い事言わないでよ……まったく、わかったわよ」


 私は溜息を吐き、依頼を受ける事にした。


「ありがとうございます! 報酬は温泉水1リットルに付き――」


 で、温泉水の輸送とか無い訳じゃないらしく、相場よりも高めに取引する事になった。

 国の銭湯……城下町の中でも貴族クラスの人達が集まる社交場……古代ローマか何かと疑いたくなる様な調度品が配置されている建物だった。

 温泉に入って幸成くんのいる時代や日本に飛べたらどんだけ良かった事か。

 なんて思いつつ、服を着たまま浴場へと行く。


「大体の場所を覚えたわ。じゃあ昼間行った温泉地へ行ってくるわね」

「はい。ご一緒します」


 そんな訳で私はラムレスさんを連れて転送でとんぼ返りして温泉地の村へと戻った。


「では話を付けてきます」


 ラムレスさんはそう言って温泉地の代表に話を付けに行く。

 私は暇つぶしって訳じゃないけど温泉地を歩いて時間を潰す。

 何か立て札があるなぁ。

 源泉掛け流しって感じの湯気がもうもうと立ち込めている温泉だ。

 物凄く熱そうだけど……。


「おや? ここに来るとは、通だね」


 そこで村人か旅行客か分からない人が声を掛けてくる。


「通?」

「おや? 知らないのかい? この源泉はかのハネバシ様が遠く離れた村へ温泉を運び、その村の発展に貢献した際に使用した物と言うありがたい逸話の場所なんだよ」


 何でも逸話になってしまうと言うのもどうなのかしら?

 内心ちょーっと呆れ気味の私の元にラムレスさんがやってくる。


「許可を取りました。こちらの源泉を使用して欲しいそうです」

「分かりました。じゃあやりますね」


 上手く発動できるか少し不安だけど、私は湯気が立ちこめる源泉に向けて物質転送を発動させる。

 光の柱が源泉の中に発生。何事も無かったかのようにその場で発光し続ける。

 お湯を吸いこんでいる気配は無い。


「失敗ですか?」

「いいえ……ちょっと意識してみる」


 お湯を吸いこむように意識する。するとグボボと……風呂の栓を抜いたかのように見る見ると源泉を吸いこんで行く。

 今頃、銭湯内に源泉が流れ込んでいる頃だろう。


「おお……」

「おおおおおおお!?」

 幸成くんの事では通らしい人が驚きの声を上げる。


「こんな所かしらね。お話ありがとうございました。では、確認に帰りましょう」

「はい。この度は誠にありがとうございます」

「色々とこちらに気を使って貰っている状態ですから、お互い様です」


 なんて通過儀礼をしながら私は転送を発動させたのだった。

 通っぽい人は唖然とした様子で私たちを指差したまま棒立ちだった。


「まさか最近噂になっている……勇者?」


 最後の話は聞かなかった事にしよう。

 私は別に勇者じゃありませんから。


 そんな訳で私は帰還した。

 銭湯に掛け流しの源泉が入った事で、城下町の貴族は大興奮で集まって入浴をした……っぽい。

 温め直しじゃない温泉の違いに関して私も口出し出来るものじゃないけど、何か違うのか好評だったそうだ。

 報酬をもらう。


「ヒヤマ様のお陰で国の貴族達も喜んでおりましたよ」

「あ、はい」


 私からしたら大した事をしているつもりはない。

 だけど、ラムレスさんやライクスの人達からしたら凄い事なんだそうな。

 この程度の事で絶賛されて、大金をもらうと感性がおかしくなりそうに思える。


 だけど、嫌な気持ちにはならないのが恐ろしい所ね。

 帰還の水晶玉があるなら温泉くらい引いて来れそうに思えるんだけどな……。

 後で萩沢くんに質問してみようかな?

 なんて思いながら私は家に帰ったのだった。



 更に一週間経過した頃、私はライクスの三分の一くらいの街を巡り、依藤くんや国の騎士の案内の元、魔物退治をしていた。

 その道中での事。


「あ、そうだ。依藤くん」

「ん? どうしたんだい飛山さん?」

「ミケさんにもお願いしたかったんだけど、その、剣の稽古とか、教えてくれない?」


 何だかんだ言って私は我流で、やみくもに剣を振っているだけだ。

 能力の力があるとはいえ、しっかりと剣術が出来る依藤くんやミケさんとは違う。

 ユニークウェポンと言うのを入手して強くなりたい気持ちもあるけど、茂信くんが支給する武器でどうにかなってしまっている。

 武器の攻撃力頼りで、技術が伴っていない事が不安。

 だから依藤くんに師事を仰ぐ。


「良いよ。稽古ならいつでも付き合うよ。羽橋とも前にやった事があるし」

「うん」

「実はめぐるさんには感覚を養ってもらう為にユニークウェポンの予約もしているんだ。これから行くのは今のめぐるさんに適した相手だと思って、それを入手した方が上達が早くなると思うし」

「そう言う物なの?」

「やり方が最初から頭に入っている様な物だからね」

「ふーん……」


 なんかズルをしている様な気もするけど、依藤くん自身の能力が剣術なんだから似た様な物なのかな?


「ルシアちゃんがーって意見はあるけど魔物の方をテイミングしなければ許してくれると思うよ」

「わかったわ。じゃあ依藤くんが紹介する魔物と剣でやりあってみる」


 そんな訳で依藤くんが事前に探していた剣のユニークウェポンを入手する為に魔物の生息地に立ち寄った。

 今回はブレイドシェイドと言う剣状の闇の妖精らしい魔物のボスに剣で挑む事が入手の条件なんだとか。


「アレがブレイドシェイド……色はコーラルレッドだね。あのボスに剣で挑んで勝てば入手できる。確かライクス流疾風剣術らしい。身軽な飛山さんにはピッタリでしょ」

「ええ」

「めぐるさん、がんばってください」


 聡美さんが応援してくれるので私は頷いてコーラルレッドブレイドシェイドに向かって剣を構えて近づく。

 取り巻きは依藤くんや国の騎士が抑えてくれている。

 Lvの低い下位のユニークウェポンモンスターは取り巻きの制御が出来ず、試合にならない事があるらしい。

 ちゃんと戦えば、私も専用の武器が手に入る。


 そう思って近付いた所で……何故かコーラルレッドブレイドシェイドのボスが剣を地面に置いて平謝りを始めた。


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