温泉まんじゅう
「そこは……まあ、ヒヤマ様がどんな拡張能力に目覚めるかにもよります。王を含めて皆さん期待していますよ」
欲望に滾った目……ではなく、単純に国の繁栄を想って言っているのはここ数日のやり取りで分かるけど、転送による配送業を下積みみたいな扱いになるのはどうかと思う。
「飛山さんなら羽橋よりも大量の貨物を運べるだろうし、今の所は配送で稼げるとは思う」
「ええ、隣国へ行くのは少々危険ですが、隣国沿いの街で物を仕入れて素早く城下町に持ってくるだけでもかなりの金銭が稼げますよ。逆もまた然りです」
「わかりました。仕事を視野に入れようと思います」
今の段階だと、国の補助で動きながら幸成くんの貯金で活動している様なものだものね。
幸成くんが帰ってきたら日本に……帰るかもしれないけれど、私はこの世界でも生活できる所を見せたい様な気持ちになってきた。
「荷物輸送の仕事、護衛を含めて商人組合が時々依頼を出します。後で資料を持ってきますね」
「ええ」
「しかし……魔物の討伐依頼が思いの外しょぼいモノになっているんだな」
依藤くんがギルドから貰った書類に目を通す。
「活性化だっけ? それが無いの?」
実が依藤くんに尋ねると頷かれる。
「ああ、討伐する魔物の数自体が減るのは良いが同時に報酬も減り気味だ。生活できない訳じゃないが……」
「サカエダ様の能力による武具の作成、強化を視野に入れますと心もとないのはご理解致します。ですが、本来はこんな物だとご了承して頂かないと……その」
ラムレスさんも困った顔をしている。
「わかってはいたけど、依頼の数も随分と減った物だと思ってさ……これが平和って事なんだろうな」
依藤くんが馬車の窓から外を見る。
「平和な時代にはやっぱり拠点組なんて言われていた方の人達の方が、安定した仕事が出来る。戦闘組は所詮、戦うしか出来ない能力者の集まりだ。国のお抱えや冒険者でも無い限りは不便な能力だって思うよ」
「武芸者はそれくらいが良いと、言われていますよ」
ラムレスさんと依藤くんは何か通じるものがあるのか頷き合っている。
「いずれ俺はどこかの用心棒か美樹のヒモにでもなるのかなー……」
「そんな悲観しなくても……」
「いや、良いんだ。後は……個人で集めたマンガ本を置いて、マンガ喫茶の店長にでもなるのが良いかもなぁ」
「ヨリフジ様とクロモト様の家も警護の騎士には人気ですからね! 行列が出来ると思いますよ」
「それもどうなの?」
マンガ喫茶に行列が出来ると言うのは少しシュールでは無いだろうか?
「なんて未来の話よりもLv上げか。じゃあそろそろ目的地の村に辿り着くから飛山さん、準備しておいて」
「ええ」
そんな訳で私達は依藤くんが手頃だと判断した討伐依頼の出ている魔物の生息地域に一番近い村へと到着した。
見上げると煙がもくもくと起ちこめる山……火山かな?
今までの村と比べると若干小さめだけど賑わいを見せている村。
後は……なんとなく硫黄の香りがする。
そんな村に到着した。
「いらっしゃーい。世界を救った異世界人が入浴した温泉のある村だよー」
「らっしゃーい!」
「あのマンガやゲームをライクスに持ちこんだハネバシが利用した温泉と休憩に立ち寄った家はこちら!」
って感じに、村の人達が呼び込みをしている。
観光名所?
というか……幸成くんが商売に使われているんだけど。
「宿泊の権利は俺達も持っているから使えるはずだよ。羽橋がこの村での騒動を解決した報酬で貰ったんだ。坂枝の工房に運ばれてくる鉱石もこの村から献上される品なんだぜ」
「そ、そうなんだ?」
「懐かしいですねーあの時からハネバシ様が国の者達に注目され始めたと言っても過言では無いでしょう」
依藤くんはその時の出来事を我が事の様に教えてくれた。
アダマントタートルと言う、メタルタートルの上の上である魔物を倒した時の話らしい。
村の中央に奇妙な窪みと岩があった。
何でもこの岩を幸成くんが転移させてそのアダマントタートルは倒された。
その記述が……岩の隣にある銀色の光沢が煌めく亀の像の下に書かれている。
……完全に観光地化してる様な気がする。
挙句、近くの建物には絵まで飾られている。ハネバシくんにしては妙に頭身が高くて別人みたいに顔が整った人が岩を転移させてアダマントタートルらしき亀を仕留める……四コマっぽい絵。
なんだろう。
妙に演出に拘った絵画ともマンガとも言い難い微妙な物だ。
画家の一生とかを調べると影響を受けた作風とかが分かったりするけど、この世界だと昔からの絵とマンガが混ざったモノになってしまうのだろうか?
話によると私達よりも前に日本人が来ているはずなんだけどなー……。
日本と行き来出来る幸成くんのお陰で発展した物なのかしら?
「うう……」
聡美さんのうめき声に肩を貸していた私は休める場所をラムレスさんに頼む。
「じゃあ、とりあえず聡美さんを休ませられそうな所へ連れて行くのを優先して」
「お、温泉……まんじゅう」
聡美さん。貴方結構タフな精神してません?
休むよりも温泉まんじゅうに興味を見せるって、結構元気っぽい。
「あはは、聡美ちゃんは食いしん坊さんなんだね」
実も笑顔で聡美さんを支えながら言わないで。
ちょっとシュールな光景になってるから。
やがて温泉まんじゅう目当てに元気になった聡美さんが元気に村の土産物屋である道具屋を覗きに行った。
私達は出発前に旅の疲れを落とす為、温泉に入浴する事になった。
ちなみに……茂信くんや萩沢くんも後ほど私が転送で迎えに行った。
まあ、気持ちは分かるんだけどね、異世界に来てなんで温泉旅行をしているのだろうか?
なんて思ってしまう。
で……まあ、その後は依藤くんと騎士達の案内で割とアッサリと危険な魔物の討伐は終わり、Lvがサクッと上がった。
特に危険な戦いも無く一週間でLv15になった。
依藤くん曰く、騎士達が強いお陰だとか。
みんなのLvが上がって確認、やっぱ火山帯での魔物退治だからか、鎧を着こんでいるのを含めて暑い……。
茂信くんの話ではもう少し上の防具に冷房機能付きの防具があるとか言っていた。
もはや何が起こっても驚かないと言いたくなる防具の話よね。
って装備の話は置いて置いて。
で、私は異世界転送を再取得した。
実は倉庫の拡張能力で前回と同じだそうだ。
茂信くんや萩沢くんも同様だと思うけど、今は別行動中だ。
あんまり固まり過ぎていたら効率が落ちるから、らしい。
「後は聡美さんだけど……」
「えー……っとポイント共鳴だそうです」
「どんな能力なんだろう?」
「じゃあ使って見ますね」
聡美さんは普段通りに私と手を繋いで能力を発動させる。
すると私のステータスに何かアイコンが点灯した。
ただ、何のアイコンなのか私には理解できない。
「何かアイコンが出たけど……」
「なんでしょうね?」
「ちょっと俺にも掛けて貰って良い?」
依藤くんが立候補したので、聡美さん曰く、クールタイムを挟んでから再度使用してみる。
「何かの援護能力っぽいな? ちょっと戦ってみよう」
「ええ」
で、実験とばかりに依藤くんが騎士達と一緒に魔物を倒す。
「ああ、わかった。姫野さんの幸運とほぼ同じ拡張能力だ」
「入手ポイントが増加したの?」
実の台詞に依藤くんが頷いた。
そんな能力もあるのね。
「姫野さんが幸運を再取得したら重複するか試してみると良いかもね」
「本来は重複しないはずだけど……浮川さんは共鳴だもんねー似た能力があるなら私じゃ無くても良いかもよー?」
名前から重複の可能性は高い。共鳴する事でより効果が上がる可能性は高い。
「こう言うバフ系は習得している人もいるからなぁ。とは言ってもポイントを増やすって希少能力だから実験は姫野さんが習得してからでも良いはずだよ」
「じゃあ楽しみですね」
「倍くらいポイントが入る様になったら良いな」
「あはははは」
なんて感じで私達のLv上げは順調だ。